66:博打

調査兵団 トロスト区支部

一方エルヴィンは王都の総統局で話を聞いたあと、何としてでもエレンとヒストリアを王都へ渡す訳には行かないと思考を巡らせていた。

面会に来たピクシスとは意見が別れてしまい、万事休す・・・ランプのみが灯るこの薄暗い部屋でエルヴィンは手を組んでいると部屋がノックされた。

「エルヴィン団長、ヴァロア伯爵がお見えです」
「ヴァロア伯爵・・・?通してくれ」

エルヴィンは驚きながらそう言うと、ハットを被り杖を片手に持ち、長身でスーツを着こなしたアンドレ・ヴァロアがエルヴィンを見ると微笑んだ。

「やあスミス氏、久しぶりぶりだね」
「こんな所に・・・どうしましたか?」
「いやぁ、通りすがりにね。突然、スミス氏と話したくなってね。」

そう言うとニコッと笑いエルヴィンが椅子に促すと

「うちの探偵を使ってね、色々君たちの内部情報を知ったよ。・・・で、スミス氏の考えをお聞きしたい。」

頬杖を着いてアンドレはニコッと笑う。

「おっと、ところでマコトさんは元気かな?」
「はい・・・今は我々とは別行動に」
「エマへの手紙で、調査兵団に入ったと聞いた時はびっくりした。この間も急遽壁外へ行っただろう?無事で何よりだよ・・・それにスミス氏、腕は大丈夫か?」
「ええ、大分慣れてきました。はは、不便ですけどね」
「君も、無事でよかったよ。君が居なくてはこの状況を打開する事が出来ないからね」
「・・・は?」

何を言っているんだとエルヴィンは眉を寄せる。
アンドレは今から博打をするような、挑戦的な目を向けるとエルヴィンはフッと笑った。

アンドレ・ヴァロア・・・この人物もまた、博打が好きらしい。


「ヴァロア伯爵はレイス家をご存知ですか?」
「ああもちろん。シーナ北部にある貴族家だな。それが・・・?」
「ウォール教の幹部の話によると、とある人物を監視していたらしくその名前はヒストリア・レイスという15歳の少女です。」

アンドレはそれを聞いてふむ、と言う。
エルヴィンはエレンの件やこれまでの経緯を話すと、

「ウォール教か・・・あまり詳しくはないが。あのレイス家と関係があるのか。 私の専属探偵を使って調べさせようか?」
「・・・宜しいのですか?」
「もちろん。今の調査兵団は動きが制限されている。下手に動いて大事な部下に何かあるとまずいだろうし・・・それに、まさか貴族が一枚噛んでるとは思わないだろう?」

そう言うとはははと大きな声で笑う。
エルヴィンは一瞬だが「この人を信じていいのか?」と探る目をした。
もしこのアンドレが憲兵が繋がってるとしたら・・・

「信用してもいいのか?って感じだね」
「っ・・・はは。」
「私の娘・・・エマは私にとってかけがえのない可愛い可愛い愛娘だ。目に入れても痛くない、人類最高に可愛い娘だ。ああすまん、親バカが出た。」

アンドレは咳払いすると話を続ける。

「妻を病気で亡くし、残されたのは私とあの子だけ。 その3年前に私の娘は賊に人質として誘拐され私は発狂。そんな所をマコトさんに助けてもらった。・・・裏切ると思うか?そんな事をしたら私はエマに勘当されてしまうよ」

そう言って微笑むと、エルヴィンも釣られて微笑むと手を差し出した。

「ヴァロア伯爵・・・ご協力感謝致します」
「ははは、言っただろう。私は調査兵団推しだ。」
「ふっ、助かります。もしヴァロア伯爵やエマ嬢に危険があれば我々が全力で守りに行きます」
「ありがとう。」

すると、コンコンと音が鳴りエルヴィンはアンドレが居たため追い返そうとしたが構わないよ、笑いエルヴィンはドアを開けると息を切らせた二ファだった。

「・・・二ファ?」
「はぁ、はぁ・・・お取り込み中、す、すみません・・・」

二ファは敬礼をしてエルヴィンを見上げると

「っはぁ・・・はぁ、リヴァイ兵長からの、伝言です」
「二ファ、ご苦労だった」

そう言って手紙を読んでいる間に二ファに水を飲ませる。エルヴィンは目を見開くと、

「ヴァロア伯爵、多少血は流れますが・・・血は平気ですか?」
「・・・ほう、その心は?」

エルヴィンはアンドレを見ると

「レイス家が、正当な王家らしいです」
「・・・・・・はぁ?!」

これから調査兵団は、クーデターを起こす。
現在の最優先目標は、偽物の王をフリッツ王を引きずり下ろし王位継承者であるヒストリア・レイスを元の王座に座らせる。

その後は、何としてでもこの状況を調査兵団へと風向きに変えてウォール・マリアを奪還する。

そして、昔聞いたエルヴィンの父の仮説・・・その答えがエレンの地下室にあるはずだ。

アンドレが帰ったあと、エルヴィンは直ぐに二ファに伝言のメモを託し、この件をピクシス司令にも伝えた。







二ファはあれから急いで馬を走らせると、リヴァイ達が身を隠している小屋へとたどり着いた。

「はぁ、はぁ、エルヴィン団長からの、伝言ですっ・・・!」
「二ファ、夜通しの伝達ご苦労だった。」
「い、いえ・・・」

エルヴィンの伝言を預かった二ファがやや息を切らしながらリヴァイに手紙を寄越した。
集まった部屋にはリーブス商会の会長であるディモと、その倅のフレーゲルも混ざっている。

受け取った手紙をリヴァイは読むと、マコトを見る。

「ヴァロア伯爵が俺たちを援護してくれるそうだ」
「えっ?!」

マコトは驚くが、また現れたヴァロア家という貴族の名前。マジかよ、とディモも驚いている。


アルミンは首を傾げると

「ヴァロア家って、この周辺の・・・ローゼの貴族ですよね。何故調査兵団に?」
「あの黒い人間事件、マコトが全滅させた賊の人質がヴァロア家の一人娘エマだった。 ヴァロア家はマコトに恩があるからな・・・」
「・・・それ、信じてもいいんですか?」

ミカサの不審な目に、リヴァイは

「ヴァロア伯爵は、マコトが危なかった時に証拠を捏造して助けてくれた事もある。それに、あの男は調査兵団推しだ。 アイツらと同じ貴族でも奴は違う。奴は這い上がりの苦労人だ。その辺は保証はする。・・・それと、ヴァロア家の雇っている探偵を使って動けない調査兵団に代わって別ルートでレイス家の事も調べてくれているそうだ。」
「ヴァロア伯爵・・・ここまでしてくれるなんて・・・」

味方は多い方が助かる。風向きが良くなってきた所で作戦会議を開始しようと全員は席に着くと、二ファは全員を見て


「・・・では、ヒストリアをどうやって女王に即位させるかの件に関してですが・・・」
「えっ?」
「女王?」

ヒストリアを始めとした104期の調査兵はなんの事だ?と首を傾げている。

予想外のリアクションに二ファは戸惑ってリヴァイを見ると

「俺の班には・・・言い忘れてたが、現在のフリッツ王家は本物の王家の代理みたいなもんだ。その本物の王家は・・・レイス家だ」

全員がヒストリアを見ると、ヒストリアも驚いて戸惑っている。アルミンは震える手で手を挙げると

「ヒストリアを女王に即位させると聞こえましたが・・・それがこの革命の主目的ということでしょうか?」
「その通りだ。 ヒストリア、感想を言え」
「・・・あ・・・私には・・・無理です・・・・・・出来ません」
「だろうな。突然この世の人類の中の最高権力者になれと言われ「はい、いいですよ」と即答できる神経をしてる奴は・・・そんなに多くはないだろうな。」

リヴァイは、一歩ヒストリアに近づくと

「だが・・・そんなことはどうでもいい。 やれ」

鋭い目付きでそう言われると、ヒストリアは目を逸らして

「私には・・・とても務まりません・・・」
「嫌か?」
「私には、とても・・・」

その瞬間、リヴァイはヒストリアの胸ぐらを掴むと一気に持ち上げて吊り上げた。

突然の事に全員は驚き、マコトはリヴァイの肩を掴むと

「リヴァイ兵長!?」
「マコト、黙れ。 ほら、ヒストリア。じゃあ逃げろよ。全力で俺達から逃げてみろ。俺達全員でお前を捕まえ、あらゆる手段を使ってお前を従わせる。どうもこれが、お前の運命らしい。それが嫌なら戦え。俺を倒してみろ」
「兵長何を!?」
「放してください!」

