20:104期訓練兵団 解散式
マコトは近寄り難いキースとは違い、全員が声を掛けやすい教官だ。

訓練兵も、訓練中はマコトの話にしっかり耳を傾け、オフになるとマコトをイジったり、敬語を使わなくてもマコトは気にするタイプではなかった。

訓練兵は歳の離れた姉のようにマコトに懐いていた。

訓練中は厳しく心を折れるような言葉ばかりを放っているが、褒める所は褒める・・・と言った教育だったりわざと発破をかけるような言葉を選んで全員の士気を高めさせた。

無茶ぶりで行われた100kmの行軍訓練では背嚢を背負わせた上に立体機動装置を装備させたまま歩かせ、脱落者を出させないために全員で脱落者の荷物を分け与えて一緒に乗り切るという仲間との団結力を養わせた。

壁外調査中、遭難や補給が無くなった時の対応で狩りをして蛇やカエル、動物を食糧にする訓練などサシャの助けなどもありマコトが自衛隊で培った知識を惜しまずに104期生に注いだ。


ーそして、全員が卒業する頃にはマコトの攻撃を全員がギリギリ対応出来るまでの技術が身についていた。




「マコト教官」
「はい」


キースに声を掛けられ、マコトは自然と背筋を伸ばして見上げた。
相変わらず髪の毛はなく、感情の読めない顔をしながら

「明日はついに解散式だな。」
「はい。いよいよですね」
「君のような好かれる教官も珍しい。2年と少しだが、よく兵士を育ててくれた。私も助けられる部分があり、感謝しているよ。 」

そう言うと、キースは微笑みながら手を差し出してきた。
今までがむしゃらに訓練兵と走ってきた。途中からの飛び入り教官だったが、全員がマコトについてきてくれた。

鼻の奥がツンとなり涙が出ないように瞬きをするとキースの手を握り返す。大きな、がっしりとした手だ。

「こちらこそ・・・キース教官には学ばせていただくこと事が多かっです。今後の参考にしていこうと思います」
「私も、君の事を参考にさせてもらったよ。・・・君のように、兵士ともコミュニケーションを取らないとな」

キースとは広場で自主練をしている兵士を見てそう呟いた。


教官になり2年と少し・・・マコトがこの世界に来てからトータルで3年以上の月日が経っていた。
鏡を見ると、肩の長さだったボブヘアーから胸辺りにまで伸びており毛先は真っ直ぐに切り揃えられている。

忙しくたまにしか整える時間もなく気づいたらこんなに伸びてしまった。訓練中は縛れば苦ではなかったが自衛隊だったら速攻で切れと言われそうだな・・・とマコトは苦笑いした。

兵舎の執務室はあれから継続して使わせてもらっており、言葉も字も慣れたマコトはスラスラと書類を書いていた。危うく日本語を忘れてしまいそうだ・・・と時々ハンジに日本語を教えたりとなるべく使う機会を増やしている。

引き出しに入れられた自衛官の頃に使っていた時計を見ると、深夜23時だった。明日は解散式で、104期の教え子たちともお別れ・・・あまり実感が湧かないな、とマコトは天井を仰いだ。

結局、同じ飛ばされた人間であるアンナのようにこの世界に馴染んでしまったわけだが、マコトはやれやれと立ち上がると紅茶を用意して部屋の隅にあるドアを開いた。

「リヴァイ兵長」
「よぉ、マコト教官」

お互いふざけて呼び合って、笑いながらマコトはトレイを持ってお邪魔しますと部屋に入る。

あれから、リヴァイとマコトは恋仲になったが継続で周囲には秘密にしてある。バレている者もいたが、他言はされていないようだ。

執務室は訓練兵もレポートを出しに立ち寄るため、ドアは修復され怪しまれないように・・・しかしお互いが通り抜けで退かしやすいようにカモフラージュとして小さな棚を置いてある。

廊下で出入りすると目撃されるかもしれないので、こうして通り抜けのドアを使ってお互い会うようにしているのだった。

「おい、明日解散式だろ?いいのか、こんな夜更かしして」
「そちらこそ壁外調査近いのに大丈夫なんです?作戦会議とか」
「・・・嫌なこと思い出させんなよ」

普段寄っている眉間のシワがもっと深くなるとマコトは失礼、と謝りながらも笑う。

「もう3年以上ですよ、ここに来て」
「だな。すっかり馴染みやがって」
「ボロが出ないように必死でしたから」
「敬語も喋れるようになったしな」
「ふふ、あ。2人だけでしたね、そういえば」

2人だけの時は、恋人同士。階級を忘れる事。
リヴァイはやっと気づいたかとマコトの頬に手を添えると

「お前の育てた兵士が、やっと巣立つな」
「いい子達ばっかりだったなぁ。虐めちゃダメだからね?」
「はっ、どうだかな」

そう言うとリヴァイは噛み付くようにキスをして、そのままソファへと押し倒す。


「ん、リヴァイさんっ・・・明日は早いから」
「じゃあすぐ終わらせるか?」
「・・・そうやっていじわるする」

やめる気は無いらしい・・・マコトが顔を赤くして拗ねるのを見ると、リヴァイは笑いキスをしながらマコトのワイシャツを脱がすが手が止まった。

マコトの肩には青く鬱血した跡がありリヴァイは眉をピクッと痙攣させると


「・・・おい、これ」
「あ゛・・・や、これはちょっとスパーリングで。いやはや」


白い肌に内出血している痣が痛々しく、大丈夫だよとでも言うかのようにから笑いをするがリヴァイは知ったことかと目を据わらせると

「マコト。どこのどいつだ、俺がそいつを・・・」
「だ、だめだよリヴァイさん!みんな強くなったってことだよ!・・・ひゃっ」


リヴァイは拗ねると、その痣に舌を這わせたのだった。



***



104期訓練兵団 卒業式・・・
辛い3年間を終えて全員が達成感のせいか半べそ状態でキースの話を聞いているのを、マコトは後ろでにやにやと笑っていた。

「・・・では、マコト教官」
「はい!」

キースがこちらを向いた瞬間マコトは顔を一瞬で真顔にすると揺れる髪の毛を耳に掛け、全員を見渡す。

「皆さん、ここまで3年間よく耐えてくれました。この先、社会や組織など色々と苦労も待ち受けているかもしれませんが、私とキース教官は持てる限りの知識をあなた方に叩き込みました。ここまでよく付いてきてくれたね。あなた方に敬意を込めて。・・・卒業おめでとう! 」
「ありがとうございました!!!!」

そう言って胸に拳を当てると、全員が胸に拳を当てる。



全員の、晴れやかで成長した顔を見た瞬間マコトは

「キース教官〜!!寂しくなりますねー!うあああん!」
「こ、こらマコト教官! 訓練兵が見てるだろう!」
「だって、皆あんなに罵倒しても付いてきてくれたんですもん〜! ごめんねえぇ! 言い過ぎたよおぉ!」

あの鬼教官も心を鬼にしていたのだ。
キースにしがみつくマコトを初めて見る訓練兵は驚き、訓練兵達はうっ・・・と涙を浮かばせると

「うあああ辛かったーーー!」
「俺たち3年間頑張ったあああ!」
「教官ありがとうございましたあああ!」
「お肉ううぅーーー!!」
「お前らー!教官達胴上げすっぞー!」
「進めええぇ!」

数百人の104期生が教官2人に群がるとわっしょいと胴上げ始めたのは周りの兵士にも見られ、新聞の記事に胴上げされるマコトとキースの絵が載ったそうな。

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