1:行軍訓練


ここ最近、妙な夢を見る。
巨人が出てくる怖い夢。

私が空を飛んで、巨人を倒す夢だ。
そんなファンタジーな夢を見るなんて、どうかしてしまったのだろうか。

「おい、あまり無理はするな。──。」

肝心な名前が聞き取れない。
いつも見る夢、私の傍らにはいつも、少し小柄な男性が立っている。

ーそこで夢が途切れるのだ。








ー 20XX年 日本 陸上自衛隊 某駐屯地

AM 6:00
起床ラッパの音が鳴り、身体が反射で起き上がる。 そのまま眠気眼で着替えて、半長靴の紐を素早く結

・・・またあの夢だ。
後で同僚に教えようと思っても、数分後には記憶から消えてしまう。夢なんてそんなものだろうとそのまま忘れるのだが、またその夢が出てくる。


最近、それがやけに頻繁なのだ。


もやもやとしながらそのまま上のジャケットを着て、ルームメイトと挨拶をしながら部屋を出た。


「点呼!」


全員廊下に並べられて点呼が始まり、1番階級が上のマコトが同室の後輩たちの体調確認をする。

その後部屋の掃除、朝食を食べて、訓練準備、朝礼をして各班の訓練が始まる。



自衛隊が賞賛され、チヤホヤされるのは災害時や国に危機が迫った時のみ。それ以外は正直地味な仕事ばかりなのだ。 中には自衛隊を必要としない、無くすべきだと言う国民もいる。そんな批判的な国民含めて、守るのが自衛隊の仕事だ。


自衛隊が国民から歓迎されチヤホヤされる事態とは、外国から攻撃されて国家存亡のときとか、災害派遣のときとか、国民が困窮し国家が混乱に直面しているときだけなのだ。

言葉を換えれば、君たちが日陰者であるときのほうが、国民や日本は幸せなのだ。

どうか、耐えてもらいたい。自衛隊の将来は君たちの双肩にかかっている。


・・・元内閣総理大臣の茂木茂が防衛大の第一期生の卒業式に伝えた訓辞だ。 それを親から聞いたマコトは、このルーチンワークの生活をしている時ふと思い出すようにしている。


そう、これが自衛官の1日で今日も明日も何年も続いていくのだ。




マコトの父と母は防衛大学校卒の幹部自衛官だ。
2人とも卒業した後赴任先で再会し職場恋愛で結婚し、公務員2人。またの名を二馬力と呼ばれるのだがおかげで不自由のない生活をさせてもらっていた。

災害派遣で家を空ける両親はとても誇らしく思い、その2人の背中を見ていたためマコトは高校卒業と同時に自衛官になり、訓練後は各部隊へ配属。とある某駐屯地で暮らしている。

今日は行軍という訓練で、駐屯地を出て道無き山の中を歩き続けるという地獄の訓練だ。しかも荷物は約20kg、そして手には20式5.56mmという3.5kgの重さの小銃を担いで歩くのだ。今回は「我が国に侵入してきた敵を想定しての訓練」という事で、弾などを装備した本格的な訓練だった。

何時間も延々と山の中を歩き続けて、足場も悪く雨も降ってきた。雨水が背嚢(リュック)に吸い込まれ余計に足取りは重くなる。

マコトはこの自衛官歴が長いので行軍には慣れているのだが慣れてない新隊員にとっては半泣き、最悪泣きながら歩く者もいるし体調を崩す者も現れる。

顔はカムフラージュメイクと言って緑や黒のドーランで顔を塗るため、正直名札を見ないとパッと見誰が誰だか分からない。
先頭を歩くマコトは班長のため皆を引き連れる役割なのだ。ペースが遅くなれば怒られてしまう。



しばらくすると後ろから鼻をすする新隊員の松山1士が居たのでマコトは振り向くと

「ほら松山、泣かない。もう少しで休憩だから」
「ふえぇ・・・はいぃ・・・」

彼もまた高校を出て自衛官になった少年だ。素直で礼儀正しく、人懐っこくマコトの班では最年少のせいか皆で可愛がっている。


やがて雨も強くなり、雷も鳴ってきた。

「(ったく、なんでこんな天候に訓練しようとしたんだよ・・・)」

足場の悪い山道では転がり落ちてもおかしくない。実際に訓練中に亡くなった自衛官も居る。

「足元気をつけろよ!!」
「落ちたら死ぬぞ!」

全員で声を掛け合いながらそう言う他の班長の言葉に返事をした瞬間だ、



ドンッ!



マコトの真後ろで突然大きな衝撃が来て首に猛烈な痛みが走った。

声を出す暇もなく隊員も驚きで体勢を低くするが雷に打たれたマコトを見た松山が悲鳴をあげ、その声で全員顔を上げた。

そのままマコトはふらつき、半長靴がぬかるみに取られ身体がグラっとする。
足で踏ん張ろうにも荷物が重すぎてそのままマコトは道のない山道を転がり落ちてしまった。




***




「うう・・・っ」

起き上がると目の前には土、起き上がると森の中に居る事が分かった。

「(そうだ、私・・・転んで、落ちたんだっけか)」

腕時計を見ると時刻は夜の22時。
落下したのが17時頃なので5時間は経過していた。

自分は捜索されているのだろうか?マコトは不安になりヘルメットについていたLEDのライトを点滅させれば森の中が明るく照らされた。

少し歩き、木に凭れてジップロックに入れられたスマホの電源を入れると見慣れたリンゴマークのロゴが現れてすぐに駐屯地へ連絡を入れようとした、が。

「圏外・・・?」

山の中だから電波が届かないのかもしれない。
もうすこし歩いてみようとマコトはよいしょと掛け声と同時に背嚢を背負うと歩き始めた。

ヘルメットの付いたライトを点灯させながら歩き、耳を澄ますと虫の鳴き声やフクロウの鳴き声も聴こえそれをBGMに時折スマホを見ては電波を確認するがやはり圏外のままだ。時刻は23時を回っていた。




「逆に歩き過ぎない方がいいかな・・・」

マコトは再び森の中に入ろうとするとガサガサッと音が聞こえたのでハンドガンを入れているホルスターのボタンに手を掛けながら振り向くと、松明を持った男が立っていた。

人だ、とマコトは安心して笑顔になると男は突然

「で、でたあああああぁ!!!!!」

男は叫ぶと松明を持って逃げてしまった。

「ま、待って!!」

慌てて追いかけるが荷物が重たすぎて途中で見失ってしまった。膝に手を着くと、マコトはそのまま座り込んだ。


※物語に書いてある専門の内容は全てフィクションになっております※
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