そう言うとリヴァイはパッと手を離しヒストリアは床に崩れ落ちた。

「・・・こんなことしなくても!」

ジャンの言葉にリヴァイは全員を見ると

「お前らは明日何をしてると思う?明日も飯食ってると思うか?明日もベッドで十分な睡眠を取れると・・・思ってるのか?」

一瞬だがリヴァイマコトを見ると前を向き

「・・・隣にいる奴が・・・明日も隣にいると思うか?俺はそうは思わない。そして普通の奴は毎日そんな事を考えないだろうな。つまり俺は普通じゃない、異常な奴だ。異常なものをあまりに多く見すぎちまったせいだと思ってる。 ・・・明日ウォール・ローゼが突破され異常事態に陥っても俺は誰よりも迅速に対応し戦える。」

明日からあの地獄がまた始まっても、数々を見てきたあの光景が明日からじゃない根拠はどこにもない。

リヴァイの話にマコトは目を離さずに聞く。

「しかしだ、こんな毎日を早いとこ何とかしてぇのに・・・それを邪魔してくる奴がいる」
「・・・それを邪魔する奴らを・・・私も、リヴァイ兵長のように皆殺しにする異常者の役を買って出てもいい。巨人に食べられる地獄より、私は人が殺し合う地獄を選ぶ。大事な人を、それで守れるなら」

リヴァイが居れば、もう何も怖くはない。
チラッとお互い目を合わせるとリヴァイは一瞬だが口元に笑みを浮かべると

「俺もマコトと同意見だ。少なくとも、人類全員が参加する必要はないからな。・・・だが、それさえも俺たちがこの世界の実権を握ることがもし出来たのなら、死ぬ予定だった奴がだいぶ死ななくて済むらしい・・・結構な事じゃねぇか。全てはお前次第だヒストリア。従うか、戦うか。どっちでもいいから選べ・・・ただし」

リヴァイはヒストリアの頭を鷲掴みすると大声で

「時間がねぇから今すぐ決めろ!!」
「やります!! 私の・・・次の役は・・・女王ですね・・・?やります、任せてください」

そう言うと、リヴァイはヒストリアの手を掴むと

「・・・よし、立て。頼んだぞ、ヒストリア」
「はい」



二ファはでは、話を進めます。と手紙を読み上げた。






作戦は本日、リーブス商会から第一憲兵へのエレンとヒストリアの引渡し日とされている日に決行する。
第一憲兵はエレンとヒストリアの移動ルートから停留施設までリーブス商会に全て託してある。

我々はそのままエレンとヒストリアを第一憲兵に引き渡す。そしてリーブス商会を通してその修着地点まで尾行。

「その修着地点とは、彼を意味します。ロッド・レイス・・・ヒストリアの実父にして、この壁の中の実質的最高指導者。捕らえた第一憲兵によると、上級役人からフリッツ王家まで全て彼の指揮下にあるようです。 我々は、彼の身柄を・・・我々調査兵団で確保します」

壁に貼られたロッド・レイスの肖像画。
その目元はや顔つきはヒストリアに似ているので、本当に血の繋がった親子なのだろう。

我々が勝ち取るべき目標は現体制の変換に他ならない。民衆の前で仮初の王を真の女王に王冠を譲り、これまでの体制は嘘であったと認めさせて新たに光を見せなければならない。

