「ん、んんー!」
「うっ・・・たた・・・」
起きると頭が激しく痛み、目を開けるとまた場所が変わっていた。
・・・しかも今度は薄暗い中で揺れている。
先程から肩に来る衝撃は何なのか・・・顔を上げると口を布で縛られたエレンが膝でマコトを蹴って起こしてくれたらしく、ベルトルトがこちらを見て驚くと、
「ああぁ、もう・・・!」
暴れる人間がまた増えた・・・と言いたいかのようにベルトルトはため息をついた。
「んんー!」
「ここ、どこ?ベルトルト、答えなさいよ!」
「教官!」
するとどこからか、クリスタの声が聞こえた。どうやら外らしい。
ユミルはクリスタと合流できたようで少し安心すると
「クリスタ、無事なの?!」
「はい!」
「って言うか、ここどこよ・・・」
「さっきの森は抜けて、今は逃げてる・・・」
ベルトルトのボソボソとした喋りにマコトは眉を上げると
「はぁ?!ちょっと!早く出しなさいよ!」
「んんー!んー!」
「エレン、教官!暴れるな!」
マコトとエレンが拘束されながらベルトルトを蹴り、エレンは背後から体重を掛けていると
「そりゃ無理があるぜベルトルト、そいつをあやしつけるなんて不可能だろ? それにお前だってキレた教官が怖いって分かってるはずだ!」
外からジャンの声が聞こえてきた。
「よーく分かるぜ!俺もエレンが嫌いだからな!一緒にシメてやろうぜ。まあ、出てこいよ」
「ベルトルト、返して!」
「なぁ、嘘だろ?ベルトルト、ライナー・・・今までずっと、俺達の事騙してたのかよ?そんなの、ひでぇよ!」
「2人とも、嘘だって言ってくださいよ!」
外にはジャン、ミカサ、コニー、サシャが居るようだ。
「おいおいおい、お前らこのまま逃げ通す気か?そりゃねぇよお前ら。3年間、一つ屋根の下で苦楽を共にした仲じゃねぇか。ベルトルト、お前の寝相の悪さは芸術的だったな。いつからか、みんなお前が毎朝生み出す作品を楽しみにして、その日の天気を占ったりした。」
ベルトルトの寝相の悪さは、マコトも話では聞いていて今日の寝相はこんな感じだったと教えて貰ってはよくイジっていた。
そのイジられっぷりでいつもベルトルトは顔を赤くして・・・それでまた皆でからかった日もあった。
巨人を倒すにはどうしたらいいか話し合った夜、おじさんになって、教官も混ぜて皆で酒を飲もう。
そんな約束もしていた。
「なあベルトルト・・・あんな事した加害者が、被害者たちの前でよくぐっすり眠れたもんだ」
「なあお前たち、今まで何考えてたんだよ・・・」
「そんなの分からなくていい」
ミカサはブレードを構えると
「いまは、こいつの首をはねることだけに集中して。一瞬でも躊躇すれば、もうエレンも教官も取り戻せない。・・・こいつらは人類の害。それで十分」
するとベルトルトは目を閉じて歯を食いしばると
「だ、誰が・・・人なんか殺したいと、思うんだ!」
振り絞るように出されたベルトルトの声に全員が押黙る。
「誰が好きでこんなこと・・・こんな事したいと思うんだ!人から恨まれて、当然の事をした。取り返しのつかない事・・・でも、僕らは罪を受け入れきれなかった。兵士を演じている間だけは、少しだけ楽だった。嘘じゃないんだ!コニー、ジャン!確かに皆騙したけど、全てが嘘じゃない!本当に仲間だと思ってたよ! 僕は、強い教官に憧れてたし尊敬してる! でも僕らに、謝る資格なんてある訳ない・・・けど、誰かお願いだ。誰か僕らを、見つけてくれ・・・!」
涙を流しながらそう言い切るが、ミカサはライナーの手の隙間からベルトルトを睨みつけると
「ベルトルト、エレンと教官を返して」
「ダメだ、それは出来ない・・・誰かがやらなくちゃいけないんだよ。誰かが、自分の手を血で染めないと・・・」
すると遠くから一旦離れろ!という叫び声が聞こえ、しばらくすると大きな振動とライナーの雄叫びが響く。
「な、なに・・・?!」
ライナーの手の隙間から覗き込むとマコトはいきを飲んだ
「巨人・・・?!囲まれてるの?」
「ぐっ・・・」
四方から巨人に囲まれて身動きが取れないらしい。
手を使えばいいが両手はベルトルトとエレン、マコトを守っているため外す事は出来ないが、ベルトルトはマコトを見て
「教官、死にたくなかったら捕まって!」
ベルトルトがマコトの腹に腕を回した瞬間視界が開け巨人の群れに囲まれていた。
「ひっ・・・」
