13:鬼教官と兵長のお悩み相談
次の日の訓練ー


「やぁっ!」
「ヴッッ!」

マコトは格闘術の自主練に付き合って欲しいと頼まれ、クリスタと演習場に来ていた。

ぼーっとしていたせいで防御が遅れ、クリスタの拳がお腹にクリーンヒットした。

「あ、あ゛あ゛あ゛ぁ・・・」
「きゃあああ教官! ごめんなさい! ユミルー! お水〜!」

半泣きのクリスタがそう叫ぶと仕方ないなとユミルは水をマコトに渡した。
クリスタの悲鳴を聞いたライナーが慌てて駆け寄ってマコトの所へ膝をつくと

「お、おい教官、大丈夫かよ?」
「へ、平気・・・」
「教官〜クリスタのパンチ食らうなんて今日どうしたんだよ?」
「ははは。ごめん、ちょっと考え事してた」
「考え事?」
「教官にも悩み事あるんだな」
「悩み事って何ですか?」

こてん、とクリスタは首を傾げる。
クリスタは104期の訓練兵で、容姿端麗で心優しい少女だ。正直104期の中でモテる女子といえばクリスタだ。

そんな心配する姿も可憐で可愛いな、とマコトはベンチに座ると

「少し事故があってね・・・その相手とは気まずくなってしまったんだよ。目を合わせようにも合わせられなくてね・・・めちゃくちゃよそよそしい態度を取っちゃった」

その話を聞いて何かを察したユミルが笑うと

「もしかして、男関係か?」
「ぐふっ」

図星だ。

マコトは水を吹き出しかけ口がぷくっと膨らんだ。そんな反応を見てユミルは当たりか、と今度は悪そうにニヤリと笑う。

「え?!そうなの?!」

恋バナか?!とクリスタは目をキラキラさせてマコトを見上げる。
そんなクリスタも可憐で可愛い、とマコトは眩しそうに口を拭いながら目を細めた。

決してヨダレが出た訳では無い。

「ユミルは鋭いね・・・もつれ・・・あれはもつれなのかな・・・例えるならさ、ハンナとフランツがイチャついてるところを見てしまったというか」

そう言うと、クリスタとユミル、ライナーは「あぁー・・・」と声を揃えた。

「ん?つまり、教官が好きな男が他の女とヤッてるのを見てしまったって事か?」
「ヤッ・・・?!ユミル、どこでそんな破廉恥な言葉を・・・は?!す、好き?!」

1人でテンパっているとユミルは真顔で

「じゃなきゃそんな落ち込まないだろ」
「なあマコト教官・・・」

ずっと聞いていたライナーが顎に手を当ててそれは・・・と続きを話す。

「それは気まずいんじゃなくて、ショックだったんじゃないか?」
「ショック・・・かぁ」
「教官ってたしか調査兵団の兵舎に居たよな。じゃあ調査兵団関係か」
「ぐっ・・・」

どんどん的を絞られている気がする。
クリスタはうーんと腕を組むと

「その2人は本当に付き合ってるのかな?」
「見た事ある顔だったのか?」
「ううん。見たこと無かった・・・若い子だったな」
「私聞いた事あるけど、壁外調査近いだろ?そうなると男女の関係になりたがる事ってあるみたいだ。 死ぬならいっその事・・・ってな」
「はぁ・・・そうなんですか・・・」

教え子相手に真剣に敬語になるマコト。
興味本位なのか、クリスタは

「その人って、どんな人なんですか?」
「えぇ?んー・・・目つきが悪い。綺麗好き。 私が保護された時も、慰めてくれたり訓練行く前も近くまで送ってくれる優しい人だよ」

そう言って笑うと、3人は驚いてマコトを見つめる。本人は気づいてないが普段大笑いするマコトではなく、照れたようなはにかんだ笑顔なのだ。

そんなマコトを見たユミルはまたニヤッと笑うと

「へー教官、結構可愛い所あるね」
「その人も、絶対マコト教官の事好きですよ!じゃなきゃ送ってくれたりしないよ!」
「まあライバルはその女かもしれんが、親密度は教官の方が上なんじゃないか? 強気で行こうぜ。」

マコトの手を取って真剣に力説するクリスタも可憐で可愛いなと思いながらマコトは笑うと

「3人共、ありがとう。今日は普通に接してみる。」
「よし、そうと決まれば教官!続きやりますよ!」
「おー! クリスタ、また教官の腹に一撃決めてやれ!」

そう言って構えを取るクリスタを見てマコトは笑うとどこからでも掛かってこい、と構えをとった。




***





「リーヴァイィーーー」
「・・・なんだ」
「これ回ってきた書類ね。読んだら確認のサインよろしく」

ペンが止まっているリヴァイの書類の上にポン、とわざと嫌がらせのように数枚の紙を置く。ここで普段なら「ここに置くんじゃねぇ」と怒るのだが今日は怒らない・・・様子のおかしいリヴァイにハンジは首を傾げると

「ねぇ、なんか元気なかったりする?」
「別に」

そう言って頬杖をついてそっぽをむくリヴァイの違和感に気づいたハンジは机に体重を掛けると

「・・・何かあったね?」
「お前に関係ないだろ」
「結婚前鬱ならぬ壁外調査前鬱って訳じゃないだろうし。・・・ああ、この時期になるとリヴァイの部屋に押掛ける女兵士はいるか。物好きだよねぇ〜」
「うるせぇ。そんなもん門前払いだ」
「潔癖症のあなただからそりゃそうだ。 でもマコトには見られないようにしなよ?」

マコトの名前を聞いた瞬間リヴァイは何も答えず、眉間のシワをもっと寄せた。
ハンジはえ・・・?と目を見開くと

「え、まさか」
「・・・言い訳はしねぇ、俺の失態だ」
「は? は? 説明してよ!」

リヴァイではなく恐らくハンジはマコトの心配をしての追求だろう。

リヴァイはぬるくなった紅茶を口に含めると

「・・・夜中、女の兵士が押しかけてきてな。いつも通り断ったが言うこと聞かない奴で、突然脱ぎ始めたんだ」
「わあ、大胆な事」
「俺が追い出そうとしたらそのまま転んで・・・その音でマコトが心配して部屋に来たら俺が女兵士を押し倒してる格好を見られた」

はぁ・・・ハンジは溜息をつきながらメガネを外す。

こう言う仕草をしたときのハンジは、キレるなど本音の感情を露わにする時だ。リヴァイは甘んじて受けようと目を閉じると、

「・・・リヴァイ、馬鹿だねぇ」
「同感だ」
「で、誤解は解いた・・・って感じじゃないね」
「声は掛けたが目を合わせてくれないし凄く・・・よそよそしい」

あれは結構堪えた、とリヴァイはつぶやく。
相当なダメージを受けてるな、とハンジはボリボリと頭をかくと

「そんな好きならデートに誘いなよ」
「は?」

ハンジの発言にリヴァイは落ち込んでいた顔を慌ててあげた。

「好きだと?」
「好きじゃなきゃそんな落ち込まなくない? 幻滅されたかもってショックなんでしょ?」

言われてみたらそうだ。
何故自分はこんなにも焦って居るのだろう? しかし誤解ならどんな相手でも解きたいと思うのが普通なのではないか?

「その場で弁明出来なかったって言う事は、あなたが珍しく焦って言葉が出なかったからでしょ?」
「そういう、事か?」
「私の考察だけどね。 んで、デート誘ったら?」
「デート・・・」
「そう。っていうか2人とも兵舎の中でしか会ってないでしょ? 2人でどこか行けばいいんだよ。 マコトに対して好意を示さなきゃ」
「さっきから言ってるが・・・好意って何だ」
「え、マコトの事好きなんでしょ?」
「だから、何でそうなる」
「はぁ?! ちょっとリヴァイってば、マジで言ってる? 話聞いてた?! 」
「理解できん」


バンッ!と机を叩いて身を乗り出すが、ハァ・・・とハンジは溜息をつきギトギトの頭をボリボリと掻きながら唸る。
巨人との戦いになるとキレのある動きをするのにこういう所はキレが悪くなるのか、リヴァイの新たな一面を見つけてハンジはため息つくと

「もう1回説明するよ。いつも通りの出来事なのにマコトに見られ、マコトに誤解されて避けられて・・・なんでそんな落ち込むの? なんとも思ってなかったらそんな風にはならないでしょうよ」
「それは・・・」
「マコトの事が気になってるからじゃないの? 好きだからじゃないの?!かあぁーっ!これだからモテる男は!!」
「あぁ?」
「そりゃあなたは息してりゃ女寄ってきますもんね! 鈍くて当然か!」

勝手にキレるハンジにリヴァイは若干引きながら

「俺は・・・好きなのか?」
「その感じだと私にはそう捉えられるけど・・・」
「・・・どうしたらいい」
「食事だよ」
「食事・・・?」
「あなたに好意がありますよってアピールしなきゃ。
ああ、食事は高級すぎるレストランはやめて普通の飲食店がいいよ。ペトラやエルドなら女子ウケするお店知ってるんじゃない?私以外だと特にペトラはマコトと仲がいいし、好みを知ってるんじゃない?」

