巨人化したエレンが穴を塞ぎ初めて人類が巨人に勝利した。しかしマコトはそのまま兵舎へ直送されたので戦っていた巨人がエレンだとは知らない。
その後、駆けつけた調査兵団によって巨人は掃討され、トロスト区は奪還。外壁に居る巨人は固定砲で攻撃をし、もう何時間も遠くから爆発音が鳴り響いている。
それから、調査兵団は4m級と7m級の巨人を生け捕りにする事成功しハンジは狂ったように大喜びだ。
・・・しかし、死者や行方不明者は200名を超え、負傷者は897名を超えた。
人類が巨人を阻止した快挙ではあったが、歓喜するには失った数は多かった。
しかし、1人壁外へと飛び出し調査兵団へと応援要請をしに行ったマコトが居なければ、もっと多くの被害者が増えていたかもしれない・・・とピクシスはエルヴィンとリヴァイに説明をした。
「ワシは止めたんじゃ。無謀すぎると・・・しかし彼女の目を見たら負けてな」
「そうですか・・・」
「だから、よく帰ってきてくれたとわしは心から嬉しく思う。強い娘だ。・・・して、マコトはどうしてる?」
「無茶をしたようで、今は部屋で安静にさせています」
本当はリヴァイが怒鳴りつけて、部屋に閉じこもったままなのだが。チラッとリヴァイを見るがその表情は読めない。
「そうかそうか。巨人が現れた時も、彼女は応戦してくれたみたいでね。うちの部下とも連携をとって巨人を倒したらしい」
巨人倒したらしい・・・
「
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え?」
エルヴィンは驚きリヴァイも顔を上げるとピクシスはん?と首を傾げる。
「司令、今何と・・・?」
「あいつが、巨人をやったのか?」
「ああ。倒す所を見たものは、速すぎて見えなかったそうだよ」
さすが教官だの、と笑うピクシスにエルヴィンとリヴァイは黙り込むしか無かった。
多くの人を失い、悲しみに暮れる中、訓練兵団や兵士は遺体を回収・・・そして、火葬される事になった。
コンコン
ノックが聞こえて、マコトはベッドの上で膝を抱えていたがベッドから降りて開けると、そこにはエルヴィンが居た。慌てて敬礼をするとエルヴィンは微笑み、
「マコト、調子はどうかな?」
「何とか・・・あまり食欲はありませんけど」
初めて近くで見た巨人との戦い、初めての壁外。しかも1人という異例の行動をしたマコト。
リヴァイとはあれから一言も口を聞いておらず、隣同士で居る気配はするがいつものように繋がっているドアを開くことも無ければマコトも棚を退かさなかった。
寝てしまえばあの時のトロスト区襲撃が出てきたり、寝れたと思えばあの時の奇行種が追いかけてくる夢・・・それなりに覚悟したつもりだったが、完全にトラウマになりかけていた。
別に、死体を見るのはここに来てから初めてではない。自衛官の仕事は国外からの攻撃を備えるのはもちろんだが、全国のどこかで起きた災害があれば派遣に行く。
行方不明の遺体捜索をする中、原型のない遺体を見てしまったりするのだ。むしろ、原型がある方が奇跡だろう。
本当はトロスト区の後処理に行くべきだと思っていても、外に出るのが怖くてたまらなかった。
情けない、とマコトは俯く。
あの襲撃から、既に4日は経っている。
エルヴィンは忙しい中こうして顔を出してくれたのだが、何の用なのだろうか?
「火葬があるんだ。君も、訓練兵団達に別れを告げないか?」
マコトは目を見開いて、コクリと頷いた。
エルヴィンから訓練兵団104期生 殉職者一覧を渡されて手が震えた。
トーマス・ワグナー
ミリウス・ゼルムスキー
ナック・ティアス
ミーナ・カロライナ
フランツ・ケフカ
ハンナ・ディアマント
マルコ・ボット
エルヴィンは用意される火を眺めながら
「あくまで、分かる範囲での一覧だがね・・・」
「どの子も・・・私の教え子達でした」
積まれた布の塊・・・あれが104期生の遺体だ。
最初は調査兵団からで、途中引き返したため被害は少なかった・・・が、マコトはリヴァイを見つけて息を呑んだ。
リヴァイ達の班、ペトラ、グンタ、オルオ、エルド・・・そしてリヴァイが1人の遺体を皆で運んで火の中へ投げ込んだ。
全員泣いている中、リヴァイだけは遺体が燃え尽きるまで目を離さなかった。
その姿を見ているとエルヴィンは小声で
「リヴァイとは話を・・・?」
「いえ、あれからは」
「君の勇気ある行動が無ければこの遺体はもっと山積みだっただろう。リヴァイもそれはよく分かっている。整理が着くまで待っていてやってくれないか?」
そう言われると、マコトははい。と返事をした。
すると、
「マコト教官・・・」
呼ばれて振り向くと、そこにはジャン、サシャ、コニー、クリスタ、ユミル、ライナー、ベルトルト、アニが立っていてやつれた顔で敬礼をした。
「良かった、教官が無事で・・・」
「マコト教官・・・街のみんなを助けるために壁の外まで行って、調査兵団を呼んできてくれたんですよね?」
「もし呼ばなかったら俺達も・・・あの死体の山の中だったかもしれないです」
あの時の解散式が夢のようだ、苦楽を共にした仲間でマコトを胴上げしてくれた兵士の大半が一瞬で失われた。
マコトは104期生に歩み寄り、ジャンの肩をギュッと掴み頭を下げると地面にぽたぽたと涙が落ちた。
「みんな、生きててくれてありがとう」
訓練兵から、鼻をすする音が聞こえた。
これから104期の遺体を火に入れるらしく教官も是非、とクリスタに手を引かれた。
完全に食べられてしまった者、軽くなった者や、頭部が無くなった者もいる。
仲間を躊躇いながらも火の中へと投げ込むと全員で燃え尽きるのを見届ける。 燃やしすぎて、組木の間から誰のかも分からない骨が散乱している。
マコトは俯いている訓練兵にぽつりと、とある話しをし始めた。
「輪廻転生という言葉があるんだけど」
聞き慣れないワードに、いきなりなんだ?と全員が顔を上げるとマコトは火を眺めながら話を続ける。
「一度失った肉体と魂は、新しい生命になって生まれ変わる。・・・この子達が巨人のいない世界でまた生まれ変わるのを、彼らの幸せを・・・私は願ってる。またいつか、どこかで会えるよ」
それを聞くと、訓練兵達はポカーンとしていたがジャンはブハッと吹き出すと
「マコト教官、こんな時でも変なこと言ってらぁ」
「マジで泣かせる暇くれよぉー!」
続けてコニーが泣きながら笑うと、クリスタは
「ちょっと2人とも! またマコト教官からかって! 素敵な話じゃない!」
「いいんだよクリスタ・・・これは絵本の話だから」
本当は絵本の話では無く宗教的な考えなのだが。
でも、とジャンは悲しそうに笑うと
「確かに、こいつらは巨人なんて居ない世界に生まれ変わって幸せになって欲しいな」
「だな・・・」
「お肉がいっぱい食べれる世界だと良いですねぇ・・・」
いつの間にか、全員いつもの表情だ。
みんなもう大丈夫か、マコトは何も言わず背中を向けるとエルヴィンにお礼をして火葬場を後にする。
「終わったのか」
「っ・・・」
火葬場を出てすぐの所にリヴァイは腕を組んで待っていた。
エルヴィンにではなく、マコトに向かって言われた質問なので背筋を伸ばすと
「はい、終わりました」
「・・・無事に見送れたのか」
「・・・はい。」
壁外の事がありマコトはリヴァイと目が合わせられない。ため息を着くとリヴァイはこちらにやってきて手を取ると
「エルヴィン、もういいか?」
「ああ。ごゆっくり」
「エルヴィン団長、連れてきてくださってありがとうございました」
頭を深く下げると、エルヴィンは穏やかに笑った。
歩いている中、リヴァイに引かれる手をじっと見つめるしか無かった。
4日前は痛いほど二の腕を掴まれて引きずられたのを思い出す。
連れてこられたのはリヴァイの私室兼執務室でマコトも慣れている場所。
慣れているが4日も来ないだけで久しぶりに来た気がした。
特に座るでもなく、手を繋いで互い立ったままで恐る恐る顔を上げた瞬間、マコトは驚いた。
「リヴァイさん・・・?」
リヴァイの目の下にクマは日常茶飯事だったが、今日はいつにも増してクマが濃く、顔色も悪い。
驚いて近寄ると
「最近寝れてなかったからな」
「そう、だよね・・・」
トロスト区の壁外に残った巨人を一掃し、街の事後処理も大変だったので今週は兵舎が静まり返っている。
リヴァイの部屋から何日も明かりが消えなかったのもマコトは知っていた。
長い沈黙の後、マコトは意を決して
「あの」
「悪かった」
マコトが口を開いた途端にリヴァイが被せてきた。
呆気に取られたが、泣きそうになってキュッと唇を噛むと
「なんで、リヴァイさんが謝るの?」
「俺は自分の事しか考えてなかった」
繋いだ手を、ギュッと握られる。
「私も、凄く無謀な事をしてた。生きて帰ってこれて、本当に奇跡だと思う。リヴァイさん
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心配かけちゃって、ごめんなさい」
泣きそうな震える声でマコトはそう言い切ると、リヴァイは手を伸ばすが4日前に顔の近くで壁を殴ったのを思い出して思わずマコトは肩を震わせて身構えてしまう。
リヴァイは一旦手を止め、マコトの肩に手を置いた。
「俺はな、自分の力を信じても・・・信頼に足りる仲間の選択を信じても・・・結果は誰にも分からなかった。お前も、後悔のない覚悟の上での選択だった。そうだろ?」
「・・・うん」
「ならいい」
そう言うと、手をマコトの後頭部に回すと掻き抱いた。
「お前の選択で被害があれ以上広がらなくて済んだ。・・・よくやった」
「うん・・・」
「だが1人で壁外は無茶しすぎだ、馬鹿が。・・・怖かったろ?」
怖かった、その言葉でトロスト区と壁外での出来事が蘇る。
エレンを飲み込んだ巨人。
物凄い笑顔と勢いで追いかけてきた奇行種。
スコープ越しで見た巨人。
それを思い出してマコトはリヴァイの肩に顔を押し当てると
「うん、怖かったよ・・・!リヴァイさん達、あんなの倒してるなんて頭おかしい!なにあれ、木から覗き込んでて、めちゃくちゃ笑顔で追いかけてきて、頭おかしい!みんな頭おかしいよおおぉあああん!」
川が決壊が如くマコトは取り乱したように号泣し始めたのでさすがのリヴァイもおい、と慌てて頭を撫でる。
「頭おかしいのは巨人の方だろうが」
「うっ、うっ・・・そうだった・・・ごめん・・・」
「情緒不安定だな」
リヴァイはマコトをベッドに座らせ涙を拭かせるとリヴァイにもたれかかった。
久しぶりのリヴァイの体温と、細身だがしっかりとした身体。ずっとくっついていたい、とマコトはリヴァイの肩に頭を擦り寄せるとリヴァイも自分の頬をマコトの頭に寄せた。
「落ち着く」
「俺もだ」
「・・・なんか、安心したら眠くなってきた」
「奇遇だな・・・俺も眠くなってきた」
お互い何も言わずそのままベットに仰向けになると、リヴァイはマコトを抱き寄せ、マコトもリヴァイの身体に腕を回すとほぼ同時に目を閉じる。
それからマコトは起きる事は無く、ぐっすりと眠れた。
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