23:単独任務
「ピクシス司令。私が壁の外へ行き、応援を呼んできます」

控えていた兵士が全員驚いて「ええ!?」と声を上げ、ピクシスも驚き目を見開くと慌てて首を振った。

「無茶な!1人で壁外だと?それはやらせれん」
「ではここで、調査兵団が気づくまで無駄に命を失うのですか?」

ピクシスをじっと見つめると仕方ない、と参謀の女性を振り返ると

「アンカ、地図を持ってきなさい」
「は、はい!」

アンカは地図を持ってきてテーブルに広げる。
南全土部分を切り抜いた地図で、ピクシスはシワの入った指を動かすと

「調査兵団はウォール・マリア奪還のため、現在は兵站拠点の設置が主な任務じゃ。恐らくこの街道を真っ直ぐ進んでおるじゃろう。 現在、巨人は主に門周辺をうろついておるから門付近から出発するのは大変危険じゃ・・・しかし」

ピクシスの指は門から離れた場所を指さした。

「ここにリフトを下ろし、多少遠回りになってしまうが馬を走らせれば巨人の目を盗んで調査兵団と合流出来るかもしれん。信煙弾さえ打ち上げれれば彼らも気づくじゃろう。・・・だがこれは賭けじゃ。やるか?」

マコトは地図を頭に叩き込み、ピクシスを見ると

「・・・地図は覚えました、やります」
「分かった、1番足の速い馬を用意させよう」
「ありがとうございます」

準備だけさせて欲しい、とマコトは兵舎へ行きリヴァイの部屋から小銃を取り出した。弾は多少使ったが問題ない量・・・エルヴィンから返却された背嚢の中には実際の戦闘を想定して予備の弾倉も持ってきていた。

小銃は布で見えない様にして立体機動のベルトに弾倉のホルスターとハンドガンのホルスターをチェックするとマントを羽織って隠す。

外で待たせていた駐屯兵団とリフトへ向かうとピクシスはリフト前に待機しており馬も用意されていた。

「・・・頼むぞ」
「はい。ピクシス司令。もし、帰ってこなくて調査兵団と行き違いになった場合・・・私は巨人に食べられたとお伝えください」
「むぅ、分かった。・・・マコト・マカべに命じる。至急、壁外調査をしている調査兵へ応援要請を。失敗は許されん・・・必ず戻ってこい」
「はっ!」

ピクシスは笑うと、マコトは敬礼をする。

リフトがガチャン、と音を立てて上昇するとマコトは壁上へと向かった。



リフトに乗りながらトロスト区を眺めると街には煙が上がっていたり、伝令通り巨人が巨人を殴りつけていた。

「なにあれ、めちゃくちゃな殴り方・・・」

マコト思わずそう呟いた。

駐屯兵に案内され門からだいぶ離れた所に行くと巨人は居なかった。

「ここが指定の場所だ・・・本当に行くんだな?」
「ここまで来たら引き返せないですよ。」

そう言って笑うと、そりゃそうだと駐屯兵はつられて笑う。

「あんた、肝っ玉があるぜ。 ・・・実はな、俺の昔なじみのガキ共が訓練兵団を出たばっかりなんだ。アンタの教え子達の中に混ざってる」
「そうなんですか・・・名前は?」
「エレン、アルミン、ミカサ」

ああ・・・とマコトは頷く。
エレンは・・・もう、とは言えず拳を握ることしか出来ない。

「俺にとっちゃ自分の子供達みたいなもんだ。・・・頼んだぜ」
「はい。えっと・・・」
「ああ、おれはハンネスだ」
「ありがとう、ハンネスさん」

リフトを下ろされ、いよいよここから1人だ。
マコトは深呼吸をして馬を蹴ると調査兵団の元へと急いだ。

「わあ・・・」

広大な緑の絨毯がどこまでも続いており、花も咲いている。壁という目障りなものもなく、何も無ければとても綺麗な場所でマコトは思わず感嘆のため息を吐いた。

ピクシスからは信煙弾を何個か貰い、これを打ち上げる事になっている。


まずは作戦開始の合図として黄色の煙弾を打ち上げる。

緊急事態により進行が困難になった場合は黒の煙弾を打ち上げる。すると救助が来て助けに来てくれるそうだが、着いた頃にはきっと食べられているだろう。


調査兵団へは数キロ進むごとに赤色の信煙弾を撃ちあげる。これは調査兵団は知らないが、この煙を見れば異常を察知するだろう、というピクシスの考えだ。
そして、調査兵団と合流し壁内に戻って来られれば作戦成功。帰還してきた時は壁が見える所まで戻ったら緑の煙弾を打ち上げて知らせる。

