先月ー 旧調査兵団本部。
特別作戦班に呼ばれた日の夜の事・・・
「よかった、兵長と仲直り出来たみたいだね」
食事を終え、ペトラとマコトは食器を洗っていた。
「あの壁外調査の時・・・私、あんなに怒った兵長は初めて見た。もう何年もあの人を見てるのにね」
「そう、なんだ・・・」
「マコトは、兵長の事・・・好き?」
それは、どういう意味での好きだろうか。
仲間として、愛という意味でなのか・・・マコトは喉を詰まらせていると
「私はね、リヴァイ兵長の事が好きなの」
「っそ、うなんですね・・・」
「うん。全てを捧げてもいいくらい、ね」
全てを捧げる。
ペトラの真っ直ぐな瞳に怖気付いて、手が震えて洗っていたお皿を落としそうになる。
「でも、あの兵長がマコトに本気で怒った姿とか・・・貴方に優しい目を向けているのを知ってね。私には兵長の隣は無理だなって思った。」
ふふ、と悲しそうに笑うペトラにマコトは唇を噛む。
俗にいう、ペトラはライバル…普通だったらマコトを陥れるなど出来ただろう。それをしなかったのは、リヴァイの事を想っての事。
ペトラは目を伏せると
「兵長は、沢山の物を失ってきたから…私たちとか周りの兵士に一線を引いていたの。そんな兵長の心が休まる場所ができたのなら私は嬉しいな」
上司として、憧れの人として、好きな人として心からそれを喜んでいる。
ペトラは顔を上げてマコトをまっすぐ見つめると、
「ねえマコト。もう一度聞くけど、リヴァイ兵長の事、好き?」
「・・・うん、リヴァイさんの事・・・大好きです。」
そう言うと、そっか。とペトラは安心したように笑うと
「兵長が幸せなら、私も嬉しい。 私は2人のこと、見守ってるしずっと応援してるからね。・・・っていうか、私の方が年下なんだからマコトも敬語やめて呼び捨てでいいんだよ?」
「うん・・・ペトラ、ありがとう。」
ペトラの、悲しそうな、吹っ切れたようなあの笑顔の記憶が走馬灯のように蘇った。
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「っ・・・ペトラ、うっ・・・うああああああ!」
悲しみだろうか、怒りだろうか
マコトはただ腹から声を上げた。
その叫びを聞いて女型の巨人がこちらを見た隙に、オルオが女型の巨人のうなじにアンカーを打ち込むとブレードを凪いだ。
が、硬質化によりブレードは砕け散りオルオが怯んだ隙に、女型の巨人にハエをたたき落とすが如くオルオを地面に叩きつけた。
「オルオさん!!」
エレンの叫びが聞こえ、マコトは放心状態だ。
邪魔者は居なくなった・・・と言うように女型の巨人は標的をエレンに絞るとこちらに走って手を伸ばした。
マコトは咄嗟に小銃の入ったトランクをエレンに押し付けた。
「これを、頼む!エルヴィン団長かリヴァイ兵長に渡して!」
「え・・・マコト教官?!」
「私が囮になる!・・・エレン。兵長を、頼むよ。」
マコトは涙を堪えながらそうエレンに訴えると
「ほら!はよ行かんかい!」
「いっ!」
訓練時代の頃、よく兵士のお尻を蹴っていたマコト。
何としてでも逃げ切れ、そう込めてマコトはエレンのお尻を思いっきり蹴るとエレンは前へ吹っ飛んだ。
「振り向かない!そのまま前を見続けなさい!…・・・ぐっ」
そのまま女型の巨人はマコトの身体を掴む。
しかしエレンは振り向いて
「おい・・・やめろよ・・・何すんだ・・・」
5年前の母親が食べられた時の光景が蘇り、エレンは身体を震わせた。
「がっ、はっ・・・」
ギリギリと締め付けられて、息が出来なくなる。
意識が無くなる寸前でも頭に過ぎるのはリヴァイの顔だ。
「リ、ヴァイさっ・・・」
ひと目でいい、最後にリヴァイの姿を目に焼き付けたかった。
「ご・・・めん・・・な、さ」
そう言切る前に、女型の巨人はマコトを口の中へと放り込んだ。
「あ…マコト教官、そんなっ…」
シン、と静まる森の中エレンは怒りで震えるとマコトから預かったトランクを木に掛けると
「お前だけは、殺す!」
エレンは怒りのまま、手に噛み付いた。
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