86:奪還作戦前夜祭

キース教官と面会後・・・その後すぐに、エルヴィンに報告をした。

「つまり・・・エレンの父、グリシャ・イェーガーは・・・『壁の外から来た人間』である可能性が高いと・・・」

彼はアニ、ライナー、ベルトルト同様巨人の能力を持っていた。3人と違うのは、壁の中の人類に協力的だった事・・・

「調査兵団に興味を持ってったって話なら・・・もっと協力してくれても良かったんだがなぁ」
「どうかな・・・物知りなグリシャさんならレイス家に受け継がれる思想の正体すらも何か知っていたのかもしれない。」

ウォール・マリアが突破された瞬間、グリシャは王政の本体であるレイス家の元まですっ飛んで行き、狂気の沙汰に及んだ。

おそらくはこの壁に入ってから独力で王政を探るなどしていたのか。


「いずれにしても、凄まじい意識と覚悟がなきゃ出来ることじゃない。そんなお父さんが調査兵団に入りたいと言った10歳の息子に見せたいと言った家の地下室・・・死に際にそこに全てがあると言い遺した地下室・・・一体何があると思う?」

ハンジはエルヴィンを見つめた。

エルヴィンは過去の、教師をしていた父親にぶつけた疑問。そして父の仮説・・・

己の無知さで父親を殺してしまってからは、父の仮説を証明するためにここまでやってきた。

地下室(そこに)、全てがある。
そこで、答え合わせができるはずだ。

「言ってはいけなかったこと・・・イヤ、グリシャ氏が言いたくても言えなかった事。つまり初代レイス王が我々の記憶から消してしまった《世界の記憶》・・・だと思いたいが、ここで考えたところでわかるわけがない。」

エルヴィンはハンジ達を見つめると

「本日で、全ての準備は整った。 ・・・ウォール・マリア奪還作戦は、2日後に決行する」

その言葉に全員は息を呑み、リヴァイはコートに入れていた手をピクっと動かした。

「地下室に何があるのか? 知りたければ、見に行けばいい。・・・それが調査兵団だろ?」

エルヴィンの微笑みに、全員も頷くと会議はお開きになった。



「では、各班を任せたぞ」
「ああ。くれぐれも秘密裏にな。」
「でも、今日くらいは肉を食ってもいいですよね?」
「そうだな・・・たまにはガキ共に大人の甲斐性を見せつけてやらねぇと」
「シャーディス団長の隠匿罪についてはどうする?」
「ほっとけばいい。あんなのに構ってる暇はないよ」
「ショックだよなハンジ・・・あんたの憧れだったのに」
「うるさいだまれ」

そんな話をしているとハンジを押し出してリヴァイがドアを背中で閉めた。
部屋に残ったのは、エルヴィンとリヴァイのみ。

「・・・何だ?リヴァイ」
「気の早い話だが・・・ウォール・マリアを奪還した後はどうする?何より防衛策の確立が先だと思うが・・・その後は・・・」

「脅威の排除だ。壁の外には、どうしても我々を巨人に食わせたいと思っている奴がいるらしいからな。もっとも・・・それが何なのかは地下室に答えがあると踏んでいる。だからさっき言った通りだ。地下室に行ったら考えよう。」

それでは、もやもやが晴れない・・・リヴァイは眉を寄せるとエルヴィンを睨みつけ

「・・・お前がそこまで生きてるか分からねぇから聞いてんだぜ?その体はもう以前のようには動かせねぇ。さしずめ、巨人の格好のエサだ。現場の指揮はハンジに託せ。お荷物抱えんのはまっぴらだ。お前はここで果報を待て。連中には、俺がそうゴネたと説明する・・・イヤ、実際そうするつもりだ。・・・それでいいな?」

こんな事は、建前だ。
我々調査兵団は・・・まだ、エルヴィンを失う訳にはいかない。彼の頭脳が必要なのだ。

リヴァイはお前は来ないで欲しいと俯いて返事を待つ。

エルヴィンは目を伏せると

「ダメだ」

その言葉にリヴァイは顔を上げた。


「エサで構わない。囮に使え。指揮権の序列も、私がダメならハンジ、ハンジがダメなら次だ。確かに困難な作戦になると予想されるが人類にとって最も重要な作戦になる。 そのために手は尽くしてある。 ・・・全て私の発案だ。私がやらなければ、成功率が下がる。」

「そうだ。作戦は失敗するかもしれねぇ。その上お前がくたばったら後がねぇ。お前は椅子に座って頭だけ動かすだけで十分だ。巨人にとっちゃそれが一番迷惑な話で・・・人類にとっちゃそれが一番いい選択のはずだ。」

「いいや、違う・・・一番はこの作戦に全てを懸ける事に・・・」
「オイオイオイオイ、待て待て。これ以上俺に建前を使うなら・・・お前の両脚の骨を折る。ちゃんとあとで繋がりやすいようにしてみせる。だが、ウォール・マリア奪還作戦はは確実にお留守番しねぇとな。暫くは便所に行くのも苦労するぜ?」

早口でそう捲したてると、エルヴィンはリヴァイを見つめて声を出して笑った。

「ハハハッ、それは困るな・・・確かにお前の言う通り・・・手負いの兵士は現場を退く頃かもしれない。・・・でもな、この世の真実が明らかになる瞬間には、私が立ち会わなければならない。」

「・・・それが、そんなに大事か?テメェの脚より?」
「あぁ」
「人類の勝利より?」
「あぁ」
「・・・そうか、エルヴィン。 お前の判断を、信じよう」

リヴァイはそう言い残すと背中を向け、ドアノブに手をかけた。

「リヴァイ」
「何だ」
「・・・マコトと、ゆっくりしなさい」

マコトとの別れがもう目前に控える。
リヴァイは目を伏せると

「もちろんだ」

そう言うとドアを押した。







「マコト」
「はい!」

執務室から声が聞こえ、ドアが開いた。
報告が終わったのかとマコトは紅茶を用意しようと棚からお揃いのマグカップを手に取ると

「2日後だ」
「え・・・?」


入口に立つリヴァイはマコトを真っ直ぐに見つめると



「2日後、ウォール・マリア奪還作戦を開始する」



・・・ついに来てしまった。


それを聞くと、マコトはキュッと唇を噛むと震える手でマグカップを棚に戻す。

リヴァイに向き合い、足を揃えると

「・・・了解しました」

トン、と胸に手を当てて敬礼をした。










奪還作戦前の夜・・・

リヴァイとマコトは前祝いの祝賀会へと向かった。
白のワンピースにコートを羽織り外に出ると白い息が上えと上がっていく。

「マコト」
「うん」

差し出された手を取ると、リヴァイは着ていたコートのポケットにマコトの手を入れる。
マコトは嬉しくなり手を握り返すと、リヴァイも握り返す。

お店に入るとほぼ全員集まっており貸切のせいか上の2階席まで調査兵で埋まっていた。

「おーい、リヴァイ!マコト!こっち!」
「ハンジさん!」

ハンジの隣に座り、リヴァイはマコトの向かいに座る。


暫くすると店のスタッフが全員のテーブルにローストビーフをドンッと置き始めた。

「え・・・肉・・・?」
「本当に肉頼んだんだ・・・」
「殺し合いが始まるかもしれんぞ」

マコト、ハンジ、リヴァイがそうつぶやくと、近くにいた104期の調査兵も

「は?え?肉?何、これ・・・肉?」
「・・・マジかや」

むしろ、調査兵全員が困惑している。
なぜながら、調査兵団は経費を全て壁外調査へと費やしているため貧乏兵団なのだ。

いつもパンと味の薄いスープばかりで、お肉など出たことが無い。

お肉など滅多に見ないのでそもそもこれが本当に肉なのかどうかも麻痺してしまっている。

すると、幹事のハロルドが

「えー今日は特別な夜だが、くれぐれも民間人に悟られるなよ?兵士ならば、騒ぎすぎぬよう英気を養ってみせろ。 今晩は、ウォール・マリア奪還の前祝いだ!かんぱ・・・」
「「「「うおおおおおおおおお!!!!
」」」」


壁外調査へ行く時と同く、勢いのある声を張り上げながら兵士たちはフォークを片手に肉に飛びついた。

「落ち着けよ、均等に分けるんだよ」
「おい!それはデケぇから2枚分だ!!」
「ダメだ!お前は槍が下手くそだろ、期待できねぇから、俺に譲れ!!」
「何だと?!」

マコトの後ろでそんな喧嘩が始まり、遠くからでは

「てめぇ!ふざさんじゃねぇぞ芋女!!自分が何してっか、分かってんのかァ!?」
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛・・・!!!ん゛ん゛ん゛!!」
「やめてくれ!サシャ!俺、お前を殺したくねぇんだ!」
「1人で全部食うやつがあるか!」
「ガアァ・・・!」
「うわあああ食ってる!食ってる!食ってる!」
「サシャ!その肉はジャンだ!分からなくなっちまたのか!?」

ミカサの指示でコニーがサシャを落とそうとしているが意識がないまま動いているらしい。
黙々と食べているマコトとリヴァイ、ハンジの幹部グループ、ディルクは肉をもぐもぐさせながら

「オイ、負傷者が出てるぞ」
「誰だ、肉を与えようって言ったのは」
「すみません。奮発して2ヶ月分の食費をつぎ込んだのがよくなかったようです」
「マコトちょっと落としておいで」
「はーい」

ハンジに言われてマコトは仕方がないと肉を惜しみながら飲み込むと椅子から立ち上がった。
マルロが既に被害にあっているらしく鼻から血を吹き出している。

やれやれと鼻でため息をつくと、

「あなた達のテーブル、奇行種がいるね」
「マコトさん!助かった!」

コニーとジャンが半泣きでこちらを見るとマコトはマルロに聞こえないようにサシャに耳打ちをした。

「サシャ、私の世界はね・・・お金を払えばお肉食べ放題のプランがあってね・・・」
「ん゛ん゛ん゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
「え、マコトさんなにそれめちゃくちゃ羨まし・・・」

サシャは標的をマコトに替えるとこちらへ追いかけてくる。

マコトは飛んできた拳を屈んで避けると、そのままサシャの背中に回り込み両手で顎を掴みそのまま1回転にひっくり返す。そのまま海老反りにさせた背中に乗り、そのままグラウンド式フェイスロックをして締め上げるバンクステートメントというプロレス技を繰り出した。

流れるような技に全員はおお・・・と言うとサシャはそのまま白目を剥いて気絶した。

「・・・よし!落ちたよ」
「ありがとうございます!」

コニーとエレンがサシャを担ぐとそのまま柱に縛り付けた。

マコトは席に戻りふぅ、と座るとリヴァイは

「おいマコト、スカートなんだからあんまはしゃぐんじゃねぇ」
「あはは、ごめんなさい」
「まったくソクバッキーな旦那だね!」

ハンジがからかうように言うとリヴァイはうっせ、とジョッキのお酒を飲む。

暫くすると、またエレン達の席から

「いい調子じゃねぇかイノシシ野郎!!」
「てめぇこそ、なんで髪伸ばしてんだこの勘違い野郎!!」
「顔以外にしとけよー」
「てめぇ!」
「なんだよ!服破けちゃうだろうが!」

するとエレンの拳がジャンの腹に見事に命中した、

「おりやぁ!」
「どぅっ!・・・この野郎!」
「ぐうっ!」

するとそれを見ていた周りの調査兵が

「いいぞいいぞー!」
「根性見せろー!」

ヤジを飛ば始める。




一方マコトとリヴァイは

「リヴァイさん、お野菜食べる?」
「ああ、頂こう」

マコトはトングを手に野菜を彩りよく盛り付けてお肉を乗せていく。

「ありがとうな。」
「いえいえ」

こちらではお互いの顔を見て微笑み合う仲睦まじい夫婦がおりハンジはエレンとリヴァイ達を見比べて何だこの温度差と苦笑いする。

「マコト、肉食うか?」
「えっいいよ、せっかくなんだからリヴァイさん食べて」
「俺は十分に食べた。ほら、口開けろ」

そう言ってリヴァイはフォークを刺した肉をマコトの口元に持っていくと申し訳無さに戸惑っていたが思い切って口に入れた。
ソースと肉汁が口に広がり、お肉が柔らかくマコトはふにゃふにゃの顔になってしまいリヴァイは目を細めて笑うと

「おいリヴァイ!マコト!てめぇらイチャイチャしてんじゃねーぞ!」
「いつの間にか付き合いやがって!」
「いつの間にか結婚しやがって!」
「クソ羨ましいんだよ!」

酔っ払った兵士が泣きながら羨ましいと口走り酒を飲む。

「チッ、騒がしくなってきたな」
「そろそろエレン達を落としますか」
「・・・だな」

エレンは怪我しても治るが、ジャンはそうは行かないだろう。
リヴァイとマコトは立ち上がると

「お前こそ・・・母ちゃん大事にしろよ!ジャンボオォ!」
「それは忘れろぉぉぉ!」
「ワッサッ!」

お互い限界なのか、ジャンとエレンは小突く程度の殴り合いになっている。

リヴァイとマコトは近づくと


「オイ」


その瞬間リヴァイはエレンの腹に蹴りを入れ、マコトはジャンの鳩尾に拳を入れる。

「お前ら全員はしゃぎ過ぎだ。もう寝ろ。」

その瞬間ジャンはオロロロとキラキラした物を吐き出すと

「・・・あと掃除しろ」
「「「了解!」」」

リヴァイの一言でお開きとなり、全員食器を片付け始める。

マコトも片付けに参加をし、あらかた片付き辺りを見渡すとリヴァイが居なかった。

「リヴァイさん?」

ジョッキを見ると、無くなっているのでどこかへ行ったのか?
マコトはコートを羽織ると外に出た。


リヴァイは入り口の扉に座り込んで飲んでいた。
名前を呼ぼうとすると、シッと人差し指を立てたのでマコトは気配を殺して近くに座り込んだ。

どうやら、エレン、ミカサ、アルミンの幼馴染3人組が揃って何かを話しているらしい。


「ウォール・マリアを取り戻して、襲ってくる敵を全部倒したら・・・また戻れるの?あの時に・・・」

あの時とは、5年前の出来事だろう。
マコトはリヴァイの隣に座りながらチラッとリヴァイを見る。

リヴァイはジョッキを口に着けたまま何かを考えているようだ。


リヴァイもファーランやイザベラ、5年前上司や仲間を失った。・・・しかし、もうその人達は戻ってこない。

あの日はもう二度と、返ってこないのだ。

「戻すんだよ。でも・・・全部は返ってこねぇ。ツケを払ってもらわねぇとな。」
「それだけじゃないよ、海だ。商人が一生かけても取り尽くせないほどの巨大な塩の湖がある。壁の外にあるのは巨人だけじゃないよ。炎の水、氷の大地、砂の雪原。それを見に行くために調査兵団に入ったんだから」

声を弾ませるアルミンを見てエレンは

「ああ、そう、だったな・・・」

アルミンは立ち上がると

「だから!まずは海を見に行こうよ!!地平線まで全て塩水!そこにしか住めない魚もいるんだ!!エレンはまだ疑ってるんだろ!?絶対あるんだから!見てろよ!」
「はっ、しょうがねぇ・・・そりゃ実際見るしかねぇな・・・」
「約束だからね!?絶対だよ!?」
「・・・また二人しか分からない話してる・・・」

少し拗ねたようなミカサの声が聞こえ、盛り上がっている。

マコトはエレン達の話を聞きながら頬杖を着く。

「(海かぁ・・・そうか、この子達は見たことがないのか)」

暫くすると冷えるから帰ろうとエレン達は兵舎に戻り、残ったのはマコトとリヴァイのみになった。

「海、か・・・昔マコトの地図で見せてもらったな」
「うん。」
「お前はもちろん見た事あるのか?」

マコトは頷くと

「アルミンの言う通り取り尽くせないほどの塩水だよ。」
「想像出来ねぇな。」
「青くて透き通ってて・・・綺麗なの。行ってからのお楽しみだね」

その頃には、リヴァイの隣に自分は居ないだろう。

マコトは笑うとリヴァイはマコトの頬に手を添える。その頬はひんやりして鼻も赤くなっている。このままでは風邪を引いてしまう。

「冷えてきたな。帰るぞ」
「・・・はい」

ジョッキを片付けるとリヴァイもコートを羽織り来た時のようにマコトの手をポケットに入れた。

松明に灯るこの夜景も今日で見納めだ。


マコトとリヴァイはゆっくりとした足取りで兵舎へと帰った。



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