46:壁の中
エレンはアニに顔を蹴られたが、口で咥えて脚を離さなかった。
硬質化したアニの拳が何度もエレンの頭を殴りつけると、エレンは動かなくなりぐったりとしたその隙にアニは逃げようと試みたが、エレンはすぐに修復すると獣のように飛び跳ねながらアニの背中に食らいつく。

「エレン、自我が無くなってる・・・」

ミカサは慌ててエレンの所へ行こうとするが、ハンジがそれを止めた。今のエレンでは、ミカサですら殺してしまいそうなほどである。


エレンを振りほどいて、アニは指先を硬質化させると壁によじのぼり始める。

このままでは壁を乗り越えられて逃げられる・・・その瞬間ミカサが飛び出して壁を掴むアニの手をブレードで切り落とした。


そのままアニは地面へと落下し、エレンはアニの上に跨ると拳を振るい、うなじに向かって大きく口を開いた。

「まずい、あのままだと食い殺すぞ!」

マコトは飛び出そうとした瞬間、頭をポンと叩かれる。・・・隣を見ると立体機動装置を装備したリヴァイが居た。

「兵長!何で・・・」
「お前はさっき充分暴れただろう。俺が行く」
「えっ?ちょ、リヴァイ兵長!脚・・・」

本当に怪我をしているのだろうかという普段通りの身のこなしでリヴァイはエレンの元へ向かうが突然アニだった巨人の残骸が光始めた。

「な、何あれ?!」
「融合してる・・・?!」

その瞬間、リヴァイがエレンのうなじを切りつけエレンを引き上げた。



「くっそ、何なんだよ!ここまで来てだんまりかよ!アニ!出てこい!出てきてこの落とし前付けろよ!」

アニは全身を硬質化する事によって、調査兵団からの情報を守った。

ジャンは先程からずっとブレードで叩き続けているが、刃が削られていく一方で傷一つ付けれない。
見かねたリヴァイがジャンを止めると、ハンジの指示でワイヤーでネットを作ると調査兵団本部の地下へと運ばれることになった。


「マコト」
「はい」

もう自分の役目はないだろう。リヴァイはそう判断するとエルヴィンの所へ向かうと、そこには憲兵団のナイル達が控えていた。

エルヴィンとすれ違う時リヴァイは

「作戦成功・・・とは言えねぇな。」
「いや・・・我々調査兵団の首は繋がった。恐らく、皮一枚で」
「・・・だといいがな」
「私は今からストヘス区の区長と話をしてくる。あとは頼むぞ」
「了解だ」

そう返事すると、エルヴィンは手錠を掛けられたまま憲兵団に連行されて行った。





アニを地下へ管理するのを立ち会ったリヴァイ。
硬い結晶の中でアニはただ眠姫のように目を閉じてしまっている。

それを眺めながら、マコトはぽつりと

「・・・アニは何がしたかったんでしょう。エレンを、どうするつもりだったんですかね。この子は3年間・・・どんな気持ちだったんでしょう」

疑問ばかりが生まれる。
信じたくないことが現実となり、マコトは俯くとリヴァイは何も言わずマコトの背中をさすった。





地下から出ようとすると、ふらふらとハンジが入ってきた。

「ハンジさん?」
「ああ、2人ともここにいた・・・はは・・・」

その顔はとても憔悴しておりマコトはとりあえず、と地下の階段に座らせた。

「ハンジさん、疲れたでしょ?今日は休んだ方がいいです」
「いやそれが・・・とんでもないことが起きてね。さっき女型の巨人が壁によじ登ってただろう?あの壁が一部崩れたんだ」
「壁が・・・?」

少し崩れただけなら影響は無いだろうと思っていたがハンジの手は震えており掛けていたゴーグルを上にずらすと、

「壁の中から、巨人が出てきたんだ」
「・・・は?」
「巨人・・・?」
「あの壁・・・・・・全部巨人出できてるのかも。」


その壁をウォール教のニック司祭が慌てて光を当ててはいけないと言い、緊急で厚い布を何重にも被せた。
そこでハンジはニック司祭に壁について問い詰めたが口を割らなかったそうだ。

ーその結果、ニック司祭を調査兵団の管理下に置くことが決定された。



それからハンジを部屋に連れていこうと地下から出ようとするとまた今度は兵士が必死な形相でこちらに走ってきた

「チッ。何だよ、俺たちこのカビくせぇ地下からなかなか上がれねぇな」
「ほっ、報告です!12時間前に、ウォール・ローゼが突破され巨人が多数・・・!」
「何だって?!」
「104期の中に、犯人は居ない・・・?」

リヴァイは何も言わず階段を上がるとエルヴィンの居る団長室へ向かった。






ー 夜。
巨人の出現により急遽ウォール・ローゼ南方へ行くことになり、全員は装備や馬の準備をし始める。
待機させられていた104期生達は各班に別れ周辺住民への情報拡散、避難誘導をしに散らばっている。




松明を掲げ門の前で開門待機する間、エルヴィンが全員に指示をを飛ばす。


「ローゼ内の安全が確認できない以上、安全と言い切れるのはエルミハ区までだ。まずは全兵でエルミハ区へ向かい、そこから二手に分かれる。」

エルヴィンはハンジを見ると

「ハンジとは、エレン、ミカサ、アルミン3人の新兵と臨時で班を組んでもらう。頼むぞ」
「了解!」

荷馬車にはエレン、ミカサ、アルミン、リヴァイ、ハンジ、そしてニック司祭が乗ったことでアルミン達は戸惑った。なぜこのタイミングでウォール教が出てくるのか・・・アルミン達は首を傾げた。

