10:同じ境遇
マコトの訓練名物、自衛隊体操。
自衛隊体操とは言ってないが、別名「地獄の体操」である。動きこそ変だが、体操の前に体操をしないと身体中どこかを痛めるほど過酷な体操なのだ。

マコトが教官になり半年経ったが104期生全員、1寸の狂いなしで動く光景はとても異様らしくたまたま体操を見かけたリヴァイが気持ち悪いと悪態をついていたとか。




・・・ある日、訓練後の自主練をしている訓練兵の面倒を見終わり執務室へ向かっていると

「おやマコト」
「エルヴィン団長」

マコトは慌てて敬礼をするとエルヴィンは笑い

「2人の時はあまり固くならなくていいさ。今終わったのかい?」

一応定時で17時までなのだが、今は夜の19時になりかけている。

「はい、訓練兵の自主練を見ていました」
「なるほどな。教育熱心だ」
「ふふ。可愛い教え子達です」
「評判がいいと聞くよ。俺の目は間違ってなかったね」
「ありがとうございます」

それは素直に嬉しい・・・とマコトは頬が熱くなると

「そうだ、マコト。今夜空いてるか?」
「今夜? はい」
「少し飲みに行かないか?外まで」

マコトは驚いて目を瞬きすると、是非!と頷くとエルヴィンもよかった、笑い

「俺もこれで終わりだから、30分後にでも」
「了解です」

エルヴィンと別れるとマコトは執務室に戻り軽くシャワーを浴びる事にした。




・・・一方エルヴィンは廊下を歩いて角で止まった瞬間

「お前も来るか?」

壁に寄りかかって先程の会話を聞いていたリヴァイは「あ?」と顔を上げると

「・・・2人で行ってこいよ。あいつは意外とクソ真面目だからたまには息抜きさせてやるといい」
「いいのか?」
「ああ、俺はまだ仕事が残ってる」

そう言うとリヴァイはポケットに手を入れると自室へと足を向けた。 そんな背中を見て素直ではないな、とエルヴィンは苦笑いをしたのだった。

マコトはノースリーブで濃紺のお腹の位置でリボンを結ぶタイプのワンピースを選び上からカーディガンを羽織る。以前ペトラが選んでくれたもののひとつだ。

スカート慣れしていないマコトのために、大人しめかつ清楚な物をチョイスしてくれた事に感謝しながらドアを開くとちょうどエルヴィンがこちらにやって来ていた。

「さすがは時間通りだ」
「すみません、お迎えに来てもらっちゃって」
「私が誘ったんだ。行こうか」

ニコリと笑うエルヴィンは黒いパンツとワイシャツ、ジャケットを羽織っておりマコトをエスコートすると兵舎を出た。



.
.
.



リヴァイは窓枠に座りながら何かを眺めており、書類を取りに来たペトラが首を傾げた。

「兵長?どうかしました?」
「・・・ああ」
「えっ? どうしたんです?」

慌てたペトラの声にリヴァイは意識を戻すと目を閉じて

「すまん、何でもない」
「・・・お疲れですかね?私、紅茶いれてきます!」
「頼む」

ソファに沈むリヴァイを見るとペトラは頭を下げて執務室を出た。

ペトラはパタパタと廊下を小走りで走っていると、ふと外を見て立ち止まった。そこにはエルヴィンと着飾ったマコトが談笑しながら歩いているではないか。

「団長とマコト・・・? デート?・・・まさか!」

リヴァイが窓の外を眺めていたのに合点がいきペトラは拳を握る。

「も、もしかして・・・兵長はマコトの事・・・!さ、三角関係・・・?!」

ペトラは口を抑えてなんて事だと呟く。
それと同時に少し胸が傷んだ。

ペトラにとってリヴァイは尊敬する上司でもあるが、淡い恋心を抱いていた。粗暴で潔癖・・・当初はめんどくさいなと思った日もあったがある日


兵長! おはようございます
ああ、おはよう。・・・ん、ペトラ
はい?
・・・前髪を切ったのか?
え!兵長よく分かりましたね。そろそろ伸びてきたので立体機動の時邪魔かなって・・・切りすぎましたかね・・・?
いや、悪くないと思うぞ


