70:探偵

時刻は夜21時・・・マコトはセーターの下に隠しておいた腕時計をチラッと見てランプを中央にして全員で野戦食糧を食べる。

マコトも幾分か食欲も戻り、食べれる時に食べなければと無理やり胃に流し込む。

しかし、アルミンだけはずっと俯いていて食べる気配がない。

それを見たリヴァイは首を傾げると

「どうしたアルミン。こんな汚ぇ馬小屋じゃ飯なんぞは食えねぇか?」
「・・・いえ、ねぇジャン・・・」
「・・・何だ?」
「一つ・・・わからない事があって、その・・・僕が銃を出そうとした時、正直間に合わないと思ったんだ。・・・ごめん、でも・・・相手の方は既にジャンに銃口を向けていたから・・・なのに、なんで先に撃ったのは僕なんだろうって・・・」
「・・・それは」

そう言うとジャンは俯いて黙り込んでしまった。
その理由を、代わりにリヴァイが口を開いた。

「相手が一瞬撃つのを躊躇した・・・そうだろ?」
「え?」
「アルミン、すまねぇで俺が撃たなきゃいけなかったのに・・・」
「そうだったんだ・・・僕が殺した人は、きっと優しい人だったんだろうなで僕なんかよりずっと、人間らしい人だった。僕はすぐに引き金を引けたのに、僕は・・・」
「アルミン、お前の手はもう汚れちまったんだ。以前のお前には戻れねぇよ。・・・新しい自分を受け入れろ。もし今もお前の手が綺麗なまんまだったらな、今ここにジャンはいないだろ。・・・お前が引き金をすぐに仲間が殺されそうになったからだ」

その言葉にアルミンはジャンを見て、ジャンもアルミンを見る。

「お前は聡い。あの状況じゃ半端なことは出来ないとよく分かっていた。あそこで物資や馬、仲間を失えば・・・その先に希望は無いのだと理解していた。お前のおかげで、お前が手を汚してくれたおかげで俺たちは助かった。ありがとう」

お礼を言われても複雑だろう。
マコトもリヴァイが囲まれていた時、リヴァイが憲兵に照準が合った瞬間引き金を引いていた。

そしてリヴァイはマコトを見ると

「マコト、お前もだ。酒場で憲兵に包囲されていた時俺を助けてくれた。 あのままお前が来なかったら、俺は後ろから撃たれて今頃死んでたかもしれん。 俺のために手を汚してくれて、ありがとう」
「いえ、覚悟は出来ていましたので」

マコトは頷くと、ジャンは重い口を開いた。

「リヴァイ兵長・・・俺は、貴方のやり方は間違ってると思ってました。いや、そう思いたかった。自分が人に手を下すのが怖かったからです。俺が間違ってました。次は、必ず撃ちます。」
「あぁ・・・お前がぬるかったせいで俺たちは危ない目に遭ったな。」
「・・・申し訳ありません」
「ただし、それはあの時あの場所においての話。何が本当に正しいかなんて俺は言ってない。そんな事は分からないからな・・・」

すると、突然走る音が聞こえた。

「誰です?!」

それは外で見張りをしていたサシャだったらしく、銃を向ける音が聞こえ、全員が身構える。

「あいや。驚かせてすまないね、お嬢ちゃん。 ヴァロア伯爵の使いの者だよ」
「ヴァロア伯爵・・・」

すると厩舎に入ってきたのは180cmほどの細身の長身で襟の立てたコートを纏い、ブルネットのくせっ毛をしたボサボサ頭の男が入ってきた。


警戒を緩めない中、男は眠そうなタレ目をニッコリさせると

「僕はシャロン・ドイル。ヴァロア伯爵から雇われてる探偵だよ。・・・あれ、団長さんから聞いてない?」
「お前が・・・例の探偵か」
「そうそう。 3年前だったか、そこのお嬢さんの件にちょっと味付けしちゃった男だ。」
「あ、あの時はどうも・・・」
「いえいえ。なかなか刺激的だったよ。」