巨人が見えなくなった所で進路修正をして調査兵団の荷馬車や馬の足跡を辿れば着く・・・と信じたい。
馬が全力で走れば巨人や奇行種を撒けるが、もしそれがダメな場合は最終手段が立体機動装置だ。

「(冷静に、静かかつ速く)」

馬の一般速度は60キロ、最速で77キロほどだと言われている。
馬の出してる速度や1キロは目分量では分からないが、1キロおきに信煙弾を打ち上げるとしたらざっと計算して3分〜4分おきだろう。
持ってきた腕時計を眺めると時刻は15時を過ぎていた。

「リヴァイさん・・・」

彼は無事だろうか、名前を呟いてマコトは首を振る。
今は任務中だ、私情は挟むためにはいかない。


その瞬間だ、大きな木の横を通り過ぎた瞬間木陰に隠れていた巨人と目が合った。

「あ・・・」

ぎょろりとした小型の巨人がマコトを見ると、途端に笑顔になった。見つけた、というその顔をしてぬっと手が伸びてきた瞬間、速い馬であるコナーにグンッと前を引っ張られた。

速い馬とは聞いていたがこれは時速80はでているのではないだろうか?

「っコナーありがとうっ・・・!」

コナーは捕まってろと言わんばかりの暴れぶりで走り、マコトは抵抗を減らすために前かがみになる。

しかしそれでも奇行種はとても足が速く、追いつかれそうだ。マコトは周りの状況確認をすると木、木、草、木マコトは思わず

「最悪だー!!」

そう叫ぶとあることを思いついた。

「コナー、協力して!」

手綱を握るとコナーを操作して木に突っ込む。運良く左右にジグザグで生えている木があり、木が近くなった寸前で右に行くよう手綱を指示をすると見事に奇行種は木に激突し、怯むがまだ追いかけてくる。

「だいぶ怯んでる!」

今度は左の木に激突させると、動きをとめた。

「しゃ!」

ガッツポーズをして無事に奇行種をすりぬけた。そのまま止まらずにコナーは走り続ける。


巨人の群れを無事に遠回りして回避出来たマコトは調査兵団の進んだ街道を発見して道なりをすすむ。

長距離を全力で走ったコナーも疲れたであろう、少しゆっくり走らせることにして、マコトは廃墟となった村・・・最初の兵站拠点を発見した。
村にはピクシスの言った通り補給物資などが箱に詰められており、マコトは赤色の信煙弾・・・初の1発目を打ち上げた。

補給所地点なら分かっているので気づいてくれるかもしれない。 マコトは村の周囲を警戒して双眼鏡で巨人の位置を確認する。

300m先に2体・・・マコトは眉を寄せた。
素早く建物の中に隠れて目を閉じると作戦を練る。

自分の持ち物は今最低限だ、双眼鏡、ハンドガン、小銃・・・今つけている風避け用で持ってきた射撃用のゴーグルだ。

スコープを利用して遠くから目を撃ち、修復するまでの間にすり抜けるしかない。個体差はあるもののそれは数分だとハンジは言っていたのを思い出す。

マコトは外に出てうつ伏せになると小銃に脚を付け、木陰からスコープを覗き込んで巨人を狙う。遠くにいるが後付けのスコープを付ければ問題なくこの20式で狙撃できる距離だ。

巨人がこちらの方角を向いた瞬間、トリガーを引いた。左目、右目と狙い目を抑える巨人・・・そしてもう一体も両目を狙って撃ち抜くと2体とも雄叫びを上げている。

マコト今がチャンスと言わんばかりにコナーに跨ると全力で巨人の横を駆け抜け、一息ついた所で赤色の信煙弾を打ち上げた。


「お願い、早く気づいて!そろそろ怖くなってきたあぁ!」


と信煙弾の煙とともに叫んだ。





***





一方、調査兵団は小さな街を兵站拠点にするためリヴァイ達は巨人討伐をしていた。

高い建物で調査兵が望遠鏡を覗いて監視をしていると遠くに赤色の煙弾弾が打ち上がっていた。

「なんだ、あれ・・・」
「どうした、巨人か?」
「いや、信煙弾だ。赤色の」
「まさか置いてきた兵士がいたのか?」
「ここには全員居るはずだが・・・団長に報告だ」

調査兵は急いでエルヴィンの居るテントへと向かった。





つい先程、リヴァイは間に合わず部下を失った。その亡骸を他の兵士が布に包んで荷馬車へのせる。
あの兵士はリヴァイを尊敬しており、討伐の補佐をよく担当してくれていた優秀な兵士で自分の班へ引き抜きをしようかと検討しているほどの兵士だった。

