33:アニ・レオンハート


「あああぁ!やめろおぉ!やめてくれぇ!アニ、やめてくれよ!何で、何でだよっ!アニッ!」

泣き叫ぶマルコの立体機動装置を外す震える手。

「や、やめっあ、ガッ、ぎゃあああああああ!!」

巨人に殺された時のマルコの断末魔・・・

「っ!・・・はぁっ、はっ・・・」

アニは今でも、頭の中でこびりついて離れない。



掻きむしるように髪の毛をガシガシと掴むと、大きく息を吐き出した。










壁外調査2日前という事で調整日が全員に設けられた。これを機に、家族や恋人の所へ向かう者も居る。

リヴァイは今日の夜にこちらへ向かってくるということで、夜までは1人だ。

部屋の掃除でもしようか・・・と雑巾を手に取ると部屋をノックされた。

「はーい」

マコトはドアを開けるとえっ、と嬉しそうな顔をした




「わあ、アニ!どうしたの?」



そこには憲兵団の団章を身につけたアニ・レオンハートが立っていた。





入って、と部屋の中へ案内してソファに座らせるとマコトはにこにこしながらアニに紅茶をいれた。

「すみません。突然お邪魔して・・・」
「良いんだよ。壁外調査前だから今日と明日は調整日なの」

どうぞ、とアニの前に装飾のついた綺麗なティーカップを置くと

「・・・教官も、壁外調査に?大丈夫なんですか?」

心配そうに見上げたアニの顔を見てマコトは嬉しそうに笑うと

「うん。一応調査兵団に移った身だからね・・・何とかなるよ」
「・・・・・・」

俯いたアニにマコトは首を傾げると隣に座りギュッと抱きついてみた。

「教官、暑苦しいです」
「んふふ、そんな事言ってアニは振りほどいた事無いもんね」

ツンツンしているアニをこうして抱きしめるのは訓練兵団の頃からやっている事だった。触ればすぐに相手をひっくり返すアニもマコトに関しては大人しく抱きしめられていたので周りの訓練兵も驚いたほどだ。

恐らく、アニは自分の身を案じてくれているのだろう

「アニは優しいね。ありがとう」

そう言うとマコトは頭を優しく撫でてやる。

「・・・いえ、怪我しないでくださいよ」
「うん。しないように頑張るね」

普段通りニコニコしているマコト・・・そんな顔を見たアニは力が抜けティーカップに手を伸ばすといただきます。と口に含んだ。

マコトも自分のマグカップにいれられた紅茶を飲むと

「・・・で、何かあった?憲兵、大変なの?嫌な先輩がいるの?」

心配そうにマコトはアニを見つめる。その目は母親のような、姉のように見えて視線を落とすと

「いえ・・・教官の紅茶が、久しぶりに飲みたくなってしまって」
「あははっ。全然構わないよ、何杯でもいれるから」

アニは対人格闘術を得意としており、成績も良かった。 正直、言う事なしのレベルだがアニのレベルまで到達するほどの訓練兵が居なかったのでマコトがよく訓練相手になって終わった頃は事務室で紅茶をご馳走していた。

マコトと背丈は変わらないのに、重い一撃。ライナーやエレンをひっくり返すほどの力も持っている。

上位10名の中にも入っており彼女だけ唯一、憲兵になった者だ。


「教官、お願いがあります。・・・少し、相手をして貰えませんか?」

そう言うとマコトは驚いたが

「うん、いいよ」

と快く了承した。








何故アニは突然来たのだろうか・・・憲兵でストレスが溜まっているのか?

訓練場へと移動したマコトはアニの蹴りをミットで受け止めながらそんな事を考えていた。

「やっぱアニ、なんかあった?」
「ふっ、いえっ、特にはっ!」
「ああ、でも憲兵だから身体なまっちゃうよね」

突然来たアニのパンチを軽々とミットで受け止めると、アニは攻撃を止めてマコトを見ると

「トロスト区の・・・あれが頭から離れなくて・・・夢を見るんです」

拳を握ってそうアニは俯くと、マコトはああ。と頷く。

すると、マコトはミットを外して地面に置くとアニを抱きしめた。

突然の事でアニも「は?」と驚いているが

「私もすっごい怖かった。もう嫌だよね、あんなの」
「でも教官は・・・調査兵団になったんですよね?なんで断らなかったんですか?」

マコトに抱きしめられながらアニは肩に顔を埋めると、マコトの制服からは爽やかなお香の香り。・・・この匂い久しぶりだな、とアニは目を閉じる。

珍しく甘えてきたアニの頭を優しく撫でると、

「んー・・・どうしてかなぁ。死に急いでるのかなぁ」
「教官はあの死に急ぎ野郎とは違いますよ」

思わず即答する。エレンの事だ。
言うねぇとマコトは笑うと

「私も怖くて夢に出るほどだったんだけど、こうして抱きしめてくれる人が居たから乗り越えられた。アニも、生きててくれてありがとう」

ぽんぽんと、子供をあやす様にする仕草はさながら母親のようだ。 マコトは訓練兵時代に親元を離れている兵士に優しく声を掛けたり励ましたりしていた。

そして、アニはこうされることで父親を思い出していた。



この人は相変わらずだな、とアニはようやくマコトの背中に腕を回し、肩に額を押し付けると小さく

「ごめんなさい・・・」
「ん、何か言った?」
「いえ、ありがとうございます。教官、スッキリしました」

身体を離してアニは敬礼をすると、

「いいんだよ、またおいで」

そう微笑むマコトがアニにはとても眩しく見えた。


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