リヴァイはミカサと連携して女型の巨人を追っていた。
ミカサが言うにはエレンのうなじに齧り付いてエレンを引き抜いて行ったそうだ。
脳裏にマコトが過ったが、彼女の事だ。冷静に対処してどこかに身を潜めているかもしれない…いや、そうであってくれとリヴァイは眉を寄せた。
ミカサが気を引き、女型の巨人の後ろを追うリヴァイ。その瞬間、突然女型の巨人が振り向いて拳をリヴァイに向けてきた瞬間、そのままリヴァイは女型の巨人の腕を回転斬りをしながら駆け上がり、アンカーを出すと両手のブレードで目を塞いだ。
女型の巨人はその瞬間うなじに手を当て木を壁にする。
リヴァイはそのままロックを外して刃こぼれしたブレードを捨て、素早く新しいブレードを引き抜くと全身を斬りつけようと空上がった。
すると、女型の巨人の口から突如出血が起こり、下がれ!とリヴァイは叫ぶとミカサは一旦距離を取る。
「な、なに・・・?」
「わからん、注意しろ」
すると、ブレードで口が切り裂かれ飛び出してきた人間がいた。
「教官?!」
「マコト?!」
マコトはエレンを小脇に抱えてアンカーを出して飛び出す。が、その目は閉じられている。
するとマコトは脇に抱えたエレンをミカサに向かって投げた。
「そこのあなた!この子持ってなさい!」
「エレン!」
ミカサはエレンをキャッチし、意識を確認する。エレンは怪我もなく息をしていたので思わずミカサはエレンを抱きしめた。
マコトはそのままリヴァイの前に着地して消耗したブレードを捨てるとまた構える。
突然の事で呆気に取られていたリヴァイだが意識を戻すと
「おい、マコト怪我は・・・」
「リヴァイ!ボケっとしてる暇はないよ!こいつ倒すんでしょ?!」
「・・・は?」
口調が違うマコトにリヴァイは何事?と目を見開くと、マコトは目を閉じたままだ。巨人の血が付いているせいかと思ったがそうでも無いらしい。
「今はこの子の身体借りてんの。・・・久しぶりだねリヴァイ。」
「? 誰だテメェ、マコトじゃねぇな」
顔だけこちらを向くマコトが目を開くと、その目は普段の茶色ではなく翡翠の色だった。
「やだなぁ、上司の事もう忘れちゃったわけ?悲しいなー」
上司、翡翠の色…そしてトロスト区で起きたマコトの出来事…すべてが繋がり、リヴァイは驚くと
「ノア、なのか?なんでお前、マコトの・・・」
「説明は後。 ほら、やるよ!私との連携忘れてないでしょうね?」
「・・・もう5年経ってるからな、分からん」
「はぁ?意地でも思い出しなさい!」
そう言うとマコトの身体を乗っ取ったノアとリヴァイは同時に空高く飛ぶとお互い交差しながら女型の巨人の身体を切りつけていく。
息の合った攻撃に女型の巨人は動けずされるがままだ。ミカサはその光景に圧倒されて見ている事しか出来ない。
「リヴァイ!」
「っおら!」
両手を出したノアの手を取ると、空中ブランコのようにリヴァイは遠心力を使ってノアを女型の巨人に向かって投げつけると一気に女型の巨人の両脇を切りつけて行った。
だらん、と下がった女型の巨人はそのままうなじを顕にしたのでミカサがとっさにうなじにアンカーを打ち付ける。
「よせ!」
そのままブレードを振り上げたが女型の巨人の二の腕が上がるのを見たリヴァイはとっさにミカサを突き飛ばした。
が、女型の巨人の腕がリヴァイの脚にぶつかり激痛が走り歯を食いしばると
「ぐっ・・・!おい、ずらかるぞ!」
木の上に着地するとリヴァイはマコトの鞄を掴み、ミカサにそう叫ぶとマコトが居ないことに気づきとっさに下を見た。
「マコト!」
力尽きたのか、マコトは地面に突っ伏していた。
「くそっ、何だってんだ!説明しろ!」
リヴァイは舌打ちをするとマコトを抱き上げてミカサと女型の巨人から逃げたが、女型の巨人は追いかけには来なかった。
ふわふわ
ワイヤーの音とガスの音が聞こえる。
目を開くと森の中だった。
誰かに抱えられており、その腕は見覚えのある…
「リヴァイさん・・・?」
「っ!マコト!」
リヴァイは木の上で一旦立ち止まりマコトを下ろした。エレンを抱えていたミカサも心配そうにマコトを見つめている。
「おい、何があった!」
「えっと・・・ペトラ達が・・・」
ペトラ
マコトはリヴァイを見上げると、そのリヴァイの顔も顔色が悪く眉を寄せていた。
「ああ、知ってる。アイツらは・・・よくやった」
「リヴァイさん、うっ・・・ふっ」
溢れた涙が止まらない。
リヴァイはマコトの涙を拭うと、
「・・・泣くのは後だ。まずは女型の巨人から逃げる」
「そういえば、女型の巨人はどうなったの?」
2人を見るとミカサは
「恐らく、マコト教官が食べられた後にエレンは巨人化しました。結果は女型の巨人に負けてしまい、エレンを口に入れて逃げる所をリヴァイ兵長と私が見つけて・・・リヴァイ兵長とマコト教官が2人で戦ったんです」
リヴァイとマコトが・・・
「え、私?」
「やっぱり覚えてないのか・・・。とりあえず、お前は、食われずにエレンと一緒に居たんだ」
「私、食べられなかった・・・?」
なぜあの巨人は食べなかったのか。なぜ自分が戦ったのか、その記憶はない・・・
リヴァイはまたマコトを抱えると
「とにかく、エルヴィン達と合流する」
「は、はい!でも私、立体機動で動けます」
「駄目だ。俺が連れていく。これは上官命令だ」
ピシャリと言われてしまい・・・仕方がない、とマコトは大人しく抱えられるとエルヴィンの元へ向かった。
森の出口で、他の部隊が待っていた。
途中荷馬車を引いてすれ違う兵士は、殉職者の遺体捜索、回収をしているそうだ。
リヴァイは途中すれ違った兵士たちに自班の事を話すと、泣きそうな顔になり頷くと必ず回収してみせます。と敬礼して指示された方向へと向かった。
そんな会話をマコトはリヴァイの腕の中で聞いていると部隊と合流してミカサはすぐにエレンを救護班に任せた。
リヴァイもマコトを抱えて着地しようとしたが
「ぐ・・・っ!」
「リヴァイさん?!」
左脚を着いた瞬間、マコトは体制を崩したリヴァイを咄嗟に地面に転ばないように庇った。
見かけによらず重たいリヴァイがマコトの上にのしかかり息が止まるが抱き起こす。
「うっ、リヴァイさ・・・兵長?!」
「いや、大丈夫だ・・・」
「大丈夫じゃないですよ、どこか怪我を・・・」
マコトはリヴァイの左足に触れた瞬間
「いッ・・・クソッ」
「まさか、脚・・・ちょっと脱がせますよ!」
マコトは目に涙を溜めるとそっとブーツを脱がせた。リヴァイの脚は内出血を起こして腫れ上がっている。
「女型の巨人とやりあった時に、しくじった」
「とっ、とにかく、手当・・・救急道具、借りてきますっ」
震える脚で立ち上がろうとすると、リヴァイはマコトの腕を掴んでそれを止めた。
その顔を見ると、悲痛に歪んで今にも泣きそうな顔をしていた。こんな表情は初めてだ・・・マコトはしゃがみこんでリヴァイと視線を合わせた。
「リヴァイさん・・・?」
「お前まで、死んだかと・・・」
リヴァイの手は、少し震えていた。
ー リヴァイが巨人化したエレンの声を頼りに進んで行った先は、ぶら下がったまま死亡しているグンタ、半分に千切られたエルド、踏み潰されたペトラ、地面に叩きつけられたオルオの姿。
そして、その先にはマコトの小銃が入った小さな革のトランクが枝にぶら下がっていた。
それを、リヴァイは震える手で掴んだ。
まさか・・・血の気がもっと引いて辺りを見渡した。
緊張で一気に口の中が乾き、手が震える。
手首を見れば、昨晩マコトに付けてもらった跡・・・それを見つめてからリヴァイは息を吸い込むと
「マコト!どこだ!」
返事はない・・・
どこかに飛ばされたのなら血が着いているはずがそれも見当たらなかった。
・・・すなわち、そのまま女型の巨人に飲み込まれた可能性があると思った瞬間、怒りが湧き巨人化したエレンの雄叫びがする方へ立体機動で向かうと先に居たミカサと連携をとった。
「おいクソ女・・・マコトは美味かったかよ?今からお前の胃袋、カッ捌いてやる。・・・待ってろよ、マコト」
結果、女型の口から自力で出てきたマコトとエレン。
幻を見ているようだったがもっとありえないことが起きた。
5年前死んだ自分の上官が、何故かマコトの身体を使って女型の巨人と戦った。
何故?どうして?そんな疑問な中戦ったがノアの動きは衰えておらず5年前のままだった・・・
後で説明すると言っただけであとは力尽きてそのまま何も分からないまま撤退を余儀なくされた。
*
人影に移動し木にもたれて、リヴァイはマコトを抱き寄せながら経緯を説明すると、マコトの肩に顔を埋めた。
マコトも涙を流しながら
「リヴァイさん、ありがとう。助けに来てくれて。」
「ああ、原形がなくてもお前を連れて帰るつもりだったが・・・」
手を伸ばし、マコトの頬に触れれば暖かく柔らかい感触。
ちゃんとマコトは生きている。
そのまま後頭部に手を回すと、自分の額をマコトの額にこつんと軽くあてると
「・・・よかった」
リヴァイはただ一言、そう呟いた。
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