89:ウォール・マリア 奪還作戦開始・前編

タイミングよく日が昇り始め、全員が騎乗すると馬の腹を蹴った。

エルヴィンは手を広げると、

「日が昇ってきたぞ!物陰に潜む巨人に警戒せよ!! 全員立体機動に移れ!!」

壁が近づき全員が馬から立ち上がるとアンカーを壁に打ち付ける。


恐らくライナーやベルトルトはここに居る。敵の目的は、エレンを奪うこと。

敵がエレンに壁を塞ぐ能力があると知っているかどうかは不明だがここに調査兵団が来た地点で壁を塞ぎに来たと判断するだろう。

調査兵団の勧誘式で、壁の修繕以外にシガンシナ区内のどこかにある「地下室」の調査というのを伝えた。
そうなると、壊された外門から塞ぐと踏んでいるはず・・・



エルヴィンは壁上に着地するとフードを深く被り直した。

その周りには全員、フードで顔を隠した総員100名の兵士が着地し、同時に外門を目指す。

誰がエレンか分かった頃には既に外門を塞いだ後だ。


壁の上に登りきると、マコトはリヴァイの背中を追って走る。エレンも着地したが5年振りに来た故郷を見て固まってしまっている。

通りすがりにマコトはエレンの背中を掠めるように叩くと

「エレン!」
「止まるな!!外門を目指せ!」

リヴァイがそう発破を掛けエレンもその後を追いかけて来る。

立体機動を使って外門へ着くと、辺りを見渡す。
マコトも街の中や外に望遠鏡を向けるが巨人らしき影は見当たらずリヴァイとハンジを見ると首を振った。

「何で・・・!?周りに巨人が全く居ない!?」

それどころか、ここに来てから1匹も遭遇していないのだ。違和感にハンジは冷や汗を流す。

「ここは敵の懐の中ってわけだ。・・・だが」
「やるしかない。 作戦続行に支障なし」

ハンジは緑の信煙弾を打ち上げると、下の門に居た兵士も打ち上げた。

「エレン!」
「はい!」

エレンは立体機動で上空を飛び、門の穴付近へ落下すると手を噛み巨人化した。

パキパキとガラスのような音を立てて、エレンは硬質化を始め壁を塞いでいく。

エレンが結晶から抜け出すとミカサがワイヤーで降下してエレンを回収に向かった。

それを見るとマコトはすぐさま望遠鏡を覗き、くまなく索敵する。

「敵は!?」
「見当たりません!」
「穴はどうだ?!」

下にいた兵士に聞くと

「成功です!しっかり塞がっています!」

そう言うと、成功の緑の信煙弾が打ち上がった。

「やった・・・」

エレンの立体機動装置も無事だがマントは持っていかれてしまったようでミカサがすぐさま掛けてやる。

「エレン、調子は?」
「問題ありません、訓練通り次もいけます!」
「では内門へ向かう!!移動時を狙われぬようしっかり顔を隠せ!」

壁上を走りながらエレンはまだふわふわしているらしく

「本当に塞がったのか? こうもあっさり?」
「あなたがやった。自分の力を信じて」

ミカサの言葉にエレンは振り向いて自分で塞いだ硬質化の跡を見つめる。

「あの時の穴が・・・」
「まだだ」
「ヤツらが現在なら何度塞いでも壁は破壊される。分かってるな?ライナーやベルトルトら全ての敵を殺しきるまで、ウォール・マリア奪還作戦は完了しない。」
「当然、分かっています」
「エレン」

