81:地下都市と修羅場

王都の地下都市
ウォール・シーナ街にある遊興街。

本来は巨人に備えた避難所として用意された空間ではあるが現在はありとあらゆる娯楽と犯罪が集まる無法地帯と化している。

住民は数百から数千・・・規模は拡大しており富裕層や司法側の人間も顧客として使われおり、住民はお互いの素性を詮索しないのが暗黙の了解だ。




マコトとリヴァイは憲兵を連れてここへやって来た。
それを見た住民は「あ?」とガンを飛ばすが先頭を歩いているリヴァイを見て顔面蒼白になった。

「お前、もしかしてリヴァイか?」
「あ?」

リヴァイの存在は地下都市でも有名だったが調査兵になるとその知名度は一気に拡がった。

男は老け込んだ50代ほどの男性だったがリヴァイに近づくと

「俺だよ!」
「・・・・・・お前は、ガイだったか」
「そうだ、久しぶりだな」
「老けたな」
「お前こそ・・・あんま身長伸びてねぇな」
「うっせぇ」

すると遠くから

「リヴァイー!てめぇよくもそのツラ見せに来たなぁ!7年前の恨み今ここでえぇ!」

ゴロツキの男が全力で走ってくるが、リヴァイは腕を組んだまま仁王立ちして動かない。
ガイは心配したが、突然目の前に現れたマコトが突進してきた男の額を平手で掴むとそのまま脚を引っ掛けてひっくり返した。

「ふぅ」

マコトは手をパンパンと埃を落とすとガイはマコトを見て

「・・・この姉ちゃんは?」
「俺の副官で、嫁だ」
「嫁?!」

憲兵も驚いてて「え、そうだったの?」とお互い顔を見合わせたのだった。





地下都市の子供達を孤児院に連れて行きたいとガイに伝えると、ガイは快く引き受けてくれた。

意外と治安は悪くないのか・・・とマコトはリヴァイにこっそりと

「なんか・・・もっとヤバい場所かと思ってたんですが」
「ああ、この時間帯はまだ治安がいいほうだ。夜はもっとやばい。」
「まだ・・・ですか」
「さすがにその時間帯にはガキも寄り付かん。警戒は怠るな」

子供達が多くいる場所をガイと憲兵が向かい、リヴァイはそれを見守っていると

「リヴァイ!」
「あ?」

突然駆け寄ってきた女性がリヴァイに抱きつくと胸を押し付けてそのままキスをしてきた。

それを見てマコトは口をあんぐり開けて見ていると、リヴァイは怒りを露にした。

「おい!」
「何よリヴァイ、私の事忘れたの?」

リヴァイはその女をじっと見つめると

「・・・エステルか」
「ええ。久しぶりね!」

ブラウンの髪の毛はウェーブが掛かっており、服装は胸元が大胆に開かれたドレス。

それを見てリヴァイは

「お前、今は・・・」
「あれからずっと娼館で働いてるわ」
「そうか・・・」

するとエステルはリヴァイの腕に巻き付くとまた胸を押し当てて、

「ねぇリヴァイ、私の事迎えに来てくれたの?」
「は?」
「だって、いきなり調査兵団に連れていかれたんだもの。私ショックだったのよ?」
「・・・・・・」


それをマコトは無の顔で眺めていた。


エステルはマコトを見ると

「ねぇ、あとはこの部下の人に任せて私の家に来ない?仕事まで時間あるし、1回くらいは・・・」
「おい、離せ」

へ?とエステルは首を傾げるとリヴァイは目の前に左手を突き出した。

「悪いなエステル、俺は既婚者だ」

そう言うとエステルは目を見開いて首を振ると

「嘘よ、リヴァイ・・・私の事」
「お前はただのご近所だったろ。」
「だって、あの時・・・! 私を抱いてくれだじゃない!」

マコトの眉にピクリとシワが寄ったのをリヴァイは気づいた。その視線にエステルはマコトを睨むと左手を見て

「・・・貴女なの?」
「・・・はい?」

そう言うとエステルはマコトの左手の指輪を見た後、頬に1発平手打ちした。

素人の攻撃なんて避けられるはずなのにリヴァイは驚くと

「マコト! 大丈夫か。エステル、てめぇ・・・」
「ひっ・・・だ、だって、横取りしたのはこの女よ!」

唾を飛ばしながらエステルは叫ぶとマコトはリヴァイを止めて

「ほら、殴りなさいよ。」
「は?」
「それで、貴女の気が済むのなら結構な事よ。 それに、リヴァイさんを物みたいに言わないで。」
「っ!」

そう言うともう片方の頬をぶたれ、リヴァイはエステルを取り押さえると

「おい憲兵、1人暴れてる女がいる。取り押さえろ!」
「はい!」

憲兵はエステルを取り押さえるとそのまま連れていかれてしまった。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

お互い無言になってしまい、リヴァイは


「マコト、大丈」
「あれは元カノですね」

目を合わせずにエステルが連れていかれた方を見つめたままマコトは呟いた。

「言い訳してもいいか・・・」
「・・・どうぞ」

そう言うとリヴァイは壁に背中を預けて昔話をした。







地下都市に居た頃、リヴァイの家の近くに住んでいた少女。

彼女の家もまた貧乏で、母親が娼婦で父親が居なかった。おそらくリヴァイと同じくどこか分からない客の子供だろう。

エステルが16歳、リヴァイが25になった歳・・・彼女は家計を支えるために娼館で働く事になった。
エステルはリヴァイのことが好きだったらしく最初は好きな人に捧げたい、とお願いしてきたそうだ。
それからリヴァイはすぐに調査兵団に連れていかれたのでそれっきり会ってない。

