35:第57回 壁外調査

早朝、マコトはあの時のようにリヴァイの立体機動の装備物を準備をしていた。その隣には自分の装備物。

リヴァイはシャワーを浴びてシャツを着るとサイドテーブルに置かれたドックタグを首に掛けてシャツにしまい込むとクラバットを締める。

隣の部屋からマコトも普段通りスタンドカラーのブラウスと、腕には訓練兵団のではなく調査兵団のマントとジャケットを掛けて入ってきた。

「着替える?」
「ああ、頼む」

無事に帰って来れるように、マコトが始めたおまじないのようなものだ。
耐Gベルトを全身に巻き、腰巻きを付けていく。

「痛くない?」
「ああ。問題ない」

するとリヴァイはマコトのベルトを手に取ると

「ほら、お前もだ」
「うん」

リヴァイもまたマコトが無事なようにと装備を手伝う。
最後に黒い髪を鏡の前で結いはじめる。
縛った髪の束を三つ編みにしてからお団子にしてピンで固定すると訓練兵団教官の頃と同じマコトがそこに居た。

リヴァイはマコトにジャケットを着せると、マコトは笑うと

「なんか裾が短いと変な感じ」

訓練兵の教官はコートのような物だから重たかったので調査兵団のジャケットは軽く感じ、腕章には「第57回壁外調査 マコト・マカべ」と刺繍されている。

カラネス区へは距離があるので早めにここを出なければならない。
外へ出ればお互いの持ち場・・・ここでお別れだ。

「じゃあマコト。戻ってきたら部屋に来い。・・・お前の紅茶が飲みたい」
「ふふ、分かりました。」

軽く口付け、お互いの部屋から外に出れば兵長と狙撃班、と言っても1人な上名目上は教官から兵士。

通りかかった兵士に挨拶をされるとマコトも挨拶を交わす。壁外調査当日とは思えない、普段通りの日常だ。

廊下に立つリヴァイを見つめると

「ではリヴァイ兵長、ご武運を」

マコトは胸に当てて敬礼をすると

「ああ。お前も、気をつけろ」
「はい」

リヴァイは自分の班へ、マコトはハンジの班へ行くためお互い違う方向へと歩いていった。



マコトを含めるハンジ班は巨大樹の森から1番近くなる場所である左翼側。リヴァイ達は中央後方・待機・・・陣形の中で一番安全な場所だ。

今回は104期の兵士も混ざっての参加なので新兵は伝達係が主となる。
マコトがエレンの専属の教官になったのは104期のメンバーは知っていたが、壁外調査に出るとは思っていなかったらしく驚いていた。

「みんな、気をつけてね」
「教官もビビって落馬しないようにね〜」
「もうコニー!」

コニーの冗談にクリスタが叱る。
相変わらずお調子者だ、とマコトは笑いながらコニーの頭を小突くとじゃあ後で。と別れた。

彼らは本来の目的は知らない・・・マコトは彼らのためにも必ず成功させねば、と胸に誓った。


「あ、いたいた!」
「マコトさ〜ん!」

振り向くと、技巧のルークとアークの双子が手を振ってやってきた。
その手には革の鞄を持っている。

「ルークさん、アークさん。」
「これ、例のヤツです。」

そう言って渡された革の長いトランクには銃と弾の入った弾倉が綺麗に整頓されていた。1度彼らに預けて装填のメンテナンスをして貰っていたのだ。

「うわ、凄い・・・」
「複製するのが大変でしたが、結構楽しかったです!」
「あと、整備と手入れもしておきました!」
「何から何まで・・・ありがとう」

そう言って頭を下げるとルークとアークは頬を赤くして慌てると

「俺たちも楽しかったですから!」
「成功を祈ってます」

そう言うとお互い敬礼をして、作戦を知っている荷馬車班の兵士に託すとハンジの所へ向かった。


ハンジの班こと第四分隊にはモブリット、ケイジ、二ファ、アーベルの面子だ。
あの会議後、マコトが編入した事で疑問に思ったがハンジが何も語らない以上は特に何も聞いて来ず挨拶を交わす。

