76:最初で最後の

「撃てェ!」

カルステンの振り下ろした号令と共に、オルブド区にあるありったけの固定砲が火を噴く。

身体の臓器や脳が揺れそうなほどの爆音が連続で響き、マコトは耳を塞いだ。

「さあ、どうだ・・・?」

エルヴィン達はそれを見守る。
マコト望遠鏡を覗くと、ロッド・レイス巨人は穴は空いているものの・・・速度を緩めない。

「穴は空いてますけど・・・効果はないみたいです」

覗きながらマコトはエルヴィンに伝えると下の地上からも

「う、撃てェ!」

その掛け声で砲撃が飛んでいくが

「地上の大砲の方が更に効果が薄いようだ。」
「当たり前だ・・・壁上からの射角にしたって大してうなじに当たってねぇじゃねぇか。どうなってる?」

そして、このオルブド区は巨人に対する戦闘経験があまにも無さすぎる。

しかし、今の最高戦力をかき集めた。

「まあ、何せ今回も俺ら調査兵団の作戦は博打に近い。あれしか方法がないから仕方ないが・・・」

するとハンジが台車を引きながら

「エルヴィン!持ってきたよ!ありったけの火薬とロープとネット。まだ組み立てなきゃだけど」

そしてモブリットが押してきたの火薬入りの樽と台車、そして立体機動を合体させて改造させたものだった。


1回撃てば引き金が固定されて立体機動装置と同様巻取り始める仕組みになっている。

「で・・・砲撃はどうなの?」
「セミの小便よか効いてるみたいだ」
「じゃあ・・・本当にコレ使うの?」

エルヴィンは頷くと作業に取り掛かり、マコトとリヴァイ、ジャンとサシャとコニーは別の場所の作業に取り掛かった。


「マコト、ジャン。お前らは樽いっぱいに水を汲んでこい」
「水・・・?」

ジャンは首を傾げると、マコトは

「ロッド・レイス巨人は熱を持ってる。煙だけでも火の中に居るようなもんだかられ水を被って私たちが燃えにくくするの」

さくっと簡単に説明し、ジャンは納得するとリヴァイもそうだと頷く。

「時間が無い、急げ」
「了解!」

そう言うと台車に樽を乗せて持つとジャンとリフトで地上へと降りていった。







「作戦・・・上手く行きますかね・・・」
「どうだろう・・・」


井戸から水を汲み上げて樽に流し込んでいく。

「怖い?」
「正直言うと・・・」
「はは、だよね。巨人がひょっこり顔を上げるとは考えられないし・・・その時はエレンの出番だけどね。」


ネットの中に火薬をまとめた大量の樽を巨人化したエレンが担ぎ、顔を見せたロッド・レイス巨人の口の中に放り込む。・・・という作戦だが確率は分からない。


「作戦で言うのは簡単だけど、大分難易度は高いよね。まあでも・・・調査兵団は毎度こんな感じに賭け事しかしてないから。今回も賭けだよ。」
「はは、ですね。・・・ねえ、マコトさん」
「ん?」

顔を上げるとジャンが気まずそうに

「あの時は、ありがとうございます。」
「あの時?」
「ストヘス区で・・・マコトさんが発破掛けてくれなかったら俺…素直に憲兵に出頭して、最悪殺されてたかも、って」

そう言うとマコトは微笑む。


若者にはとても辛い経験だったが、それでも耐えて自身を保ち続けている。

「ジャンこそ、よくあの後精神保てたね。 強いよ」
「そんな、俺は強くなんか・・・マコトさんの方がよっぽど・・・」
「鍛え方が違うからね!って言いたいところだけど・・・いやあー!もうしんどかったね!」
「えぇ?!は、はい!そりゃそうですよ!」

マコトは井戸の縁を掴むと井戸に向かって

「はやく兵舎に帰りたーい!お風呂入りたーい!地べたで寝るのはもう勘弁だあああ!」

思い切って本音を井戸の中に向かって叫ぶと、中で反響する。
それを聞いたジャンもハハッ!と笑うと、ジャンも井戸の縁を掴み

「ほんっと!勘弁しろよおぉ!」
「そうだそうだー!」
「エレンのバアアァーーーカ!」
「やーい!泣き虫エレン!!」

途中から悪口になったが、2人でひとしきり井戸の中へ叫ぶと顔を見合わせて笑う。

「・・・あ、ジャン。これ終わったら実家に顔出してあげな?」
「え・・・?」
「調査兵団がお尋ね者になったんだ。お母さん心配してるし・・・こういうのはご近所問題とかもあるから、お母さん苦労してると思う。」

そう言うとジャンは母親を思い出したのか唇を噛むと

「はい!ありがとうございます!」
「うんうん。ついでに、オムオム作ってもらいなよ」
「ちょっ、オムオムはやめてください!!」

顔を真っ赤にするジャンを見てマコトは腹を抱えて笑うと、

「ほらほら!急がないと、リヴァイ兵長にクソでも長引いてたかって嫌味言われるよ!」

マコトはジャンの背中をバシッと叩くと、樽をジャンと押して壁上へと戻った。












ロッド・レイス巨人はもう目と鼻の先だ。マコトは急いでリヴァイの隣へ行くと

「ギリギリまで近づいて固定砲で項を狙うしか無いんでしょうか?」
「・・・最悪な。」

装填をしようと駐屯兵が動いた瞬間・・・風向きが変わりこちらに向かって熱風が変わった。

「熱ッ!」
「リヴァイ兵長、風向きが」
「ああ。クソっ・・・まずいな」
「隊長!何も見えません!」
「すぐ下だ!撃てー!」

直ぐに砲撃されるが、煙とともにロッド・レイス巨人の手が縁を掴み、立ち上がった。


ロッド・レイス巨人は立ち上がると物凄い大きさで、ざっと120mほどの高さはあった。顔は断面図のように口の中も丸見えだ。
しかし顔だけではなく臓器も丸見えのため、飛び出した臓器が壁にだらりと津波のようになだれ込んでくる。

あまりにも規格外な大きさのため、マコトは呆気に取られていると隣でそれを見ていたリヴァイはハッと笑うと


「おいマコト、お前の訓練生時代のおかけだな!アホみてぇに口開いてやがる!」
「や、やった!!」
「お前ら!水をかぶれ!!」
「はいっ!」

リヴァイはバケツですくうと自身に掛け、マコト達も水を被る。

下の街では突然現れた巨人を見てパニックを起こし、もう自分が育った街はおしまいだ・・・と呆気に取られていたカルステンの肩に手を置くと

「下がってろ駐屯兵団。あとは俺たちが引き受ける。サシャ!アレの準備だ!」
「はい!」

それと同時にエレンが手を噛むと巨人化し、樽を肩にかけると待機した。

「今だ!撃て!」

エルヴィンの放つ赤色の信煙弾の指示で、先程立体機動装置を改造した火薬入りの樽をサシャと向こう側にいるアルミンが構えると壁の縁を掴んだ巨人の手に向かって撃ち込んだ。

ロッド・レイス巨人が体勢を崩したのを見ると、エルヴィンは

「エレン!!」

その叫びと同時に巨人化したエレンは全力で壁上を走り、その樽をロッド・レイス巨人の中に放り込む。

「伏せろ!」

マコトとリヴァイ達は爆発する瞬間、背中を向け耳を塞ぎ目を閉じて口は少し開ける。
こうすることで爆風から口から鼻へ抜けるように鼓膜を守る役割がある。

その後すぐに大きな爆発が起こり、飛ばされそうになるがなんとか持ちこたえ顔を上げると、肉片が街に向かって隕石のように飛んでいく。

「総員!立体機動でトドメをさせ!」
「行くぞ!」

リヴァイの掛け声で全員壁から飛び降りるとアンカーを出して切り刻む。

弱点は縦1m、横10cm
本体を破壊しない限り、再生をし続けしかも本体が街の中に入ってしまえば危険だ。

この沢山の肉片でもそのサイズを探せば容易だが、その落ちる速度は凄まじく速い。

マコト達はアンカーを肉片に引っ掛けるとそのまま引き寄せて切っていく。



リヴァイも本体を見つけれず手応えが違うと舌打ちをする。リヴァイはこちらを見て「見つけたか?」とアイコンタクトをしてきたので首を振るとこのままじゃまずいなと歯を食いしばる。


するとヒストリアがある塊に向かって飛んでいくのが見えた。

「お父さん! これが・・・最初で最後の、親子喧嘩だね!」

そう叫ぶと、スナップブレードで肉片を一刀両断した。



斬られた肉片を見てマコトは確信した。
恐らく、ヒストリア自身が決着をつけた。

マコトは空中で身体を捻らせるとリヴァイを見つけ

「リヴァイ兵長!」
「やったのか!」
「はい!」

そのままヒストリアは落ちていき、荷台がクッションになってくれたお陰で無事だった。
マコト達も近くの建物にアンカーを刺し込むとスピードを緩めて着地する。

ヒストリアは無事だろうか・・・と落下地点へ急いで行くと荷台上に立ったヒストリアが住民と憲兵団を見渡すと


「私は・・・私は、ヒストリア・レイス。この壁の、真の王です。」

戸惑いながらもリヴァイから言われた女王の座、その目にはもう迷いはなかった。

[ 78/106 ]
*前目次次#
しおりを挟む
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -