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マコトの馬
エオス ♀ 毛色は黒鹿毛
ギリシャ神話に出てくる暁の女神。
正式はエーオース。
古代ギリシャ語で「暁」という意味がある。
リヴァイの馬
オルフェウス ♂ 毛色は青毛
ギリシャ神話に出てくる吟遊詩人。
竪琴の技はアポローンより伝授されたともいう。その技は非常に巧みで、彼が竪琴を弾くと、森の動物たちばかりでなく木々や岩までもが彼の周りに集まって耳を傾けたと言われる。
事態は収束し、住民も駐屯兵の誘導で各自の家に戻る。
エルヴィンは、それを壁の上から眺めているとワイヤーの音が聞こえ振り向く。リヴァイとマコトだ。
「作戦成功、だな」
「ああ。ご苦労だった。我々もトロスト区に戻るぞ」
「了解だ。・・・と言いたい所だがエルヴィン、俺とマコトは少し寄り道をする」
何だ?とエルヴィンは首を傾げると
「中央憲兵の対人制圧部隊に・・・地下都市に住んでいた頃の知り合いに会った。そいつを探し出す。・・・聞きたいこともあるしな。」
リヴァイの表情を察してかエルヴィンは頷くと
「分かった。我々は先にトロスト区へ帰還する。道中気をつけろ」
「ああ」
「ありがとうございます。」
マコトも頭を下げるとリヴァイとリフトに降りる。
あれからマコトの愛馬も連れてきて貰っており駆け寄ると優しく鼻を撫でる。すると、ぺろぺろとマコトの手を舐めながら擦り寄ってきた。
「よーしよしエオス、久しぶりだね。いい子にしてたね〜」
リヴァイも愛馬であるオルフェウスの頬を撫でると手綱を引いてこちらにやってきた。
「行くぞ」
「はい。えっと・・・教会付近まで行くんですよね」
「ああ。仕留め損なったが、あの傷だ・・・遠くへは行けん」
マコトと合流する前に戦ったケニー・・・ブレードで脇腹を切ったらしいが致命傷ではなかったらしくあの崩落でも助かっているか分からないがリヴァイは聞きたいことがあったのでケニーを探し出す事にした。
あの時は夜だったので分からなかったが、ロッド・レイス巨人により出来た穴はとてつもない大きさだった。
硬質化した物質の空間は、夕日に反射してキラキラとしている。
調査兵団の一部がこの教会にやって来て、その硬質化した成分を調査しているらしく数人とすれ違った。
「どこ行ったんでしょう・・・」
マコトがぽつりとつぶやくと、リヴァイはふと足元を見た。
そこには血痕があり、ぽたぽたと草に張り付いて続いている。
「マコト、馬を繋ぐぞ。ここからは歩きだ」
「? はい」
マコトとリヴァイは木にエオスとオルフェウスを繋ぐと銃を背負いリヴァイの背中を追いかけた。
リヴァイは血痕を辿りながら、ケニーとの出会いを思い出していた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
あれは27年前・・・母さんが病気になり死んだ日の事だ。
空腹や栄養失調で部屋の隅で座っていると1人の血だらけのコートを着た男が入ってきて母さんを見るなり
「おいおいおい・・・随分と痩せちまったなぁ、クシェル」
そう母さんの名前を呼ぶ男。
思わず俺は僅かな声を振り絞って
「死んでる」
そう言うと男は俺を見て
「お前は?生きてる方か?・・・名前は?」
「・・・リヴァイ、ただのリヴァイ」
そう言うと男は壁に凭れてると
「そうか、クシェル。そりゃ確かに・・・名乗る価値もねぇよな」
そのままズルズルと床に座り、俺とは向かい合わせの形になると
「俺はケニー。ただのケニーだ。よろしくな」
ケニーは、俺の母さんと知り合いだと名乗った。
ナイフの握り方、ご近所付き合い、挨拶の仕方・・・
地下街の生き残る術をケニーから教わった。
「いいか!分かったかこの豚野郎!」
男を殴りつけ踏み潰し、ナイフを首に当てる。
ケニーはそれを見ると、背中を向けてどこかへ向かってしまった。