マコトは走るスピードを落としてエレンを見つめると

「・・・次も、頼むよ」
「・・・はい!」


立体機動で内門へ向っていると、パンッという音と同時に

キーーーーーン

突然音響弾の音が響き、リヴァイ達は壁に手を着いた。

「・・・何だ?」

リヴァイが警戒して辺りを見渡すと、マコトは望遠鏡を使ってエルヴィン達の所を見た。

なにやら集まって、言い合いをしている。
アルミンは兵士に向かって何かを訴え、エルヴィンが口を開く。

立体機動で急いで合流しようとすると、エルヴィンが信煙弾を打ち上げた。

その色は赤色

作戦中止の合図だ。


マコト達は驚いているとハンジは振り向き


「総員、壁の上に散らばって待機だ!」


全員壁の上に一旦上がると、アルミン達はなにやら壁にアンカーを刺してブレードで壁を叩き続けている。

一体何をしているんだとエレン達は首を傾げたが

「アルミンが、何かを言ってたので・・・恐らくアルミンの提案かもしれない」
「アルミン・・・また何か考えが?」


しばらくすると、また音響弾が鳴り響く。


「ここだ!ここに空洞があるぞ!」

兵士がそう言った瞬間、壁が開きブレードを突き出してきた。

その瞬間、マコトの隣にいたリヴァイが立体機動に移り目にも止まらぬ速さで内門へと向かった。


兵士は胸をひと突きされ、壁の下へと落下していく・・・

その光景を全員は驚いて固まっているとそこから出てきたのは、ライナーだった。

このままでは、近くにいるアルミンが危険だ・・・


すると、追いついたリヴァイが上からガスを吹かせて急降下し、その勢いを使って右手に持っていたブレードでライナーの首を貫く。

「っらぁ!」

そのまま壁を走りながらリヴァイは左手に持っていたブレードをライナーの胸に突き刺す。
首と心臓を一突き、仕留められただろうと思ったが白目を剥いたライナー。

・・・しかしその目はリヴァイを捉える。
彼はまだ生きていた。

「なっ・・・!?クソッ!!」

リヴァイは脚でライナーを蹴って突き落とし、距離を置くと壁に足を着いた。

「兵長!」
「これも巨人の力≠ゥ?!あと一歩・・・命を絶てなかった」
「リヴァイさん!」

マコトも追いつくとライナーを見る。



ライナーはそのまま雷のような光を放つと、仰向けになって現れたのは鎧の巨人だった。


ついに現れた。
まずは一体目、鎧の巨人だ。

エルヴィンは手あげると大声で


「周囲を見渡せ!他の敵を補足し・・・」


ドドドドドッ!


すると、壁の外から一列に地雷のような音が光と同時に鳴り響く。
あれは、巨人化の発光と同じ光で全員そちらに注目する。


現れたのは大量の巨人と体毛を纏った獣の巨人=B

「あ・・・あいつが」

ミケやナナバや仲間を殺したとされる獣の巨人。
すると獣の巨人は近場にあった大きな岩を掴み軽々と持ち上げると砲丸投げのフォームでこちらに向かって岩を投げてきた。

マコトは驚いて、脚がすくんで動けない。

近づいてくる岩に、エルヴィンは睨みつけながら


「投石来るぞォ!伏せろおおぉ!」


その瞬間、壁が揺れるほどの振動が襲いかかる。
エルヴィンの叫び声でマコトは正気を戻すとリヴァイと共に姿勢を低くした。


「・・・は、はずした?」
「いや、そうでもねぇみたいだ。見てみろ」


壁の下を見ると、先程の岩は粉々になっており内門に馬が通れない高さで扉を塞がれている。

あの岩を、精密にここまでピンポイントで狙って落としたのだ。

「まずは馬を狙って包囲して・・・俺たちの退路を断ち、ここで息の根を止めるつもりだ。あの猿、馬鹿じゃねぇみたいだ」
「そんな・・・」

人類と巨人、どちらかが死ぬのかここで決着が着く。


「やるしかねぇ・・・マコト、エルヴィンの所へ急ぐぞ」
「はい!」


エルヴィンの所へ行くと、エルヴィンはじっと獣の巨人を見つめている。


マコトも望遠鏡を覗き込むと、獣の巨人の近くに四足歩行型の巨人も居る。

「あれの四つん這いになってる巨人・・・何でしょうか」
「荷物を運ぶ鞍がある。あれが敵の斥候で、我々の接近にいち早く気づいたのかもしれない。あの四足歩行型の巨人≠熬m性を持った巨人だ。・・・いや、もっと居てもおかしくない。」

