22:超大型巨人
「マコト教官〜!」

声が聞こえて振り向くと、そこにはエレン、ミカサ、アルミンが手を振っていた。

「3人とも、調査兵団を見に来てたんだね」
「はい!教官もです?」
「うん。お見送りにね。エレンたち、仕事は?」
「この後壁上固定砲の整備をしにいってきます」

アルミンがそう答えるとマコトはなるほど、と頷き

「夢の第一歩だね、エレン」

マコトとエレンが初めて一緒に訓練をしたときに話した外の世界。エレンは目を輝かせると、はい!と元気よく頷いた。









執務室に戻ると、マコトは制服に着替え残った書類を片付けてしまおうと席につきペンを取る。

調査兵団が壁外に出てから3時間経った。リヴァイは無事だろうか・・・とシャツの中にある胸に掛けられたネックレスに触れる。

目的はシガンシナ区奪還のために兵站拠点を設置する事・・・文面だけ見ればシンプルだがその中に巨人が混ざってるので困難を極める。帰還は明後日、それまで自分は耐えられるだろうかとため息が漏れた。

「いけないいけない」

少し休憩をしようか、と立ち上がろうとした瞬間


ドンッ!


突然の爆発音と光に部屋が揺れ、マコトは反射で椅子から転がり落ちるように机の下へ潜る。

強い光が部屋中を照らし、マコトは匍匐前進をして窓から覗くと目を見開いた。


「・・・なに、あれ」

50mの壁を越えるほどの大型の巨人が、街を見ていた。
3年前起きた、超大型巨人の件を思い出してマコトは手を震わせる。しかも運悪く、調査兵団は今外に出払ってしまっているではないか。

しばらくすると爆発音が聞こえ、瓦礫が飛ぶのが見えた。その瞬間、同時にマコトのうなじにあった火傷がチリッと痛み始め、マコトは首を抑えると床に蹲った。

「なんなの、もう・・・助けてリヴァイさんっ・・・! はっ」

マコトは目を見開いた。


104期の皆

可愛い教え子達は確か、固定砲の整備をしていてちょうどあそこにいるはず。

ー先程笑顔で別れたエレンたちの顔がフラッシュバックした。


マコトは立ち上がると髪を簡単に縛り、一旦ジャケットを脱いで震える手で立体機動装置のベルトを締めるが震えて上手くいかない。

「落ち着け、落ち着け」

マコトは息を吐いて震える手を抑えて、立体機動装置を手にした瞬間、今度は突然頭がチリッと痛みが走った。

「った・・・!」


赤い髪に、翡翠の石のようにキラキラした瞳と目が合う。ハンジが言うように顔のパーツはやや自分に似ているが、どこかその顔は幼さを残している。この人物は・・・

「ノアさん・・・?」

フラッシュバックに映るノアは口パクだがマコトに大丈夫だよと伝え、自身が装備している立体機動装置をコツンと叩く。

とにかく、立体機動を装備しろと言われてるような気がしてマコトは急いで支度をした。



***


マコトは窓を開けると、えいっと思い切って飛び出した。
ここは3階・・・マコトは角度を決めてトリガーを引くとアンカーが射出されて壁に刺さる。

ヘリボーン(ロープ降下)の感覚でマコトは壁に脚を着けて、緊張していたのか溜まった息をハッと一気に吐き出した。

「で、できた・・・」

マコトは今度は上を向いて、屋根を目指すためにアンカーを出すとそのまま巻きとった、が

「うおおあっ!」

突然のGが掛かり体制を崩して屋上には到着したが、着地に失敗して屋根の上をゴロゴロと転がる。こんな衝撃でも立体機動装置は無事なようだ・・・マコトはぶつけた足の痛みを我慢して屋根を伝ってトロスト区の街へと向かった。






「・・・なにこれ」

マコトが着いた頃には、ほぼ訓練兵団は壊滅状態だった。それはそうだ、訓練をしていても実際の巨人とは戦ったことは無い。未経験の状態なのだ。

足を一歩踏み出すと何かを踏んだので下を見ると、誰かの腕だった。

「え・・・」

ちぎれた腕と認識した瞬間、マコトは口を抑えて吐き気を催ししゃがみこんだ。

「う、ゲホッ・・・」

マコトは深呼吸をした後、立体機動を使って屋根へ登るとまた信じられない光景が目に入った。

見覚えのある人物、エレンが屋根で倒れていたのだ。

「エレン! エレン・イェーガー!無事・・・」


無事だったか

と言いかけたところでエレンに駆け寄ると、左足が無くなって頭から出血をしていた。
切断された脚を見てマコトは震える手でエレンの肩に手を触れる。

「エレン、あなた・・・」
「マコトきょ、うかん・・・?」
「エレン、とにかく

逃げようと言いかけた途端、今度は巨人の口の中から叫び声が聞こえた。
その瞬間、エレンは立ち上がり巨人の中に飛び込んでいく姿。マコトは止める暇なんて無く身体が動けなかった。

