55:救世主の一族

次の日、マコトは情事のせいで股関節が痛くなりリヴァイに手を借りながら宿屋の階段を降りる。

「い、いてて・・・これじゃ老人だよ」
「柄にもなく俺もがっつきすぎた。すまない」

申し訳なく思っているがリヴァイは嬉しそうに口元は僅かに笑みを浮かべている。
マコトも失笑すると、ハンジやエルヴィンの居る医療機関へと向かった。

エルヴィンは多量の出血によりまだ意識は戻っておらず、ハンジに関しては

「マコトー!!」
「うおあっ!」

病院に入ったや否や、ハンジがマコトを認識すると全速力で飛びついてきた。
その顔や手には痛々しく治療の跡がありマコトは驚くと

「ハンジさん、その怪我・・・」
「ああ・・・あの時マコトが超大型巨人に飲み込まれた後エレンが鎧の巨人と戦ってね・・・そりゃもう最高に滾る・・・ぐえっ!」

するとリヴァイがハンジのお尻を蹴ると

「おいクソメガネ、お前は一応患者だ。患者らしくベッドに居ろ。」
「だって、もう元気だし・・・居てもたってもいられないよ!ラガコ村にも行きたいし!んん、でもまずはマコトの話も聞かなきゃね。病室行こうか」

そう言うとハンジはマコトの手を取ると病室へ向かった。


幹部ゆえか、ハンジの病室は個室だった。
よいしょとハンジはベッドに座り、マコトとリヴァイも丸椅子を出すと座った。

「あの時だけど・・・」

マコトが飲み込まれた後、すぐに鎧の巨人とエレンは戦った。

その戦いは互角で、ちゃんと意志を持っていたエレンはマコトの訓練通りに技を繰り出したりライナーやアニに訓練兵時代にやられていた技をやり返したりしたそうだ。

それは、前マコトが巨人がプロレス技を出したらどうなるかという想像をした事が現実となった。

マコトは拳を握ると

「そ、そんな熱い戦いになってたってのに、私ってば・・・くそっ!腰巾着ベルトルの奴・・・次に会ったらマジであの無駄にデカい鼻をへし折る・・・!」
「・・・おい、マコト。頼む、落ち着け。」

格闘技になるとマコトはお熱になるのはわかっていたがハンジと同じテンションになられると困る・・・とリヴァイは思わずマコトを窘めた。





「でも、超大型巨人の真下に誘導されてるのは私達でも気づかなくてね・・・鎧の巨人が叫んだと同時に上から超大型巨人が降ってきて私達はその熱風で火傷したんだ。マコトは、どうだったの?」
「私は、あれからめちゃくちゃ熱くて気を失って・・・起きたらあの巨大樹の森の中でした。」
「そもそも、あの2人は何でマコトをさらったのさ?」

マコトはうーんと顎に手を当てると

「私の故郷が、ライナー達と同じだと勘違いしたそうです」
「・・・は?勘違い?」
「思い当たる節はあるのか?」

リヴァイの問にマコトが今度はううーんと唸り腕を組む。・・・さっぱり覚えていないのだ。

「マコトの故郷は、ってか未来は技術が発展してるでしょ?そうなるとライナー達も未来人になるわけだけど」
「ライナー達にも、同じ焼印がある・・・?」
「じゃアイツら、帰り方を分かってるのか」

しばらく黙り込む3人。
マコトはまた何かを思い出すと

「戦士長・・・て言う人がライナー達の上にいる人みたい」
「戦士長・・・?」
「リヴァイみたいな立場の人かな?」
「強くて頭がいい、教官もきっと気に入られるし教官もいい歳だから嫁にしてもらえって」

言われたことを言うと、リヴァイは眉を寄せてものすごい形相でマコトを見ると

「あ゛?そんなこと言われたのか」
「うっ・・・もちろん断るに決まってますよ!リヴァイさんが一番カッコイイですから!・・・あ」

マコトは口が滑り、ハンジは布団で顔を隠して笑う。 リヴァイは不機嫌だっだがマコトの発言に不機嫌オーラを消すと満足そうに頷いた。

「まあその辺も・・・敵の事はわかんない事だらけだね。」

ハンジは唸りながら髪の毛をガシガシとかくと

「まあ今考えたってしょうがない。ああ、マコトといえば、ニック司祭の《救世主》ってやつ。あれも気になるよ」
「私もそれが気がかりで・・・」
「それなら・・・一足先に俺が聞き出しておいた」
「「えっ?!」」


ハンジとマコトはリヴァイを見るとエルミハ区の出来事を話した。


現在は午後11時・・・今から17時間前に遡る。






***




エルヴィン達がハンジの所へ向かって1時間は経っただろうか。リヴァイはマコトのことで頭がいっぱいだったがとある事を思い出してニックを睨んだ。

「おい、さっきの《救世主》とやらは何だ?」

停められた荷馬車でリヴァイは頬杖を着いてニックを問いた。

ニックは俯いたままぼそぼそと

「・・・この壁の人類を守ってくれた者だ。 救世主はとてつもない力を持ち、この壁の中で共に暮らし、壁の発展にも貢献した。その者は壁の中の人間と子を設けるとその子供を媒体として《壁に災いがある時馳せ参じる》と言い姿を消した。 しかしその子孫も・・・5年前に亡くなり血が途絶えた。」
「5年前・・・?そいつはなんて名前だ?」

リヴァイは超大型巨人と鎧の巨人が襲撃しにきた年だとすぐに連想すると、ニックはリヴァイを見つめて


「最後の血縁者は、ノア・エヴァンスと言う娘だ」
「・・・は?」
「だが、その血縁者が居なくなった今この壁は危険すぎる。時間の問題かもしれん」
「・・・・・・ニック司祭、その生まれ変わりがこの世に居たらどうだ?」

そう言うと、ニックは驚いた顔でリヴァイを見つめるとリヴァイの肩を掴み物凄い形相で

「そ、その者に、焼印は・・・血縁者には何故か焼印が刻まれる・・・あるのか?!」
「・・・ああ」

そう言うとニックは手を組んで身体を折ると「助かる」「救世主が」とブツブツとあの時のように呟き始めたのでリヴァイは舌打ちをすると

「・・・そいつはその壁が壊された2年後に現れた。しかし、その20年ほど前にも同じように別の世界から来た人間が居る」
「20年ほど前・・・?壁は壊されていないが、何か異常があってそうなったのかもしれない。 それより、その2年後に現れた者は、どこだ!?」
「それは機密事項だから俺の口からは言えん。 ・・・・・・そいつを元の場所に帰す方法はあるのか?」

リヴァイ的には1番聞きたくない回答だが、マコトの事を思うと口が勝手に動いた。



「恐らく、壁の安全が確認され次第・・・帰るだろう。保証はないが」
「・・・・・・そうか」
「居るのだな?救世主が」

ニックの真剣な眼差しにリヴァイは頷くと

「だがこれは俺たちの秘密だ。死ぬ気でこの秘密は漏らすなよ」

人を殺す勢いの眼力でリヴァイは睨みつけるとニックは頷いた。







「・・・つまり、マコトが帰る方法は」
「ウォール・マリア奪還だ」


そう言うと、ハンジははあああ・・・と眼鏡を外して息を吐くとベッドに深く沈み込み、マコトは口を半開きのままだ。

しばらく沈黙が流れると

「はぁ・・・壁は不思議な事だらけだ。でもノアが強かった理由は何となく分かった。・・・まずは、エレンとマコトその救世主の能力を生かせればウォール・マリア奪還も夢じゃないね。・・・ねぇ2人とも、覚悟は出来てるの?」

ハンジの射抜くような視線にリヴァイとマコトは顔を見合わせる。


「まあ帰れる確率は五分五分って感じだけど・・・もしそうなると2人は離れ離れになるけど・・・」
「俺はもう選んだ。」

そう言うとリヴァイはマコトを見つめる。
するとマコトもリヴァイを見つめて少し寂しそうに笑うと

「・・・私も選びました。」
「んん?は?は?ねぇ、あの時もそうだったけどさ、どういう事?」
「それは俺とマコトだけの秘密だ」
「ふふ、ハンジさんはまず怪我を治してくださいね。」

そう言うとハンジは腑に落ちない感じだったが2人の覚悟は伝わってきたのでそれ以上は野暮だと思い追求はしなかった。










エルヴィンの意識が戻ったという連絡を受け、リヴァイとマコトが見舞いに行くと起き上がっていた。

「リヴァイか。マコトも、調子は大丈夫か?」
「はい。 団長も・・・腕は?」
「なんとか大丈夫そうだ。」
「目が覚めていきなり悪いが、すこし状況が動いてな。・・・マコトの件だ。」

ライナー達がマコトを連れていこうとした理由である故郷の話をし、エルミハ区でリヴァイとニック司祭の話した《救世主》の話、そしてマコトの帰り方を話した。





エルヴィンは頭を整理しているらしく、マコトはでも・・・と首を傾げる。

「アンナさんが来たのが確か20年ほど前・・・って事はアンナさんにも焼印があるって事ですよね?」
「見た事あるのか?」

リヴァイがエルヴィンに聞くと、

「・・・そう言えば、マコトとは場所が違うが確か太腿に・・・本人は火傷だと言っていたが・・・」
「太腿・・・」

そう言うとマコトは何かを察してわあ、と呟いて顔を赤くすると、エルヴィンもしまったと言うようにゴホン!と咳払いをする。

リヴァイは何も言わずに相槌を打つとわざとらしくマコトの腰を撫でると

「おいマコト、股関節は大丈夫か?」

突然の質問にマコトはえ?とリヴァイを見ると理解したのか、顔を赤くして口をパクパクするとエルヴィンがぶはっと吹き出して大笑いする。

「おいリヴァイ、傷口が痛むから笑わせないでくれ」
「これで相殺だなエルヴィン。」
「リヴァイさんだけ無傷だ・・・ずるい・・・」

マコトは赤くなった顔を手で覆うとエルヴィンはくすくす笑う。

「・・・まあしかし、その救世主の一族はノアが最後。 アンナは同じ一族でマコトと同じように前世がこの世界だったのかもしれないな。しかしアンナはあの通り戦闘の知識がない。頼れるのは、マコト・・・君だけだ」
「そうなるとアンナもウォール・マリア奪還後帰るかもしれねぇが、良いのか?」
「その前に、ウォール・マリア奪還後に俺が生き残ってるかどうかも分かない」

悲しそうにエルヴィンは笑うと、マコトはベッドに身を乗り出すと

「駄目です!全員無事に穴を塞いで、元の生活に戻りましょう!・・・そこには、私はもう居ないかもしれませんが、自分が何のためにここに来たのか分かった以上・・・最後まで役目を果たします」

そう言い切るとエルヴィンは驚いたが笑うと

「ああ、引き続き頼むよ。マコト」
「はい! ・・・えっと、変わらず私などがリヴァイさんの副官でいいんですかね・・・」

恐る恐る2人を見ると

「俺はお前以外を副官にはしねぇよ。」
「ああ。憲兵の鼻を折ると勢いじゃないとリヴァイにはついていけんよ」


エルヴィンですらあの時の事は筒抜けらしい。
マコトは頭を抱えるとエルヴィンは笑い

「あれからナイルに説明するのが大変だったよ。事情を話したら女性に手を出すのも言語道断かつ、ロイドは喧嘩を売る相手を間違えたから自業自得だ ≠ニ笑っていたよ」
「団長にまでご迷惑を・・・!」

ガンガンとベッドの縁に頭を打ち付けているとリヴァイがマコトの頭をガシッと掴んでそれを止めると

「・・・とにかく、俺の班を再編成だ。」
「ああ、私も調子が良くなってきたからな。そろそろ復帰出来るぞ」


するとドアがノックされ、マコトがドアを開けると

「アンナさん!」

マコトはパッと顔を明るくさせるとアンナは血相を変えて肩を掴むと

「久しぶりねマコト! ねえ、エルヴィンさんは?!大怪我をしたって・・・」
「アンナ、俺は大丈夫だよ」

柔らかい口調でそう声を掛けるとアンナはエルヴィンの姿を見て涙をためる。

その2人の様子を見てマコトとリヴァイは目を合わせると

「じゃあエルヴィン、また明日顔を出す。たまにはゆっくり休め」
「じゃあ団長、アンナさん、失礼します」


ごゆっくり、と込めてマコトは笑うと静かにドアを閉めた。

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