予想よりも敵の規模が大きそうだ・・・そうエルヴィンは呟いた。

「ウオオオオォ!」

獣の巨人は長い腕を叫びながら地面に叩きつけると、止まっていた2m3m級の巨人が一気にこちらへ走ってきた。

そして、後ろからはライナーが硬質化した手足でこちらへ登ってきている。このままでは挟み撃ち・・・なんとかしなければならないが、残りの巨人であるベルトルトの場所もまだ分かっていない。


黙り込んだままのエルヴィンは、しばらくしてようやくスッと息を吸い込む。リヴァイは眉をしかめると

「やっと喋る気になったか・・・先に朝食を済ませておくべきだった」
「ディルク班並びにマレーネ班は内門のクラース班と共に馬を死守せよ!!リヴァイ班並びにハンジ班は鎧の巨人を仕留めよ!!各班は指揮の下、雷槍を使用し何としてでも目的を果たせ!」

エルヴィンは全員を睨みつけると

「今この時!この一戦に!!人類存続の全てが懸かっている!今一度人類に・・・心臓を捧げよ!!」
「了解!!」

そう言って全員各自の持ち場へ散開し、マコト達も背中を向けると

「リヴァイ、アルミン、マコト待て!・・・リヴァイ班とは言ったがお前だけはこっちだ、リヴァイ」

マコトとアルミンは無言でリヴァイを見つめる。


リヴァイも、眉を一瞬顰めると

「・・・俺にエレンではなく馬を守れと?」
「そうだ。そして、隙を見て奴を討ち取れ。獣の巨人は、お前にしか託せない」
「・・・・・・了解した。さっきの鎧のガキ一匹殺せなかった失態は・・・そいつの首で埋め合わせるとしよう。」

そしてリヴァイはマコトを見つめ、マコトもリヴァイを見る。

ここで一旦、別行動となる。

「マコト、エレン達を頼む」
「・・・はい!」

内心、マコトは行かないで、私もそっちに行きたいと拳を握ったが今は駄々を捏ねている場合ではない。

リヴァイも、マコトとは離れたくないと思っているが自分にしかできない役目がある。

マコトは胸のネックレスを服越しに握ると、リヴァイに大丈夫だと目で伝える。

「リヴァイ兵長、後ほど!」
「・・・ああ、後でな」

リヴァイは壁から降りる直前、左手の指輪に口付けるとアンカーを出して降りていった。



マコトはリヴァイの背中を見送るとエルヴィンを見上げた。

「・・・すまないな、マコト」
「何をおっしゃるんですか。今の優先順位はこの作戦です」

そう微笑むとエルヴィンは頷く。

「アルミン、マコト。鎧の巨人用に作戦がある」
「「はい!」」
「人類の命運を分ける戦局の一つ・・・その現場指揮はハンジと、リヴァイ班副官マコト、そしてアルミンに託す」

エルヴィンから作戦を聞きアルミンは頷くと先に向かったハンジ達と合流するため、壁から飛び降りる。

「マコト」
「はい」

アルミンを追おうとしたがエルヴィンにまた止められる。

「君に頼みがある。これは、君が仮に生きていたら≠フ話になってしまうが・・・」

エルヴィンはマコトの耳元に顔を近づけると何かを話す。マコトは目を見開くとエルヴィンを見上げて胸に手を当てて敬礼をすると前を向いてシガンシナ区を見渡す。

緊張のせいか、心臓がやけにうるさい。
息を吸い込み、マコトもリヴァイと同じように左手の指輪に口付け、壁から飛び降りた。



壁を登りきりそうなライナーとすれ違い目が合った気がしたがマコトは構わず壁を蹴る。

ハンジ達の元へ合流すると、アルミンが作戦を伝えていた。

「エレンを囮に使うだって?!」
「エルヴィン団長からの指示です。」
「まさか、馬を守るためにエレンをエレン囮にする羽目になるとは・・・」
「そんな・・・それでも、ライナーが馬を殺すことを選んだら・・・」
「・・・いや、エレンを追うはずだ。ライナーが馬を選んだ場合、エレンはそのま回り込んで獣の巨人の背後を追う。リヴァイらとエレンの兵力で獣の巨人を挟み撃ちにして叩く・・・ここまでがエルヴィンの指示だろ?」

アルミンははい、と頷く。
上手くいかなくても、エレンに逃げる動きをされたら敵は混乱して包囲網を崩すしかない。

「まぁ・・・ライナーがそこまで読めるか、だけど」

マコトはライナーの訓練兵時代の成績を思い出してみる。全てにおいて成績はよく、地頭もよく何事も冷静に判断できるタイプだ。

格闘技の応用についての自由回答の問題でもマコトの納得のいく戦術を編み出していた。


エレンもライナーにはよく勉強を聞いていたらしく、顔を上げると

「・・・恐らく、ヤツなら考えに至るでしょう」
「よし、鎧をシガンシナ区で迎え撃つぞ」
「ま、待ってください!・・・まだ、ベルトルトがどこかに潜んでいます。前回エレンはライナーを後一歩のところまで追い詰めましたがベルトルトの強力な奇襲を受け連れ去られるに至ったのです。」

マコトはその時口の中だったが、確か大型巨人が降ってきたと当時ハンジから聞いた。

じゃあ、とアルミンを見ると

「単純だけど、壁から離れて戦うべき・・・って事?」
「そうです」

そしてエレンが作ってくれた隙を見て、雷槍を撃ち込む。

ハンジは頷くと

「各自、雷槍の装備!急げ!」
「はい!」


各々雷槍を両腕と肘の金具に固定している。
エレンは緊張した面持ちで上にいるライナーを睨みつけているとマコトはエレンに近づいた。

「エレン」
「はい!って、うお!」

突然、マコトがファイティングポーズをしてエレンを攻め始めた。

全員何事かと驚いて、ハンジもポカンとしている。

「ちょ、マコトさん!?」

マコトは何も語らず、パンチや蹴りを繰り出してエレンは先読みして次々と避けたり防御していく。

そしてマコトの得意なフェイントを繰り出そうとすると、エレンはそれを両腕で鳩尾を防御した。

そこでやっと、マコトの動きは止まった。

「マコトさん、一体何・・・いてっ!」

マコトはエレンの額にデコピンをすると

「何って、準備運動だよ。動きは悪くないね。 緊張してたって、本来の力は出せないよ。さっきみたいに、相手の動きを見ること。 エレン、キミは1回はライナーに勝ててるんだから。・・・自信持って。」

最後にいつものようにわしゃわしゃと頭を撫でくり回すと、背中を向けて雷槍の装備をしに行った。










「よし・・・みんな、準備はいいね?」

ハンジは全員を見渡すとこくりと頷く。
ライナーをおびき寄せたら、エレンとの戦闘が始まる。

一定の距離を保ちライナーを包囲し、エレンが作ってくれた隙を見て最初にミカサとハンジが両目に雷槍を打ち込み、ジャン、コニー、サシャが第1陣、第2陣でモブリット、アルミン、マコトが雷槍を打ち込む。

「エレン、行け!」

ハンジの掛け声と同時にエレンは住宅街の真ん中に立つと手を噛む。

雷のような光と共にエレンは巨人化すると、鎧の巨人はこちらを見た。

エレンにおびき寄せられてこちらに来るか、そのまま馬の場所へ行ってしまうか・・・
全員がライナーの行動を固唾を飲んで見守っているとエレン背中を見せて逃げ始めた。

すると、ライナーもこちらに向かって降りてきたのでハンジはよし!と拳を握ると

「全員、散開!一定の距離を保ち、エレンとライナーを囲め!」
「了解!!」

全員が立体機動を使って飛び立つと壁から離れた噴水広場まで止まるとエレンは構え、ライナーも構える。

お互い噴水を挟んで間合いを取ると、エレンは両手の拳を硬質化させた。
硬質化は一点に凝縮させるとより強固になる。あのパンチをまともに喰らえば、あのライナーの硬い皮膚も砕けるに違いない。

しかし、ライナーも硬い皮膚を持っているため、まともに喰らえばひとたまりもない。隙を作らずいかに確実に攻撃出来るかが肝心だ。



この日のために、マコトはエレンに関節技も教え、攻撃を防御するという技術も叩き込んだ。


・・・あとは、エレンがどこまでそれをものに出来たかに掛かっている。

「いいぞエレン、そのまま距離保って、ライナーの動きをよく見ろ・・・」

動き出したのはライナーだった。
姿勢を低くして振りかぶってパンチをする所にエレンはギリギリで避け、体制を変えたライナーが今度は飛びついてきたがそれも回避すると肩をドン!と押した。

マコトはよし!と拳を握りライナーがエレンに突進してパンチをする所でエレンは避けて硬質化パンチを見事ライナーにぶつけることが出来た。

そのままライナーは吹き飛ばされて噴水を破壊しながらゴロゴロと転がっていく。

「当たった!」
「よし!いいぞエレン!」

思わずアルミンと肩を組んで喜ぶ。


ウオオオオォ!


その瞬間エレンは雄叫びをあげる。


ここはかつて、エレンやアルミン、ミカサが育った故郷。

ある日突然、ライナーやベルトルトら鎧の巨人と超大型巨人に日常を奪われ全てを失った。

その全ての怒りがこもったような雄叫びが、シガンシナ区中に響き渡った。









***






一方、リヴァイ側の区外にて──


新兵が引き連れる馬を守りながら兵士たちは巨人を討伐していた。

憲兵団から鳴り物入りで異動してきたマルロ、フロックは馬を引連れ巨人から逃げていた。

「新兵!残りの馬を西側に移せ!」
「ディルク班で新兵を援護しろ!!」

上から指示される調査兵の声を聞くとフロックは先頭を走るマルロに向かって

「どこだ、マルロ?」
「はぁ?!」
「どこに馬を繋げばいい?!」
「い・・・一箇所に馬を留めるなと言う司令だ。ここじゃない、もっと・・・」

彼らにとってこれが初陣、このような状況に放り込まれて普段冷静であるマルロも焦っていた。
方向感覚が分からなくなり、必死に頭を回していると

「左から34m級くるぞ!!」

そう叫び声とともにこちらに向かって走ってきた2体の巨人。

「あれが・・・巨人・・・」

初めて見る巨人に、マルロ達は脚が固まってしまった。

すると上空をリヴァイがアンカーを刺して2体同時に叩く。

「リヴァイ兵長・・・!この隙に行くぞ!」

リヴァイの顔を見た瞬間、マルロは冷静になるとフロック達を連れて西側へと逃げる。

リヴァイはそれを見送るとブレードで指しながら

「小せえのをさっさと片付けろ!獣の巨人が動く前にだ!!損害は許さん!一人も死ぬな!」
「はっ!」

以前のような力は調査兵団にはない・・・

しかも主力であるハンジやモブリット、ミカサ、エヴァンスの能力を持ったマコトもあちら側に居る。


ウオオオオォ!


ドォン!


壁の向こうから、エレンが雄叫びを上げる声が聞こえると同時に爆発音のような音が聞こえてきた。リヴァイは壁を見て眉を寄せた。


「エレンの奴、暴れてんな・・・」

向こう側の戦況がどうなっているのか、マコトは無事なのか?

