49:失言と故郷
南西の壁近くにある古城・・・ウトガルド城。
太陽が顔を出し空は明るくなってきた。


「あれがウトガルド城、だけど・・・」
「巨人が・・・!」

多数の巨人が群がっておりハンジは手を広げると

「全員散開! 巨人が群がっている場所を一気に叩くよ!」
「はい!」
「全員、立体機動に移れ!」

ハンジの指示により全員が飛び立つと巨人を一気に叩き始める。

「マコト、行くよ!」
「はい!二ファさん!」

二ファとペアを組み、二ファは巨人の脚を斬るとマコトが項にとどめを刺す。

「いいよ!その調子!」
「ありがとうございます!」

蒸発する血を拭うと

「(大丈夫、大丈夫。ナナバさんが教えてくれた通りに・・・!)」

マコトは震える手でブレードを掴むとアンカーを出して二ファの後を追った。





粗方巨人を討伐しているとそこにはクリスタと・・・血にまみれたユミルが倒れておりマコトは二ファに声をかけると崩れた崖に足を取られながらも駆け寄った。


「クリスタ!」
「教官!」
「ユ、ミル・・・うそだ・・・」

腹が抉られて脚も腕もない・・・普通なら即死のはずなのに生きている。
ユミルの顔を見るとエレンと同じような巨人化した跡があり身体は僅かだが蒸発している。

ユミルも、エレンとおなじ巨人のひとりだった。
104期の中にまた1人巨人が混ざっており驚きと戸惑いの中ユミルを見守る。

クリスタは泣きながらユミルの手を取ると

「ユミル、私の名前・・・ヒストリアって言うの」



ヒストリア・レイス


ウォール教が監視している人物の名前だ。

それがクリスタの本名だった。






***






雨が降ってきた。
壁に上がってきたハンジ班達は負傷したユミルを担架に載せ引き上げる。
クリスタことヒストリアはハンジにユミルに害はない・・・と説得しているがこの件に関しては我々だけでどうにか出来る問題ではなく、複雑なことが多すぎる。

ハンジは何かを考えながら昏睡状態のユミルをトロスト区の医療機関に連れて行くよう二ファ達に指示をする。




「教官」

エレンが手を差し出してきた。
慣れない壁を必死に上がってきたマコトは嫌な汗をかいた。
ロープを掴んで登ることや降りるのは得意だが、こう言った装置で上がるのは怖いものがある。

「あ、ありがとうエレン・・・よいっしょっと」

先に上がっていたライナーはウトガルド城で巨人と攻防戦をした際に巨人に腕を噛まれてしまった。
幸いちぎれず、骨折だけで済んだのが幸いだが完治までは数ヶ月は要するだろう。

「ライナー、腕の調子は?」
「ああ・・・めちゃくちゃ痛てぇすよ・・・」

苦笑いするライナーの肩に手を置くと

「とにかく、ユミルと一緒にトロスト区の医療機関へ行きなさい。 ・・・無事でよかった」

マコトは泣きそうな顔でライナーを見つめると、ライナーは驚いたがフッと笑い

「教官こそ、無事でよかったですよ」




そんなマコトを、ベルトルトはじっと見つめていた。







− 訓練兵時代 −


「うわっ!」
「ベルトルト、身体が大きいんだからもっと自信を持って攻めなさい!」
「は、はい!」

組手の訓練でライナーに飛ばされて尻もちをついているベルトルトに、マコトはそう声を掛けて腕を引き上げた。

「教官は、なんでそんなに強いんですか・・・?」
「えぇ?んー・・・小さい頃からやってるから・・・かな?」

記憶喪失なのは全員周知の上だ。
曖昧にマコトは笑うとライナーは一瞬探るような目になったが普段通りの目付きに変わると

「記憶喪失だったか・・・一体どんな感じなんです?」
「そうだな・・・初めてエルヴィン団長に会った時は、何喋ってるか分からなかった」
「・・・ほかに、過去の記憶を思い出したりとかは?何か手がかりみたいなのは」


手がかり・・・マコトはどうせ信じないだろうと笑うと

「人を乗せて空を飛ぶ装置があった・・・とか?」
「っ!」
「空を飛ぶ・・・装置・・・?」

ライナーとベルトルトは信じられないと言った顔で顔を見合わせるとマコトは笑って

「あはは!嘘だよ!夢で見ただけ、そんなのあったらみんな空の上に住んじゃうって」
「あ、ああ・・・そうだよな・・・教官、想像力豊か過ぎるぜ。なあ、ベルトルト」
「うん・・・ビックリしたよ」



