31:作戦会議
大規模な壁外調査が実施される。
そして今回は新兵の参戦もあるので索敵陣形の配置は入念になった。

今回はウォール・マリア奪還への試運転を兼ねた壁外調査・・・と聞いておりマコトも調査兵になったが参戦するのだろうか?と首を傾げた。

マコトは立体機動は調査兵団ほどの技術ではないが、ノアの力を借りて倒した経験もある。 討伐数は2体・・・しかし戦力にはならないだろうし、エレンの教育として一時入団なので呼ばれないだろうと思っていた。




旧調査兵団本部へは定期的に顔を覗くので基本的にマコトは普段通り兵舎暮らしだ。
マコトと離れている間も自主練をさせるため日替わりのメニューを考えていると扉をノックされたので驚いて顔を上げた。


マコトの部屋に訪れるのはエルヴィン、リヴァイ、ハンジ・・・と訓練兵くらいだが今は訓練兵とは今離れているのでそれは無い。ノックの音は空耳だろうか…?そっと立ち上がり
ドアを開けノックの主を見上げてマコトは目を見開くと

「えっ、モブリットさん?」

ハンジ隊副官、モブリット。
いつもハンジの傍におり右腕的な存在。危険をおかしがちなハンジのストッパーとも言える。顔は合わせるがハンジと一緒に居て絡むことが多いので、モブリットが個人的にここへ来るのは初めてだ。

「マコト、悪いね。忙しかったかい?」
「いえ、大丈夫ですよ。何かありましたか?」
「実は君にも会議に出て欲しくて。」
「・・・会議?」
「次の壁外調査についての会議だよ」


マコトはへ?と首を傾げた。







「しっ・・・失礼します!」

初めて入る作戦会議室に通されるとそこにはエルヴィン、リヴァイ、ハンジ、ミケ・・・の顔は分かる。あとは見かけたことがあるが、話したことが無い兵士が沢山いた。



金髪ショートヘアーの綺麗な女性がマコトを見ると隣の空席の椅子を引く。

「ほら、こっちに座って」
「は、はい!ありがとうごいます。」

失礼します、と座るとリヴァイはとても不機嫌そうに腕を組んでいたので何やら嫌な予感がした。


金髪の女性はマコトを見て微笑むと

「私はナナバ、よろしく」
「マコトです。よろしくお願いします。」

小声で挨拶し合うと、エルヴィンは見回して

「1ヶ月後の壁外調査・・・目的はエレンの巨人化を利用しウォール・マリアのシガンシナ区の奪還への試運転。・・・それは名目上だ」

そう言われると全員はえ?と戸惑いマコトも眉を寄せる。

「ここに居るもの達は5年前シガンシナ区陥落前から居る古参の兵士ばかり。そして、マコト。君だ」
「あの、団長・・・私はまだ組織に入って3年目で調査兵団に入って数日なのですが」

そんなベテラン勢に囲まれているのかとマコトは肩身が狭くなり俯くとエルヴィンは微笑んで

「ソニーとビーンが殺された時、私は人を選んである質問をした。 覚えているかい?」
「えっと・・・敵は誰か?でしょうか」
「そうだ。」


あれはエルヴィンからのテストだったのか。
話が見えない…マコトは眉を寄せるとエルヴィンは苦笑いして

「まああんな質問しなくても、君はこの作戦に参加して貰おうと思っていたんだ。ただ、君の考えが聞きたかっただけさ」
「はぁ…しかし、何故私がここに?私は皆さんとは違い、こちら側の技術は経験豊富ではありません」
「そうだエルヴィン、こいつは立体機動の技術は絶望的だ。・・・使えるのか?」

棘のある口調でマコトを睨むが、それは「やめろ、お前は参加するな」という目でこちらに訴えかけている。

マコトは昨日のリヴァイとの会話を思い出した。もしかして、確認のためにトロスト区の事を聞いたのか・・・

「・・・もちろん、この1ヶ月後のためにマコトには訓練をしてもらうよ。エレンの教育もあって大変なのは申し訳ないが・・・。しかも彼女はトロスト区襲撃の際に巨人を2体を1人で倒せている。申し分ない」
「チッ」