区外のこの状況を見ると、しばらくそちらには行けそうにもない・・・もどかしさに、リヴァイはブレードをグッと握る。



すると、目の前の巨人を討伐した兵士が自分の目の前で着地した。

「はぁ、はぁ・・・」

180cmほどの長身、茶色の髪・・・確か、この調査兵は

「お前・・・フレンか?」


フレン・・・それは2年ほど前マコトの部屋に押しかけ風呂場で強姦未遂をした訓練兵だ。

あのまま開拓地送りになりそうな所を、マコトが人類に心臓を捧げる形で罪を償えと言い、どのような成績でも調査兵団一択の選択肢しか与えられなかったあの訓練兵。

まさか、あの女型の巨人と交戦した壁外調査の後でも生きていたとは・・・確かあの時の兵法会議、マコトはフレンの事を成績優秀な兵士と言っていた。

壁の外に出てしまえば訓練の成績は関係なく生き残る運と技術が必要だが・・・フレンは運も良かったのだろう。

フレンは立ち上がってリヴァイを見下ろすと

「ご無沙汰です、リヴァイ兵長」
「ああ・・・お前」
「はい。あれからしぶとく生きていました」

フレンはそう苦笑いする。
現在はディルクの班に所属しているらしくリヴァイは全く気づかなかった。

それもそうだ、あの時の髪型はマッシュヘアーだったが今はセンターに分けられており雰囲気が変わっている。

「マコト教官が俺を見つけて、また怖がらせてしまうと思ったので・・・見た目だけでも変えようとしたんです。」

そしてフレンはリヴァイの左手の薬指を見つめると

「噂で聞きました。 おめでとうございます。」
「ああ・・・」
「リヴァイ兵長、俺は元々調査兵団志望だったので正直あの処遇は願ったり叶ったりでした。あんな事したけど・・・俺は、リヴァイ班・・・憧れでした。憧れのリヴァイ兵長とこうやって戦えて、今は最高の気分です。」

フレンは刃こぼれしたブレードを投げ捨てるように放り投げ、新しいブレードに替える。

「心臓を捧げる形で罪を償う・・・俺はこの日のために生き残ってたのかもしれません。 死ぬ気はありませんが、死ぬ気で行きます。」

そう言ってフレンは恐怖を押し殺すようにリヴァイに笑いかけると、

「はっ、さっき命令したろ。損害は許さん。一人も死ぬなと」
「はは、そうでしたね。」
「長話はこれが終わった後でだ。行くぞ!」
「はい!」

リヴァイとフレンは屋根を蹴ると、アンカーを出して巨人のうなじにブレードを叩きつけた。







***






マコト達の居る区内では──

エレンが回し蹴りをしようとした所でライナーが脚を掴みエレンを転ばせた。

そのままエレンの脚を掴んで振り回し、家屋に叩きつけ仰向けになった所をエレンに向かって拳を振り下ろす。

ドオォン!