ただ愕然としている間にエレンが巨人の口から引っ張り出してマコトに向かって投げた人物は、

「アルミン!」

マコトがアルミンを受け止めるとすぐに起き上がり巨人を見つめた。

「教官、エレンが!」
「こんな所で・・・死ねるか・・・!アルミン、お前が教えてくれたから、俺は・・・外の、世界に・・・!」
「エレン、早く!」

お互いが手を伸ばした瞬間巨人の口が締められて、助かったのはエレンの腕だけだった。
その腕はマコトの頬を掠めてパタタッと血が顔に付いた。

「う、うああああああああ!」

アルミンの叫び声が響く中、マコトは震える手でアルミンを抱えるとその場から撤退した。
抵抗することも無く、アルミンは抱えられ足元を見るとエレンの腕が落ちている。

それを目を閉じて振り切るとアンカーを射出して屋根を伝ったが足が震えて着地ができずそのままアルミンと転がった。

「うっ・・・たた、アルミン・・・無事?」
「マコト教官・・・僕、僕・・・」

返事はするが目の焦点が合ってない。
不味い・・・と拳を握って正気に戻そうとアルミンを殴ろうとした瞬間

「え、マコト教官?!」
「なんでここに?!」
「あ・・・みんな・・・」

コニー、ユミル、クリスタ・・・知ってる顔だ。
アルミンはコニーの呼び掛けで意識が戻ったが、アルミンの班は、アルミン以外全滅らしい。

「教官、ありがとうございます。 僕は・・・後衛に行くから」

そう言ってフラフラと立ち上がるとアルミンはどこかへ行ってしまった。
あのままでは危ない、とマコトはコニーの肩を掴みクリスタとユミルを見ると

「私はアルミンを追いかける。 お願い・・・3人共、死ぬなよ」
「・・・はい!」

3人は敬礼すると前衛へ行き、マコトは遠くにいるアルミンを追いかけた。





巨人は幸いにも遭遇しなかったがアルミンが着地に失敗して壁に凭れているのを見つけてすぐに着地した。

「アルミン、立てる?」
「教官、マコト教官!」

アルミンの腕を引いて立ち上がらせると、そこにはハンナが居た。
フリッツという訓練生と付き合っており、2人はバカ夫婦とも呼ばれているほど仲のいいカップルだ。

「ハンナ?一体何を・・・?」
「アルミン! マコト教官!助けて、フランツが息をしてないの! 教官から教わった蘇生術を繰り返してるのに!どうして、どうしてよ教官!」
「ハンナ、あの・・・」

ハンナはフランツの胸をずっとマッサージし続けている。アルミンはふらふらと近づくと

「ハンナ・・・ここは危険だから早く屋根の上に・・・」
「フランツをこのままに出来ないでしょ!!」
「違うんだ、フランツは・・・」

マコトは思わず目を逸らした。
ハンナが蘇生術をしているフランツの下半身は、もう無くなっていた。
きっと、ハンナを庇ったに違いない。穏やかで優しいフランツがやりそうな事だ。

マコトはそんな地獄のような光景に視線を逸らし、アルミンは頭を抱える。

「もうやめてくれ・・・これ以上は、もう無理だ・・・これ以上は・・・」

キャパオーバーになっているアルミンに、マコトは空を仰いだ。

「リヴァイさん・・・」

もう、絶望的かもしれない。

朝の調査兵団出立の日が蘇る。
無事に帰って来れるように願いを込めた準備、握ってくれた手。

出立間際、敬礼してくれたあの時の映像がフラッシュバックする。

「(あなたは、きっと隠れずにここに居た私を酷く叱るかもしれない。ごめんね、リヴァイさん)」

服の上からネックレスに触れる。
すると、ビリッとした電流が頭に流れ、頭を抑え地面に倒れた

「ぐっ・・・うっ」
「マコト教官?!大丈夫で・・・っは」

ズン、と言う音が聞こえて巨人はハンナを掴むと口に放り投げた。

アルミンは震えて動けず、マコトは倒れながら巨人を見たあとフランツを見つめた


「(…リヴァイさん)」


こんな時にでも、頭の中に出てくるのは真っ先にリヴァイの顔だ。

不機嫌そうな顔、自分に向けてくれる柔らかい表情、口を半開きにした寝顔、手料理を食べてくれた時のキラキラとした目・・・いつも優しく触れてくれる手。

マコトは目を見開く。

「(・・・死にたくない。死にたくない。私は、リヴァイさんの帰る所、リヴァイさんが私の帰る所!)」


電流が走ったかのような痺れと共にノアの姿が現れた。
お前も戦え…そう言われているいるような気がして迷わずその手を掴むと力が湧いてきた。いける、そう確信して腕に力を籠めると、ゆっくりと身体を起き上がらせた。

「教官、大丈夫ですか?!」
「アルミン、大丈夫だよ」


いける、マコトは巨人を睨みつけ、震える声を抑えながら


『よくも私の可愛い教え子達を食べてくれたね。私が見た範囲だと3人は食べられたか。』
「えっ?マコト教官・・・?」

アルミンは分からない言語を喋るマコトに混乱するがその眼を見て息をのんだんだ。
普段なら太陽の光で茶色になるマコトの目は何故か翡翠のように光っているが足取りはフラフラとしていてまた倒れてしまいそうだ。


