80:挨拶回り
ヒストリアが女王に即位して数日後・・・
マコトは紙袋を持ってヴァロア家へと向かっていた。

裏で手を回してくれたヴァロア家、彼は貴族だが彼も思うことがあっての行動。おかげで調査兵団は存続し、壁内は新たな再スタートを切った。

エルヴィンはまだまだ多忙のため、代わりにお礼を言ってきて欲しいと手土産とエルヴィンの手紙付きでマコトはヴァロア領へと向かった。

前エマに連れていかれた内地の家はヴァロア伯爵の仕事用に作られた別荘だったらしく、本当の家は領地にあるらしい。
地図を頼りに、小さいが活気のある街に到着すると一際大きな家があったのですぐに分かった。

髪の乱れを直し、着てきたワンピースにホコリが着いてないか確認するとノッカーを鳴らす。するとすぐに使用人が出てきた。

マコトは身分証を出すと笑顔で

「突然すみません。調査兵団のマコト・マカべと申します。ヴァロア伯爵はいらっしゃいますか?」
「マカべ様ですね。少々お待ちくださ・・・」
「マコトさん?!」

家の中からそう聞こえてきて使用人の脇からひょっこり顔を出したのはエマだった。
3年前の少女感は無くなり、今はとても美人な女性になってしまっていてマコトは驚いて固まると

「え?!エマ?!」
「はい!」
「うっそ、すごい美人になっちゃって・・・!大きくなったねぇ・・・」

身長も165cmほどだろうか、マコトは少し見上げる形になりエマは微笑むと使用人を見て

「すぐにお通ししてください。お父様には私から」
「かしこまりました」

そう言うとマコトは中に入るとひえぇ・・・と声を出した。
何もかも家具が高級で掃除が行き届いている。リヴァイが見たら悪くないと納得しそうだ。

出された紅茶を飲むと、あまりの高級茶葉にリヴァイを連れてこればよかった・・・と少し後悔をした。


ここに来る前日もベッドの中で素肌で身体を寄せ合い、マコトの髪の毛を撫でながら

「マコト、本当に一人で大丈夫か?」
「俺も行こうか」
「お前に何かあったら・・・」

着ていくワンピースをどうかと見せたら

「マコト、いいぞ。似合ってる」
「マコト、お前は人類最強に可愛い。さすが俺の嫁だ」
「ところで襲ってもいいか」

とずっとブツブツ言っていたのだ。
あれからリヴァイは素直に「悪くない」という言葉以外をマコトだけ≠ノぶつけるようになってきて少し戸惑ったが嬉しい、と左手の指輪を眺める。

少しするとヴァロア伯爵ことアンドレ・ヴァロアが笑顔でやってきた。

「やあ、マコトさん!遠くからありがとう!」
「ヴァロア伯爵!今回の件、御協力ありがとうございました!」

椅子から立ち上がって頭を下げるとアンドレはいいんだよ〜と手を振って椅子へと促す。
エマも同席したいといいマコトの隣に座って腕にしがみつくと

「マコトさんと会えるの、ほんと久しぶりで!」
「私もエマに会いたかったよ。手紙じゃ物足りないね」

ふふ、と笑うとエマはマコトの指輪を見ると

「まあマコトさん!ご結婚なされたの!?」
「あはは、うん。ヒストリア女王即位の日に・・・」
「あの時話していた方です?」
「そうそう」

そう言うとエマは目をキラキラさせ、アンドレもああと頷くと

「リヴァイ兵士長殿か」
「な、何故それを」
「うちの探偵、口が緩いから」

アンドレはそう言うと紅茶を飲みながらそう言った。
そうだ、とマコトはエマとアンドレを見ると

「お2人に、お話したい事が」







マコトの正体やこれからのウォール・マリア奪還をした後についての話をすると2人は驚いていたが悲しそうに笑い

「・・・そうか、ではもしかしたら帰ってしまうと」
「はい・・・」
「そんな、リヴァイ兵士長は・・・」


泣きそうにエマにマコトも微笑むと

「うん。だから、残りの時間は全て彼に捧げようかと」
「・・・うちも、妻を亡くしているから愛する人が居なくなる気持ちは分かる。でもリヴァイ兵士長殿の選択は良かったと思う。後悔しないように、二人の時間を大切にしなさい」
「はい!」
「ではマコトさんとはもう・・・今日でお別れかもしれませんね」

エマは悲しそうに笑うがマコトに抱きついて

「マコトさん、あの時は本当にありがとう。ずっと忘れません。ね、お父様?」
「もちろんだよ。それにシガンシナ区の復興も、手伝わせてもらうよ。ああその前に・・・これだな」

アンドレは万年筆で何かを書くと使用人を呼んで封筒を持ちにこさせ、紙を入れるとマコトに手渡した。

「スミス氏への返事と、こちらはリヴァイ兵士長殿に。・・・渡してくれるかな?」
「もちろんです」

だいぶ長居してしまったためマコトは席を立つと頭を下げた。

「ヴァロア伯爵、今まで何から何までありがとうございました。」
「ふふ、いいんだよ。・・・さ!愛しの旦那様が待ってるだろう?」
「爆速で走る馬車をご用意致しましょう!」
「いいねエマ! おーい!誰かー!」
「え゛?!いやいや!いいですよ!」

あれよあれよと馬車が爆速でやって来て押し込められるとついでに持っていきなさいとお土産を貰ってしまい、マコトは首が折れるほどお礼をするとヴァロア領を後にした。








***






一方トロスト区では


「遅せぇ・・・!」


リヴァイは兵舎の前で腕を組んで殺気を放っていた。
すれ違う兵士が全員怯えながら敬礼をしてリヴァイもそれにご苦労、と返すの繰り返し。

すると走り狂いながらやってくる馬車が見えてきてリヴァイは眉をしかめると目の前にピタリと止まった。

ドアを開けられて出てきたのは、待っていた愛しいマコトだった。揺られまくったのだろう、足元がふらついているので手を出すとマコトもその手を取った。

「マコト、戻ったか」
「は、はい・・・あ、ありがとうございました!」

使用人に頭を下げると笑顔でおやすい御用です!と笑うとまた爆速で帰っていった。
あれは何だったんだとリヴァイは信じられないような顔をしていたがマコトを見ると

「遅かったから心配した」
「ごめんなさい。ちょっと盛り上がっちゃって・・・待っててくれたの?」
「・・・いや、たまたま出たらお前が来た」

そう言うとマコトは首を傾げるが、突然リヴァイの頬に両手を挟む。

その頬はひんやりと冷たかった。

「おい、何を・・・」
「嘘だね、ずっと待ってたでしょ」
「は?」
「ほっぺた、こんなに冷たくなって。風邪引いちゃうよ!ほら、早く戻って紅茶飲も?」

そう言ってマコトはリヴァイの手を取ると笑顔で

「ありがとう、待っててくれて」
「・・・ああ。待ちくたびれた」

リヴァイは手を握り返すとそのまま2人で肩を並べながら兵舎へと入っていった。





エルヴィンの執務室に寄り手紙を渡す。
簡単に書かれた手紙ともう1枚の紙を見ると突然ははは!と爆笑して

「いやいや、またお礼をしないとな・・・」
「何だったんだ?」
「小切手だ」
「「はぁ?!」」

ヴァロア伯爵はまた活動費としてエルヴィン個人宛に小切手を寄越してきた。推しに金を積むなら惜しまないと言った意気込みを感じられるとエルヴィンは胸ポケットに入れて

「まあいい、これで新兵器の費用に回せるな」
「新兵器って、あれか」
「ああ。」

これもまたシャロン情報で、どうやら中央憲兵が秘密裏に保持されている兵器があるという情報を貰ったハンジはヒストリアの鶴の一声を使ってそれを奪取した。

それを技巧科の技術班であるルークとアークが大興奮しながら設計したのが・・・

「雷槍、だったか」
「ああ。今はハンジが立ち会いをして開発されている。少し改良が必要だそうだ。それが完成すれば、あとは訓練だな」

どんな物だろう、槍と言うのだから槍武器なのか?マコトは悶々としているとエルヴィンは微笑んで

「マコト、ご苦労だったね。」
「いえ・・・私こそ、ありがとうございます。」
「もう今日は休むといい。・・・夫婦水入らずでゆっくりしなさい」

意味深にエルヴィンはリヴァイを見るとリヴァイはふん、とマコトの手をとると

「じゃあお言葉に甘えさせてもらう。マコト、行くぞ」
「えっ!ちょ、リヴァイさん敬礼!」

失礼しました!とリヴァイに引きずられながら胸に手を当てて出ていくとエルヴィンは吹き出して笑いながら見送った。





外で食事をしよう、と出掛けたマコトとリヴァイ。
こうして手を繋いで歩くのはマコトも好きで松明で灯る街を眺めながら歩いていると

「マコト、明後日から王都の地下都市に行く事になった」
「え?」
「この間の会議で、ヒストリアは孤児院を作りたいと言ってな。俺もそれには賛同した。それに・・・」


そう言って胸ポケットから出したのはヴァロア伯爵からの手紙。

マコトは首を傾げるとリヴァイは

「俺にも小切手だ。しかも2枚」
「2枚・・・?」
「孤児院の費用、それと俺とマコトへの結婚祝いだそうだ」
「・・・富豪すぎるだろ」

さらっとやってしまうヴァロア伯爵は恐ろしい。
孤児院の事もあの探偵から聞いたのだろう。

「・・・これから何かを書き始めた時は気をつけないと」
「ふっ、だな。でも・・・孤児院の費用は正直ありがたい。俺からもまたお礼の手紙を書かないとな」
「あ!私も書きます! ・・・ねぇ、リヴァイさん。私も地下都市ついて行ってもいいかな?」
「あ?ダメに決まってんだろ。危険だ」

そう言うとマコトはムッとして

「だって、リヴァイさんの副官がお留守番なんて嫌です!喧嘩なら負けません!」
「ゴロツキがクソみたいに溜まってる場所に嫁を連れて行けるかよ・・・」
「リヴァイさんの育った場所でしょ?私も行きたいな・・・」
「ぐっ・・・」

そんな目で見られては断れない。
完全に尻に敷かれつつある夫は眉をしかめると

「・・・分かった。でも俺から離れるな。子供を使って金品を盗むやつだって居る。子供でも警戒を怠るな。」
「はい!」
「まあ俺が来たら手は出さんと思うが」
「ありがとうございます」

リヴァイは繋いだ手を握ると、マコトは「あ!」と笑顔になると

「ここからだとアンナさんの居るバー近いですよね?」
「そうだな。・・・行きたいか?」
「はい!」

そう言うとリヴァイは了解だと頷くと、アンナのお店へ行った。






バーは今日も繁盛しておりアンナは出てくると拍手が湧いて伴奏が始まった。

マコトもリヴァイも2人がけの小さなソファでそれを聴いているとマスターがマコトとリヴァイを見て微笑むと静かにお酒をテーブルに置いた。
マコトとリヴァイに出されたのは紅茶のお酒が2つ・・・驚いているとマスターは

「私、お客様が飲んだお酒は忘れないんです」
「え、じゃあリヴァイさんもこれを?」
「ああ・・・お前もか」
「ふふ、お二人共気が合いますね」

マコトは頬を赤くして静かに微笑むと、リヴァイも口元だけ笑みを浮かべた。


アンナはマコト達をみつけるとウインクをして、ピアニストと何かを話すと伴奏が始まった。
あの時初めてここに来た時にアンナが歌ったFly Me to the Moonで、マコトもリヴァイも好きな歌だ。

無意識にリヴァイはマコトの左手を握り、マコトがこちらを見たタイミングで触れるだけのキスをしてきた。






歌が終わるとアンナは水の入ったグラスを片手に席を回ってお客と話をしたり挨拶をして回る。

「なんだアンナ、お酒飲まないのか?」
「ふふ、喉を労わって今日はおやすみよ」

切れ長の目に白い肌と170cm近くあるプロポーション、そしてアンナの低いハスキーな声はお酒に合うの でこうして足蹴なく通う客も多い。

エルヴィンもまたその中の一人で2人は恋に落ちたのだろう。



それを眺めているとアンナはニコニコとしながらこちらに駆け寄ってきて

「ちょっと失礼!」

そう言うとアンナはリヴァイとマコトの間に割り込んでソファに座ると一気にソファはキツくなる。リヴァイは眉をしかめるがアンナは嬉しそうに笑い二人の肩を組んで引き寄せると

「イチャイチャしてくれちゃって!羨ましいわ」
「み、見てたんですか」
「ええ、歌ってる最中悲鳴あげそうだったわ」
「嘘つけ」
「あはは!リヴァイさんも久しぶりね。結婚おめでとう」

エルヴィンから聞いたのだろう。
腕を組みながらリヴァイは「ああ」と返事をするとマコトは

「アンナさん、エルヴィン団長から色々聞きましたか?」
「ええ、帰る方法とかもね。・・・私はきっと、帰れないかもしれないけれど。 マコト、あなたは帰れると思う。・・・後悔がないようにね」
「はい。」
「二人の貴重な時間を使ってくれてありがとう。光栄だわ。」

そう言うとアンナは悲しそうに微笑んだ。




帰り際、マコトはアンナに抱きつくと耳元で

「アンナさん。私、アンナさんが歌うFly Me to the Moonが1番好きです。聴けてよかった」

そう言うとアンナも抱き締め返して

「ありがとう。この歌はあなたの為に歌い続けるから」
「ふふ、ありがとうございます。」
「出立の日は内緒で行くんでしょ?こっそり見送りに来るからね、またその時に!」
「はい!ありがとうございます!」

またね、と手を振るマコトを見つめ、リヴァイは手を差し出すとマコトは駆け寄ってその手を握った。


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