すると遠くから「開門30秒前!」と聞こえ全員前を向く。中には祈る者、父さん、母さんと呼んだり、恋人の名前を呟くものも居る。
その光景を見て、マコトはごくりと唾を飲み込み深呼吸する。まさか、自分がこっち側の人間になるとは思わなかった。


団長、兵長、分隊長の幹部勢が前方にいる中マコトはリヴァイの背中を見た。

「(リヴァイさん、ご無事で)」


「第57回 壁外調査を開始する!前進せよ!」


エルヴィンの掛け声とともに全員が声を上げると一斉に馬を走らせる。マコトもハンジのポニーテールを目印に、ひたすら前を走り続けた。

門を出て平地に出ると、エルヴィンが両手を広げる。長距離索敵陣形の合図だ。

周りにいた兵士が各々の陣形へと散らばり各班と合流していく中、マコトも近くの班員たちを探していると

「マコト!こっちだ!」

普段眼鏡を掛けているアーベルがマコトの近くに馬を寄せてきた。今は壁外調査用にゴーグルになっている。

「よかった、はぐれなくて!」

横から二ファが安心したようにやってくると、段々とハンジ班のメンバーが集まってきて陣形を作り始める。

「はやく分隊長の所へ行こう」
「はい!」

モブリットはもう既にハンジの隣におり、ハンジはこちらを見つけると、おーいと手を振る。

マコトの横を、リヴァイが減速して後方にいるエレン達と合流して行くのが見えた。
チラッとお互い目が合い、リヴァイはマコトを見つめて、マコトもリヴァイを見つめると大丈夫だよ、と気持ちを込めて微笑むと、速度を上げてハンジの所へ向かった。



ーあの日とは違い、今は1人での壁外ではない。
巨人が居る以外は青空が広がるとても広大な美しい土地で鳥が自由に空を飛び、地面を見れば花々が咲いている。

そんな風景を眺めていると、右側から赤色の煙弾・・・巨人発見の合図だ。段々と伝達式で打ち上げられ、それをみた指揮官のエルヴィンが緑の煙弾を打ち上げた。

その方向に、目標地点である巨大樹の森がある。





暫く走り、森が見えてきた。ハンジ、モブリット、マコト以外の班員はなぜ森に・・・?と疑問を抱いていた。

ここでハンジは自班に真実を告げる。

「全員、私の周りに集まりなさい!」
「はいっ!」



ハンジを中心に馬を囲むと大きな声で

「今から我々調査兵団は、巨人捕獲作戦へ移行する!」

それを聞いて全員は「えっ?!」と驚く。間違いではないか、まさかまたハンジの独断行動なのか?と口を開けたが、モブリットが叱らないので本気なのか・・・と顔を見合せた。
混乱しながらアーベルは「でっ、でも!」とやっと口を開いた。

「今回の壁外調査はウォール・マリアへの試運転では?!」
「それは名目上だ。 簡単に言うと、エレンを狙っている何かが≠「る。それを炙り出すために森へ誘い込むんだ。荷馬車は補給ではなく、拘束器具が入っている。後でモブリットに使い方を教わりなさい」

そしてハンジはマコトを見ると

「マコト、狙撃班はポイント到着後待機。 リヴァイの音響弾が聞こえたら、それが合図だ」
「はい!」

狙撃班?全員は首を傾げる。
ハンジは申し訳なさそうに

「実は大型巨人襲来以前から在籍している5年以上の古株兵士とマコトのみしかこの作戦は伝えられてなかった。いきなりですまないね。力を貸してくれるかい?」
「マコトは何故・・・?」
「この作戦に不可欠な技術を持ってるからだよ」

ハンジが笑うと、二ファは

「わ、私は!分隊長を信じます!」
「俺もだ!」
「その巨人を捕まえてやりますよ!」

その言葉にハンジは

「ありがとう、お前達最高だよ!んふふ、捕まえたら真っ先に巨人に触らせてあげるからね!」
「あ、それはいいです」
「大丈夫です」
「結構です」
「ほら分隊長、言ったでしょう」

全員が拒否してモブリットが窘める。
そんな光景に思わずマコトは声を出して笑ってしまった。

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