・・・この時、マコトはとんでもない失言をした事など気づきはしなかった。







突然故郷に帰れるんだ、と言い始めたベルトルトに対してライナーは

「ああ、ベルトルト・・・あともうひと息の所まで来てるんだったな。」

突然よく分からない会話をし始める。
するとライナーはマコトを見下ろすと、

「・・・なあ教官、教官も故郷に帰りたいとか思ったりはしないのか?」

突然の振りにマコトはえっ?と驚く。
故郷・・・マコトにとっては途方もない先の未来にある物だ。

巨人に殺されかけてしまい、精神的に参ってしまったのか?マコトは曖昧に頷いて

「まあ・・・記憶はないけど、帰れるもんなら帰ってみたい・・・でも、私はここでも幸せだから」
「そうか・・・」
「はぁ?何言ってんだ、お前ら・・・?」

そうエレンが首を傾げると、マコトはきっと疲れてるんだよとエレンを嗜めた。



コニーの故郷へは別の部隊を向かわせる事になった。
コニーは故郷のラガコ村へ避難指示をしに行った所、村人は居らず巨人が通過した後だったが、コニーの実家に身動きの取れない不思議な巨人が居たと言う情報が入ったからだ。

まずは壁の穴を修復する作業が優先だ。


「しかし、穴が空いている割に思ったより巨人が少ない・・・」

ハンジがそう呟くと、ハンネスが率いる駐屯兵団の先遣隊がこちらへ向かって走ってきた。
穴の位置を特定してくれた・・・ハンネスは立体機動で壁を上がると驚くべき事を言った。


「穴が・・・どこにもないぞ。夜通し探したが少なくともトロスト区とクロルバ区の間に壁の異常はない。」

クロルバ区の駐屯兵団とかち合ってここまで報告に来たらしい。


「んん・・・壁に穴がないのなら、仕方がない。一旦、トロスト区で待機しよう。」


ハンジの指示に全員が頷くと、撤退準備を始める。


「この5年間に無かったことが一度に起こるだなんて・・・」
「ほんと、この世界はどうなっちゃったんでしょうかねぇ」
「まさか、地下を掘る巨人が現れたんだとしたら大変だ」
「そうなると、位置を特定するのは困難ですね・・・」

アルミンとサシャ、ハンジ、モブリットの会話を聞きながらエレンと歩いているとライナーがエレンに声をかけた。

「エレン、ちょっといいか?話があるんだが・・・」
「何だよ?」
「俺たちは5年前、壁を破壊して人類への攻撃を始めた。俺が鎧の巨人≠チてやつで、こいつが超大型巨人≠チてやつだ。」

マコトは足を止める。

「は・・・?」
「俺たちの目的は、この人類全てに消えてもらう事だったんだ。だが、そうする必要は無くなった。エレン、お前が俺たちと一緒に来てくれるのなら・・・俺たちはもう壁を壊したりしなくていいんだ。・・・分かるだろ?」

何を言ってるんだ、思わず振り向くとライナーがマコトを見て


「そうだ、教官。教官も俺たちと故郷に帰ろう」
「・・・は?」
「俺の推測だけど、きっと教官の故郷は俺たちと同じ場所だ。 どうやって教官がここまで来たのか分からないが・・・もしかして、教官も巨人なのか?だとしたら、尚更俺たちと一緒に来てもらおう。」
「お前ら、何言ってんだ・・・?」
「ライナーあなたどうしちゃったの?私が巨人なわけないじゃない。」

一体どうしてしまったんだ、マコトは後退りをするとエレンにもとりあえず故郷に来てくれればことが治まると説明する。

どうだろうなぁ・・・とエレンは腕を組むが、もうエレンの頭の中は昨日から限界オーバーになっていた。

マコトもまた自分がライナーと同じ故郷、マコトも巨人なんじゃないかと言われ始めたりと頭痛がしてきたが、12時間前を脳内で巻き戻してみた。





サシャが持ってきたのは、アニの戸籍情報。
5年前の大型巨人襲来の際にずさんになり適当に扱われていたのたが、アニの他に同じ出身者が2名ほどいた。

それがライナーとベルトルト。

彼らは先の壁外調査で各班は偽の陣形を配られた。ライナーが渡された陣形・・・エレンが居るとされている場所は右翼側と記されていた。

そして女型の巨人が現れたのも右翼側・・・


当時の3人の交流関係についてハンジは聞く。
ライナーとベルトルトが同郷とは聞いてはいたが、3人がつるんでいるところは見た事がなかったしアニも基本、自分から喋るタイプでは無いので食事も一人で食べていたそうだ。
心を開いているのはマコトくらいしか居ないだろう。

「マコトは、どう?」
「そうですね・・・ライナーは年上ってのもあって皆の兄貴分みたいな。周りをよく見てて、危険な事は自分が真っ先に出るタイプでした。ベルトルトはどっちかというと、デカいのに内気でいつもライナーの後ろにくっついてたかな・・・」
「アイツは、人を騙せるほど器用じゃありません」
「それは僕も同じ意見です。現に壁外調査では、僕とジャンで女型の巨人と戦って危うく握り潰される直前で・・・」


そこでアルミンはハッとした

「あの時、ライナーは逃げられたんですけど女型の巨人は僕らを置いて方向転換したんです・・・エレンの方角へ・・・僕も推測でエレン中央後方だろうと言いましたがアニに聞かれる距離でもなかったし・・・」
「ライナーが、エレンの場所を気にする様子は?」

ハンジの質問にアルミンは目を見開いた。
ライナーは確かにあの時「じゃあエレンは、どこにいるんだ」と心配してるのかと思ったが・・・

中央後方の話をしたあと、ライナーは女型の巨人に掴まれたが脱出した。

その刻んだ手にエレンの場所を知らせたのではないか・・・とアルミンは推測した。


ハンジは全員に、もしライナーとベルトルトに会ってもこちらの疑いを悟られぬように振る舞うようにと指示を出す。

アニのことに関しても、一切触れぬように。
仮に彼女と関係がなくても彼らを地下に幽閉する必要がある。

「・・・全員、分かったね?」

ハンジの念を押す言葉に、全員は頷いた。



マコトは唸りながら12時間前の話を思い出していると、エレンは笑いながら

「お前さぁ、疲れてるんだよ!なあ、ベルトルト」
「そうだよライナー。出血もあって頭が動いてないんだよ。ねぇ、ベルトルト」

エレンはライナーの肩に手を置いて、マコトも普段通りのノリでライナーを見上げた。
ベルトルトも動揺しているのかライナーの肩に手を置くと

「あ、ああ・・・ライナーは、疲れてるんだ。」
「大体な、お前らが人類を殺しまくった鎧の巨人なら、なんでそんな相談を俺にしなくちゃならねぇんだ?・・・そんなこと言われて、俺がはい、行きます≠チてうなずくワケがねぇだろ。 マコト教官が巨人?はっ、リヴァイ兵長が知ったらお前、キレられて歯を全部折られるぜ?」

そう捲したてるようにエレンが言うと、ライナーはああ・・・と声を漏らす。

「その通りだよな・・・何を考えてるんだ、俺は。本当におかしくなっちまったのか?」
「ほら、行くぞ」

天気が本格的に荒れてきた・・・マコトは髪の毛を抑えてエレンと一瞬アイコンタクトを取る。

カンッと風に負けた旗が折れて壁にぶつかってどこかへ飛んで行き、強い風が雨雲を退けると太陽が見え始めた。


ライナーは俯きながら


「そうか・・・俺は、ここに長く居すぎてしまったんだな。バカな奴らに囲まれて、3年も暮らしたせいだ。俺たちはガキで、何ひとつ知らなかったんだ。こんなヤツらがいるなんて知らずにいれば・・・俺は、こんな半端な・・・クソ野郎にならずに済んだのに・・・。もう俺は、何が正しいのか分からん。ただ、俺がすべき事は自分がした行動や選択に対し・・・戦士として、最後まで責任を果たすことだ」



ライナーの骨折した腕は、もう完治していた。




「あ・・・」

傷が塞がるのを見つめるエレンとマコト。
逃げなければ、逃げなければ、マコトはエレンのフードをグイグイと引っ張るがエレンは動かない。

「ライナー、今やるんだな?!今、ここで!」
「ああ、勝負は今・・・ここで決める!」

ライナーがエレンに近づいた瞬間、ミカサが飛び出してブレードをライナーとベルトルトに向かって振り下ろす。

ミカサに吹き飛ばされたエレンとマコトは地面に尻もちを着くとミカサは


「エレン!教官!逃げて!!!」
「エレン!」

マコトもエレンを抱えて逃げ出したがライナーとベルトルトが巨人に変身する時同様発光し始める。

突風が襲い全員が吹き飛ばされ、エレンが手から離されてしまう。意識が飛びそうになるがハンジが大声で

「マコト!エレン!こっちに来るんだ!」


そう聞こえ、マコトは強風の中壁から飛び降りると立体機動を使い外側から経由してハンジの所へ逃げた。

ライナーがさっき言った通り、超大型巨人と鎧の巨人が現れ、捕まったエレンは巨人化した。
突然起こったその出来事に全員頭が追いつかなかったが、大型巨人の片手には昏睡状態のユミル・・・そしてまた手を振りかざしたので全員は壁から距離を置いたが、その手は今度マコトを掴んだ。

「マコト!!」

何故自分が、マコトは思い出した。


俺の推測だけど、きっと教官の故郷は俺たちと同じ場所だ。 どうやって教官がここまで来たのか分からないが・・・もしかして、教官も巨人なのか?だとしたら、俺たちと一緒に来てもらおう。

マコトはベルトルトを睨むとハンジに聞こえるようにこう叫んだ


「ベルトルト!私の故郷は、お前達とは違う場所だ!勘違いするな!」

ハンジはなんの事だ、と疑問に思った。
しかし、考える暇もなく超大型巨人はユミルを口の中に入れると

「そんな、マコト・・・!」

またマコトは巨人の口の中に放り込まれる。


「(ああ、また巨人の口の中か・・・それにしても、この大型巨人、ベルトルトか・・・熱すぎる。息ができない・・・)」


マコトは意識を手放した。


[ 51/106 ]
*前目次次#
しおりを挟む
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -