71:偽夫婦

マコトとシャロンは偽物の夫婦を演じた。
昨今壁が破壊されたりなど不運な事が多いため、ユトピア区からここまで礼拝堂を巡り、祈りを捧げているウォール教ガチ勢夫婦という設定だ。

幌馬車の裏には小道具の荷物とマコトの服が積まれ、シャロンは手綱を操りマコトはその隣に座る。


「ここですね・・・」
「よし、いこう」

普段から礼拝堂は信者が出入り出来るように常に解放されているので、侵入するだけなら容易だ。

礼拝堂が閉じられるのは夜の19時・・・現在の時刻は午後の13時なのでまだ時間がある。
怪しまれないように、とマコトとシャロンは神具を身につけて礼拝堂に入った。

すると礼拝堂を管理しているウォール教の司祭がマコト達を見ると

「・・・おや、見ない顔ですね」
「初めまして。私たちはユトピア区から来たものでして・・・最近、良くない事ばかり起きているので、願掛けと言いますか。はは、教会を回って祈りを捧げているのです」

そう言うと司祭はおお・・・!と感涙するとシャロンとマコトの手を取ってぶんぶんと上下に振り回すと

「なんと素晴らしい・・・!長旅で疲れたでしょう!この教会には泊まれる部屋も用意してある。是非使いなさい!」
「・・・えぇ?!良いんですか?!」

シャロンは演技ではなく、素のリアクションをしてしまった。

この状況は願ったり叶ったりだ。


「いやあ、助かります。妻も、長旅で疲れていたので・・・!ほんとに助かります」
「司祭様、ありがとうございます」

マコトもお淑やかな妻を演じてドレスの裾を摘んで頭を下げたのだった。







「まさかこんなに上手く行くとはなぁ・・・」
「怖いくらいですね」


礼拝堂の右手の部屋から2階に上がると客室があった。夫婦設定のおかげか、部屋は同じになってしまいシャロンは苦笑いすると

「これ、リヴァイ兵長が知ったら僕は殺されるな」
「あはは・・・」

そんな事は無いですよとは否定できない。

「夜になったら、礼拝堂を調べますか」
「ですね・・・まだ司祭がいるので、祈るフリだけしましょう」

周りの様子を見て、見様見真似で祈りを捧げる。


司祭はそんな信者を見守り、今日ユトピア区からはるばるきた夫婦に近づいて立ち止まると目を見開いた。

・・・その視線は、マコトのうなじにある焼印に注がれている。



司祭は動揺を隠しながら執務室に行き何かを殴り書きすると慌ててどこかへ行った。






***





夕方・・・

テーブルに出された食事を見てマコトは驚いた。
目の前にはローストビーフ、サラダ、スープ、パン、ワインなど・・・食事が豪華なのだ。

「こ、こんなご馳走宜しいのでしょうか・・・?」
「ああ。はるばるユトピア区からいらしたんだ、もてなさせてくれ。」
「いただきます!」

肉なんて、ここに来て食べた事があっただろうか。
ローストビーフを口に入れれば柔らかくマコトの顔がふにゃりとなった。

「マコト、顔が緩んでるぞ」
「だってあなた、美味しいんですもの!お肉なんて久しぶりよ!」

優しい夫、お淑やかな妻とお互い頭の中で言い聞かせながら芝居を続ける。肉のせいで設定は崩れかけているが、何とか誤魔化す。

シャロンは注がれたワインの香りを嗅いだ瞬間、ピクッと反応した。

「(・・・?)」

眉を寄せて、違和感を探す。
シャロンは飲む振りをしてマコトを見ると微笑んで

「マコト、お酒をあまり飲みすぎちゃいけないよ。君は弱いんだから」
「え?はい。もちろんよ」
「いいかい、飲みすぎちゃだめだ」
「・・・?」

マコトはシャロンの目を見た。
何かを察知したのか?マコトも微笑むと

「そうね、明日からまた長旅ですもの」

そう言うと飲みかけたグラスをテーブルに置く。
すると一瞬だが司祭が眉を寄せ、部屋を出ていった。それを見送るとシャロンはタレ目を細め、

「(どこからだ、僕たちはどこからバレてた・・・)」

部屋内を調べようすると突然目の前が霞み始めた。

「ぐっ・・・マコトさん」
「シャロンさん? っ・・・」

異変に気づいたマコトも立ち上がった瞬間視界が霞み始め、ふらつく。このままだと、瞼を閉じてしまいそうだ。


ガタンッ!

