11:盗難事件
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半長靴(はんちょうか)

最新の半長靴は半長靴3型。
自衛官が主に装備する靴で、最新の3型では水の侵入や蒸れが軽減された。


ちなみに靴の手入れも重要な仕事であり、これは自衛官前期教育で習う。

価格は1万以内で購入可能。



***




ー 848年

マコトが訓練兵団の教官になり1年が経とうとしている。

ここの文化にも慣れ、教官としてがむしゃらに訓練兵と汗水を垂らしながら過ごしていたらいつの間にか歳を重ねてしまっていた。

今日は、月に1度の各区にある訓練兵団の合同演習だ。
主に立体機動装置の訓練で班に別れ、色んな訓練兵の技術を見る事で刺激になりお互いを高め合うというのが目的である。

マコトも訓練兵を誘導する係として演習に顔を出しており、ほかの訓練兵団と顔見知りになってきたので挨拶や軽く話をしながら誘導していく。

それに、エルヴィンやリヴァイ、ハンジなどの調査兵団幹部、駐屯兵団幹部、憲兵団幹部も見学に来ており、訓練兵はいい所を見せてやろうと俄然やる気満々である。

「マコト教官!」
「ん?あら、フレン」
「ご無沙汰です!」

茶色の髪をマッシュヘアーにした可愛らしい顔をした青年・・・フレン。
彼は西部突出区のクロルバ区の訓練兵団所属でありそちらでは優秀な訓練兵だ。

マコトの格闘技の噂を聞き、初めての演習の時に教えて欲しいと声を掛けてきた。
こういう時でしか顔を合わせないのでフレンはにこにこしながら

「マコト教官の助言のおかげで、組手で勝てるようになってきたんです!」
「良かった、フレンの努力の賜物だよ」

そう言って笑いかけると、フレンはへへっと照れ笑いすると順番が回ってきたので仲間に呼ばれると「また後で!」と手を振って班のところへ戻って行った。

それを遠目で眺めていたハンジは

「へぇ〜マコトは他の訓練兵団とも親交があるんだねぇ」

チラリと隣を見れば、リヴァイは何も言わないが腕を組んで不機嫌オーラを出しており、ハンジはニヤニヤと追い打ちをかける。

「まあマコトって可愛らしいし、狙ってる男は多そうだよねぇ〜なんて言うか、時々ちょっとカタコトになる所がもうキュンってなるよねぇ!? リヴァイィ!?」
「・・・なんで俺に振る?」
「んー? 何となく、同意を求めたかった」

意味深に笑うハンジにリヴァイは舌打ちをする。
合同演習後は教官同士の集まりがあり、21時頃にはお開きとなった。




マコトは廊下を歩き、自室の鍵を取り出して開ける。
今日は合同訓練という事でクタクタになってしまい、もう早いところお風呂に入って寝てしまいたい・・・どの世界でも大人の付き合いは割と面倒だとため息をついて1歩部屋へ足を踏み入れた瞬間、

「・・・ん?」

マコトは執務室に入ってある違和感を感じた。
誰かがこの部屋に侵入した形跡がある。

もしかして、自分の事について調べている人間が居るのではないか?マコトは警戒しながら部屋の中に入った。

マコトの装備品は、エルヴィンの執務室の机の下だからまずバレることは無い。

床の裏に隠されているためまず見つかる可能性は低いし持ってきていた小銃とハンドガンはリヴァイの執務室のそれもまた床に隠されている。

部屋の中の引き出しを片っ端から開けて、とある場所を引き出した瞬間マコトはサッと顔を青ざめると、ふらふらとした足取りだったがマコトはハンジの居る執務室まで向かった。







コンコン


「・・・ハンジさん、マコトです。」
「マコト? 入っておいで!」

ドアノブをひねって開ければそこには書類が山積みになって忙しそうなハンジ。・・・と、それをサボらないように監視する副官のモブリットが居た。

「ハンジさん夜遅くにごめんなさい。忙しかったかな・・・」
「んーん! マコトの為だったら職務放棄すr「分隊長、この書類は今日までです」

モブリットが被せるとマコトは1歩下がると

「あ、じゃあまた時間ある時にでも・・・」
「いいじゃんモブリット休憩したいー!で、マコト。どうしたの?」

ハンジの優しい笑顔を見た瞬間、マコトは思わず床にへたりこんでしまった。
さすがのモブリットも驚いて「えっ?!」と声を上げるとハンジは椅子を蹴散らして駆け寄ってきた。


