15:初デート

「き、緊張する・・・」

変じゃないだろうか・・・と服装を最終チェックする。
先日厳選したシフォンスカートとVネックになっている7分袖のシャツ。

「脚、スースーする・・・」

未だに慣れない。スカートなど高校生ぶりだろうか。それからは迷彩服か私服でジーンズにTシャツと服装ばかりで着るとしたら友人の結婚式くらいだった。

靴も、半長靴かスニーカーで生きてきた人間なのでヒールは苦手。これまた友人の結婚式とエルヴィンと飲みに行った時ぶりのパンプスだった。

髪の毛はクリスタに聞いたら張り切ってユミルと執務室へ押しかけて髪の毛伸びましたね〜と話しながらひとつの緩い三つ編みを編んでくれた。

デートなんですから!とペトラと買った化粧品をクリスタはメイクアーティストばりにマコトに施すと

「うわぁ!教官可愛いです!」
「教官化けるなぁ・・・」
「クリスタ・・・天才だね君は・・・」

アプリコットオレンジのリップを引けばマコトの印象はだいぶ変わった。

兵舎の入口で立っているのだが先程から視線が痛い・・・変だっただろうか。いや、クリスタを信じるんだ!とマコトは拳を握った。




***




約束の時間がギリギリになってしまいリヴァイは軽くシャワーを浴びて服を着た。黒いパンツにスタンドカラーのワイシャツに黒いジャケット。
部屋を施錠して兵舎を出ようとするとすれ違う男性兵士がこそこそと

「なあ門に立ってた子、可愛くないか?」
「ああ、でもあの顔・・・どっかで見た事あるんだよなぁ」
「そう言われれば確かに・・・っと、リヴァイ兵長!お疲れ様です!」
「お疲れ様です!」
「ああ」

兵士の敬礼に応じながらリヴァイは待ち合わせの門まで行くと、そこにはシフォンスカートと7分袖のシャツを着た女性が目に付いた。

そわそわと挙動不審さにリヴァイは首を傾げたがそのまま近づいて分かった。

「・・・マコトか?」
「あ、リヴァイさんっ!お疲れ様です!」

思わず絶句してしまった。
最初に出会った頃は真っ黒な化粧で顔を隠しており、普段はスッピン。でも肌は綺麗な方だったので気にはならなかったが化粧をするとマコトの顔は一層映えた。

あまりの別人さにリヴァイは内心驚くと同時に心臓がうるさい。 冷静になれと少し咳払いをすると

「・・・悪い、遅くなった」
「い、いえ!今来たところだから!」
「行くか」
「うん!」

リヴァイとマコトは肩を並べるとそのまま兵舎を出ていった。




***




リヴァイ班リサーチ済みのお店は、ペトラがイチオシする女子ウケのする飲食店だった。色々店の特徴を聞いて、決めたのはリヴァイ。

リーズナブルな金額でコース料理が出ると好評で味も良いらしい。金額の上限はなかったが、ペトラ曰くマコトが好きそうなお店と聞いたのが決定打だった。

店内はドライフラワーが飾られ、木製のテーブルなどで席が作られている。 リヴァイはよくこの感性は分からなかったがマコトはお店に入ってわぁ、と見渡すと

「すっごく可愛いお店!」

ペトラ、よくやった。
そんな労りの言葉を心の中で呟くとリヴァイは椅子を引いてマコトを座らせた。
紳士な行動にマコトは緊張しながらお礼を言って座る。

お店の中は女性客やカップルも居るのでデートスポットなのだろう。

「昼間はカフェらしいが、夜はこうやってディナーが出来るらしい」
「へぇ・・・女子ウケですね。リヴァイさん、来たことあるんですか?」
「いや、俺も初めてだ。」

少し沈黙の後リヴァイはぼそりと

「俺は女をこういう所に連れていった事も誘った事もないんでな・・・ペトラ達から色々聞いた」
「へ・・・?」

リヴァイは自分のためにお店を探してくれたのだ。
そう思うと頬が熱くなり、手の甲で冷やすが効果は今一つだ。

「嬉しい・・・。あ、ありがとう、ございます!・・・メニュー見ますか!」
「ああ、そうしよう」

イタリアンという表現はないが、ここはパスタ専門らしい。

「リヴァイさん、パスタ食べるんです・・・?」
「作戦班の慰労会でペトラが幹事をやった時以来だな。 ・・・決まったか?」
「は、はい!」
「俺の奢りだ、遠慮はするな」
「え?!」
「俺も男だ、女に飯代は払わせんぞ」

そうリヴァイは微笑むとメニュー表に目を落とした。
そんな伏し目がちな姿も絵になる、とマコトはぼーっしてしまう。

尚更高いものは・・・とマコトは無難に中間くらいのパンプキンソースのパスタを頼んだ。


「リヴァイさんは?」
「トマトソースだ」

可愛いかよ

思わず言いかけてマコトは笑顔で誤魔化すと私も迷ってたやつです、と付け足した。

しばらくして運ばれてくるとマコトはいただきます〜と呟いてパンプキンソースのパスタを口に入れると

「ん!美味い!」
「そうか」
「リヴァイさんのも美味いですか?」
「ああ、悪くない」

そう言うとリヴァイはクルクルとフォークにパスタを巻くと

「食うか?」

そう言って差し出してきた。

「(これは、もしかしなくても関節キス・・・!あなた潔癖症なのどっちなの?!)」

いただきます・・・とあーん形式で食べるとトマトのソースの酸味が広がって美味しい。

「んん〜んまい〜!」
「だらしねぇ顔だな」

フッと笑うリヴァイの笑顔にマコトはドキドキしながら自分も・・・とフォークを動かすと

「はい、リヴァイさんも。あーん」
「あ?」
「私のも美味いですから」

リヴァイは頷くとパクリとマコトのフォークでパスタを食べた。

潔癖症なので「いや、俺のフォークで食う」とか言いそうだったのだが想定外過ぎて驚くと

「・・・美味いな」
「でしょ?」

マコトは嬉しくなり、歯を見せて笑った。


少し沈黙があった後リヴァイは素朴な疑問を投げかけた。

「お前、何でジエイカンになろうとしたんだ?」

周りにバレぬように少し小声で言うとマコトは

「父と母がそこで出会って結婚したんです。主な仕事は国を守る事ですが、それ以外に自然災害の救出で派遣へ行くのも仕事です。父と母は有事の際に家を開け、私は祖母の家で過ごしたりしたかな。」
「・・・寂しくなかったのか?」
「いえ、寧ろ誇らしかったかな。実際自分も行ってキツい思いをしたけど。」
「例えば?」
「精神的にですかね・・・家を無くした人へお風呂の提供をしたり、行方不明者の捜索なので」

リヴァイもそれは、シガンシナ区の陥落で経験している。あれは相当悲惨なものだ。
マコトは笑うと

「食事中の話じゃないね。 まだ新人だった頃に大きな地震があってね、凄く悲惨な現場だったけど被災した人達は強かった。また復興してやる、って。
派遣が終わって駐屯地に帰る頃、街の人皆で見送ってくれて・・・一気に疲れが吹っ飛んで。正直あの現場は色んな意味でキツすぎて辞めたくなったけど、あの人たちの顔を見たらこの仕事続けようって思ったの」

マコトがここにきてどれくらい経っただろうか。
喋れなかったマコトが今ではこんなにペラペラと喋り自分の仕事を誇らしく語っている。

「・・・お前、よく喋るようになったな」

感慨深くなり思わずそう言うと、マコトはあははっと笑い

「私元々結構喋るんだよ。リヴァイさんも、今日はよく喋るね」
「はっ、俺も元々結構喋る」

そう言ってお互い笑うとリヴァイはワインを口に含んだ。




「ごちそうさまでした」
「俺が誘ったんだ。気にするな。・・・日頃お前はよくやっている」

そう言われてマコトは泣きそうになる。
自分の事をちゃんと見ていてくれる人間が居る、とても嬉しいことだ。

「ありがとうございます。でも全部エルヴィン団長やリヴァイさん、ハンジさんのおかげだよ」
「俺たちはただきっかけを与えただけで、身の振り方はお前次第だった。おかげで訓練兵とも仲良くしてるじゃないか。よく執務室に遊びに来てるだろう」
「あはは・・・お騒がせしてすみません」
「飴と鞭が出来てるから俺は悪くないと思う」

酒が回ってるのか、今日のリヴァイはめちゃくちゃ褒めてくれる。


「オフだと敬語使ってこないけど、ちゃんとスイッチが入ると切り替えれるいい子達だよ。体幹の訓練もさせてるから立体機動の動きも良くなったってキース教官が」

そんな話をしていると、もう角を曲がれば兵舎に着いてしまい2人で廊下を歩く。

すると、ふとリヴァイの手とマコトの手が当たってしまいお互いピクッと反応して立ち止まった。


「・・・」
「・・・」

このまま直立して動けずに居ると、動いたのはリヴァイだった。

マコトの手を取り、そのまま廊下を歩く。
誰かに見られるかもしれないのに、とマコトは顔が赤くなり俯く。


あっという間に、隣同士の部屋に着いてしまった。


「・・・改めて今日はありがとうございました」
「ああ、ゆっくり休め」
「はい。おやすみなさい」

名残惜しそうに手が離れる。

マコトは微笑みながらドアを閉まれば、風でふわりとグリーンティーのお香の香りが広がった。


リヴァイも部屋に入りジャケットを脱ぐとソファに座りマコトも部屋に入りベッドにダイブすると


「あいつ、あんな可愛かったか・・・?」
「リヴァイさん、かっこよかった・・・」


違う部屋だが同時にそうつぶやいたのだった。

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