51:森の中で

振動で目を覚ました。

誰かに抱えられて立体機動の音が聞こえる。
前にも同じような事があったような・・・マコトは目だけ動かす。

「(リヴァイさん?)」

いや違う。
リヴァイのような細身ではなくしっかりとした胸板が振動の度にぶつかる。

「ライナー・・・?」
「教官、やっと起きたか」

ライナーはほっとした顔で普段通りの笑みを浮かべる。

「エレン?」

エレンはライナーの背中に縛り付けられているらしく気絶している。まさにおんぶにだっこの状態だ。
マコトもまた腕と足首を拘束されており動けない。

「ど、どういう状況なの・・・」
「教官、大人しくしといた方がいいと思うよ」

ユミルの声が聞こえてマコトはハッとすると

「ユミル、あなた大丈夫なの?」
「ああ。お蔭さまでな」

修復する巨人の能力のおかけだろう。ユミルの普段通りの声が聞こえる。

しかしここは、巨大樹の森だろうか?

「調査兵団が追ってきたからな。俺たちは今逃げてる」
「逃げるって・・・どこに逃げるの?壁の中なんてすぐに見つかる」
「壁の外だよ、教官」

壁の外・・・
マコトは首を傾げると

「壁の外なんて、巨人だらけなのに・・・」
「俺達の故郷は壁の外にある。教官の故郷もきっとそこだろう」
「何度も言うけど、私の故郷はあなた達とは違う」

そう言い切るとライナーはほぉ、と見下ろすと

「じゃあ、どんな所だ?」
「それは・・・」
「思い出せないだろう?・・・それとも、隠してるのか?」

マコトは眉を寄せて俯く。

「色々疑問があったんだよ。教官の動きは俺達の故郷の戦い方に似てるからな。・・・なあ、俺達の故郷じゃないって事は教官はどこから来たんだ?」
「分からないよ・・・」


目を閉じてそう答えると、ライナーはそれ以上は追求はせずに笑みを浮かべると

「まあ教官なら、俺達の故郷でも上手くやれるだろ。何か思い出すかもしれないしな? ・・・そうだ、俺達の戦士長に会わせよう。」
「戦士長・・・?」
「ああ。戦士長は強くて頭もいい。 マコト教官も可愛いし、もういい歳だろ?きっと気にいられる。戦士長の嫁さんにしてもらえば・・・」
「・・・ライナー、何言ってんの?」

マコトは怒りを抑えながら低いトーンでライナーを見上げる。
・・・もしこのまま、その故郷に連れていかれたとしたら二度とリヴァイには会えない。

自然と涙が流れて唇を噛む。


「(リヴァイさん、会いたい・・・)」


パンッ


突然何かを打ち上げる音が聞こえ、ライナーが振り返る。マコトもライナーの身体で見えなかったが視界の端で緑の信煙弾が打ち上がるのが見えた。


調査兵団が、近くまで来ている。


それを見たユミルがライナーに

「ライナー!クリスタだ!クリスタがそこまで来ている!」
「は?」
「連れ去るなら今だ!」
「なぜ分かる?見えたわけじゃねぇだろ!」
「絶対にいる!あいつは、バカで度を越えたお人好しだ!私を助けに来るんだよ、アイツは!」

そう叫ぶユミルにライナーは

「もしそうだとしても、今は無理だ!別の機会にする!今は成功する可能性が低いだろ!どうやってあの中からクリスタを連れ去るんだ?機会を待て!」
「は?機会を待つ・・・?そりゃ私が、お前らの戦士に食われた後か?駄目だ!信用出来ない!」

戦士?食われた後?
マコトは2人の会話についていけずただ傍観することしか出来ない。

「約束する!クリスタは俺たちにとっても必要なんだ!」
「じゃあ今やれよ!今それを証明して見せろ!私は今じゃなきゃ嫌だ!今、あいつに会いたい・・・!このままじゃ、二度とアイツに、会えないんだろう?」

涙ながらにそう叫ぶユミルの声にマコトは自分とリヴァイを重ねた。

女型の巨人の時もそうだ、マコトは最後にリヴァイの姿を目に焼き付けたかった。


きっとリヴァイは足を負傷しているのであそこには居ないはずだ。いやむしろ、来て欲しくない。


“帰る場所がないって言ったな、お前”

“お前の帰る場所が俺じゃ嫌か?”

“マコト、お前もその能力を使って俺の代わりに巨人をぶっ潰してこい。そして必ず帰還しろ。・・・いいか。これは、上官命令だ。”


何としてでも帰らなければ、とにかく今はユミル側についた方がいいと判断し好機を伺う。

「・・・ムリだ。すまないユミル。今は僕らだけでも、逃げ切れるかどうかわからない状況なんだ」
「約束する!クリスタだけは、この争いから救い出すと! 俺たちが必ず!だから今は耐えてくれ!」


しばらくするとユミルはベルトルトの頭を掴んで暴れ始めた。

「この地形なら私が強い。 お前らの巨人よりかは非力だろうが、木を伝って素早く動ける。お前からエレンと教官を奪って調査兵団の所に行く事も出来る」

今ここでクリスタを連れていかないのならもっと暴れてやるとユミルは脅し始めた。

「クリスタの未来を奪う事になっても、私は生きてアイツに会いたい。私は本当にクソみたいな人間だからな、あんたらには分からないだろう?こんな人間だと知っても・・・優しく笑ってくれるんだぜ?」

するとマコトは拘束された拳でライナーにアッパーをすると

「ぐっ!」
「ライナー!ユミルの言うことを聞いて!っていうか、アンタらの一悶着に無関係な私とエレンを巻き込まないでよ!ついでに私を調査兵団に返しなさい!」
「教官、暴れんなって!落ちるぞ!」
「落ちてもいい!」

マコトはそう叫ぶとライナーを睨みつけて

「私の帰る場所は、リヴァイ兵長の元だ!」

そう叫ぶと3人は呆気に取られああ・・・とライナーとユミルが何かを思い出した。


「・・・教官、そういや好きな男がいるって言ったが、まさかリヴァイ兵長だったのか」
「こりゃ大物だな。あれからいい関係になれたのか」
「わ、悪い?!だからアンタのところの戦士長には興味無いね!リヴァイ兵長が1番カッコイイんだから!」

顔を赤くしながらそう叫ぶと、ユミルはため息をついて

「はぁ・・・惚気んなよ。あんなチビだったとはねぇ・・・」
「私よりかはチビじゃないし・・・」

ライナーは何かを考えたが

「残念だが・・・教官は聞いちゃいけないモンも聞いちまった。 連れていくしか無さそうだ」
「はぁ?!何で!」
「口封じだ」

そう言うとナイフを取り出してマコトの首筋に押し当てた。
グッ、と軽くだが力を入られて首筋に暖かいものが流れた。

ライナーは殺る気だ。
さすがにこれはまずい、とマコトは硬直してライナーを見上げた。

「俺達に付いてくるか、ここで死ぬか。選んでくれ」
「は・・・」
「時間が無い!急ぐんだ!」
「死にたいわけないじゃない!アンタらめちゃくちゃすぎ・・・ぐっ」

ライナーはマコトのこめかみを柄で殴ると突然視界がブレてぐったりとした。

力の抜けたマコトを抱え直すとユミルはため息をつく。

「ライナー、お前・・・元々殺す気なかったろ?」
「ああ。 脳には影響無い程度にしといた。 ほら、クリスタを連れてくんだろう?」


そう言うとユミルは作戦を伝えた。


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