リヴァイはそれを見届けると街を見渡す。
ある程度は巨人を倒すことが出来た、太陽の位置を見ると16時くらいだろうか。
暗くなるまでは巨人の活動時間・・・今日はこの街に泊まり明日壁の中へと帰る。3日はかかると思ったがテンポよくことが進んだので早めの帰還になるだろう。

壁の中へ戻れば、マコトが待っている・・・リヴァイと壁のある方角を見つめた。

するとエルヴィンがこちらに駆け寄ってきた。が、その表情は強ばっている。

「どうしたエルヴィン、クソでも漏れたか」
「それは大丈夫だ。リヴァイ、すぐに壁内へ戻るぞ」
「なんだと?俺の部下は犬死か?」
「信煙弾が出た。赤だ」
「何言ってんだ、ここから壁までは距離がある。見えるわけがないだろう」

大丈夫かこいつ、とリヴァイは腕を組むと

「いや、数キロごとに、煙がこちらに近づいてきているんだ」
「煙だと?」
「ついでに巨人の動きを見ると北上している。壁の方角だ・・・とりあえず、信煙弾の発生源へは2人向かわせた。補給を用意する部隊と撤退の準備を進める班で別れる。我々は帰りのルートを決めるぞ。テントに来い」
「了解だ。ペトラ、撤退準備だ。伝令を回せ」
「了解!」

ペトラは立体機動で散らばっている兵士へと伝令へ飛んでいくのを見送ると胸がザワザワした。
壁内に巨人、5年前の惨劇を思い出しリヴァイも眉を寄せる。

「マコト・・・あいつは無事か?」

どうか杞憂であって欲しい。
巨人を初めて見た時の恐怖に脅えた顔を思い出す。

きっと今頃、兵舎で震えているに違いない。

「(アイツに、これ以上しんどい思いさせるか)」

リヴァイは拳を握り、エルヴィンの所へ向かった。


本陣で帰りのルートをエルヴィン、リヴァイ、ハンジ、ミケ達など分隊長が地図を広げて会議をしていると突然ミケがバッと顔を上げてスンスン、と嗅ぐ。

その顔は段々と険しくなりテントの入口を見つめた。

「どうしたミケ、巨人か?」
「いや・・・この匂い。そんな、まさか」

すると、兵士が慌てて滑り込んできた。

「どうした?!」

突然の事でエルヴィンは立ち上がると、兵士は

「あ、あの・・・信煙弾を撃っていたのは、訓練兵団の教官、マコト・マカべさんでしたっ!」
「なっ・・・」
「何だって?!」
「マコト1人なのか?!」
「やはりマコトの匂いだったか」

エルヴィンがそう聞くと兵士はこくこくと頷いた瞬間リヴァイが椅子を倒して立ち上がると、本陣のテントから出ていった。

テントから突然飛び出したリヴァイに驚いた兵士達。
リヴァイは焦れったくなり街の入口まで立体機動で飛んでいくと馬が3頭。2人は様子を見に行った調査兵、そして

「マコトッ!」

上からそう叫ぶと、マコトは驚いて見上げる。
着地をして駆け寄るとマコトも馬から降りてこちらへ駆け寄ってこようと鐙に体重を掛けたが力が入らずそのままふらりと馬から落馬しそうになる。

「おい!」

リヴァイは膝から滑るようにスライディングしてマコトが地面に落ちないように受け止める。

マコトは顔は青白く疲れきった顔をしていた。

「マコト、お前・・・」
「リヴァイ兵長。お忙しい中すみません。ピクシス司令から伝令を預かりここまで来ました。」
「チッ」

舌打ちをするとリヴァイはそのままマコトを膝に寝かせると

「手の空いてるやつ!水持ってこい!」
「は、はい!」
「リヴァイ兵長、私歩けます・・・」
「黙れ、この馬鹿っ」

するとエルヴィンとハンジ、ミケがやって来て本当にマコトが来たと確認すると慌てて駆け寄ってきた。

「ほ、ほんとにマコトだ・・・1人なの?」
「はい・・・1人で来ました」
「巨人は?どうしたんだ」
「巨人は門を中心に群がっていましたので、遠回りをして街道に残った調査兵団の荷馬車の跡を追ってここまで。途中奇行種と巨人2体と遭遇しましたけど・・・奇行種は撒いて、巨人2体はこれで目潰しを」