するとライナーが巨人を殴りつけて先へ進もうとする。巨人の群れの一部は調査兵団に向かい、巨人の群れをかいくぐってミカサがこちらへ向かってきた。
とっさにベルトルトはミカサの攻撃を避けたが、ミカサは後ろにいた巨人に捕まってしまった。
ミシ、という音がミカサの肋骨から聞こえると
「う、あああっ!」
「ミカサ!」
「くそってめぇ、離しやがれぇ!」
ジャンが巨人の目にブレードを突き刺すと力が弱まった。
「やっとここまで来たんだ・・・エレンと教官を連れて、故郷へ帰る!」
「ベルトルト!」
すると、アルミンがこちらに向かって着地した。
アルミンはじっとベルトルトを見つめると、にや・・・と見た事ないほどのゲスい笑顔を見せると
「いいの?2人とも・・・仲間を置き去りにしたまま故郷に帰って・・・アニを置いていくの?アニなら今、極北のユトピア区地下深くで拷問を受けているよ?彼女の悲鳴を聞けばすぐに、身体の傷は治せても痛みを消すことが出来ないことが分かった。」
エレンはアルミンの口走っている言葉に耳を傾けることしか出来ない。
これは2人対しての作戦だ、マコトはその作戦に乗ろう、とベルトルトを見ると
「嘘じゃないよ?ハンジ分隊長が、死なないように細心の注意を払って巨人化の実験もしてるんだよ。この間の報告書では、腕を切り落としてからの回復時間を実験してたかな・・・」
「そう。今この瞬間にも、アニの身体には休む暇もなく様々な工夫を施した実験と拷問が・・・」
その瞬間ベルトルトは怒りを露にして叫ぶと、アルミンに
「悪魔の末裔がッ!!根絶やしにしてやる!!」
穏やかなベルトルトらしくない怒号で叫び始めた瞬間、下からエルヴィンが立体機動装置で飛ぶとブレードでエレンとベルトルトを縛り付けていた紐を切った。
飛んで行ったエレンをミカサがキャッチし無事なのを確認するとマコトはエルヴィンを見つめる。
しかし、その右腕は無くなっておりマコトは目を見開いた。
「エルヴィン団長?!」
「マコト!来るんだ!」
「教官!捕まって!」
マコトはベルトルトに肘打ちを食らわせて怯ませると、アルミンに手を伸ばす。
そのままアルミンがマコトを抱えるとすぐにワイヤーを下ろしマコトをエルヴィンに届けその流れでアルミンは自身の馬に飛び乗ると
「総員撤退せよ!」
その合図で全部隊が来た道を引き返す。
併走している兵士にブレードで拘束された手首の紐を切ってもらい、足首の紐を解きマコトは馬に跨る体勢に直すとエルヴィンを見る。
「エルヴィン団長、腕が・・・何で?!」
「奇行種に噛まれてな、情けない」
その顔色は悪く血を多く失っているのだろう。
マコトはエルヴィンの手から手綱をふんだくると
「団長は私に捕まってください!」
「ああ、すまない・・・」
エルヴィンはマコトの腹に左腕を回し背中に額を乗せた。
マコトも大分暴れたせいで髪が乱れたのでそのままピンを外すと三つ編みが風に乗る。
「リヴァイが、君の事をすごく心配していたよ・・・大暴れするくらいにね・・・帰ったら顔見せてやりなさい」
「っはい・・・!団長も、元気になったらアンナさんの所へ行ってくださいよ?」
少し沈黙があったあとエルヴィンはははっと笑うと
「そうだな。彼女の歌が聴きたくなったよ」
そう言うとエルヴィンは目を閉じた。
*
しばらく走っていると何かが飛んでくる音が聞こえた。
マコトは上を見上げると人の形をしたものがこちらの進路方向へと着地しようとする。
「巨人が降ってくるぞ!」
マコトがそう叫ぶと数メートル先で巨人が落下し、馬を止めたが巨人が落ちた衝撃で岩が飛んできた。
そのままマコトとエルヴィンは落馬して身体を強く打ち付ける。
「ぐっ」
「団長?!大丈夫ですか?!」
「あ、ああ・・・鎧の巨人は、巨人を投げてきたのか・・・」
すると巨人がこちらに向かって歩いてきた。
「団長を守れ!」
そう叫んで兵士が応戦していく光景をマコトは眺めるしか無かったがはっとしてエルヴィンを見るとエルヴィンからブレードを取り上げて迫り来る巨人に向けた。
「マコト、私の立体機動を外すんだ・・・」
「そんな・・・」
「私は今こんな状態だ、まともに動かせない。」
「・・・分かりました。」
マコトはエルヴィンの立体機動装置を外すと動作確認をすると構え、目を閉じると
「(ノアさん、力を貸して)」
一瞬起きた頭痛にマコトは眉をしかめる。
憑依されたかのように口と身体が勝手に動くとブレードを肩にトン、と置く。
「−エルヴィン団長、大丈夫?」
そう聞かれ、エルヴィンは顔を上げると目を見開いた。
そこには翡翠の目をしたマコトが肩をブレードで叩きながらこちらを見下ろして微笑んでいる。
ノアがよくやっていた癖だ。
「・・・ノアか?」
「お久しぶりですね、団長。 久しぶりの再会ですが・・・うわぁ腕、痛そうっすね」
「はぁ、痛いなんてもんじゃないぞ・・・いいから助けてくれ」
相変わらず呑気だ、とエルヴィンはため息を着くとノアは笑って
「はーい、いくよマコト」
そう言うと、意識を戻したマコトはそのまま巨人に向かって脚にアンカーを突き刺すと腱をきり、そのまま股をくぐると今度は額にアンカーを刺し込む。
巨人の腹をワイヤーを巻取りながら駆け上がるとブレードで両目を潰しそのまま頭上までいくと身体を捻らせてうなじを切り落とした。
驚く程、身体が軽く巨人の動きが遅く見える。
そのまま倒れていく巨人から退くと、近場にいた巨人にアンカーを刺して伝っていくとうなじを削いでいく。
「う、うあああ!」
聞き覚えのある叫び声が聞こえてマコトは振り向くとアルミンと気絶したジャンに向かって巨人が近づいて来ていた。
そして遠くでも負傷したミカサとエレンを守ってハンネスが奮闘しているが捕まって巨人の口の中に入れられた。
「あ・・・」
1人で壁外へ行く時、見送ってくれたハンネス。
彼はエレン達と昔馴染みで息子たちのようだと笑っていた。
きっと、エレンとミカサを守るために戦っていたのだろう。
マコトは悔しさに歯を食いしばり、どうすればいいか頭を瞬時に動かした。
エルヴィンには他の兵士が付いている、ここからの最短距離はアルミン達だ。しかし、優先順位はエレン・・・
「アルミン!持ちこたえて!すぐ行くから!」
そう叫ぶとまずはエレン達の近くにいる巨人をまず倒さねば、とマコトは全力で走ってアンカーを出そうとした瞬間、突然巨人全員がハンネスを食べた巨人に向かって群がり始めた。
「なに・・・どういうこと・・・」
「マコト!」
遠くからエルヴィンの声が聞こえてエルヴィンを見る。
「撤退だ・・・!」
「了解!」
ブレードを仕舞い、エルヴィンに駆け寄る。
エルヴィンが指笛を吹くと愛馬が駆け寄りエルヴィンを乗せるとマコトも前に乗った。
「この機を逃すな、撤退せよ!」
途中でユミルがライナーの所へ向かっていくのが見えた。
・・・一瞬だが、ちらりとユミルはマコトを見た気がしたが、マコトはそのまま前を向いた。
それから、ライナー達が追ってくることはない無かった。
「ぐ・・・」
ノアの力は強いが、収まった頃にはとてつもない倦怠感が襲う。思わず落馬しそうになるがグッと目を閉じて目眩が収まると前を見る。
今はエルヴィンを乗せて居るのだ、ここで落馬する訳には行かない。
しかし、帰りは不気味なほど静かで、巨人と遭遇しなかった。
マコトはノアの力を使った反動か、体力の限界が近づいていたがそういえば・・・と近くにいたコニーとサシャ、ヒストリアに向かって
「ねえ、そう言えばミケさんとナナバさん達は?見てないんだけど・・・あなた達の監視をしてたよね?」
そう言い切ると3人は暗い顔になり俯いた。
確かあそこにはミケ班という精鋭が揃っていたはずだ。
まさか、巨人に殺られたのか?
「え・・・リーネさん、ヘニングさんも?ゲルガーさんも・・・皆・・・?」
「ミケさんは1人で村に残りました・・・それからはどうなったか・・・リーネさん、ヘニングさん、ゲルガーさん、ナナバさん達はウトガルド城の巨人を一掃してくれましたがガスも刃も切れて・・・」
涙で視界が揺れ、歯を食いしばった。
ほんの少し前・・・ナナバはマコトに立体機動を教えてくれた。厳しくも、優しい人だった。
ハンジと一緒に飲みに行った日も2人でマコトとリヴァイについて根掘り葉掘り聞いてきては恥ずかしそうに叫んでいたり・・・
厳しい立体機動の指導がが終わったあとは
《マコト、もう十分立体機動をものに出来てるよ。 あとは瞬時の判断と仲間との連携。それさえ守れればマコトはどこまでも強くなれる。・・・死ぬんじゃないよ》
「っ・・・そう、3人も辛かったよね。よく持ちこたえてくれた」
マコトはそう笑いかけると手綱を握って前だけを見つめた。
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