私マコト・マカベはハンジ班に所属している。
ハンジ分隊長は巨人を主に研究するちょっと・・・・・・いや、変わった人でいつもモブリットさんが振り回されて大変そうなので私も補助として入っている。

そんなモブリットさんが調整日のため、今日は私が代わりにハンジさんのお目付け役だ。

しかしハンジさんの爆弾投下に私は硬直した。

「・・・・・・分隊長、今なんて?」
「ん? いや、だからさ。 マコトはどうする? もしリヴァイのオナラが引くほど爆音だったら」

その唐突の質問に私は目を見開き、持っていたペンを落とすと

「・・・・・・それは最高ですね。 兵長が生きてる証です」
「うっわ、気持ち悪! やっぱりキミは狂ってるよ」
「ハンジさんに言われたかないです。 え、逆に聞きますけど巨人のオナラが爆音だったらどうします?」
「そりゃもう最高に滾るね」
「気持ち悪っ! お互い様じゃないですか」
「でもマコト、巨人はオナラしないよ」

ハンジさんはフッと笑うと顕微鏡を覗く。
そう、私はリヴァイ兵長のファンだ。

あの小柄な身体で巨人をちぎっては投げる姿はとてもカッコイイし、潔癖症な所とか、部下思いな所も最高だ。あの伸びた所を見た事がない剃り込みの部分だって、聖域だ。

それと、リヴァイ兵長はなんと! 字も綺麗なのだ。
若い頃は都の地下街で盗んだ立体機動装置でやんちゃしており、私たちと同じ訓練兵団ルートではなくエルヴィン団長のスカウトによって入団してきた方らしい。

ちなみにリヴァイ兵長のファンという事はハンジさんとリヴァイ班のペトラ先輩だけの秘密で、ハンジさんとペトラ先輩以外の兵士は私がリヴァイ兵長のファンというのは公言していない。公言している者も居るが、私は遠目から見守るお茶の間タイプのファンだ。認知されたくない。

いや、もう絡みの多いハンジ班にいる地点で認知はされてるしリヴァイ兵長は意外と兵士の名前をちゃんと覚えているタイプなので、認知されているのだがリヴァイ兵長のファンという認知はされていない、はずだ。

「ねぇ、彼に恋愛感情は無いの?」
「恋愛感情・・・・・・はないですね。 見てるだけで十分ですし、崇拝レベルです」
「変な宗教はウォール教だけで十分だよ」
「あんな宗教に比べたらめちゃくちゃ崇高じゃないですか。 あー、でもリヴァイ兵長のオナラの音聴けるなんて選ばれし者ですよね」
「まあ、確かに・・・・・・恋人とか?」
「恋人かぁー」
「どうする? リヴァイに彼女とかできたら」
「それは・・・・・・ちょっと悲しいですけど、兵長が幸せならいいのでは無いでしょうか。でも大っぴらにしたり匂わせたりする馬鹿な女には引っかかって欲しくないですね」

たまにそういう女がいるのだ、高級アクセサリーのように見せびらかす女が。そんな女に引っかかったら少し兵長を軽蔑してしまうかもしれない。

そんな話をしているとガチャッとドアが開きそちらを見ると、噂をしていたリヴァイ兵長だった。
反射的に私は椅子から立ち上がり、拳を胸に当てて敬礼をする。

「やあリヴァイ、どうしたの?」
「どうしたのじゃねぇクソメガネ。 報告書はどうした」
「・・・・・・あ」
「す、すみません、分隊長 ! 私すっかり! リヴァイ兵長申し訳ありません! 仕上がり次第すぐにお届けに行きますので、もう少々お待ちください」

そう言って私が深く頭を下げるとリヴァイ兵長はため息を着くと

「・・・・・・了解した」

そうぶっきらぼうに言うとドアをしめた。あれは相当キレてる。ファンじゃなくても分かる。

静かになった部屋でハンジさんは私を見て笑うと

「いやぁ、キミの切り替えの凄さにはいつも驚かされるよ」
「そ、そんな事より! は、はやく報告書・・・・・・! 殺されますよ!」
「報告書ね、はい」

ハンジは引き出しから紙の束をポン、とテーブルの上に置いた。

それを見た私ははえっ、と目を見開くと

「で、出来てたんですか?!」
「出来てないとは言ってないだろ? 渡すのを忘れてただけだよ」
「もー! 早く言ってくださいよ! 私急いでリヴァイ兵長追いかけますから!」
「うん、推しに宜しく」

爽やかな笑顔でハンジさんに見送られ、私は駆け足でリヴァイ兵長の後を追いかけたがどこを見渡しても姿が見えない。歩くのも早いんだな・・・・・・!