当時はこれきりの関係だと念を押したが、どうやらあの様子だと戻ってきた事に対して希望を抱いたのかもしれない。


「・・・では元カノではないと」
「そうなる」

ふぅ・・・とマコトはため息を着くと、突然リヴァイの腕を取ると狭い路地へと引きずり込んだ。

リヴァイはボコボコにされるのだろうか、甘んじて受け止めようと目を閉じるとマコトは突然胸ポケットに入れていたハンカチを取るとリヴァイの唇にグイグイと押し当てた後、クラバットを掴んで引き寄せるとキスをしてきた。

歯がぶつかるほどの乱暴なキスでリヴァイは目を開けるがマコトは目を閉じている。

パッと離すとマコトは

「消毒です」

涙目のマコトはリヴァイを睨みつけるとそのまま抱きついたのでリヴァイもそれを受け止める。

「・・・悪かった」
「いえ、謝らなくていいです。理由は分かったし、あの子の気持ちも分かりました。あの子が両頬をぶたなければリヴァイさんに対してその程度の気持ちだったのかと、私は許しませんでしたが」
「どういう意味だ?」
「右の頬を殴られたら、左の頬を差し出しなさい♂釈は様々だけど、私の解釈では相手を赦す事にしています。キスされた事より、リヴァイさんを物みたいに表現したのが許せなかったから。」

そう言い切ると、リヴァイは呆気に取られたがマコトは

「リヴァイさん、いま私はめちゃくちゃ嫉妬しています。・・・夜は覚えといてください」

またクラバットを掴んで引き寄せられるとリヴァイはハッと笑い

「分かった。」

そう言うとマコトはパッと手を離しクラバットを綺麗に整えると、手を取って路地裏へと出た。





***




憲兵に子ども達を預けて地下都市を出ようとすると、

「ちょっと待ちなさいよ雌豚女!」

そんな声が聞こえて振り向くとそこには、エステルが立っていた。
まだ懲りないのか、とリヴァイは動こうとしたがマコトは目の前で手を出すと、突然兵団のジャケットを脱ぐとポイッと地面に投げた。

「マコト?」

それをリヴァイが拾い上げてすぐに埃を叩き落とすと

「オイオイマコト、待て」
「リヴァイさんはお静かに!」

そうピシャリと言い放ちリヴァイも黙り込んだ。
周りのゴロツキもなんだ何だと囲むようにマコトとエステルを見物する。

マコトはブラウスの袖のボタンを外して腕まくりすると腰に手を当てて

「私の名前はマコト・アッカーマン、リヴァイ・アッカーマンの妻です。 そして、調査兵団 特別作戦班の副官です。 前職は訓練兵団の対人格闘技教官を勤めていました。 」

突然の自己紹介にエステルはなんだこの女はとたじろぐ

「特技は格闘技で、特に鼻を折るのが得意です。」
「な、なによ・・・私はただの一般人よ!」
「承知の上です。それにあなたは兵士に手を挙げたので普通なら豚箱行きです・・・が、あれは無しにします。 私も今、制服を脱いだので一般人です」

さすがに格闘技が出来ない相手にマコトも鉄拳は食らわせないだろうと思っているが、リヴァイはマコトの制服を抱きしめながらハラハラと見守る。

するとマコトはそのままスタスタと近づいて思いっきり振りかぶると

エステルの右頬にビンタした。

周りがざわつき、エステルも顔を上げた瞬間今度は左の頬にビンタをする。

しかもそれはスナップの効いた強烈なビンタで一瞬でエステルの両頬は真っ赤になった。



「これでおあいこだね、エステルさん。」
「え・・・」
「あなたがリヴァイさんの事が好きなのは、あの時のビンタに込められてたから分かった。あれで片方しかぶたずに帰ったらその程度の気持ちなのかと怒ってたわ。」

マコトはヒリヒリする手を振りながら

「私も、リヴァイさんの事愛してるから、その気持ちを今のビンタにぶつけたよ。・・・それじゃ」

そう言うとマコトはリヴァイの元へ行き、制服を受け取った。

リヴァイはエステルの所へ行くと

「エステル、お前の気持ちはわかった。・・・あの時はイザベラみたいにお前の事は妹みたいにしか見てなかった。 遅くなったが・・・すまん」

そう言うとエステルはリヴァイの頬に1発ビンタをした。エステルはボロボロと泣きながら

「馬鹿!謝んないでよっ!私はっ・・・あの日の事、あなたに捧げたのはっ、後悔してない・・・私こそありがとうっ・・・今のビンタは、あなたと決別するために込めたビンタだから!」

エステルは背中を向けると

「リヴァイ、お幸せに。さようなら」
「ああ・・・さようなら」


そう言うとリヴァイも背中を向けてこちらに歩いてきた。



修羅場が終わりギャラリーもはけて行くと、マコトはリヴァイと目を合わせて頷くと階段を上がった。



階段を上がりながらマコトはプッと吹き出すとリヴァイはヒリヒリする頬を抑えながらマコトを見る。

「それにしても雌豚女って・・・ふふっ」
「笑い所かよ・・・」
「いや、あんなの初めて言われたから。あれが修羅場かぁ・・・」

マコトは見えてきた地上の光に目を細めた。

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