72:ユミルとアダム・エヴァンス

道中ハンジはエレンを食わせる事についてを説明した。
巨人の力はどうやら継承式で、ヒストリアを巨人化させてエレンの能力を奪うつもりだとハンジはこう考察した。


「・・・マコトの救世主の力がどう働くのかは分からないけど」

そうなると、もう夜明けまでに行かなければエレンは食われ、もしかしたらマコトも食われるかもしれない。

しかしお目当てのケニーが中央憲兵の根城に居なかったという事は、恐らく礼拝堂に居るはず。
・・・そうなるとまた戦わなければならない。


「切り裂きケニー、奴がいればそれが一番の障害になる。・・・脅威の度合いで言えば・・・敵に俺が居ると思え。あの武器がある分、俺よりも厄介だ。」
「じゃあ無理ですよ、私達じゃ・・・」
「兵団と合流待つってのは」
「絶対ダメ」

コニーのその言葉をミカサが即却下した。

「・・・しかし、一緒に暮らしていてそれしか切り裂きケニーの情報が無いってどういう事だよリヴァイ?」
「悪いな・・・奴のフルネームを知ったのも、昨日が初めてだ。ケニー・「アッカーマン」って名前らしいが・・・お前の親戚だったりしてな」

リヴァイはミカサを見る。

「生前の両親の話では・・・父の姓アッカーマン家は都市部で迫害を受けていたと聞きました。東洋人である母の一族は、人種の違いからか街に居場所を失いお互い壁の端の山奥に追い詰められたもの同士が出会って夫婦となったのです。」

しかし、なぜアッカーマン家が迫害を受けていたかは父親にも分からなかったそうだ。

「お前・・・ある時突然力に目覚めたような感覚を経験した事があるか?」
「・・・あります」
「ケニー・アッカーマンにも、その瞬間があったそうだ。ある時・・・突然バカみてぇな力が身体中から湧いてきて・・・何をどうすればいいか分かるんだ。その瞬間が、俺にもあった」







「ん・・・」

マコトは意識が戻るとそこは結晶のような硬い石でおおわれた鍾乳洞のような場所にいた。

手錠と足枷・・・猿轡をされており喋ることが出来ない。
幸い怪我もなく服も乱れていないが全身のだるさで鉛のように重たく、起き上がるのも困難だ。

そして身体を捻らせると、今まさにロッド・レイスがヒストリアになにか注射をさせるところだった。





***




一方

礼拝堂に到着したリヴァイ達。
外をマルロとヒッチに監視させ、中に潜入すると至って普通の礼拝堂だった。

リヴァイはランプを持って歩いているとカツン、と何かが足にあたって下を見た。

「・・・これは」

拾い上げると、そこにはカーネリアンの石がはめられたネックレス。

これはマコトへ自分の気持ちを告白をした時にリヴァイがマコトに渡した自分のお守りだ。

「リヴァイ、それって・・・」
「マコト・・・どこだ」

ネックレスを見つめているとアルミンはそれを見て

「リヴァイ兵長、そのネックレス・・・千切れてはいないので意図的に外したものかと・・・」
「ん・・・?」

確かに、千切れたなら留め具がどこかに落ちているはずだ。それを見たミカサとサシャは

「それ、マコトさんの・・・」
「やっぱり!それ、マコトさんの!大切なものだって昔話してました!」
「外したところ・・・見た事ないのに」

そう聞くとリヴァイはグッと握りしめる。
ハンジは立ち上がると

「という事は・・・この礼拝堂のどこかに隠し部屋があるって事だよ。マコトは連れてかれる直前ここにネックレスを落として私達にメッセージを残したんだ」

くまなく探すんだ!と指示をすると全員が長椅子を見たり壁を調べる。
アルミンは周囲を見渡して観察しながら思考を巡らせるとふと教壇が目に付いた。

「まさか・・・」

そう言って教壇下のカーペットが気になりめくると、扉のような縁を発見した。

アルミンは手を挙げて振り向くと

「あ・・・ありました!」

そう叫ぶとハンジとリヴァイが駆け寄りジャンとコニーが教壇を退かす。
・・・静かに開けると、そこは階段があり地下に繋がっていた。


途中かき集めた火薬や立体機動のガス管で武器を作り、準備は完了だ。

リヴァイは全員を見ると

「それでお前ら・・・手を汚す覚悟の方はどうだ?」

その表情を見てリヴァイは頷くと

「・・・良さそうだな。」

地下へ駆け下りリヴァイを先頭にドアを蹴破ると、サシャは火矢を構え、ガス管をつけた樽を複数転がす。


その火矢は樽に的中し大爆発が起きた。




***




爆発音が聞こえてきて、マコトは首を動かした。

「敵が近づきつつあるようだ・・・急ごうヒストリア」
「うん・・・」
「んんん!んんん!」

マコトは目を凝らすと、上の方でエレンが鎖で拘束されて同じく猿轡をされている。

何が起ころうとしているのか・・・マコトはロッドを見上げるとこちらを見ている。

「ねえ、どうしてマコトさんを?」
「彼女は救世主の末裔・・・の生まれ変わりだ。壁に危険が及ぶと現れる、壁内に災いが起きた時人々を救い救世主と呼ばれた・・・と言うのが表面上だがそれは違う。」