もう強制らしい・・・というか、使える駒は使う。エルヴィンはそんな考えなのだろう。

「ナナバ、頼めるか?」
「はい、了解です。」

隣に居たナナバがマコトによろしく、と笑いかけるがマコトは着いていけず戸惑いながら頷くがリヴァイは負けじとエルヴィンを睨みつけると

「・・・こいつの意思はどうなる。中途半端な気持ちで参加させるのか」
「マコト、どうだい?・・・協力してくれるかい?」

協力・・・ここに来た当初と調査兵団に勧誘してきた時同様、マコトは協力すると約束した。と言ってもここまで来てしまったら引き返せない状況だ。

協力してくれるかい?≠サう強調して言われたような気がして、マコトは目を閉じると

「・・・了解です。ナナバさん、ご指導よろしくお願いします」

頭を下げるとナナバは頷き、エルヴィンはリヴァイを見る。

リヴァイはそれ以上は何も語らず、眉を寄せて腕を組む手にギュ、と力を込めた。
異論はない…そう判断したエルヴィンは小さくうなずくと全員を見渡す。



「私は、5年前の超大型巨人と鎧の巨人襲撃時に諜報員が侵入したと仮定している。なので5年以上前の兵士を線引きしてここに集めた。」

改めて説明をし、全員は頷く。

「・・・それでは、本作戦を説明する。 目的はシンプルだ。エレンを使い、その巨人を炙り出す。」

トロスト区の門は破壊されているため、カラネス区からスタートし、途中でルートを変更。そのまま巨大樹の森へと侵入。

エレンを含めたリヴァイ班はその森の中へと入り目標の巨人を捕獲する…つまりエレンは餌ということだ。

「壁外なら敵はエレンを狙って必ず現れるはず・・・私はそう踏んでいる。」


捕獲後はリヴァイとミケの2トップがうなじを切りその巨人の中にいる人間を引きずり出す。



ざっと流れを説明され全員は呆気に取られていた。この壁外調査でもし失敗したら・・・それこそ調査兵団の存続が危ぶまれエレンは中央へ連れていかれる。

かなりの博打だ。

1人の兵士がしかし・・・と手を挙げた。

「どのようにして巨人を捕獲するのでしょうか?知性のない巨人と違い、エレンのような巨人は意志を持って行動しています。普段実験で捕獲するような道具では到底・・・」
「それは実は・・・まだ開発段階でね。それに、この捕獲作戦はマコト…君の力も要るんだ」
「・・・私?」

全員がマコトを見つめた。

「リヴァイ、例のものを」
「・・・本当に話すのか」
「ああ。マコト、突然で悪いがここにいる兵士に君の武器を見せてあげて欲しい」
「えっ?!」

武器?と全員はざわつき始め、リヴァイはマコトを見つめ、不安そうにマコトもリヴァイを見る。


「彼女の身元は私が保証するし、この話はこの調査兵団の最重要機密。他言した者は」
「俺がぶっ殺す」
「私もリヴァイに賛同。私は巨人の実験に使うかな。・・・なぁ、ミケ?」
「ああ」

リヴァイが睨みつけるように全員を見ると兵士が怯むと他言はしない、とこくこくと頷く。


ハンジはマコトを見つめると優しく笑いかけ

「大丈夫だよマコト、私達が居るから」
「・・・はい、分かりました」

うるさくなる心臓、緊張で冷える手を握りしめて頷いた。

マコトは立ち上がり、震える足でリヴァイとエルヴィン達の所へ向かいながら

「(団長、テストなんかしなくても最初から私をこの作戦に入れるはずだったんだ・・・)」

エルヴィンの顔を見るが、もちろんその表情は何を考えているかは分からない。

「今から話す内容は、私、リヴァイ、ハンジ、ミケ、モブリット、彼女を護衛していた特別作戦班のみにしか知られていない内容だ。 ここに居る君達にも、情報を共有してもらう。繰り返すが、これは他言厳禁だ。」

エルヴィンがそう話す中、リヴァイにまた預かってもらっていた20式の小銃と9mmハンドガンを布から出すとエルヴィンに手渡し、それを全員に見せた。


この世界にはない、真っ黒な武器に全員は首をかしげると。


「これは、マコトが記憶喪失の時に一緒に持っていた武器だ」
「その武器で一体何をするんですか?」
「この武器は、数百メートル離れた場所でも狙撃できるほどの性能があり、その技術は彼女のみ使える。・・・これを利用しその巨人の目を潰してもらう。そうすれば相手は怯み拘束器具も発動しやすくなる。」

マコトは別行動として狙撃班として活動するが、名目上はハンジ隊で行動する。

森に到着次第、巨人接近後に狙撃。
相手の視界を奪うのだ。

兵士は手を挙げると

「あの・・・マコトさんは、何者なんですか?」

その疑問にマコトは俯くとリヴァイは机の下で手を握る。
エルヴィンは首を振ると

「・・・それは、我々にも分からないし、彼女も分からない。 壁外調査をすれば彼女の正体が分かるかもしれない。 そのためには調査兵団の存続が必要だ。この作戦、必ず成功させるぞ」

マコトの正体を上手くはぐらかすと、マコトは小さく安堵の息を漏らす。

エルヴィンの真剣な眼差しに兵士達は了解です!と頷いた。


「そして・・・この中に技巧科の技術班も呼んでおいた。」
「は、はい!」
「俺達です!」

彼らもまた5年以上在籍の技巧科だ。2人は双子らしく顔が瓜二つだ。

「俺は技巧科技術班のルークです」
「同じく技巧科技術班のアークです」
「彼らはご覧の通りの双子で、腕のいい職人だ。捕獲作戦の道具も彼らが協力してくれる。」
「あと、マコトさんの武器を少しお借りして、弾と弾のストックを増やせるようにしたいんです。」

弾と弾倉を複製する・・・可能なのか?マコトは驚いているとルークとアークは笑い

「俺達は兵団1番の職人ですよ、任せてください。」
「さすがにその武器は外には出せないのでここで設計図を作らせてもらいます。」
「よ、よろしくお願いします・・・」

マコトは小銃とハンドガンを双子に渡すと突然

「うおおー!すっげーーー!」
「なにこれ!結構重っ!」
「3キロくらいは・・・」
「うわあああこれ超バラしたい!駄目ですか?!」

キラキラした目で見つめてくる顔はさながら巨人を見たハンジだ。
調査兵団も変わり者だらけだが、技巧も色んな意味で変態が多いようだ・・・全員呆気に取られていると

「こ、壊さなければ・・・設計図作るのに必要ですよね。バラしますよ」

マコトは一旦離席して会議室の隅で軽く分解するとルークが

「あ、俺これなら手入れ出来るかもな」

本来なら細かい所は武器科にお願いしているのだが飛ばされてしまってからは整備出来ないでいた。マコトは驚くと

「今外しているところで全部覚えました。」
「え、すご・・・」
「弾倉って言うんでしたっけ、俺はこっち見るからルークは本体頼む」
「了解」

2人の顔つきや空気が変わり、早速作業に取り掛かったので頭を下げるとナナバの所へ戻った。




長距離索敵陣形・・・随分と前にリヴァイから聞いたことがあった。

各班に別れて巨人が発見次第、信煙弾を打ち上げ伝達式でほかの班も打ち上げる。

その位置を見た指揮官のエルヴィンが進路方向を決める。人口レーダーのようなものだ。

巨人といかに接触せずに目的地へ到着するか。そのための陣形で結果的に生存者数も大幅に上がった。

その進路方向を利用して巨大樹の森へと誘い込むのだそうだ。
巨大樹の森の木は元々観光地だったらしく80mを超えてた木々が鬱蒼としており、道も舗装されている。

この高さがあれば、超大型巨人や鎧の巨人が来ても対応できる。


・・・そして、肝心の巨人捕獲の道具について話し合いが行われた。

全員が顎に手を当てる中マコトは自分の世界で大きなものを捕獲する時はどのようにしているのか思い出してみた。

鯨を捕まえるには捕鯨と言う機械を使って捕まえていた・・・マコトは手を挙げると

「立体機動装置のアンカーみたいなので複数で刺し込んで動きを封じたりは出来ないでしょうか・・・?」

マコトは控えめに手を挙げるとハンジはおお、と目を見開く。
しかし、それを複数発射するとなると骨が折れる。

リヴァイはハンジを見ると

「マコト銃の様に何発も入れれるものがあればいいんじゃないか?」
「何発・・・樽を改造すれば!」
「では、荷馬車の荷台ごと改造して樽を入れていけば一気に発射が可能ですね、分隊長」
「それだモブリット!エルヴィン、私は直ぐに試作品を作るよ。」

遠くに居たルークが手を挙げると

「あ、ハンジさん俺達もうすぐ終わるので会議が終わったら部屋に行きます!」
「頼むよ!」

着々と捕獲作戦が進んでいる、これならいける・・・と全員は壁外調査へのモチベーションを高めて行った。







リヴァイは明日旧調査兵団本部へ帰るらしく、たまには・・・と会議後は2人で外で食事をしたり部屋でのんびりと寛いだりした。

「リヴァイさん、あの時庇ってくれてありがとう」
「ん、ああ・・・ハンジの班なら場所的にも俺と近いし大丈夫だろうが・・・何があるかわからん。全力でナナバの訓練を受けろ」
「はい。 リヴァイさんが見える距離なら私も安心」

そう言って笑うとリヴァイも頷くと

「正直不安だ」
「私も不安だよ・・・怖いもん。」

そう言うと、リヴァイの手を握った。




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