73:硬質化

フリーダ・レイス
彼女は表向きは地方の貴族であった。
そして、壁内の真の王家の長女として生まれた。

叔父のウーリ・レイスから代々レイス家の血族に受け継がれてきた特別な巨人化能力を引き継ぎ、以降はウォール・マリア陥落まで壁内の真の王として中央上層部から崇められていた。

他にも弟や妹がおり、そして妾の娘がヒストリア・・・即ち、フリーダとヒストリアは異母姉妹になる。

彼女は心優しい女性で度々領地内に赴いては領民を労わっており、領民は皆口を揃えてフリーダは領地の自慢だと言っていたそうだ。

その中でも、出生故に周囲から疎まれていたヒストリアを特に気にかけており、度々何度も牧場へ会いに行っていたがその度にフリーダは自身の能力を使って自分と会った記憶を忘れさせていた。



845年、突如現れたグリシャ・イェーガーによる始祖奪還計画が始まりグリシャと交戦するも敗北しグリシャに食べられてしまう。

そしてそのグリシャも次の継承者として息子のエレンに巨人化の注射を打たせると、この身をエレンに食べさせエレンはグリシャの持つ巨人の能力とフリーダの持つ「始祖の巨人」の能力を継承した。


ヒストリアはフリーダとの思い出が断片的に記憶が戻ると、マコトを見た時の懐かしさはフリーダを重ねていたのかと気づいた。




「マコトさん!マコトさんおきて!」

ガクガクと揺さぶられる。

「(ヒストリア・・・?)」
「もおぉー!起きろおおぉ!!」



ゴンッ!



「ぐっ、おおぉぉ・・・!」

突然額に頭突きをされ痛みが走り、マコトは目を開いた。

視界いっぱいにヒストリアが飛び込んできて猿轡を外されるとカランッと地面に落ちた。

やっと喋れる、とマコトが開いた一言目は・・・

「うぅ・・・ヒストリア、痛いよ・・・」
「もう!起きないからですよ!ここは危険です!逃げますよ!」

ヒストリアは鍵を使ってマコトの手錠と足枷を外しにかかるが鍵がどれだか分からないらしくイラついている。

マコトはそれを見ると

「ヒストリア、鍵穴をよく見て!とりあえず足だけでいいから!」
「は、はい!」


するとガチャン!と足枷が外れてマコトは自由になると、ヒストリアは注射器の入っていた黒革の鞄を掴みマコトと階段を駆け上がりエレンの所へ向かった。

しかしエレンは先程と違って無様に泣きじゃくり額から血を流しているのでマコトは何が起こった・・・とついていけない状況だ。

「ヒストリア?!お前何やってるんだよ!」
「エレン!逃げるよ!」
「お前が俺を食わねぇとダメなんだよ!お前は選ばれた血統なんだぞ!?俺は違う!俺は何も特別じゃない!!オレがこのまま生きてたら皆が困るんだ!早く俺を食ってくれ!!もう辛いんだよ、生きてたって!!」
「うるさいバカ!泣き虫!黙れ!!」

ヒストリアはエレンの頭をゴツン!と殴ると

「巨人を駆逐するって?!誰がそんな面倒なことやるもんか!!むしろ人類なんか嫌いだ!!巨人に滅ぼされたらいい!!つまり私は人類の敵!わかる!?最低最悪の超悪い子!エレンをここから逃がす!そんで・・・全部ぶっ壊してやる!!」

マコトは驚いたが拘束されている腕をエレンに回すとグッと首を締め上げた。

「ぐえっ!マコトさん!?」
「おいエレン!ビービー泣いてんじゃないよ!!情けないね!後で逃げ切ったら、私の十八番の技食らわせてやるからな!どうせ骨折れたって治るんでしょ?!いいよね?!」
「マコトさん・・・」
「ヒストリア!エレンを引きずってでも逃げ切るよ!」
「はい!」

ヒストリアはエレンの手錠の鍵をあれでもないこれでもないと挿しつづけるがふとマコトはロッドを見ると、身体を引きずりながら蒸発している注射器へと手を伸ばしていた。

まさか、と思った瞬間ロッドは地面に落ちた液体を舌で舐めとった瞬間

「ヒストリア、エレン!まず・・・」

言い切る前に、ドンッ!と爆発音と共に骨だけの巨人が現れ、その後物凄い衝撃と熱風が襲った。

ロッドが巨人化したと分かるとエレンは

「レイス家が巨人になったんなら・・・俺がこのまま食われちまえばいい!もういいヒストリア、マコトさん逃げろ!」
「嫌だ!」
「駄目だ!」
「だから何で!?」
「私は人類の敵だけど、エレンの味方。いい子にもなれないし神様にもなりたくない。でも、自分なんか要らないなんて言って、泣いてる人がいたら・・・そんなことないよって、伝えに行きたい。それが誰だって!どこに居たって!私が必ず助けに行く!」