巨人が動き出した。慌ててアルミンが立ち上がりふらつくマコトを抱えて逃げようとした瞬間手を伸ばしてきていた巨人の手が落ちた。

え?とアルミンが蒸発する手を見て、マコトが居ないことに気づくと上からガスの音が聞こえた。

「教官っ?!」

目を閉じたまマコトは立体機動をコントロールするとブレードを巨人のうなじにかけて振り下ろした。

項を削がれた巨人はそのまま崩れ落ちて倒れるとマコトも着地して膝を着いた。

「マコト教官!大丈夫ですか!」
「あ・・・うん、大丈夫」

目を開くと、マコトは倒れている巨人を眺めている。

巨人に殺されそうなった瞬間マコトの身体が勝手に動いたのだ。
きっと、リヴァイが贈ってくれたお守りのおかげだろう

「(ノアさん、ありがとう。)」

マコトは服越しにネックレスを撫でるとアルミンを見下ろす。

「とにかく、誰かと合流しよう」
「はっ・・・はい!」

すると鐘の音が聞こえた。
どうやら撤退の合図らしくマコトとアルミンは立ち上がると屋根の上に登った。


2人で移動をしていると、駐屯兵団がマコトを見つけて驚いていた。1人は眼鏡を掛けた銀髪の女性と背の高い細身の男性だ。

「マコト教官?!ここに居ましたか!」
「え?」
「ピクシス司令がお待ちです。こちらへ!」
「ピクシス司令・・・って、トロスト区の最高責任者?」

巨人は南側から来るとされており、壁に突起したシガンシナ区が最初に狙われた。
その後ろにあるのがトロスト区で、次に狙われるのはここだろうと言う考察があった。


駐屯兵団 ドット・ピクシス。

彼はトロスト区の南側全土を束ねる最高責任者であり、人類の最重要区防衛全権を託された人物でもある。

しかし、面識はあの時の審議会以来で話したことは無いし当時はそれどころでは無かった。
一体何の用事なのか・・・こんな緊急事態に。

「マコト教官、僕なら大丈夫です。行ってください」
「分かった・・・気をつけなさい」

アルミンは敬礼をすると遠くにいる班たちへ飛んでいき、それを見送ると駐屯兵団に連れていかれた。





「私はリコ、こっちはイアン」
「マコトです。」

案内されている途中、立体機動で建物を走り抜けていると巨人が3体居た。

「クソっ、やるしかない!」
「教官、あなた後ろに下がってて」
「いえ・・・私も戦います」

リコとイアンは顔を見合わせると3人で別れた。
アンカーを出して、マコトは巨人の真上を通り身体をひねらせると項を切る。

あの時ノアの手を掴んでから、やたらと身体が軽くなり動きやすいのだ。同時に倦怠感も襲ってきたが今はこんなところでダウンしている場合ではない。


同時に3体倒せたマコトたちは死への緊張で荒くなった息を整えると急いでピクシスの元へ向かった。




***




案内されたのは緊急で作られた屋外の会議室。

「お連れしました」
「おお、見つかったか」

そこには髭を生やした男性が穏やかに笑ってのんびりと酒を飲んでいた。
マコトは敬礼をすると座りなさいと言われ、椅子を引かれて席に着く。

「マコト教官、久しぶりじゃのぉ・・・やはり美人じゃ」
「え?あ、ありがとうございます・・・あの、なぜ私がここに?」
「エルヴィン団長から頼まれてね。もしもの時は君をを保護して欲しいと」
「・・・は?」
「迎えに行ったら君は居ない状態。そしたら君がトロスト区を飛び回ってると聞いてな。はっはっ!おてんば娘じゃのう」

呑気に笑うピクシスにマコトは呆気に取られた。

「マコト、君は立体機動装置が使えたのか」
「多少は・・・」
「なるほど。巨人討伐に参戦してくれてとても助かったよ。」
「いえ・・・慣れてないものでして」

そう言って紅茶の入ったカップを口に含む。

「伝令!15m級の巨人が街で暴れている模様。その巨人は・・・巨人を倒しています!」
「ほ?」
「は?」

ピクシスとマコトは伝令に来た兵士を見て同時に首を傾げた。

「巨人がほかの巨人を倒しているなんて・・・今まであったんですか?」
「いや、調査兵団からはそのような事例は聞いたことがないのぉ・・・奇行種か?」
「調査兵団はこの状態の件については?」
「んー・・・気づいてないな。まああの団長だ、察してすぐにとんぼ返りしてくるはず、それまでは持ちこたえるしかない」
「馬は・・・誰か出さないんですか?」

ピクシスは首を振った。
壁外に出たことがあるのは、調査兵団のみ・・・どの兵団もこの壁の向こうから出たことは無いし、出る勇気がない。

マコトは立ち上がると



「ピクシス司令。私が壁の外へ行き、応援を呼んできます。」

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