アルミンは眉を寄せると

「あの、何故ここが・・・?」
「ん?僕は探偵だからね。色んな人間の思考とか行動パターンとか考えるのが好きなんだよ。跡をたどったらすぐに辿り着いた。いやぁ僕が憲兵じゃなくて良かった。」

サシャが用意した木箱にシャロンは座ると膝の上で頬杖を着いてにっこり笑う。そしてアルミンを上から下まで見ると

「・・・キミ、だいぶ顔色が悪いな。人を殺した後みたいな顔してるね」
「なっ・・・」

見透かすようにシャロンは微笑むとリヴァイは

「・・・ここに来たってことは、何か分かったのか?」
「そうそう。君らには中央憲兵の根城を教えようと思って。地図を持ってきた」

そう言うとコートの内ポケットから折り畳まれた紙をリヴァイにどうぞと渡した。

「・・・で、あとひとつ。エレンとヒストリアの場所の事だが。」
「エレンは!エレンはどこにいるんですか!?」

木箱を蹴散らす勢いで突然ミカサが立ち上がって声を荒らげるとコニーとサシャが落ち着いて、と座らせる。

「場所は・・・実はこれはまだ半々の確率だが怪しい場所があってね。 5年前、ウォール・マリアの壁が破壊された時と同じ日に、レイス領の礼拝堂が爆発した事件があったんだ。 当時その中にはレイス卿の一家が祈りを捧げていたらしく、その混乱に乗じて盗賊が襲ってきたそうだ。 生き残ったのはロッド・レイスただ1人。僕はその事件を調べた時に違和感があった。わざわざ、盗賊が建物を爆発させるだろうか・・・?ってね。」

そんな訳で・・・と持ってきた自前のランプを持ち上げると

「僕とレイス領に着いてきてくれる人が欲しいんだけど・・・いいかい?リヴァイ兵士長殿」
「・・・ああ、構わんが。何故だ?」
「まあ何があるか分からないからね。僕ひ弱だし、こんな見た目だし・・・1人より2人の方が不審がられない。・・・そうだねぇ」

