夕方頃にはリヴァイから借りた服も乾いており、マコトはアイロンがけをするとネックレスを布に包んだままリヴァイの執務室前に立った。
が・・・
「き、緊張しゅるっ・・・」
あまりの緊張で噛んだ。
夜の出来事、事件とはいえリヴァイにはほぼ裸を見られてしまいマコトは恥ずかしさのあまり頭を抱えたくなった。
マコトはノックしようか手を上げたり下げたりしたが腹を括り「いざ!」と思い切ってノックをするが返事がなかったのであれ?と首を傾げると
「何か用か?」
「ひいぃ!」
本人は後ろに立っていた。
「ちょっと用事で出てただけだ。」
「な、なるほど。あ、あのこれ・・・ありがとう」
「ああ・・・そういえば。まあ入れ、話がある」
「う、うん・・・」
部屋に入るとリヴァイはジャケットを脱ぐとソファの背もたれに無造作に掛けた。そしてドスッと座るとマコトを見上げて
「別に部屋つながってるんだから勝手に入って置きに来りゃいいだろ」
「それはさすがに・・・ほら、大事なもの預かってるし」
そう言って服の上に置かれた布を手に取り開くと、あの時のネックレス。
金属音を立ててリヴァイはネックレスをしばらく眺め・・・マコトの目の前に突き出した。
「・・・これはおまえにやる」
「えっ、服を?」
「あぁ? ちげえ、ネックレスだ」
マコトは固まると
「えええ・・・!? そりゃ酷いよ! リヴァイさん!」
「何がだ」
「だってこれ、恋人がくれたやつでしょ?」
「はぁ?!」
石に触れた時に起きた記憶の話をするとリヴァイは頭をかく。
「ノア・・・そいつは俺の上官だったやつからの昇進祝いだ」
「へ?ノアさんって、あの?」
「・・・なんだ、聞いてたのか?」
「ハンジさんから、多少・・・あっ」
ハンジから聞いたノアの特徴と、記憶で見たノアの特徴が完全に一致した。
「記憶とやらは分からんがノアのことを知っているのなら話は早い。ノアには婚約者も居たし、俺はあいつの事をまあ・・・尊敬、だな」
「尊敬?」
「生きてる時は調子に乗るから口が裂けても言わんかったが。 アイツの意志を引き継いだつもりでそのネックレスは身につけていたようなもんだ」
リヴァイは引き出しを開いて蝋で留められた深緑の手紙をマコトに差し出した。
どうやらノアがリヴァイへと書いた遺書らしく、読んでみろと指示すると恐る恐る手紙を開いた。
“兵士長記念を祝して私からプレゼントを贈ります。結構いい値段したんだから、金に困って売り飛ばさないでよ? でも、大事な人にプレゼントするなら許可する。”
リヴァイは心の中でそわそわしながら様子を見守っていると、マコトは手紙から顔を上げ
「私に・・・これを売ると? こちらこそお金無いです・・・」
「・・・・・・お前は馬鹿か。それに俺は金には困ってねぇ」
ここ読め、と指示すると
「えと、リヴァイさん・・・私の読みが間違えてなかったらこれは「大事な人」と書かれてますが・・・」
「そうだ」
照れくさいのか、背中を向けたリヴァイの耳はほのかに赤くなっておりマコトも心臓がうるさくなり顔が赤くなる。
「え、じゃあ、通り道だからって訓練場まで送ってくれたのに、わざわざ来た道戻ってるのも・・・き、期待していいの?」
「見てたのかよ・・・ああ。ていうか飯誘った地点で察しろよ」
黙り込んだマコトにリヴァイは振り向くと、マコトは泣きながら笑っていた。
「あ?ったく、泣くのか笑うのかどっちかにしろよ」
「ふぇ、だって・・・ゔれ゙ぢい゙・・・」
リヴァイは鼻で笑うとマコトの涙をハンカチで拭いながら
「お前の第一印象はヘビ食う頭おかしい奴とか、負けず嫌いの馬鹿女だと思ってた」
「え、ひどい」
「言葉が通じない上にこんなクソみたいな世界に来ちまって、気が狂うはずなのにお前は真正面から受け止めて適応しようと努力した」
リヴァイはマコトの涙を拭うと、そのまま髪の毛を耳に掛けてやる。
その優しい手つきにマコトは頬を赤くさせ俯くと
「帰る場所がないって言ったな、お前」
「え? う、うん・・・」
リヴァイは真っ直ぐマコトを見つめると
「お前の帰る場所が俺じゃ嫌か?」
帰る場所が、リヴァイ。
「へ・・・」
マコトは頭の中で反復すると、また涙がこぼれ落ちた。
初めて会った時からずっとリヴァイは近くに居てくれて自分を見ていてくれた。居なくなったら探しに来てくれて、約束を守って助けに来てくれた。
「リヴァイさんが、帰る場所になってくれるの?」
「ああ。 正直仕事柄、いつ死ぬか分からねえが生きる努力をする。 俺もお前の所へ帰ってくる。お前が元の場所に帰れるまで・・・お前の居場所になりたいし、お前も・・・俺の居場所になってほしい」
マコトの手からネックレスを取ると留め具を外して前からネックレスを掛けると抱きしめられているような形になりマコトは恥ずかしくなる。
カーネリアンの石がマコトの胸元に落ち着くと、リヴァイはマコトの目から再び溢れる涙を指で拭いながらそのまま頬に手を添えて真っ直ぐ見つめると
「好きだ」
「・・・わ、私もっ、リヴァイさん、好きっ!」
叫ぶに近い告白をするとリヴァイは吹き出して頬を抓ると
「はっ、声でけぇよ。 」
「ご、ごめっ・・・」
「人工呼吸でもうやっちまったが、これが正式だ」
「へ? ・・・んんっ」
たまらなくなりリヴァイは唇を押し付けた。
***
しばらくしたあと、マコトとリヴァイは寄り添いながらソファに座って紅茶を飲んでいた。
変わったことといえば、座る距離がゼロ距離になったこと、リヴァイがマコトの手を離さないことで、慣れないマコトは繋がれた手を見ると耳を赤くして微笑んだ。
そして首に下げられたカーネリアンのネックレスを撫でると、
「うーん、でもこれ訓練中割れそう・・・」
「壁外調査で持って行っても割れなかったから大丈夫だろ」
「リヴァイさんは強いから・・・あ、そうだ」
首元からドックタグを取り出すと、リヴァイに渡した。マコトの世界にある英語と呼ばれる言語で書かれたそれを受け取ると
「ネックレスのお礼です。」
「いいのかよ?」
「うん、大丈夫。リヴァイさんの新しいお守り。」
そう言ってマコトは照れくさそうに俯く。
そんな姿を見てリヴァイはまた込み上げるものがありマコトの顎をあげると
「お前・・・クソ可愛いな」
「えっ、かわっ、んんっ」
そう呟くとリヴァイはマコトの唇にまたキスをしたのだった。
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