ひょっとしてもう執務室に戻ったのでは、と私はダッシュでリヴァイ兵長の執務室へ向かった。


***


リヴァイ兵長の執務室に到着し息を整えるとコンコン、とノックする。

すると出てきたのはペトラ先輩だった。

「あれ、マコトどうしたの?」
「ペトラ先輩! お疲れ様です!」

私は敬礼をして眉を下げると

「先程リヴァイ兵長がハンジ分隊長の所に来まして・・・・・・書類の方出来上がったのでお届けに来たんですけど」
「ああ、兵長なら団長の所へ向かったよ。 私はお留守番。 今出たばかりだからちょっと時間が掛かるかも。 書類なら机の上に置いておけばいいよ」
「了解しました!」

失礼します、と私はリヴァイ兵長の執務室に入る。
リヴァイ兵長の執務室の入口には必ずマットがあり、それでブーツの裏を綺麗にしてから入らないと削がれるというルールがある。私は念入りにブーツの砂を落とすとリヴァイ兵長の執務室に足を踏み入れた。

ハンジさんとは大違いでとても綺麗で、床に何も落ちてないしホコリがひとつもなくて清潔な執務室だ。本来がこれなんだよな。

これまたリヴァイ兵長の机の上もピカピカで綺麗に書類を整えて置くと、書き置きを残そうと手持ちの万年筆と付箋を取り出すと伝言を残す。

そんな光景をペトラ先輩は眺めながら

「マコトって切り替え凄いよね」
「え? そうですか?」
「うん。 露骨に出さないし」
「仕事は仕事なのでそこは切り替えます・・・・・・よ・・・・・・」

私は顔を上げてふと目に入ったソファを見て固まった。

「どうしたの?」

ソファには、脱ぎ捨てられたジャケットが無造作に置かれていた。

「ペ、ペトラ先輩、その、それは・・・・・・」
「ん? ああリヴァイ兵長のだよ。 今日は暖かいから暑いって文句言いながら脱いでたね」
「ぬ、脱い・・・・・・?」
「ふふ。まだ兵長来ないし、羽織ってみる?」
「な、ななななな、なりません!」

私は必死の形相でペトラ先輩を制止すると舐めるようにジャケットを眺める。

「ペトラ先輩、これは貴重な展示物です」
「え?」
「リヴァイ兵長の貴重な脱ぎ捨てられたジャケット。こんなレア物、鑑賞するのが礼儀ってもんです」
「いや、しょっちゅうだけど・・・・・・」

この後輩ヤバすぎるという目をされて私はシワひとつないリヴァイ兵長のジャケットを見ていると足音が聞こえた。

そしてガチャッという音が聞こえる前に素早く身体の向きを変えてドアを見るとペトラ先輩と並んで敬礼した。

「ペトラ、留守番ご苦労だった」
「いえ!」
「ん? マコトか・・・・・・こんな所で何してやがる」
「はっ! 先程お話していた書類の方をお届けに!」
「クソメガネにしては随分早いじゃねぇか。 まさか書類の存在を忘れてたとか言うんじゃねぇだろうな」
「そのまさかです!」

マコトはそう言うとリヴァイ兵長は深くため息を付くと机へ向かい書類を手に取ると紙をパラパラと捲る。
そして机に置くと

「問題ない」
「ありがとうございます。 遅くなって申し訳ありません」
「別にお前は悪くねぇだろ。 ・・・・・・お前も苦労するな」
「いえ、とんでもございません。 では、私はこれで」

私はペトラ先輩に挨拶をしてリヴァイ兵長にも敬礼をすると部屋を後にした。

ドアを締めると、私はくううっと顔を抑えると

「ジャケットを脱いだリヴァイ兵長・・・・・・レアだ!! 網膜に焼き付けたぞ!!」

そう言うと私はヒャッホイと飛び上がりハンジ分隊長の執務室までウキウキで帰ったのだった。


***


・・・・・・次の日の事、リヴァイは次の壁外調査に向けての資料を回そうとハンジの執務室兼実験室を訪れた。
相変わらずホコリっぽく散らかった執務室に眉を寄せているとモブリットが駆け寄ってきた。

「リヴァイ兵長、お疲れ様です」
「ああ。 クソメガネはいるか?」
「やあリヴァイ、ここだよー」

山積みの本から聞こえてくるハンジの声にリヴァイは極力物と接触しないように避けながら行くとハンジが顕微鏡を覗き込んでいた。

「次の壁外調査の概要だ。 お前が最後だからサインしたらエルヴィンの所に持っていけ」
「ほーい。 どれどれ」

ハンジは顔を上げて書類を受け取るとパラパラと目を通し始める。 リヴァイはくるりと散らかった執務室を眺めていると

「お前とモブリットだけか?」
「うん、そうだよ」
「そうか」
「あれ・・・・・・、サイン書こうと思ったのにペンが・・・・・・どこやったかなぁ」

ガサガサと紙や本を退かすハンジにイラッとしたリヴァイは舌打ちをすると胸ポケットからペンを取り出すと

「ほらクソメガネ、早く書け」
「いやぁ悪いねリヴァイ。 助かったよ」
「片付けをしねぇからこうなる。 もういい、サインを書いたら俺が持ってく」
「ヒュー! リヴァイってば優しいー!」

よろしく、と書類を渡すとリヴァイは部屋を出ていった。
その背中を見送ったハンジは足を組んで頬杖を着くと

「・・・・・・リヴァイってばあんな質問してくるの珍しいな。 ん?」

先程リヴァイが立っていた場所には4つに折られた小さな淡い黄色の紙が落ちていた。
リヴァイの物だろうか、だとすれば届けてやらねばと手に取ると

「あれ、これ付箋? 見た事ある・・・・・・」
「分隊長。 どうしました?」
「ねぇモブリット、この付箋見た事ない?」

黄色の付箋を見たモブリットはああ、と笑みを浮かべると

「その付箋はマコトのですよ。 あの子書き置きする時用に持ち歩いてるので」
「ああ、それだ! マコトのだ。 こんな所に落ちてたんだけど・・・・・・」

そう言って何気なしに付箋を開くとハンジは目を見開いた。


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リヴァイ兵士長殿

お疲れ様です
書類の方お届けにまいりました
お待たせしてしまい申し訳ありません
お手数ですがご確認よろしくお願いします

マコト
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そこに書かれていたのは女性らしい細い筆跡でハンジも見慣れた部下の字、しかもサイン入りだった。
その内容は恋文でもなくただの業務連絡だ。

「なんでリヴァイ宛てのメモがここに・・・・・・? も、もしかして」

ハンジはちょっと出てくる、とジャケットを羽織るとエルヴィンの執務室へ向かった。






「エルヴィン、入るよ!」
「ハンジ? どうした」
「なんだクソメガネ」

やはりリヴァイはまだエルヴィンの執務室に居た。
ハンジは胸ポケットから先程の付箋をリヴァイに見せた。

「見覚えのない紙が落ちてたから、てっきりリヴァイのものかなって」
「・・・・・・中は見たか?」
「んーん、見てないよ。 プライバシーかなって」
「そうか、助かった」

そう言うとメモ用紙を受け取り今度は兵団で使っている手帳に厳重に挟まれた。
それを見たハンジはふーんと目を細めると

「よっぽど大事なものだったんだね。 良かった良かった」

じゃあねーと背中を向けたがハンジは「あ」と声を上げると

「やーしまったなぁ! マコトに頼みたい事があったんだけど今日非番だったなぁーまあ明日でいっかー!」

そうわざとらしく言うとエルヴィンの執務室を後にした。
ハンジは執務から数歩離れると

「リヴァイのオナラの音が聴けるかもしれないよ、マコト!」

そう興奮すると、軽い足取りで自身の執務室へと戻って行った。



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