胸に抱きしめて布に巻かれた小銃を指さすとその場にいた全員は口を閉じれなかった。

マコトは水を持ってきた兵士にお礼を言って水分を取ると、起き上がってエルヴィンに敬礼をする。

「駐屯兵団のドット・ピクシス司令からの伝言を預かりました。 正午頃、超大型巨人が現れトロスト区の壁を破壊。そこから巨人が流れ込んできておりただいま駐屯兵団と訓練兵団で応戦中・・・ですが、補給ができる兵団本部に巨人が群がり撤退が困難な班も居ます。訓練兵団も戦闘経験が浅いため・・・死亡した、訓練兵が多数」

最後の方はマコトは声が震えていたがエルヴィンを見ると

「至急、壁内へ戻ってきて欲しいとの応援要請です。・・・以上となります」
「異常は君の信煙弾で何となく把握出来てたよ。今すぐにでも出発できる。リヴァイ、特別作戦班は壁に到着次第立体機動で壁を上がり巨人の討伐を」
「了解だ」
「総員緊急撤退!超大型巨人にトロスト区が破られた!」

兵士は動揺するが、はっ!と敬礼をすると一斉に馬に乗る。
マコトも馬に乗ろうとするとリヴァイに腕を掴まれた。が、その顔は今まで見た事ないほど怖く、驚いて固まっていると

「エルヴィン、30秒くれ」
「ああ、分かった」

リヴァイはそのまま近場の建物にマコトを引きずり込んだ瞬間壁に押し付けてマコトの耳元を掠めて拳が飛んできた。ミシ、と老朽化した壁にヒビが入る。

突然の事で肩を震わせたマコトは涙目になってリヴァイを見上げると物凄い形相でこちらを睨んでいた。

「このっクソ大馬鹿が!!食われたらどうする!壁外を1人で出歩く大馬鹿者はお前くらいだ!ピクニックじゃねぇぞ!」

今まで聞いたことのない声量で怒鳴り散らされ、マコトは肩を震わせたが、負けじと睨みつけると青白い顔色のまま震える声で


「わっ・・・私が行かなかったらっ!もっと被害が増える!誰も、壁の外に出てあなた達に助けを呼ぼうとしなかった!!」

そう言い返すと、リヴァイは唇を噛む。

「無事に来れたから良かったが、もし駄目だったらどうしてた!・・・お前が死んで、置いてかれる身にもなれ!」
「・・・・・・」

マコトは絶句して俯くとリヴァイは舌打ちをして二の腕を掴むと無理矢理家から引きずり出した。

全部丸聞こえだったので、空気が重くなっている調査兵団。

リヴァイがあんなに声を荒らげるのはほとんどないので全員が驚いている中、リヴァイは平然と馬に跨り

「悪い、待たせたな」
「ああ。・・・リヴァイ、あまり叱るな。怖がっている」
「チッ」

ペトラ達はそんなリヴァイとマコトの背中を見ておろおろしており、ハンジは空気を変えようと手を叩くと

「はーい!ほらほら急いで帰ろうよ!マコトは私の部隊に入れるけどいいよね?エルヴィン」

エルヴィン、とわざと強調するとああ。と頷くと

「総員、進め!リヴァイ班は中心で体力を温存、周りは巨人を一掃せよ!」
「おおおー!」

調査兵団は全力で馬を走らせ、外側にいた調査兵団は巨人が現れると立体機動で掃討していく。
マコトはリヴァイの背中を見ているとハンジが併走してきた。

「マコト、とにかく無事でよかった。前にも言っただろ?リヴァイは君の事が大事で、心配なんだ。分かってあげて」
「・・・はい」


暫くすると壁が見えてきた。
しかし穴を見ると塞がっているのでマコトは驚き、隣にいたハンジも

「壁が塞がってる?!」
「どうやって塞いだんだ・・・」

兵士がざわめく中、マコトは調査兵団の応援要請成功の合図として緑の信煙弾を打ち上げるとそれに気づいた駐屯兵が迂回しろと合図を出したので左右に別れた。



「リヴァイ班、立体機動用意!」
「行くぞ!」
「了解!」

リヴァイは馬の上に立つとアンカーを出し、壁へと上りリヴァイ班もそれに続く。

ー結局リヴァイは、壁内に入るまで一切マコトには声も掛けず、振り向きもしなかった。

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