「え? え?マコト、どうしたの? リヴァイにいじめられた?」
「ち、ちがくて・・・私の・・・」
「私の・・・?」

モブリットが居て言いづらいが、マコトは涙を流しながら顔を覆うと

「下着・・・盗まれた・・・」
「「・・・・・・はぁ?!」」

ハンジとモブリットは同時に叫んだ。



.
.
.



一方エルヴィンの執務室、そこにはリヴァイ、ミケもおり次の壁外調査の件について話し合っていた。

「では、今月の壁外調査はトロスト区の・・・」
「ん、待てエルヴィン。奇行種が来る」
「・・・あぁ」

リヴァイの言う奇行種と聞いて納得したエルヴィンはドアを見つめると殴る勢いでノックをしながら「エルヴィンー!」と叫ぶハンジの声だった。

先日話してきた巨人捕獲についてか・・・?と心中でため息を着くと

「・・・入りなさい」
「失礼します!」

そう言って入ってきたのはハンジと腕を引かれたマコト。しかもマコトは泣いていた。

ただ事ではない、とリヴァイは思わず立ち上がりジャケットの内ポケットからハンカチを取り出すと顔に押付けた。
エルヴィンもマコトを見て眉を寄せると

「マコト、どうした?」
「訓練兵の前でクソでも漏らしたのか?」
「ううん、違う・・・」

ハンジはずれたメガネをクイッと上げると

「マコトの下着が・・・盗まれたんだ・・・!」
「「「・・・はぁ?」」」








「これより、マコトの下着・・・ごほん、私物奪還作戦を執り行う」

リヴァイ、ハンジ、ミケは全員揃って心臓を捧げる敬礼をするとソファに座った。
マコトはと言うと、泣き止んで鼻をすすりながら紅茶を飲んでいる。

「これは由々しき事態だ。ハンジ、状況を」
「はい。被害者はマコト・マカべ、年齢は26歳。訓練兵団の教官をしております。 現場の執務室は我々の執務室より離れた場所ですので・・・狙われやすいかと。マコト、盗まれた枚数は?」
「2枚・・・です・・・」
「おのれ・・・許せん!」
「下衆の極みだな・・・」

突然エルヴィンが大声を出し、リヴァイも巨人を殺す時並に殺気を放つ。

冷静なミケが顎に手をやると

「・・・まだ襲われてないだけ安心した。しかし、し、下着も大事だな、うん・・・」
「・・・そうだ!ねぇミケ、匂いで分からない?」

ミケ本人も、リヴァイもエルヴィンもそれだ!と顔を上げた。




マコトの執務室までやってきた一行。ミケはドアを開くと鼻をくんくんと動かすと

「確かに、マコトの匂いと他の匂いが混じってる・・・」
「匂いが残ってるってことは、まだ来て時間は経ってないか・・・」
「特に最近親しくなった人は?」
「ううん、訓練兵とエルヴィン団長達以外とは接点ないよ・・・?」

リヴァイはいや、と眉を顰めると

「お前はいい意味で有名人だからな、食堂で兵士とも顔を合わせるだろう。 それに接点がなくてもこうして近づいてくるド変態野郎は居る。」
「ひぃ・・・」
「こういう奴は段々エスカレートして、そのうちお前に手を出すかもしれん」
「そ、そんな・・・」
「リヴァイってば、怖がらせないでよ!」

ハンジがマコトを抱きしめると、エルヴィンは

「早急に、マコトの執務室を移動させよう。人目に触れない離れを選んだのが仇となってしまった。部屋はそうだな・・・リヴァイの隣だ」
「あ?・・・了解」
「そこからならみんなの部屋も近いし何かあったら叫べばいい。ね、マコト?」
「はい・・・ありがとうございます・・・」

