「ウオオオオォ!」
そう雄叫びをあげると巨人化したエレンは倒れた。
「エレン!立つんだエレーーーン!人類の明日が君に懸かっているんだ!立つんだあああァ!」
そう崖の上から叫ぶハンジ。
次の日、エレンは硬質化の訓練をして何度も巨人化しているが、段々と様子がおしくなってきた。
リヴァイの横でマコトも焦ったように身を乗り出すと
「リヴァイ兵長、エレンのお尻が・・・」
「ああ。 おい、メガネ。今度は様子が違うようだが・・・もう10メートルもねぇし、所々の肉も足りてねぇ。そして、エレンのケツが出ている。」
「分かってるよ! エレン!まだ動かせそうか?何かしら合図を送ってくれ!」
「エレン!」
ミカサは馬から飛び降りるとエレンに駆け寄る。
そんな姿を見てリヴァイは舌打ちをすると
「おい、また単独行動だぞ。あの根暗野郎は・・・処分も検討しておくか?」
しかし、エレンからの合図はない。
仕方ないとリヴァイマコトを見ると
「マコト、あの根暗野郎を手伝ってこい」
「了解です」
マコトはアンカーを出して飛び降りると巨人化したエレンに駆け寄ると、合図が無くなったエレンを見てハンジもついてきた。
「ミカサ、周り切って」
「はい!」
ブレードで肉を削いで、マコトはエレンに触れたが物凄い高熱だ。
「あっつ・・・!」
途中から来たハンジと一緒に引っ張りあげる。が、エレンはぐったりしたままだ。ミカサはエレンを見て焦ると
「待ってハンジさん、エレンから血が・・・」
「え、血?!」
出血していると聞いて、心配になったマコトはエレンの顔を覗き込む。
「エレン、大丈・・・いっ、ぎゃあああああああ!エレンーーー!!!!」
そこには顔の皮までめくれてしまったグロテスクなエレンの姿が。
マコトは思わず大絶叫をして何事かとハンジも覗き込むと
「うおおおおー!見ろモブリット!!エレンの顔が・・・今すぐスケッチしろ!」
「分隊長!あなたに人の心はありますか!?」
「と、とりあえず中断しましょう!ミカサ、これ切って、エレン運ぶよ!」
「は、はい!」
顔面蒼白なミカサと一緒にエレンを運ぶとジャンも駆け寄ってきた。
大量の資材を運び、穴を塞ぐ作業に20年は費やすとされているが、エレン一人でかつ少人数で行けばコストと時間は削減される。
その作戦は雲を掴むような話しだが、その雲を雲じゃなくすのは今後のエレン次第である。
・・・しかしこの様子では、硬質化で穴を塞ぐと言うのは道のりが長そうだ。
「実験終了!直ちに撤退せよ!」
ハンジ班も揃っておりケイジが目撃者が居ないか周囲を確認しに回る。
リヴァイはヒストリアを見ると
「お前はエレンと同じ馬車に乗れ。俺はトロスト区へ向かう。・・・マコト!」
そう叫ぶと、マコトは顔を上げてはーい!と手を上げる。戻ってこい、と手でジェスチャーするとその場をミカサに任せマコトはアンカーで崖を登ってきた。
リヴァイはマコトの手を取って上がらせると
「俺はトロスト区へ向かう。ガキ共の世話は任せたぞ」
「了解です」
「・・・帰りは遅くなる。気をつけろよ。」
「はい。リヴァイ兵長もお気をつけて。」
軽くマコトの手を握るとリヴァイは背中を向けた。
夜中、交代の監視の中マコトはリヴァイが帰ってくるまでリビングのテーブルで頬杖をついてうつらうつらとしていた。
瞼が重い・・・
帰ってきたらきっとリヴァイは小腹が空いているだろう、とマコトはパンとじゃがいも、野菜を使って野菜サンドを作り置きしていた。 リヴァイが好きな紅茶も直ぐにできるように用意もしてある。
「うう、ちょっとだけ・・・」
そろそろ瞼が限界だ。
マコトは机に突っ伏すと目を閉じた。
リヴァイは兵士の運転する馬車に乗られて帰ってきた。礼を言って降りると小さくだが灯りがついている。
今の監視はミカサ、コニーだ。
そっとドアを開けると、そこにはマコトが机に突っ伏してすやすやと眠っており傍らには野菜サンドが作り置きされていた。
時期は冬に入るため寒い。リヴァイは上着を脱ぐとマコトの肩に掛けてやる。
「おい、マコト。こんな所で寝たら風邪をひくぞ」
「ん・・・あ、リヴァイさん。おかえり」
目は開き切ってないが声を聞いてマコトはへらっと笑った。
こんな夜遅くまで待っていてくれて、リヴァイは胸が暖まる感じがして頬に手を添えると
「・・・寝跡が付いてる」
「へ!」
「結構寝たみたいだな。無理はするな」
「ごめんなさい。あ、お腹すいてない?これ食べて!」
「ああ、食べる。何も食べずに帰ってきたからな」
そう言ってサンドイッチを食べると柔らかい芋と野菜の優しい味がしてふとリヴァイはマコトの背中を見つめた。
マコトは紅茶を入れようと温め直している。
一軒家で2人・・・正確には104期の調査兵も居るがこの空間は2人きりだ。
もしマコトと夫婦になれるとしたら、こんな生活になるのか。とリヴァイは想像する。
…悪くない、しかしそんな未来は五分五分だとリヴァイは目を細めた。
マコトが帰れるのだとしたら、リヴァイとマコト時間には限りがある。
「(結婚か)」
考えてもみなかったワード。
まさか自分がそんな事を考えるなんて夢にも思わなかったくらいだ。しかも調査兵は寿命が短いため既婚者はほぼ居ない。
ふとリヴァイは、無意識にジャケットの内ポケットに手を入れるとケースが手に当たった。
「(今か・・・?)」
リヴァイは眉を寄せてタイミングを伺う。
先日マコトがライナー達に連れていかれた言葉を思い出して、リヴァイは居てもたっても居られなくなった。
“教官もいい歳だから嫁にしてもらえって”
マコトは今年で28歳。
早いと前半には結婚してしまいマコトの歳ならもう子供がいてもおかしくはない。
しかし、もしマコトが帰った後約束通り自分が生まれ変われなかったら?マコトを永遠と自分で縛り付けておくことになる。
隣に違う男が立つのは気に入らないが、マコトが幸せになるのなら・・・それは仕方がないこと。
内ポケットの箱をグッと握る。
でも今は、自分の隣に立っていて欲しい。時間が許す限りは、ずっとそばに居て欲しいと思っている。
「(今この状況が落ち着いたら、だな・・・)」
・・・そんな事を頬杖を着いて考えていると、目の前に紅茶が置かれふわりとした香りが鼻をくすぐる。
「考え事?」
「・・・ああ」
「こんな状況だもんね、どうなっちゃうのやら」
マコトも両手でカップを持ち紅茶を飲む。
そんなマコトをリヴァイは見つめると
「マコト」
「ん?」
「好きだ」
自然と口からその言葉が出て、マコトは胸がドキッとして驚く。
そして嬉しそうに頬を赤くして笑うとはにかみながら
「・・・うん。私も、リヴァイさんの事好きだよ」
「ああ。知ってる」
そう言うと、リヴァイはサンドイッチにかぶりつくと
「お前の作る飯はなんでも美味い」
「んふふ、ありがとう」
この時間が続けばいいのに、なんて事をマコトも考えながらリヴァイを見つめた。
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