そして、現在凍結中の調査兵団への協力姿勢が整えばようやく・・・

「ウォール・マリアにポッカリ空いた穴を「塞ごうとする」事が・・・できるのです。」



それを聞くと、全員黙り込む。
中には本当にそんな事が出来るのだろうかという不安になっている者や、マジでやるのかという顔をしている者。

それは主に104期の調査兵から放っている物で・・・リヴァイは口を開くと

「やれるのか?じゃない・・・やるしかねぇ。このままだと俺達全員路頭に迷うか殺されるかどっちかだ。引き返せん」

マコトは元よりリヴァイに着いていくつもりだ。
まだ迷いのある人間がいる中、作戦は決行された。









エレンとヒストリアをリーブス商会に預け中央憲兵との合流地点へと向かってしまった。

作戦決行は明後日・・・会議室で使っていた部屋に残ったマコトと顔を出しに来たハンジ。

マコトはそう言えば・・・と、ハンジを見上げると

「ハンジさん、この間エレンが預けたメモにはどんな会話が?」
「へ?」
「ほら、一昨日くらいでしたか・・・?ユミル達の会話をメモしたって」

そう言うとハンジは口をポカンと開けて、ああっ!と声を出すとゴソゴソと胸ポケットをまさぐるとひしゃげてしまっている紙が出てきた。
その紙は一歩間違えたら読めないほどになっていただろう。

「あ、あぶねぇー・・・」
「・・・読んでなかったんですね」
「ああ色々ありすぎて・・・これめっちゃ重要なやつじゃんな・・・はははは!・・・・・・は?」

ハンジは手紙を開いて硬直する。
どうしたのだ、とマコトはハンジを覗き込むと

「ま、まずい・・・こ、この作戦はやめた方がいいんじゃ・・・エルヴィンの所に、行かなきゃ・・・」
「えっ?!なんでです?」
「レイス家は・・・エレンを食う気だ。これが正しければ・・・!エレンはただの夢だったのかもしれないとは言ってたけど・・・」

エレンを食う。

その瞬間、マコトも頭を殴られて忘れていたがそのワードを聞いて、あの時森に連れていかれた時の会話が突然フラッシュバックのように出てきた。


『は?機会を待つ・・・?そりゃ私が、お前らの戦士に食われた後か?駄目だ!信用出来ない!』


「わ、私は今からエルヴィンの所に・・・」
「ハンジさん!待って!」

すると、マコトは抱きつくように混乱しているハンジにタックルするとハンジと一緒に床に転がり込む。
ドタン!と大きな音が響くが、今はそれどころじゃない。

「うおおっ!マコト?!突然どうしたの!発情?!こんな所リヴァイに見られたら・・・わ、私はいいけど・・・!」
「ごめんなさい、勢い余って・・・あ、あのハンジさんっ・・・その会話は、夢ではないです!」
「え・・・」
「私が起きた時、ユミルはライナーとベルトルトに向かってヒストリアも連れていくと1度揉めていました。その時に同じようなことを言ってました!次ここに来るとしたら、私は戦士に食われた後だと・・・」

ハンジを押し倒しながらマコトは

「ユミルは・・・恐らく・・・ライナー達の言う戦士≠ノ食われるのかと・・・」
「・・・は?」
「ユミルは、もう二度とヒストリアに会えないと言って・・・うわあっ!」

するとハンジはマコトを掴むとそのままぐるんと回り、今度はハンジがマコトを押し倒す番になった。
ハンジの中性的な整った顔が近づいてきて思わず頬が熱くなる。

「は、ハンジさ・・・」
「待って、今・・・仮説を立ててる。」

ハンジはマコトを押し倒しながら思考しているようだったが



「ハンジ。・・・おい、クソメガネ。てめぇ・・・何マコトに発情してんだ」

すると音を聞いたのか風呂から出たリヴァイが首にタオルを巻き、青筋を立ててこちらを見ていた。

「ああ!ごめんねリヴァイ! マコトがあまりにも可愛くってつい!」
「・・・あ?当たり前だろうが」
「と、とにかく、私はエルヴィンの所に行かなきゃ・・・マコトも、思い出してくれてありがとね!考えがまとまったらまた皆に教えるから!」
「へあっ?!」

そう言うとハンジはマコトの頬にチュッと軽くキスをすると立ち上がって

「リヴァイ、私は今からエルヴィンの所へ行くよ。 緊急事態だ。」
「・・・あのエレンの手紙の事か」
「ああ。 だからマコトとはやましい事は無いよ」
「あったら困る」
「やだなぁ女友達同士のスキンシップだよ」

バシン!とリヴァイの肩を叩くとじゃあ後で!とモブリットを連れて小屋を出ていった。

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