84:マリア奪還への準備

個々の利益を優先し、人類の存続を脅かした罪。
大義名分を得た兵団は内乱に破れた旧体制容赦のない粛正を行った。

議員一族及び関係者は爵位を剥奪され各地方の収容所へ送り込まれ、残された貴族階級には兵団に協力的な者と反する者の間で税率の格差をつけ団結を阻害した。

兵団と貴族との間を取り持ったのが、アンドレ・ヴァロアでアンドレは協力的な貴族を引っ張っていく存在になった。


エルヴィンが話していた憲兵の隠し兵器や、巨人が生み出したとされるレイス家領地の広大な地下空間のひかる鉱石はエネルギー消費しない資源として利用され住民に還元され工業地を日夜照らし生産性を上げた。

エレンの硬質化はシガンシナ区の破壊された門を塞ぐことに期待されるばかりでなくとある対巨人兵器を誕生させた。



その試運転は、トロスト区で行われた。


大きな丸太と鉄骨が組み合わさっており、その隙間から調査兵団の兵士が巨人をおびき寄せる。

「今だ!」

そう言うと丸太が落下し、巨人のうなじに直撃した。

「やった!うなじに当たったぞ!」
「損傷の度合いは悪くなさそうだ・・・今度こそは・・・」

よく見ると、巨人はそのまま息絶えて蒸発し始めた。それを確認すると、ハンジは拳を握り

「やったぞ!12m級撃破!!」

おおおー!と詰めかけていた新聞社が感嘆な声を出してその様子を書いたり絵師にスケッチをさせる。

「思った通りだ!これなら兵士が戦わなくても巨人を倒していける!それも大砲も資源も消費せずに日中フル稼働で巨人伐採しまくりの地獄の処刑人≠フ誕生だ!!さぁ新聞屋さん方またまた人類に朗報だ!飛ばせ飛ばせ!早いもん勝ちだ!やったなエレン!これを大量に造って、他の城塞都市にも・・・」

ハンジは振り向くと、そこには鼻血を出したエレンとハンカチを差し出すリヴァイの姿があった。
マコトも慌てて携帯型の救急セットを取り出すと

「エレン、座って。 口少し開けてね」
「は、はい・・・」

マコトはエレンの鼻の付け根を抑えて血が止まるポイントを探す。


「おそらく巨人の力を酷使しすぎたんだろ。このところ硬質化の実験ばかりだったからな。・・・こいつの生み出す岩が無限にあるとは思わない方がいい。こいつの身を含めてな。」

最悪エレンが・・・の場合もある。
ハンジはエレンの傍にしゃがみこむと

「すまないエレン・・・自分の発想に夢中になってしまって・・・」
「謝らないでくださいよ、ハンジさん。オレがちょっと疲れたくらいで何だって言うんですか。こんな凄い武器が出来たんですよ?・・・もっと増やしましょう。誰も食われずに巨人を殺せるなんて。」

あとは、ウォール・マリアを塞ぐだけだ。

「コイツで巨人を減らし続けてウォール・マリアから巨人を一掃できる。早く・・・武器を揃えて行きましょう。シガンシナ区に」

別行動で今別の調査兵がシガンシナ区への夜間順路開拓をしており、今は半分を超えた距離まで到達することが出来た。これも、硬質化した巨人から得た光る鉱石のお陰だ。


「・・・およそ一月以内に全ての準備が整います。」

調査兵団の報告会議でエルヴィンがそう言うと、おお・・・と声が湧く。

「思いのほか早いな・・・しかし、失敗は許されんぞ。何せ、我々兵団が重税を課した貴族の反乱。抑えていられるのも調査兵団への破格の資金投資も全ては失われた領土奪還が前提なのだからな・・・それをしくじればすべてご破算だぞ」

リヴァイはじっと憲兵を見つめると、憲兵は冷や汗を流し

「兵士長殿、何かご進言でも?」
「・・・いえ何も。おっしゃる通りかと」
「全てはウォール・マリア奪還の大義の下・・・我々壁の外でも壁の中でも血を流し合いました。我々といたしましては、そのために失われた兵士の魂が報われるよう死力を尽くし挑む次第です」

エルヴィンがそう言うと、ダリスは机の上で手を組んで頷く。

「あぁ・・・君もそろそろ報われてよいはずだ。シガンシナの地下室に君の望む宝が眠っていることを祈っているよ」

宝・・・?リヴァイはエルヴィンを見つめた。
会議が終了後、ダリスとピクシス、エルヴィン、リヴァイ、ハンジが集まっていた。


そのテーブルの上には、以前ケニーから譲られた巨人化できる液の入った注射器があった。
中身の解明は出来ず、ハンジの技術をもってしてもこれ以上は探れなかった。

人間の脊髄液由来の成分ではあるようだが、空気に触れるとたちまち気化してしまい分析が困難なようだ。
この高度な代物をレイス家が食ったのだとしたらどうやって作ったのか・・・今となっては分からない。

ピクシスは顎に手を当てて注射器を見ると

「・・・ならば、下手に扱うよりも当初の目的に使用する他なかろう」
「すると、誰に委ねる?エルヴィン・・・君か?」
「いえ・・・私は兵士としては手負いの身です。この箱は・・・最も生存率の高い優れた兵士に委ねるべきかと。」

エルヴィンは隣にいたリヴァイを見下ろすと

「リヴァイ、引き受けてくれるか?」
「・・・任務なら命令すればいい。なぜそんなことを聞く?」
「これを使用する際はどんな状況かか分からない。つまり現場の判断も含めて君に託すことになりそうだ。状況によっては誰に使用するべきか君が決めることになる。任せてもいいか?」

先程ダリスがエルヴィンに向かって話した「夢」の話・・・リヴァイはエルヴィンを見つめると

「お前の夢ってのが叶ったら・・・その後はどうする?」
「・・・それは、分からない。叶えてみないことにはな」
「そうか、わかった。了解だ」

リヴァイはケニーから受け継いだ注射器を手に取ると胸ポケットに入れた。







あの内乱後、憲兵や駐屯兵団へ調査兵団移籍募集をかけた所、マリア奪還目前という追い風に押された志願者が複数現れた。その中にも、おそらくエレンと同じようにシガンシナ出身の者も居るだろう。

今は雷槍の訓練を中心に行っており、マコトもその雷槍の訓練に打ち込んでいた。


長さは120cmほどの細身の長い筒で、重さは3キロほどだろうか。500ccのペットボトルに替えると6本分に値する。

ロケットランチャーのような仕組みをしており、立体機動装置を使用して使用して空中を滑空する兵士の腕に取り付け、金属の棒状の雷槍を敵のうなじめがけて打ち付ける。

雷槍の先端部には起爆装置が取り付けられており、敵に雷槍を打ち込んで爆破することにより、大きなダメージを与えられるという仕組みになっている。

・・・これは硬質化したら巨人を破壊することも可能で、ライナーの鎧巨人対策だ。

巨人のうなじ目掛けて発射させるこの雷槍。スナップブレードも同じ要領で近距離で雷槍を使用してしまうと、その爆破に自分自身が巻き込まれてしまう。

その為、雷槍を使用する条件として、高い木や建築物が周りにある事が挙げられいる。

今回のシガンシナ区は家屋が並ぶため、使用にはうってつけだ。

それ以外にも、情報共有として特別作戦班とハンジは会議室で集まり巨人の正体を話し、本来巨人は人間かもしれないという仮説を伝えた。

コニーも全員も頭を抱えていたが、巨人の謎が解明されれば元に戻せる可能性があるかもしれない・・・と一縷の希望を持ちコニーは調整日にラガコ村へ赴いては母親の様子を見ているようだ。

話は変わって・・・とハンジはマコトを見た。

「そのマコトの能力についてだけど・・・」

マコトのエヴァンスの能力。
まずエヴァンスとは何か、とエレン達に説明した。

最近は対巨人はないが、マコトの身体能力は向上している。

「こっちの世界に来て・・・ノアさんの力を使うようになってからは、やけに身体が軽いんです」
「覚醒ってやつかな・・・?でも完全じゃないって…完全になったらどうなるんだろう」

マコトが強い理由は持ち前の格闘技術もあったが、エヴァンスの能力も相乗効果になっていた。




「エレンとマコトがライナー達に誘拐された時が最後の巨人との戦いだったわけだけど・・・」
「はい・・・全力であの力を使うと、体力の消耗が激しいみたいで・・・何度か気を失いかけました。」
「巨大樹の森で俺と連携した時もあの後お前はぶっ倒れた。・・・使うのにも限度があるみたいだな。その時の使い時を見誤らければ、サラの能力は役に立つ。」

マコトは頷くと、アルミンは手を挙げた。


「・・・あの、すみません。全然話題変わっちゃうんですけど」
「構わないよ、どうしたの?」

ハンジが首を傾げるとアルミンは少し気まずそうにマコトを見ると

「マコトさんは、壁の救世主の末裔・・・その方の生まれ変わりとしてこの時代に飛ばされたんですよね? 壁の救世主・・・つまりエヴァンスは壁の危機が訪れた時に現れるという事は・・・シガンシナ区の穴を塞ぐことが出来ればマコトさんは・・・」

段々アルミンが尻すぼみになりエレンは何が言いたいんだよ、と首を傾げるがジャンはハッと目を見開くと

「元の時代に・・・帰っちまうって、事かよ」

え・・・と全員はマコトを見た。
ハンジもリヴァイも俯き、マコトは笑うと

「・・・まあ、そうなるかな。半々の確率だけどね。」
「どうなるかは、塞いでみなきゃ分からねぇ。」

リヴァイがそう言うと、アルミンは涙目になり

「リヴァイ兵長は・・・それを知ってて」
「・・・ああ。」

シガンシナ区を奪還すればマコトを失う。
104期調査兵にとっては訓練時代から世話になっているマコトだ。教官でもあり、時には姉のよな存在。

しかしここでエレンが迷ってはストヘス区の時のように、巨人化が出来なくなる可能性がある。

マコトは笑うと

「まだ帰れるって決まった訳じゃないでしょ?私のことは置いといて、まずは穴を塞ぐこと。 ・・・エレン、いいね?」

その言葉には「迷うな」とい言う意味も含まれている。エレンは顔を上げると唇を噛み

「・・・はい」

そう辛うじて返事をした。


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