そう言うと、足を固定している鍵が外れた。

その瞬間ヒストリアが巨人化の熱風で飛ばされ、手を伸ばしたマコトも一緒に熱風に飛ばされる。

このまま壁に叩きつけられる・・・そう思い衝撃に耐えようと目を強く閉じると、誰かが抱きとめてくれた。

ヒストリア?いやこの腕は・・・

目を開くと、そこはリヴァイが居た。



「え、リヴァイさん・・・?」
「よぉ、マコト。随分と帰りがおせぇからクソでも詰まってると思ってな。・・・迎えに来たぞ」

そう言うと口元だけ笑みを浮かべマコトを見つめると、ボロボロと涙が溢れ拘束された腕を上げるとリヴァイに抱きついた。

「うぅ・・・リヴァイさ・・・リヴァイさんっ!」
「いい子で捕まってろよ。・・・おい!鍵を寄越せ!」
「はい!」

ミカサから鍵を受け取るとコニーとジャンで別れて鍵を探すが

「くっそー!どの鍵だこれ!?」
「急げコニー」
「いいか半裸野郎?!?巨人だけじゃねえぞ!?鉄砲持った敵も飛んできてんだ!!」
「イヤ・・・その前に、天井が崩落する」
「っ外れました!」

そう言うとジャンとコニーはエレンの腕を掴み、リヴァイはマコトを抱えるとその場を離れるとエレンのいた場所に瓦礫が落ちてきた。

あと数秒遅かったら全員下敷きになっていたかもしれない・・・とマコトはリヴァイに抱きつく腕を強めると、リヴァイもマコトの腰に腕を回して引き寄せた。


リヴァイは目を細めると

「何だこのクソみたいな状況は・・・超大型巨人ってのよりデケェようだが」

骨組みだった巨人には肉付けが進み、りどんどん大きくなっていく。

このままだと全員死ぬ。しかし、逃げ道がない・・・

八方塞がりになり、エレンは涙を流すと

「ごめん、みんな・・・オレは役立たずだったんだ・・・そもそも、ずっと最初から。人類の希望なんじゃなかった・・・」

そう聞くと全員は「はぁ?」という顔をすると

「何だ?悲劇の英雄気分か?てめぇ1回だって自分の力で何ひとつ何とか出来たことあったかよ?」
「弱気だな、初めてってわけじゃねぇだろこんなの。」
「別に慣れたかぁねぇんですけどね!」

ジャンとコニーとサシャが散々文句を言いエレンは驚いた。
マコトはエレンを見ると

「アンタらが訓練兵の頃やった行軍で、脱落しそうになったアルミンを皆で助けたでしょ?私はあの教育で極限にヤバくなった状態ほど必要な、団結力の必要性をアンタらに教えたかった。 今回も・・・誰も脱落になんかさせないよ!」
「マコトさん・・・」

しかし、この状況で立体機動を使って飛ぶのは危険だ。あの熱は、これ以上近づくと焼け死ぬほどの温度まで上がっている。

「ダメだ・・・もう逃げ場はない・・・」
「じゃあ、このまま何もせずに仲良く潰れるか焼け死ぬのを待つの?・・・私たちが、人類の敵だから?」


そうヒストリアが聞くと、リヴァイは

「毎度お前ばかり・・・すまなく思うが。 好きな方を選べ」

すると、エレンは転がり落ちている瓶を拾うと叫びながら熱風に向かって駆け出し、瓶を口で噛み砕いた。


その瞬間ビキビキと音を立ててエレンは硬質化し、全員を天井の崩落から守った。





硬質化の会得。それは即ち、同時にウォール・マリア奪還の希望の光が見えたという事だ。

それをリヴァイは見上げながらマコトにしか聞こえない声量でぽつりと喋った。

「・・・出来たな」
「うん、これで・・・壁が塞げて、壁の安全が分かれば」
「お前は帰れる。」

マコトはその硬質化したエレンを見上げ、リヴァイへ視線を戻すとリヴァイもこちらを見つめていた。



止まっていた別れのカウントダウンがついに動き出してしまった。

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