それがあいつとの最後だった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「(ケニー・アッカーマン・・・アイツは俺の何だ?母さんと、どんな関係だった?)」
ただそれが知りたい。
ケニーとの出会いを思い出しながら、しばらく歩くと、リヴァイが立ち止まった。
マコトはその横から顔を出してその先を見ると、ケニーが木に凭れてぐったりとしているのが見えた。
その顔は半分焼け爛れており、もう助からない瀕死のレベルの負傷だった。
その中でギリギリで生きていたケニーはリヴァイを見上げると
「よぉ、リヴァイ・・・嬢ちゃんも一緒か」
「・・・大火傷にその出血、アンタはもう助からねぇな」
「いいや、どうかな?」
そう言って出してきたのは長細い箱で中には注射器が入っていた。
「ロッドの鞄から・・・1つくすねておいたやつだ。どうもこいつを打って、巨人になるらしいな。アホな巨人にはなっちまうが・・・ひとまずは延命できる、はずだ」
「それを打つ体力も時間も今よりかあったはずだ。何故やらなかった?」
「ああ、なんだろうな・・・ちゃんとお注射打たねぇと、アイツみたいな出来損ないになっちまいそうだしな」
「あんたが座して死を待つ訳がねぇよ。・・・もっとマシな言い訳は無かったのか?」
「ああ、俺は死にたかねぇし、力が欲しかった。でも、そっか・・・今ならヤツのやった事、分かる気がする」
「・・・はぁ?」
意味がわからない、とリヴァイは眉を寄せるとケニーは笑い始めると
「俺が見てきたヤツら、みんなそうだった。酒だったり、女だったり、神様だったりする。一族、王様、夢、子供、力・・・みんな何かに酔っ払ってねぇとやってられなかったんだな。みんな・・・何かの奴隷だった。アイツでさえも。」
ケニーは咳き込み、口から血を吐き出す。
いよいよ、長くはないだろう。
ケニーはリヴァイを見ると
「お・・・お前は何だ?英雄か?」
するとリヴァイはケニーの肩を掴むと
「ケニー!知っている事を全て話せ!初代王は何故人類の存続を望まない?」
「知らねぇよ・・・だが、俺らアッカーマンが対立した理由は、それだ」
カハッと咳き込むと、その血はリヴァイの頬に掛かる。
アッカーマン・・・マコトはその言葉を聞いて目を見開いた。
ミカサと同じ苗字、しかしマコトは黙ってリヴァイの背中を見続けると
「・・・俺の姓も、アッカーマンらしいな。あんた、本当は母さんの何だ?」
「ハハッ、馬鹿が。・・・ただの兄貴だ」
そう聞くとリヴァイは俯くと
「あの時、なんで俺の前から去っていった?」
「俺は・・・人の親には、なれねぇよ。・・・なあ、嬢ちゃん」
突然振られてマコトは驚くと、小銃を地面に置きリヴァイの横に座った。
「・・・ケニーさん」
「はっ、あんだけ殺し合ってさん&tけたぁ・・・律儀なやつだ。リヴァイ、お前ひょっとしてマザコンだろ・・・クシェルの髪の色に、そっくりだ」
クシェル・・・リヴァイの母親だろうか。
そしてケニーはマコトを見ると
「嬢ちゃんの名前は?」
「マコトです」
「マコトか・・・マコト、ウチのリヴァイを・・・頼んだぜ。」
その顔は殺人鬼ではなく、穏やかな顔だった。
マコトは俯き、ゴシゴシと袖で涙を拭うと
「ケニーさんも、リヴァイさんに生きる術を教えてくださってありがとうございます。お陰で、私はこの人の隣を歩けてます。」
「いい子に逢えたじゃねぇか。リヴァイよ」
「・・・ああ。俺にはもったいねぇ女だ」
「はっ、惚気んなよ」
そう言うとケニーは最後の力を振り絞り、注射器の箱をリヴァイの胸にドンッと押し当てた。
リヴァイはそれを受け取り顔を上げ目を見開いた。
「・・・ケニー」
これが最後の力だったのだろう。ケニーはそのまま動かなかった。
***
ケニーの遺体は、そのまま通常なら兵団組織に回収されるのだがおそらく今手渡した所でまともな処分は受けないだろう。