シャロンはまだそこまで食事をとってなかった為軽傷だがマコトはがっつり食べてしまったそうだ。
全てに薬が盛られているのか。

「どこ、からか分からないけど・・・僕らはバレて、盛られたようだ・・・!」

マコトも何故だ?と思考を回すと、ニック司祭の救世主≠思い出した。

「(しまった・・・救世主か・・・)」

この司祭もまた・・・それを知っている人間だったのだ。
ふらつく足でシャロンは立ち上がり、マコトは渾身の大声でシャロンを見ると

「うっ・・・シャロンさん、あなたは逃げて!」
「な・・・」
「リヴァイ兵長には、こう伝えれば通じます!救世主≠セと。」

するとマコトは息切れをしながら床に倒れ込み、シャロンはマコトを抱えるが力が入らない。
そして先程の音で足音が複数聞こえてきた。

「シャロンさん・・・ここで2人捕まったら、意味が無い。私はまだ大丈夫だと思うけどあなたは真っ先に殺される・・・逃げて!リヴァイ兵長に、伝えて・・・!」
「・・・くっ、分かった!リヴァイ兵長を連れて、絶対、絶対、必ず!助けに来るから!」

そう言うとマコトは力なく笑う。
シャロンも渾身の力で立ち上がると窓ガラスを突き破って外に出る。ガラスで顔を切ったがそれどころでは無い。


草にゴロゴロと転がると起き上がり、ふらつく足で幌馬車へ向かうと朦朧とする意識の中馬車を走らせた。



一方マコトはシャロンを見送るとどこかへ連れていかれるのだろうと思った。エレンの所なら結果オーライだ、何か痕跡を残そうとネックレスを片手で外すと同時にドアがバン!と開かれた。


「くそ!1人逃げられた!」
「大丈夫だろう、薬が効いてるから途中で倒れるはずだ。後で捕まえて始末しよう。まずはこの女だ。・・・アッカーマン隊長!」

アッカーマン隊長?

朦朧とする意識の中でマコトは聞き覚えのある名前に反応した。
ブーツが床を踏みしめる音が聞こえ、横たわったマコトを誰かが足で仰向けにした。

すると、あの時酒場で会った帽子の男・・・ケニーだった。 帽子の男は「あぁ?」とマコトの顔を見てしゃがみこむと

「おめぇ、どっかで見た顔だと思ったら・・・リヴァイの女じゃねぇか。なんだ、あんなどチビやめてあの男にしたのか?可愛い顔してやることエグいなぁ 」
「ち、が・・・あなたは・・・リヴァイさんの、なに・・・」
「リヴァイさん≠ゥ・・・ハッ!だいぶ親密みたいだ。アイツと上手くいってんのか?」

そんな世間話をしながらケニーは確認のためにマコトの首を動かしてうなじを見ると

「救世主なんざ都市伝説か思ったが。こりゃマジだ」
「隊長、どうなさいますか」
「・・・あの場所に連れてけ」
「了解」

ぐったりとしたマコトを部下が抱き起こすと隣でケニーが

「にしてもリヴァイの奴、こんな可愛い嬢ちゃんを彼女にしてさぞ幸せもんだなぁ。・・・あれが最後の別れとは知らねぇだろうに。可哀想になぁ。」

それを聞いた頃にはマコトはもう意識が切れそうになり教壇を退かす音に乗じてマコトはネックレスを落とした。


これならリヴァイは気づいてくれるはず。


安心すると、マコトは目を閉じた。



王に謁見をして死刑宣告をされたエルヴィン。
しかしそのタイミングで超大型巨人と鎧の巨人がウォール・ローゼを突破したという報告が入った。

しかしそれは誤報で、ピクシスの指示であった。
そこに総統であるダリスも加わり一気に王政へと反逆し、リヴァイ班が中央憲兵の根城を制圧。

ダリスはエルヴィンに新聞の記事を読ませた。
それはベルグ新聞社の号外だ。

リーブス商会会長の殺害事件から生き延びた子息フレーゲルの証言が書かれており、リーブス商会が脅された事実とその工作によって調査兵団に民間人殺害の罪を被せられた事が公衆の面前で明らかにされた。