副官であるモブリットとマコトは馬車を運転する役目だ。マコトはモブリットの隣に座ると門が開いた。


移動中、ハンジがなぜニック司祭を連れてきたのか理由を説明した。
壁の中に巨人がいる事をニック司祭は知っていた。その理由を話すか否かは・・・この状況を目で見てから判断するそだ。

リヴァイはジャケットの懐から銃をチラつかせると、

「質問の仕方は色々ある。俺は今、ケガで役立たずかもしれんが・・・こいつ1人を見張ることだって出来る。くれぐれも、うっかり身体に穴が空いちまう事がないようにしたいな。 お互い。」
「脅しは効かないよ、リヴァイ。もう試した。・・・私には司祭が真っ当な判断力を持った人間に見えるんだよ。もしかしたらだけど、彼が口を閉ざすには人類滅亡より重要な理由があるのかもしれない。」

そう言うと、もう誰も喋らなくなった。


しばらくすると、ハンジはポケットから石を取り始めそれを弄っていた。

それを見たリヴァイは眉を寄せて

「おいハンジ・・・・・・おい、クソ眼鏡。お前はただの石ころで遊ぶ暗い趣味があったか?」
「ああ、そうだよ」

ハンジの会話にマコトが隣にいたモブリットに小声で

「そうなんです?」
「え?初めて聞いたけど・・・多分あの石のことだろう」
「石・・・?」

振り向くと、ハンジは透明な不思議な形をした石を持っていた。それは水晶のような透明な石だった。

「これは女型の巨人の硬質化から出た石だよ」
「え・・・蒸発していない?!」

ハンジは顕微鏡で壁の破片とこの石を見てみると、模様や配列の構造までよく似ていたそうだ。
あの壁は大型巨人が支柱になり、その表層は硬質化した皮膚で形成されているという理論が出来てもおかしくはない。

何かに気づいたアルミンはじゃあ、口を開くがハンジがその顔を手で覆うと

「まった!言わせてくれアルミン! ・・・このまままじゃ破壊されたウォール・ローゼを塞ぐのは困難だろう。穴を塞ぐのに適した岩がない限りね。」

アルミンはうんうん、と頷きながら何かを喋っているがハンジがそれを許さない。

「でも、巨人化したエレンが・・・硬化する巨人の能力で壁の穴を塞げるのだとしたら・・・」

従来なら大量の資材を運ぶ必要がある。なので壁外に補給地点を作るしか無かったが、この能力をエレンが身につける事が出来るのならばウォール・マリアの奪還も明るくなる。

「それを夜間に決行するのはどうでしょう?」
「夜に・・・?」
「巨人が動かない夜にです」
「なるほど・・・少数ならウォール・マリアまで行けるかもしれない。」

ただし、これは全てエレン次第だ・・・
リヴァイはその話をただ無言で聞いていたがエレンを睨みつけると

「・・・できそうかどうか、じゃねえだろ・・・やれ。やるしかねぇだろ。こんな状況だ、兵団もそれに死力を尽くす以外にやる事はねぇはずだ。・・・必ず成功させろ」
「はい!」

そして、そのシガンシナ区のエレンの実家の地下室・・・そこでこの世界の全てが分かるはずだ。


エルミハ区へはもう少しだ。
荷馬車に揺られ、モブリットは手綱を持ちマコトは脚をぷらぷらとさせているとふとモブリットに小声で疑問をぶつけた。

「ねえ、モブリットさんはハンジさんの事どう思ってるんですか?」
「どうって・・・?」

これですよ、と手でハートを作ると途端にモブリットは顔を赤くして慌てて前を見た。

「わ、私はっ、分隊長が生き急ぎすぎてるので目が離せないだけだよ」
「へぇ・・・?」

本当にそれだけか?とマコトはモブリットをニヤニヤと見つめると

「う・・・だ、誰にも言わないでくれよ?」
「ふふ、私とモブリットさんだけの秘密ですね。あ、モブリットさんそろそろ代わりますよ」
「ああ、頼むよ」

あー暑い、と赤くなった顔を手で仰ぐモブリットを見てマコトは静かに笑うと手綱を握る。
あまり2人で話す機会が無いのでモブリットも小声で

「マコトこそ、リヴァイ兵長とはどうなんだい?」
「え?リヴァイさ・・・リヴァイ兵長とは・・・仲良くやってます」
「そうか。リヴァイ兵長も、君と出会ってからは少し表情が柔らかくなったような気がするよ。」

嬉しそうにモブリットは目を細めると、マコトは小声で

「昔のリヴァイさんって、どんな感じでした?」
「え?うーん・・・すごーく素っ気ない。」
「新兵でも?」
「うん。」

へぇ・・・とマコトは驚く。

「じゃあ・・・ノアさんってどんな人だったんですか?」
「ノアさん?そうだなぁ・・・ムードメーカーみたいな感じだったかな。 天真爛漫、人の悪口も言わない人だった。 あのリヴァイ兵長の頭を引っぱたいたのもノアさんだけだよ」
「えっ?」
「あれは5年以上前・・・まだ訓練兵団のキース教官が団長だった頃の話で・・・・・・」


モブリット思い出すかのように空に広がる星を見上げた。

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