ロッドは冷徹にマコトを見下ろす。

その瞬間、マコトは突然頭痛が起きて汗が出るほど苦しみ始めた。

「マコトさん?!」
「うっ・・・ぐっ・・・」


割れそうなほどのあまりの痛さに目を閉じると、サラではない別の誰かの記憶が映像として流れてきた。


ユミル


誰かの声と共に出て来たのは1人の少女と1人の赤毛の少年だった。



奴隷だったアダム・エヴァンスは同じ奴隷のユミルに恋心を抱いていた。ある日、奴隷にされていた彼女を救いたいという想いに蛇の形をした悪魔が地面を這ってアダムに近づいてきた。

連れてこられたのは丘の上にある赤く熟れた林檎の木。蛇は木に巻き付きながらアダムを見ると


この果実を食べればあの子を救える。あの子を救いたいだろう?


その囁き声にアダムは迷わず悪魔と契約をするとその果実を齧り、知恵や力を手に入れると手首が焼けるように痛くなった。

手首を見ると契約の印として皮膚に焼印のような痕がついた。


しかしユミルを守るために得た力は、ユミル同様戦争に利用され、アダムは壁を守る救世主という肩書きを押し付けられ英雄として崇められた。




ユミルはその後戦争の功績の報酬としてフリッツ王と結婚し子供を儲けた。
自分の方がユミルを愛しているのに、結ばれなかった事が悔しかったがどんな立場でもユミルの傍に居られるのなら・・・と我慢できた。


その後、謀反を起こした兵士が槍を投げユミルはフリッツ王を庇い死亡した。

ユミルの遺体は切り刻まれフリッツ王との間に出来た3人娘マリア、ローゼ、シーナに食べさせた。 最期まで、ユミルは安らかな死を迎えることが叶わなかったためアダムは悲しみ絶望した。

アダムは最後までユミルを奴隷と罵ったフリッツ王を深く憎んだ。しかし、愛していたユミルの娘達をせめて守りたい・・・娘たちに罪はない、と壁に災いが起きた時いかなる方法でも助けに来るとフリッツ王に言い残しユミル死後、雲隠れをした。

その後アダム亡き後もエヴァンスの家系は子孫を作り続けていたが、845年・・・超大型巨人の襲撃で一族は全滅した。






マコトは頭痛と共にその一連の映像が流れたあと、力尽きたように気絶した。
さすがのヒストリアも駆け寄って抱き起こすが酷く汗をかいていて声を掛けても起き上がらない。


「まさか後世の人間を使ってまでこっちに来るとはな。相当ユミルに執着しているようだ。・・・しかし残念ながら力は完全ではない。 まあ完全でなくても、エヴァンスの力は強い。 君の力をヒストリアが取り入れればより強くなるだろう。」
「お父さん、力を取り入れるって・・・?」

ロッドはヒストリアを見つめると

「このマコトという女もエレンと一緒に食らうんだ」
「・・・え?」

ヒストリアは目を見開いた。







― 3年前の訓練兵時代
クリスタ・レンズことヒストリアは訓練兵団に入団した。
それから数ヶ月後、新しい対人格闘術の教官が入ると聞き全員が並ぶ中隙間からマコトの顔を見ていた。

黒い髪は当時肩ほどの長さに切りそろえられており、茶色の瞳はアーモンドのようにくりっとしている。

マコトはニコリと笑うと

「初めまして、ご紹介にあずかりましたマコト・マカべと申します。 死なない程度に皆さんを教育していいと聞きましたので、皆さん死ぬ気で食らいついてきてくださいね。」
「(あの人・・・どこかで・・・)」


マコトの格闘術は隙がなく特に初心者だったヒストリアはすぐに負けてしまい尻もちを着いてしまった。
ペナルティとして訓練場を10周し、体力も限界になり心が折れかけていた。

「(もう、私ここでやっていけないかも・・・)」
「クリスタ、手は大丈夫?」

すると目の前に水筒がぬっと現れ、顔を上げるとマコトは心配そうにこちらを見ていた。

「は、はい!大丈夫です!ありがとうございます!」

水筒を受け取ると

「よく走りきったね!」

頭をぽんぽん、と撫でられた。

「(あれ・・・)」

昔、誰かにも・・・とびきりの笑顔で頭を撫でてくれた人が居たような。


ヒストリアは、マコトを見てどこか懐かしく感じていたのだった。

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