同時に王政の圧力に全ての情報機関が従っている現状の告発。現在の王フリッツ王は偽の王であり本物はとある地方貴族として世を忍んでいる話も中央憲兵の証言と共に掲載されている。







「・・・ってなわけで、調査兵団の冤罪は晴れて君たちも正当防衛。王都も行政区もザックレー総統が仮押さえ中だ。今の所、貴族たちの反乱は起きてない。・・・これはヴァロア伯爵が黙らせたに近いけど・・・これで、我々は自由の身だ」

調査兵団を森の中で捜索していた憲兵のマルロとヒッチを仲間に取り入れたリヴァイ達は、シャロンから貰った地図を使い中央憲兵の根城に辿り着き根城を制圧した。


ハンジからの朗報を聞いた瞬間、全員はやったー!と拳を振り上げ飛び上がった。


この知らせを読んでリヴァイは

「お前ら・・・どんな手を使った?」
「変えたのは私達じゃないよ。・・・一人一人の選択が、この世界を変えたんだ。」

そう聞くとリヴァイは俯くと

「・・・ハンジ、すまない。お前らから預かった部下3人を・・・死なせてしまった」

そう言うとハンジは悲しそうに笑い

「でも、仇の鉄砲共はさっき、君らで無力化したんだろ?」
「いや全部じゃねぇ。その親玉辺りとエレン、ヒストリアはまだ別の場所にいる。・・・早いところマコトたちが戻ってくりゃいいが」
「マコト、ああそう言えば探偵さんと手を組んでるルックって男の子が、マコトと探偵さんはレイス領の礼拝堂まで潜入調査してるって・・・」
「ああ、あの男と一緒で最高に胸糞悪いがな」


最悪この引きずり出して拷問していた憲兵に聞けばいい・・・そう考えていると

すると、幌馬車が物凄い勢いでこちらに向かってきていた。全員は警戒するがそれがシャロンだと分かると、全員は肩の力を抜いた。

「リヴァイ、あれじゃない?!」
「ああ・・・でも様子がおかしい」

幌馬車はそのままドリフトして倒れそうな勢いで止まると、シャロンはその勢いで草っ原に吹き飛ばされゴロゴロと転がった。

「シャロンさん?!」

慌ててアルミンが駆け寄ると、そこには意識朦朧としたシャロンがおり馬も激しい運動をしたせいか、興奮しているのをサシャが抑え込んでいる。

「は、はぁ・・・まずい・・・リヴァイ兵長、申し訳ない・・・」
「何がだ、おい。マコトはどこだ。荷台か?」

チラッと荷台を見るがマコトは出てこない。


水を飲ませるとシャロンは


「僕とマコトさんは教会に信者として潜入した。しかし何処でバレたのか薬を盛られてな・・・マコトさんが俺だけを逃がしてくれた」
「なっ・・・」


ハンジは絶句し、リヴァイは眉を寄せると

「・・・アイツは、レイス領の礼拝堂か?」
「ああ、あとリヴァイ兵長に伝言を頼まれた救世主≠セと」
「救世主・・・」

その言葉を聞いてハンジは青ざめるとまさか・・・とリヴァイの肩を掴む。


「リヴァイ大変だ!まさか、マコトまで食われるんじゃ・・・」
「どういう事だ」
「すみません、リヴァイ兵長・・・僕を死ぬほど殴ってくれ・・・」

そう言って頭を下げるとリヴァイは眉を寄せて

「・・・そんなのは、あいつが望んでない。顔を上げろ」
「ここだけの話・・・夫婦という設定で行ったので部屋は相部屋で手はだしてま」
「お前を今ここで半殺しにする」

リヴァイは遮るとシャロンの胸ぐらを掴んで拳を振り上げた。

「ちょちょちょリヴァイ!そんな事してる場合じゃ!ほら、急ぐよ!!」

ハンジはそんなリヴァイの腕を引っ張り荷台に押し込む。

急げ!というリヴァイの声にアルミンは馬を走らせ、全員でレイス領へと向かった。



[ 73/106 ]
*前目次次#
しおりを挟む
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -