25:エレン・イェーガー
頭を優しく撫でられて気持ちがいい。
思わずにやにやしてしまいマコトは寝ながら「へへ・・・」と笑うと

「おい、俺の布団をヨダレで汚すなよ」
「へ」

目を覚ますと、リヴァイが横で寝ながら肘をついてマコトの頭を撫でていた。
時刻は朝の5時、何時間寝たんだろうとぼーっとしていると

「俺達、だいぶ寝すぎたみたいだな。まあ、おかげでスッキリだ」
「うん、私も」

小さく伸びをして、ぼやけた目を擦ると

「もう少し寝ててもいいぞ、今日は審議会だから俺ももう少ししたら出る」
「審議会・・・?」
「ああ・・・簡単に言えば、巨人化した例の人間をどうするかっていう話だな。憲兵は殺したがってるかもしれねえが、俺達調査兵団からすりゃあ喉から手が出るほど欲しい。あれが利用出来ればウォール・マリアが奪還できるかもしれんからな」
「壁外へ行く時に上から見てたけど、確かにあれなら・・・」

しかしあれは誰だったのか、それはきっと機密事項だからリヴァイも名前は出せないだろう。とそんな事を考えていたがリヴァイはさらっと

「巨人になったのはは、104期訓練兵のエレン・イェーガーってガキだ。知ってるか?」
「・・・・・・・・・んん?」


エレン・イェーガー?

知ってる名前にマコトは重かった瞼が開いた。

「エレンって、あの目がくりっと可愛いくてつり目で・・・巨人に食べられたエレン?」
「・・・その情報はよく分からんが、お前の想像してる奴と恐らく同じだ」
「え、でも待ってね、リヴァイさん。私が会った時は、エレンはもう片足が無くてそのまま食べられそうになったアルミンを庇って腕だけ残して食べられたんだよ・・・何で生きてるの?」

あれは夢だったのか、額に手を当てると

「俺もよく分からんが、詳細はハンジが研究するだろう」

よく状況は分からないがエレンが生きていた事はそれは純粋に嬉しい。
リヴァイはそんなマコトを見つめると

「・・・お前も来るか?」
「え、いいの・・・?」
「まだ15のガキだろ? 知ってる奴が来れば多少は気持ち的には楽になるだろう。」

そう言って目を逸らすと、マコトはんふふ、と笑うと

「リヴァイさん、優しいね。」
「あ?何でだ」
「そんな所も大好き」
「・・・まだ寝ぼけてんのか」

エレンに対する、リヴァイなりの優しさだろう。
ニヤニヤ笑うマコトの頭を抱き寄せるともう少し寝るぞ、と目を閉じた。




「よし」

鏡の前でスタンドカラーのワイシャツの上から教官服を着る。
ここの人達は平均身長が高いので1番小さなサイズでも少し袖が余ってしまう。袖を軽く折れば普段通りの教官の出来上がりだ。

どうやら同行する許可はエルヴィンから降りたようで、準備をし終わって廊下で待っているとリヴァイも兵服に着替えて出てきた。

「行くぞ」
「はい、兵長」

部屋に出れば兵長と教官だ。
リヴァイの一歩後ろをマコトは着いて行った。


エルヴィンと外で合流すると、敬礼をする。

「エルヴィン団長。同行させていただいてありがとうございます」
「いや、こちらとしても一緒に来てくれると助かるよ」

リヴァイとマコトのスッキリとした顔を見てエルヴィンも笑うとほら行くぞ、と用意された馬車に乗り込んだ。





3度目の審議所。嫌でも見慣れてきた建物の中へ行き、地下牢へと向かう。
奥の牢屋にエレンは居たが、気を失ってるらしく目が覚めるまでは待とう。とエルヴィンは椅子に座り、リヴァイとマコトは壁に寄りかかって待機になった。

その間、マコトはエレンを観察した。

「(本当にエレンだ)」

あの時この目で見たはずなのに、無くなったはずの腕と足が戻っている。

いつからエレンは巨人化できるようになったのか、聞きたいことは山ほどあった。


「う・・・」

しばらくして、エレンは目を覚ました。
エルヴィンは何かの鍵を取り出し、エレンに見せる。どうやらエレンがいつも身につけていたのは生家の地下室の鍵らしく、そこに巨人の謎が隠されているらしい。 5年前・・・エレンの父は仕事に行く間際、帰ったら地下室を見せてあげようと約束してくれたそうだ。

そのエレンの家はウォール・ローゼ、5年前陥落したシガンシナ区にあるらしい。

エレンの意思はどうなのか、リヴァイがそう問うとエレンは顔を上げるがその目はとてもギラギラしている。

「調査兵団に入って、とにかく巨人をぶっ殺したいです・・・」
「・・・ほう、悪くない。エルヴィン、こいつの責任は俺が持つ。上にはそう伝えろ。・・・俺はこいつを信用したわけじゃない。こいつが裏切ったり暴れたりすれば、すぐに俺が殺す。上も文句は言えんはずだ、俺以外に適役が居ないからな。認めてやるよ、お前の調査兵団入団を」

檻に近づいてリヴァイはそう言って睨みつけると、エレンは怯えている。マコトは遠目からそのやりとりを見る事しか出来なかった。

話は終わった、とリヴァイは前髪をかき上げると親指でマコトを指差すと

「俺達だけじゃお前がビビってションベン漏らすと思ってな、知ってる顔を連れてきた」
「あ・・・マコト教官」

エレンはマコトを見て知ってる顔だ・・・という感じで少し安心した顔になった。

リヴァイは振り向いて来い、と目で合図するとマコトは隣に立って

「エレン、どこか痛いところは?」
「特には・・・あのマコト教官、あの時俺どうなったんですか?」
「私があなたを見つけた時は、もうあなたの脚は片方ない状態・・・その後巨人に食べられそうになったアルミンを、あなたは巨人の口に飛び込んで引っ張りあげた。アルミンが引き上げようとしたんだけどそのまま巨人の口が閉じて・・・腕も無くなったのよ」
「他のみんなは・・・?」
「昨日、104期の火葬があってね。ジャン、コニー、サシャ、クリスタ、ユミル、ライナー、ベルトルトには会えたよ」
「そう、ですか・・・」
「ミカサやアルミンには?」
「アイツらなら無事です、あの時一緒にいたから」

良かった、とマコトは笑うと

「とにかくエレン、あなたも生きててよかったよ。あとはエルヴィン団長とリヴァイ兵長に任せて。・・・ですよね?」

そう言って2人を見ると頷く。

「マコト教官・・・来てくれて、ありがとうございます。」
「エルヴィン団長とリヴァイ兵長の粋な図らいだよ」
「・・・おい、マコト」
「あはっ、すみません」

窘めるようにリヴァイは呼ぶと、マコトはふふっとわざとらしく謝る。・・・どうやら、時間のようだ。


地下牢出ると審議を聞こうと沢山の人が集まっていた。

数時間後に審議は執り行われ、マコトはハンジとミケと合流して上の傍聴席で見守ることにした。


総統のダリス・ザックレーが来た瞬間審議は開始された。

憲兵団は、エレンを解剖し情報を得た上で処分すると主張・・・調査兵団はエレンの巨人の力を使ってウォール・マリアの奪還を提案した。

空いた穴を塞ぐ作戦ではエレンが制御出来ず、ミカサを攻撃した事・・・ミカサはそれまでに2度巨人化のエレンに助けられた事も考慮して欲しいと主張するが私情が混ざっていると反論されてしまった。そしてミカサとエレンの過去・・・9歳にして強盗3人を刺殺した件も調べあげられておりざわついた。

挙句の果てには、ミカサも巨人なのでは無いかという疑いを掛けられダリスは手を叩いて静粛に、とその場を鎮めた。

「・・・では別の目線で見てみよう。訓練兵団教官、マコト・マカべは?」
「え゛?、はっ、ここにおります!」

突然名前を呼ばれて混乱したがマコトは返事をして「上から失礼します!」と付け加えた。
ダリスは笑うと、

「君とはよく会うね。 して、君から見てエレンはどのような人物だ?」
「・・・エレンは、とても真面目な訓練兵です。上位10名にも入っており、手を抜きがちな対人格闘術も個人的に質問をしてくるなど、真摯に励んでおりました。
・・・彼は104期生の中で群を抜いて巨人を憎んでいると思います。なので、我々人類に害はないはずです」

マコトの主張に全員は黙り込むと、エレンは憲兵団を睨みつけると

「そちらは・・・自分たちが都合のいいような憶測ばかりで話を進めようとしている」
「な、なんだと・・・?!」
「だいたい、あなた方は・・・巨人を見たこともないくせに、何がそんなに怖いんですか? 力を持っている人が戦わなくてどうするんですか?生きるために戦うってのが怖いなら、力を貸してくださいよ!・・・この、腰抜け共め」

エレンは手枷をガチャガチャと揺らして深呼吸すると


「いいから黙って!全部俺に投資しろ!」

場内に響くほどの声、ナイルは隣にいた兵士に構えろ!と銃を構えさせた。
マコトも驚いてリヴァイを見たが、リヴァイは居らずあれ?と探すと柵を飛び越えてエレンの目の前まで来ていた。

何をするんだ、と思った瞬間リヴァイは思いっきりエレンの顔面に蹴りを入れた。
何かが飛んでいくのが見えたが、歯だろうか?

全員が呆然とする中、リヴァイはひたすらエレンを膝で蹴り続ける。サッカーボールのごとくエレンを踏みつけると

「これは持論だが、躾に1番効くのは痛みだと思う。今お前に必要なのは、言葉による教育ではなく教訓≠セ。しゃがんでるから丁度蹴りやすいしな」

続きだと言わんばかりにエレンを蹴り続ける中、全員が呆然としマコトも手すりを握ることしか出来ない。

「こいつは巨人化した時、力尽きるまでに20体の巨人を殺したらしい。敵だとすれば、知恵がある分厄介かもしれん。だとしても俺の敵じゃないがな。・・・だがお前らはどうする?こいつを虐めたヤツらもよく考えた方がいい。・・・本当にこいつを殺せるのか」

そのタイミングでエルヴィンが手を挙げた。

「総統、ご提案があります」
「なんだ?」
「エレンの巨人の力は不確定な要素を多分に含んでおり、危険は常に潜んでいます。そこで、エレンの管理をリヴァイ兵士長に任せて、その上で壁外調査へ向かいます」
「エレンを伴ってか?」
「はい。エレンを巨人の力を制御できるか・・・人類にとって利がある存在かどうか、その調査の結果で判断頂きたい。」
「エレン・イェーガーの管理か・・・できるのか?リヴァイ」
「殺すとこに関しては間違いなく、問題はむしろ・・・その中間がないことにある」

結論は決まった、とダリスはエレンを調査兵団に託すことにした。
次の壁外調査で結果を出すという条件付きで。

マコトははっと気づいた。
リヴァイは意味があってエレンを蹴りつけた、全てパフォーマンスだったのだ。エレンはそんなつもりは無かったがこうなるのを狙っていたのだろう。

ハンジと一緒にエレンが連れていかれた控え室へと向かった。

既にリヴァイとエルヴィンが待機しており挨拶をするとエレンを見た。
鼻血や口から出血しておりとても痛々しい。

ついでに救急箱を借りてきたのでマコトはピンセットでエレンの傷を手当した。

それを横で座り、ハンジはエレンを眺めながら

「それにしても酷いよねぇ・・・痛い?」
「少し・・・」
「で、どんなふうに痛い?」
「えっ?」

エルヴィンはエレンにお礼を言い握手をした。
憧れの調査兵団の団長と握手が出来て、エレンは目をキラキラとさせる、が隣のソファにドカッと座ったリヴァイにエレンはビクビクと怯える。それを見てマコトは躾すぎだ・・・とエレンの頬に絆創膏を貼った。

「エレン、ちょっとここ滲みるから」
「は、はいっ!いててっ」

マコトは顔を近づけてエレンの頬に手を添えると優しく薬の染みた綿を充てる。

マコトとの顔が近いせいか、エレンは頬を赤くさせるとふと隣の視線が気になり左を見るとリヴァイが物凄い形相でエレンにガンを飛ばしている。

「ひぃ・・・!」
「こら!エレン、動かないの!」
「おいマコト、よこせ」

マコトの手からピンセットを取り上げると、グリグリと傷口に綿を押し付けた

「痛みによる教訓が足りねぇみたいだな。なぁ、エレンよ・・・」
「いいぃ!」
「リヴァイ兵長!あんまグリグリしちゃダメですよ!かわいそうです!」

そんな光景を見てハンジはエルヴィンとミケは「あれは完全に嫉妬だ」と苦笑いしたのだった。



ハンジはリヴァイが蹴った拍子に飛び出したエレンの歯を拾ったらしく、口の中を見せて欲しいとお願いし渋々とエレンは口を開けた。

・・・が、ハンジがエレンの口の中を見て硬直したので何事?とマコトも口の中を一緒に覗き込むとハンジと口を揃えて

「「もう、歯が生えてる・・・」」

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