地震のような、地面が割れるほどの衝撃波がやって来て思わず身を縮める。

エレンは皮一枚の所で拳を避けたようだ。
そのままエレンが関節技に持ち込むがライナーはこのままでは危険だと判断し距離を置く。

「今だ!」

するとハンジが動き出し、作戦開始だ。
モブリット、マコト、アルミン、ジャン、コニー、サシャが全員飛び出しハンジとミカサを追いかける。

一直線に伸びる道をハンジとミカサが駆け抜け、ライナーとすれ違う手前で引き金を引くと雷槍が発射され、そのまま両目に撃ち込まれた。

そしてハンジとミカサがライナーを通り過ぎ、同時に雷槍のピンを抜いた瞬間爆発音が轟いた。


「グオオオォ!」


鎧の巨人が叫び始めた。
そのまま上を向いて硬直している鎧の巨人。
マコトは前方を飛ぶジャンたちに向かって

「急げ!今がチャンスだよ!」
「はい!」

すかさずジャン、コニー、サシャが後ろから雷槍を撃ち込み爆発する。爆風にマコト達は目を細めるがここで怯む訳には行かない。

「マコト!」
「はいモブリットさん!アルミン行くよ!」
「はい!」

3人で顔を見合わせるとせーの!で引き金を引いて、雷槍を撃ち込み全員安全な距離を取ったあとピンを引き抜く。


「や、やったぞ!項の鎧が剥がれかけてる!」

ジャンの声に爆風の中、空中で体勢を整えながらマコトはライナー見る。

たしかに背中の皮膚は砕け、あと数発打ち込めば・・・

「もう一度だ!もう一度、雷槍を撃ち込んでトドメを刺せ!」

そのハンジの言葉に、104期の同期は固まってしまった。

あと一発、トドメを刺す──


即ち、ライナーを殺すという事だ。



共に過した時間は、彼らの方が長いしマコトだってライナーと3年近くの付き合いだ。

マコトはグッと手汗の出るブレードを握りしめるとライナーとの思い出を振り切るように肺に空気を吸い込む。

「皆ッ・・・怯むんじゃない!」
「そうだ、お、お前ら・・・っ!こうなる覚悟は、済ませたはずだろ!」

ジャンもそう叫びながら怒鳴り、全員は頷くと最初に飛び出したのはマコトだった。

こういう時は、上官が部下を引き連れなければ統率がならない。


リヴァイとの仲で悩んでいた時に自信を持って攻めろと言ってくれたライナー

格闘技で自分の知らない技を教えてくれたライナー

いつも皆の兄貴のようで、皆から慕われていたライナー

そして最後に会った、ナイフをマコトの首に押し当てるライナーの姿。



「ぐっ」

あんな事をされても、可愛い教え子だった。
教え子を殺すなんて誰が喜んでやるものか。しかし、彼を殺さなければ全てが終わらない。

マコトは引き金を引いてライナーの項に雷槍を撃ち込むと、それに続いて全員が雷槍を撃ち混み一斉にピンを抜いた。

ライナーに撃ち込まれた雷槍は爆発したと同時に叫び声が聞こえた。



鎧の巨人はそのままぐったりと力なく腕をおろし、俯く。

完全に、ライナーの動きが停止した。


時間が止まったのではないかと言うほど沈黙が訪れ、1人の兵士がやったぞ!と震えながら拳を振り上げた。

「よっ・・・鎧の巨人を仕留めたぞ!」
「お、俺たちが勝った!」

震えながらも、抱きしめ合い泣いている兵士がいる。
ライナーの光景をマコトはハンジの横で眺めていた。


「ハンジさん、まだ警戒は出来ない・・・ですよね」
「ああ! 全員装備を整えて次に備えろ!」

呆然としているアルミンにミカサは肩に手を置いて気にかける。


アルミンは眉を下げると

「交渉の余地なんてなかった・・・なんせ僕達は圧倒的に情報が不足してる側だし、巨人化できる人間を拘束できるような力もない。・・・これは、仕方がなかったんだ」

自分に言い聞かせるようにも言って聞こえるアルミンの言葉にマコトも俯く。



すると、鎧の巨人・・・ライナーの顎が動き出すと突然


「グオオオオォオォ!!!!」


雄叫びを上げ始めた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


そのライナーの叫びは、壁上のエルヴィン、区外のリヴァイの耳にも届いており一斉に振り向いた。


「何だ・・・?」


リヴァイの頬から汗が落ちる。

「リヴァイ兵長、あれ・・・!」

隣にいたフレンが指を指す方向、そこには獣の巨人が四足歩行の巨人の鞍から樽を1つ掴むと投げ飛ばした。

その樽は放物線を描き、区内へと入っていく。

「あの猿、何投げやがった・・・」
「大型巨人がまだ見つかってないって、言ってましたよね・・・」
「ああ、そう─」

だが、と言いかけたところでリヴァイはまた樽を見上げた。

「あの中身・・・まさか」

大型巨人が空中で巨人化して落下すれば広範囲による被害が出る。

あそこの兵士全員が全滅する可能性も高い。

「マコト・・・!」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


ハンジが追加で雷槍を撃ち込もうと指示をしていたところ、マコトの視界端に何かが映りこんだ。

それは、黒い小さな物体でこちらに向かって飛んできている。

「鳥・・・?違う、アルミン、あれ・・・」

マコトが指さした方向をアルミンが見ると

「やっぱり、あの叫びは合図だった・・・ハンジさん!ダメです!ライナーから離れてください!上です!超大型が降ってきます!ここは丸ごと吹き飛びます!!」

アルミンの叫ぶような声に、上を見たハンジは舌打ちをすると

「全員、鎧の巨人から離れろ!!超大型巨人が落ちてくるぞ!」

全員がライナーから離れ、全速力で立体機動を動かす。


すると背後から


「ライナアアァ!」


ベルトルトの声が聞こえ、マコト達は一斉に振り向いた。

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