なるほど・・・とリヴァイはハンジに渡された書類に適当にサインを書いてポイッと渡すと

「ペトラとエルドの所へ行ってくる」
「ほーい、頑張ってね」

一緒に執務室を出るとリヴァイはハンジを見ずに

「・・・助かった」
「はいはい。頑張んな、人類最強さん」

こくりと頷くとリヴァイはペトラとエルドの元へと向かった。




***




「整列!」

訓練をしていたリヴァイ班がリヴァイを見つけると、立体機動をやめて地面に着地すると整列して敬礼をした。

「今日はお前達に相談したくて来た。」
「相談?」

リヴァイは目を閉じたまま腕を組んで、カッと目を見開くと

「女子ウケのする飲食店を教えて欲しい」
「女子・・・」
「ウケ・・・?」

4人は口を開けたが、察したペトラがエルドを叩くと全員で肩を組んで円陣を組む。


「兵長の春よ!」
「つ、ついに動くのか・・・」
「ペトラ、分かるか?!」
「もちろん!」
「頼むぞ!兵長の晴れ舞台だ!」


ペトラはリヴァイを見ると

「兵長、すぐにお店をおまとめしますね!」

そう言うと4人は心臓を捧げる敬礼をしたのだった。




***




そして、壁外調査前日の夜ー

「つっても・・・部屋入っちゃえば出る理由ってほとんど無いんだよね・・・」

マコトはベットで仰向けになりながらまたもや携帯で曲を聴いていた。 エルヴィンから返却された背嚢を改めて整理していると、なんと携帯充電器が出て来たので当時の自分を全力で褒めてやりたいと思った。

と言っても制限するには変わりないので相変わらず控えめな音量でとりあえずぼーっと音楽を聴いていた。



すると、コンコンとノックをされマコトはスマホを枕の下に入れると

「はい」
「・・・俺だ、リヴァイだ」

ドアを叩いたのはリヴァイだった。
マコトは途端心臓が跳ね上がり、返事をした事を後悔した・・・が、クリスタやユミル、ライナーと話し合ってみると決めたのだ。

マコトは冷静に、と深呼吸をして慌てて髪の毛を直すとドアを開けた。

「悪い、仕事中だったか」
「い、いや!ゴロゴロしてた・・・」

昨日の事を思い出してしまい最初は目が合ったがまた目を逸らしてしまった。

「明日、壁外調査にいく」
「は、はい・・・」
「お前さえよければ、帰ってきたら・・・・・・飯、行かないか」

最後の方はフェードアウトして行き聞き取りづらかったが十分に聞こえた。

え?え?とマコトは理解すると段々と心臓がバクバクし始め顔に熱が集まる。

「・・・どうだ?」
「う、うん・・・私で良ければ」

照れ隠しに髪の毛に耳を掛ける。
昨日の女兵士は何だったのだろう・・・と思っていると

「昨日のヤツは勝手に押しかけてきただけで俺とは何も関係ない。分かったか」

早口にまくし立てるようにそう言われればマコトは頷くしかない。

マコトは理解し、リヴァイは言えて満足したのか息を吐くと

「じゃあ、戻ったら予定空けておいてくれ」
「はい・・・」

するとマコトはそのままドアを閉めた。

マコトは熱くなった頬を手で挟みながらドアに凭れて座り込み、リヴァイもマコトの部屋のドアに背中を向けると

「ご、ごはん・・・誘われた・・・」
「よし」

リヴァイは小さくガッツポーズをした。





次の日、壁外調査当日。

さすがのリヴァイも今日は付き添いまでは来ないだろうとドアを開けるとリヴァイは腕を組んで立っていた。

「おはよう」
「お、おはよう・・・えっ時間いいの?」
「ああ。出発はまだ先だ」

行くぞ、とリヴァイは背中を向けるとマコトは急いで追いかけた。
昨日の事などまるで無かったのようにリヴァイは歩く。

「(まさかあれは自分の都合のいい妄想だったのかな・・・)」

あっという間に訓練場付近にたどり着くとこちらを振り向いて

「・・・じゃあ、頑張れよ」
「うん。ありがとう」

リヴァイは頷いて背中を向けると思わずマコトはリヴァイのジャケットの袖を掴んでしまった。

「あ、あのね! 怪我とか、気をつけてね・・・」
「ああ。お前も・・・予定空けとけよ」

あれは夢じゃなかった、マコトは顔を真っ赤にすると頷いて

「楽しみに、してるから・・・」
「・・・ああ」

ぽん、とリヴァイは頭に手を置いてから優しく撫でるとそのまま兵舎の中へ戻って行った。



それから壁外調査でのリヴァイはいつもより巨人の討伐数が多く、マコトも張り切りすぎて全員とスパーリングをした。

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