ランプで一人一人の顔を照らしながらシャロンは全員の手を取ったり観察をする。

ミカサやサシャを交互に見て、マコトを見るとシャロンはマコトの手を取り立ち上げた。

「よし、君だ!」
「えっ!」

リヴァイは心底不機嫌だったが仕方ないとため息を着くと、シャロンは笑い

「悪いねリヴァイ兵士長殿。君の恋人を少しお借りしますよ」
「あ?」
「えっ」

なぜバレたんだと言う顔をするとシャロンはにっこりと笑い

「僕の特技だよ。ってわけで、さっそくだけど行こうか」
「は、はい!っと兵長、皆もお気をつけて!」

マコトはシャロンに引きずられるように厩舎を後にしたのだった。








シャロンが乗ってきた馬車は怪しまれないようにぐるぐると徘徊していたらしく馬車に乗り込んだ。

「さあ、まずはトロスト区に行くからね」
「え・・・今私がトロスト区に行くのはまずいのでは・・・」

トロスト区では完全に顔が割れてしまっている。下手をすれば捕まってしまう恐れがあるのでマコトは警戒をするとシャロンは微笑んで

「大丈夫、その辺は心配しなくていいよ。 今から勝負服を作りに行くからね」
「勝負服・・・?」

しばらく馬車に揺られていると朝方にはトロスト区に入った。

久しぶりに感じる見慣れた街並み、マコトは念の為と外套のフードをかぶると、とある店に到着した。外観は普通で、入口のドアには可愛らしい花のリースが飾られている。


シャロンにエスコートされると、店はまだ開店時間前になって札がひっくり返っていたが、シャロンは構わず拳を作ると



コンコンココンッ



リズムよくノックする。

少しすると小さな影が出てきたが、

「・・・ロウソク1本の明るさの数値と太陽の光にした時何本必要か答えろ」

突然少年のような、声変わりしたばかりの声がドア越しに聞こえ突然なぞなぞを出てきた。

マコトは瞬きをして首を傾げ、シャロンは2秒ほど思考すると

「ロウソク1本の明るさは1カンデラ、太陽の明るさを再現するには、120本のロウソクが必要だ」
「・・・チッ、マナーとは?=v
「紳士を作る=v

そう言うとガチャン、と鍵が開けられる音がするとカラン・・・とドアベルが鳴る。

ドアを開けたのはオリーブ色の髪の毛を持つおかっぱ頭の美少年が立っていた。

「何?何か用?」
「つれないなぁルック。デカい仕事だ」
「了解。入って。・・・その人は?」

あまりの美少年にマコトは固まっているが

「あ、私調査兵団のマコトと言います・・・初めまして」
「僕はルック。このオッサンと組んでる」
「相変わらず口が悪いガキだ」

そう言うとルックの頭をガシガシと撫で回すとルックはちょっと!と怒る。

中は普通のカフェで、どちらかと言うと喫茶店のような作りだった。
何があるのか・・・マコトはキョロキョロしていると

「潜入調査をする。」
「分かった。そこのお姉さんも?」
「ああ。中流階級風にしてくれ」

ルックは頷くと厨房から誰かを呼ぶと綺麗な女性が出てきた。

「あらシャロン、いらっしゃい。このこの時間に来るってことはお仕事ね」
「マリアン、勝負服を頼む!」
「はいよ。そこのお嬢さんもいらっしゃい」

マコトはこくこくと頷くと2階へ上がらされあれよあれよと風呂に入れられ出た頃にはいつもの服から深緑のドレス切り替わっていた。

「はいコルセット。」
「ふんっ!」
「ぐうっ」

ルックはコルセットの紐をギュッと引っ張り素早く結ぶ。


あれよあれよと鏡の前に立つ自分は深緑のシンプルなドレスを着ていた。

「ルック、髪をよろしくね」
「はい。マリアン」
「マコト、目閉じなさいな」
「は、はい!」

化粧を施され髪の毛を結われる。
正直寝不足だったためそのまま半分寝ていると

「ほらマコト。起きなさい。出来たわ」
「ふぁ・・・は?」

以前もヒストリアに化粧をしてもらったが、マリアンの化粧の腕も凄く別人に変わっていた。


「あの、これが勝負服・・・ですか?」
「ええ。そうよ。ほらシャロン!出来たわよ!」

そう言ってシャロンも先程とは違いカチッとしたスーツと帽子、杖を持ちボサボサの髪の毛は綺麗に整えられていた。

中流階級風のマコトの格好を見るとわあ!と手を叩いて

「すごく似合ってるよ!・・・よし、さっそくレイス領へいくよ!」
「は、はい! あの、マリアンさん、ルックさんありがとうございました!」
「いえいえ。気をつけてね」

マリアンはニッコリと笑い、ルックもこくりと頷いた。

まだ早朝で、人通りの少ない街に出る。
誰も調査兵団のマコトだとは思うまい。目の前を住民は普通に素通りする。

用意された幌馬車にシャロンの手を借りながら乗り込むと

「さあお仕事だ。宜しく、相棒!」

そう手を差し出され、マコトは頷くとシャロンの手を握った。



「・・・あの、シャロンさん。質問が」
「ん?」
「何で、リヴァイさんとの仲が分かったんです?」

そう聞くとシャロンはああ、と頷くと

「人には個体距離ってのがあって、近づかれると不快になるエリアってのがあるんだ。君らは他の子達と違って近かった。・・・あと、彼の向きだね。膝やつま先が君に向いていたから君に関心がある、そして僕が出てきた瞬間さりげなくだけど彼は君を庇おうとしたし君も彼を庇おうとした。上司と部下だからかと思ったけど、あの嫉妬具合だと恋人かな?と思って」

早口で説明を聞いてマコトは呆気に取られた。
あれだけで全てを見抜いてしまうシャロン・・・マコトは素直に

「凄いですね」
「あはは!褒められたのは初めてだよ。割とズバズバ言うから怒られる方が多い・・・っと、見えてきたよ」

レイス領に入り、しばらくすると礼拝堂が見えてきた。
あの教会には何かがある・・・無意識にマコトは、ドレスを握った。

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