「リヴァイさーん、スコップ借りてきました!」
「ああ、助かる」
ケニーを一旦退かし、その場所に穴を掘る事にした。
しかし190cmのケニーサイズの穴を掘るのはなかなか至難の技だが・・・
「・・・おいマコト、なんでお前そんなに早いんだ。」
「訓練で穴掘りしまくったので!」
掩体構築といい、監視、観測任務、人員、装備等の防護用の施設。各人が出来なければならない必須の技能だ。
訓練の座学で穴の形状や大きさなどを習い、1人で入れるサイズの穴を掘る訓練や何組かで行う訓練もある。
レンジャー経験のあるマコトも訓練時はひたすら富士山の麓まで連れていかれ穴を掘っては埋めての繰りかえしの訓練に明け暮れていた。
リヴァイの倍のスピードでマコトは身長ほどの穴を掘ると
「私こっちから攻めてくので、リヴァイさんは土を外に出してください!」
「分かった。」
一緒に穴に入り無心でサクサクと土を外に出す。
「・・・で、これどんくらい掘ればいいんだよ」
「今はリヴァイさんほどの背丈だから・・・あと20cmほどは」
「なにか意味があるのか?」
そうなると180cmほどまで掘ることになるだろう。
汗を拭きながらマコトはリヴァイを見ると
「なんか・・・昔見た映画で6フィート・・・183cm下に埋めると・・・」
「えいが?」
「んんと、舞台みたいな感じ。Six Feet Underという言葉があります。」
マコトは穴を掘りながらそう言った。
聞きなれない言葉にリヴァイは首を傾げると、
「なんて意味だ?」
「表現で言うと、遠回しに死ぬ時≠指しています。 例で言うと「彼はもう6フィート下にいるよ」と伝えれば埋葬さている、即ちもう亡くなっていると捉えられる。・・・あ、私の所では火葬だよ!土葬をするところは、そんな感じらしいの。」
映画知識だけどね!と、マコトは笑うとリヴァイはなるほど、とスコップを地面に刺すと
「お前は物知りだな。」
「いやいや、ただの映画知識だよ。映画は色々勉強になるからね。」
するとリヴァイはマコトの頬についた土を払ってやると、軽くキスをした。
「マコト・・・ありがとな」
ケニーとは全然接点がなかったはずなのに、そんなことも考えてここまで穴を掘ってくれた。
・・・自分一人だったら朝まで掛かっていたかもしれない。
「いえ・・・リヴァイさんのおじ様なんだから。これくらい当然だよ。」
マコトはそう微笑むと汗を拭いセーターの袖を捲り直すとスコップを構えて
「ほらほらリヴァイさん!夜になったら見えなくなるから!」
「ああ、あと少しだな」
そう言うとリヴァイも穴堀を再開させた。
*
長身のケニーを下まで運び込むのは至難の技だったが、なんとか6フィート下まで下ろすこと事が出来た。
布で身体を覆い、リヴァイはそれを見つめていると
「よいしょっと・・・」
マコトは花を片手に穴に降りてきた。
それを布の上に置くとよし、と満足そうだ。
「この花は?」
「白い花が無かったから・・・森の中うろうろ探してたらシロツメクサがあったので。」
白い小さな花がふわふわと揺れる。
リヴァイは上を見ると
「・・・そろそろ土をかぶせるか」
「はい。」
先にリヴァイが出て、マコトを引っ張りあげる。
外に出て空を見上げると、もう少しで日が落ちそうだ。黙々と掘ってきた穴に土をかぶせ、最後にマコトがシロツメクサや他の白い花で作ったリースを木に立てかけた。
「・・・お前器用だな」
「小さい頃よく作ってたので曖昧だったけど・・・何とか出来て良かったよ。」
「礼を言っても足りんな。」
お互い土だらけの手で繋ぎ、ぎゅっと力を込めるとマコトも握り返す。
「・・・行くか」
「はい」
そのまま手を繋いでリヴァイとマコトは待たせている愛馬のエオスとオルフェウスの元へ向かった。
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