5人で取り掛り、元々荷物は少なかったため直ぐに部屋の移動はできた。

エルヴィン、リヴァイ、ハンジ、ミケはできる範囲でマコトの身辺の監視。
訓練中も誰かと居るようにと言われマコトは頷いた。

「じゃあマコト、何かあったら叫ぶんだよ」
「はい。皆さんありがとうございます」

心配ながらもエルヴィン達が出ていく中、リヴァイだけが残る。するとこちらへ歩いてきて手を掴んできた。

小柄だが大きな手で、立体機動の操作のせいかあちこちに硬いタコができている。

驚いてマコトは顔を上げると

「怖がってると相手の思うつぼだ」
「うん・・・」

といっても怖いだろう。
リヴァイはクラバット少し緩めると、チャリ・・・と金属音をたててネックレスを外した。

それをマコトの手のひらにポン、と載せると

「俺のお守りだ。犯人が捕まるまで持ってろ」
「そんな、大事なやつでしょ・・・?」
「今はお前に必要な時だ」

ネックレスを持った手のひらの上からギュッと強く握られるとマコトは頬が熱くなった気がして俯くと小さくありがとうと呟いた。

ハンジはその光景を見てほうほう、と面白そうに見ると邪魔してはいけないとそそくさと出ていった。


・・・1人になり、マコトは鍵を掛けるとベットにぽすんと寝転がった。
手渡されたネックレスは月の光でキラキラと輝いていてとても綺麗だ。高価な物だろう。

「・・・リヴァイさんの、私物?」

ネックレスを付けるタイプだろうか?
すると、露店で見たカーネリアンの石を見た時のリヴァイの目を思い出す。

「もしかして・・・」

恋人の形見?
その瞬間、胸がチクリと痛むのを感じて手を抑える。
こんな世界だ、リヴァイも大事な人を失ってるに違いない。

それにあの切なそうな目ー

「あぁーーーそうかぁーーー」

マコトはネックレスを額に押し当てた瞬間、ビリッと電流が流れた。


ーねぇリヴァイ、見てこの石。綺麗だよ。
ーああ、お前の髪の色に似てるな。
ーあはっ!リヴァイってキザな事言うんだねぇ
ーは?・・・チッ、ほら行くぞ。


自分の目線で繰り広げられる会話に、リヴァイが映る。

ハッ、とマコトは思わず石を離す。

そしてマコトが数ヶ月前リヴァイに言った会話と重なる。だからリヴァイはあんな顔をしたのだ。

この胸の痛みを無視するかのように、マコトはネックレスを抱きしめる。

「ごめんね、リヴァイさんから引き離しちゃって・・・」

そう呟くと壊さないように布で包むとジャケットの内ポケットに大切に入れた。





マコトの部屋を出たあとリヴァイはクラバットを締め直すと、ハンジが壁に寄りかかって待っていた。

「いいの? 大事なものだろ?」
「別に・・・あいつだって仲間の危機だったら守ってくれるだろ」
「だね、そういう子だったねノアは。・・・いい上司を持ったね、リヴァイ」
「・・・ああ」

話題は変えて、とハンジはニヤニヤしながらリヴァイの肩に腕を回すと

「で、マコトの事ぶっちゃけどうなの?ねえ?ねえ?」
「は?」
「えーてっきり私はマコトの事好きだと思ってたけど・・・違うの?」
「・・・違う」
「その間は何?」

チッ、とリヴァイは舌打ちをすると

「ただ目が離せないだけだ」
「だよねぇ、訓練とかこつけてマコトの訓練風景見てたり、訓練生と楽しそうに話してるの見てリヴァイったらめっっちゃくちゃ怖い顔して舌打ちしてそれって完全にすっ・・・むむーむむんふふふふふ!」

口を塞いでもなお不気味に笑いながら喋り続けるハンジに余計イラつく。



解放するとハンジは「でも・・・」と真面目な顔になると

「マコト違う世界の人間だ。・・・いつか離れる時が来るってのを忘れちゃダメだよ?」

ハンジの言葉がやけに胸に刺さる。
そんな事は、重々承知だ。

「ーああ」

リヴァイはそう短く返事をして背を向けると、自身の執務室へと入っていき取り残されたハンジは眼鏡のブリッジを上げると

「まあ私は、そんな2人のこと全力で応援するけどね」

そう呟くと、スキップをしながら自身も執務室へ戻るのだった。


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