ー夜のエルミハ区
季節は冬になりかけているこの時期、夜は冷えて口から出る息は白くなっていく。
「(マコト・・・)」
リヴァイは名前を呟けない代わりに吐息を漏らすと壁の上がざわつき始めた。
「おーい!帰ってきたぞー!」
駐屯兵のその叫び声にリヴァイは顔を上げた。
心臓が跳ね上がると同時に門がゆっくりと開かれていく。
「リヴァイ兵長、ニック司祭は私が。彼は調査兵団支部の地下牢へ連れていきますね。」
「ああ、頼む」
近くにいた調査兵がそ言うと、リヴァイは手汗の出る手を握りしめて門へ近づいた。
「っ、マコト・・・」
そこには、疲弊しきったマコトとその腰に腕を回して相乗りしてきたエルヴィンだった。
暗くてよく見えないがリヴァイは震える足で2人に近づくと息を呑んだ。
「おい、エルヴィン・・・お前・・・」
エルヴィンの右手が無くなっていた。
リヴァイの声に目を開けるとフッと力なく笑うと
「戻ったぞリヴァイ・・・約束通り、マコトも一緒だ。」
「エルヴィン団長!」
「担架もってこい!」
控えていた医療班が慌ててエルヴィンを担架に寝かせるとすぐに病院へと向かった。
他にも負傷したジャンやミカサ、兵士を手分けして運んでいく。
ざわつく周囲の中、リヴァイはマコトを見上げて手を差し出すとマコトは手を取り馬から降りた。
寒いのか、マコトの鼻と頬は赤くなっている。
そのまま少し目線が上のリヴァイを見上げると一瞬泣きそうな顔になるが顔をフルフルと振ると足を揃えて胸に手を当てて敬礼する。
「マコト・マカべただいま、帰還しました」
「ああ。よく戻った」
そう言うとリヴァイは今すぐにでも抱きしめたかったが耐えるとマコトの頭にポン、と手を乗せた。
*
トロスト区へは明日の帰還になる。
この場合エルミハ区の兵舎を借りるのだがこの状況では軽傷の兵を収容するのに手一杯のためリヴァイは近くにいた兵士に
「俺達は無傷だ。宿屋を探すから他の奴らを兵舎に回してやれ」
「そ、そんな・・・で、では宿屋の手配をするので!」
「気を使うな。俺達で探す」
「・・・了解です」
そう言うとリヴァイとマコトは宿泊街のあるエリアへと向かったが、突然マコトの手を掴むと競歩ばりの早歩きで歩き始めた。
「うおっ!リヴァイさん?!」
マコトは転びそうになったが小走りでその背中を見つめる。
そして、人通りの少ない路地に連れ込まれると腕を引き寄せられて強く抱きしめられた。
苦しいほどに抱きしめられ、マコトはリヴァイの暖かさに涙が零れた。
「マコト・・・おかえり」
「リヴァイさ・・・うっ・・・うあああん、ただいまあああ!」
マコトは大泣きしてリヴァイの背中に腕を回すと思いっきり抱きついた。
しかし、さすがのリヴァイも呻くと
「ぐ、マコト・・・背骨が折れる・・・」
「ご、ごめんなさい!つい・・・」
お互い抱き合ったまま顔だけ離すとマコトは真っ赤になって謝る。
そんなマコトにリヴァイは頬を擦り寄せると
「寒くないか?」
「た、たしかに・・・」
「それにお前、この首どうした」
首?そう言えばライナーにナイフを当てられていたのを思い出した。
「まさか、首を切られそうになったのか?」
「く、口封じだって・・・頭を殴られて気絶させられたけど」
「・・・どこだ?」
「右のこめかみ・・・」
リヴァイはそっと触れると、確かにこぶができていた。
悔しそうに眉を寄せると
「ライナーだったか、次会ったら俺が仇を打つ」
「う、うん・・・ありがとう。」
「首は?痛いか?」
「血が固まったから・・・平気だよ」
「宿屋に行ったら治療するか」
リヴァイは肩に掛けていた上着を脱ぐとマコトの肩に掛けてやる。
「い、いいよリヴァイさんっ!私ジャケットあるし・・・」
「俺は平気だ。それより、長時間外に居たんだ。風邪を引くだろう」
「それを言うならリヴァイさんも・・・!」
リヴァイはまた上着ごと抱きしめると
「じゃあ宿屋に着いたら暖めてくれ」
「へ?」
「ほら、行くぞ」
指を絡ませて手を繋ぐと、マコトは顔を真っ赤にする。
このように恋人らしく歩くのは久しぶりでマコトは嬉しくなり手を繋いだままリヴァイの腕にしがみついた。
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