表情は仮面をつけたように変わらない・・・そんな彼の穏やかな目を見た瞬間ペトラは「そんな顔もするのか」と胸が高鳴り、ぶっきらぼうだが部下たちの配慮も忘れず、広い視野を持って気を利かせていたり道端で子供に声を掛けられてもちゃんと受け答えをしたりと子供にも優しく、気づいたら目で追うようになっていた。

・・・もちろんどうせ叶わない恋なのは承知であった。彼に指名されて一緒に仕事が出来る・・・調査兵団に入った人間は誰もが羨む特別作戦班だ。

リヴァイが選んだ相手なのなら部下として応援しない訳には行かない。


よし!とペトラは気合を入れて紅茶を淹れに向うのだった。




しばらくして紅茶を淹れにもどってくるとリヴァイはお礼を言っていつもの独特な持ち方でカップを手に取る。

意を決してペトラは口を開いた。

「あの、兵長!」
「何だ?」
「へ、兵長、その・・・がっ、頑張ってください!」
「・・・は? ああ」

一体なんの事だ?リヴァイはカップに口をふくめながら心当たりを探すが、思い当たる事は無かった。そんなリヴァイの表情を見てペトラは微笑むと、両手の拳を握ると失礼します!と敬礼をして書類を持つと部屋を出ていった。





***



エルヴィンに連れてこられたのは地下に作られたバーだった。

「段差に気をつけて」
「は、はい!」

エルヴィンが先に降りると手を差し出してきた。
産まれてこの方このようにエスコートされたことはないので恥ずかしさはあったがお礼を言って手を取る。


階段を降りきると、厚い木の扉を開く。
中央はピアノと小さなステージが置いてありカウンター式とテーブル式の席ががあった。

マスターらしきスーツを着た男性はドアベルの音で顔を上げるとパッと顔を明るくさせて

「これはこれはエルヴィンさん!いらっしゃいませ」
「こんばんは。いつもを頼むよ」
「かしこまりました。 そちらのお嬢様は?」

一体どんな飲み物があるのだろうか・・・と戸惑っているとマスターはニコリと笑って

「紅茶のお酒などありますが、いかがです?」
「えっ紅茶? はい、それで!」
「かしこまりました」

ステージ側のカウンター席がエルヴィンのお気に入りの席らしく、促されて座ると

「ここは変わったお酒もあるんだ。あと、ここで働いてる歌手の歌が上手い」
「へぇ・・・」

既にお客はほぼ満員なのは、歌手目当てなのだろうか。ピアノを見ると、ピアニストがジャス調の生演奏をしている。

「こういうお店、初めてです。社会勉強になります」
「ふふ、それは良かった」

お待たせしました、と出されたグラスでエルヴィンと乾杯して1口飲むと

「ん!美味しい!」

するとマスターは良かった、と笑うと

「このお嬢様も調査兵団の方ですか?」
「いや、彼女は訓練兵団の教官をしているんだ」
「ほぉ・・・私はてっきりエルヴィン団長の恋人かと」
「こっ?!」

お酒とは違う顔の火照りが来てしまい、エルヴィンははははと笑う。

すると、拍手が起こり顔を上げると赤いドレスを着た東洋風の美しい女性が笑顔でステージに上がる。


ピアノの演奏が始まり、マコトは聴いたことのあるイントロが流れたので心臓が大きく跳ねた。

女性は低くハスキー気味な歌声で英語の歌詞を歌い始めた。


間違いない、マコトの世界にあった洋楽Fly Me To The Moon.だ。

ジャズミュージック好きの父がよく私室や車で流しており、マコトのスマホにも入っている曲。


「エルヴィンさん、この歌・・・」
「ああ、造語の歌らしくてね。彼女の十八番なんだ」

思わずマコトはエルヴィンを見ると

「私の、世界にあった歌ですっ・・・!」
「なっ・・・」

大きな声が出そうになりエルヴィンは口を噤むと

「・・・彼女とは知り合いだ。後で話してみよう」
「はい、ありがとうございます」

何曲か終えて拍手と共にステージが終わると、女性は頭を下げて脇へと下がった。


元通りの店内に戻った頃、女性は何人かの常連客と話したあとエルヴィンを見つけると嬉しそうにヒールを鳴らしながら駆け寄ってきた。

「エルヴィンさん、こんばんは。来てくれて嬉しい!忙しいのにありがとう」
「君の歌が聴きたくなってね。最高のステージだったよ」
「ふふ、ありがとう。・・・あら、そちらの可愛らしいお嬢さんは?」

優雅な手つきでマスターから出されたワインを手に取るとくいっと飲み始める。


艷のある動きにマコトはごくりと唾を飲むと

『あの、日本語・・・分かります?』
「っ!」

アンナは目を見開くとマコトを見つめた。
するとアンナはワインを一気に飲み干すとマコトの手を取り

「ここじゃ人目がある。私の控え室に来て」

マコトはチラッとエルヴィンを見ると、エルヴィンも頷いて3人は席を立った。



控え室に着くと、3人は椅子に座る。
エルヴィンは黙り込む2人を見ると

「君たちの話しやすい言語で構わないよ。」
「ありがとうエルヴィン」

アンナは微笑むとマコトは自己紹介をした。

『マコトさん、あなたはいつこっちに来たの?』
『正確には・・・3ヶ月以上は経ってます』
『そう、まだ日が浅いのね。』
『アンナさんは・・・?』

そう聞くと驚かないでねと目を伏せると

『20年経つわ』
『え・・・』

20年・・・マコトは空いた口が塞がらない。

『私ね、もともと海外の音大へ留学していたの』

アンナが18歳の頃だ。
年末には日本に帰っていたらしく、その帰りの飛行機で事故にあって気づいたらここに飛ばされていた。

小さな農村で発見され、言葉は通じなかったが憲兵団に突き出さず身の回りの世話をしてくれたそうだ。
それからは独立して、アンナはこのバーで歌手をしているそうだ。

『あなたは、何をしてここへ?』
『私は、自衛官をしています。訓練中に事故にあってそれで・・・起きたら森の中です』
『そうなの・・・残念ながら帰る方法が分からないし、仮に帰れたとしても私の居場所は無いわ。だって飛行機が落ちて死んだことになってるんだもの』
『じゃあ私も、死んだ事になってる・・・?』
『確証はないけど、あなたの場合だったらもしかしたら生きてる可能性だってある』

しかし、帰り方が分からない。
一気に絶望的になった状況にアンナは笑うと

『腹を括るには時間が掛かるわ。だから私はここで幸せに暮らしてる。愛する人にも出会えたしね』

そう言うと、エルヴィンを見つめて目を細めた。
視線に気づいたエルヴィンもアンナを見て、優しく微笑む。

マコトは2人の空気に頬を赤くさせると

『えっと・・・なるほど』
『こんな残酷な世界だけど、私は好きよ』

そういうと、アンナは微笑んだ。


.
.
.



話を終えたあと、アンナが店の前まで見送ってくれた。

「じゃあマコトさん。またお話しましょう」
「はい。ありがとうございます。・・・なんか、同じ境遇の方に会えて安心しました」
「ふふっ何か困ったら来なさいな。エルヴィンさん、またいらしてね」
「ああ。また来るよ」

手を振って、エルヴィンとマコトは兵舎へ続く道を歩く。お互い無言だったがエルヴィンは


「マコト、なにか手がかりは分かったかい?」
「んー・・・帰る方法は分からないそうです!」

無理やり作った、引きつった笑顔だ。
残酷な結末にエルヴィンは言葉を見つけれずにいると

「でも、同じ境遇の方に会えて良かった。エルヴィンさん、連れてきてくださってありがとうございます」
「ああ・・・まさかこうなるとは思わなかったがね。またアンナに会いに行くといい」
「はい」

その帰りは、お互い無言だった。



エルヴィンはマコトを部屋まで送った。
終始マコトは笑顔だったが、何を思っているかは分からない。

無理して笑ってるようにも見えた、しかしどんな励ましの言葉も薄っぺらくなりそうでエルヴィンは声を掛けれなかった。

「はぁ・・・」

不甲斐なさに思わずため息を付くと、向かいから歩いてくるリヴァイに遭遇した。

「リヴァイ・・・」
「ため息なんかついてどうした」
「アンナを覚えているか?」
「アンナ?・・・ああ、お前の行きつけのバーにいる歌手か?」

エルヴィンは躊躇いがちに

「アンナもマコトと同じく、飛ばされた人間だったようだ」
「は・・・? で、手がかりは?」

ざわつく胸を抑え、リヴァイは思わずエルヴィンの腕を掴んでしまった。


「彼女は、20年もの間帰れていないそうだ。帰る方法も見つからない。」
「あいつは? マコトは大丈夫か。」
「無理して笑ってるようで、なんと声をかけていいか分からなかった。リヴァイ、頼めるか?」
「・・・何で俺が」
「頼む」

拒否権のないような目に断りきれず、目線を逸らすとポン、と肩を叩くとエルヴィンは自室へと戻った。

仕方ない、とリヴァイはポケットに手を入れるとマコトの執務室へと足を運んだ。


コンコン

マコトの部屋をノックしたが返事がない。

「寝たのか?」


なら帰ってしまおうとしたが、耳をすましても気配が感じられず中から音が聞こえない。

気のせいであれ、とドアノブを捻り押すとキィ・・・と開いた。

「鍵くらい閉めとけよ・・・おい、マコト」

暗い部屋を見ると誰もおらず、ベッドで寝ているのかと思ったが、シーツが綺麗に揃えられている。

浴室をノックしても返事もなく開ければ当然誰もいなかった。

こんな時間に、一体どこへ?


リヴァイは舌打ちをすると走ってエルヴィンの所へ向かうと

「おいエルヴィン、馬と立体機動を使わせてもらうぞ」
「ああ、構わないが。・・・まさか、消えたのか?」
「そのまさかだ。探してくる」
「私も探そう」
「いや、大丈夫だ。・・・何となくだが、だいたい予想は出来てる」

そう言うとエルヴィンはそうか、とまた椅子に座り直すと

「連れ戻してきてくれ、自暴自棄になっていたら何をするか分からない」
「ああ」

リヴァイは自室に戻り私服の上から立体機動の装備をして上着を羽織ると、窓を開きアンカーを射出すると建物を伝って厩舎へと向かった。





マコトはエルヴィンの前では平然を保っていたが、本当は今にも嘘だと叫びたくて叫びたくて仕方がなかった。

いつかは帰れる、いや無理だろう。そんな行ったり来たりの気持ちを持ったままここ数ヶ月を過ごしていた。

帰れない・・・アンナと出会って確信に変わってしまい自分はこれからどうしてしまおうと、とにかくいても立っても居られなくなり、あの時の山へ来ていた。

徒歩にすると1時間以上は歩いただろうか。
山道にワンピース、パンプスと不釣り合いの格好ではあったがそれでも歩き続けた。

靴擦れで足が痛くなっても、それでも足は止まらなかった。



あの日自分がキャンプ地にしていた所は辛うじてだが残っていた。もしかしたら自分が来た場所に来ればなにか手がかりがあるのではと思ったが辺りは虫の音だけで何も無い。

持ってきたスマホの電源を入れても、圏外だ。





マコト座り込んで膝を抱えるとそのまま顔を突っ伏した。


どれくらい経っただろうか。
遠くからワイヤーの摩擦音とガスの音が聞こえてきた。嫌でも聞き慣れたこの音は

「立体機動装置・・・?」

こんな時間に?と夜空を見上げた瞬間、マコトの上空を誰かが横切る。月明かりのシルエットで分からないがあの小柄な身体は

「リヴァイさん・・・?」

すると近くの木にアンカーが刺さると身体を捻りながら地面に着地した。

やはり、リヴァイだった。

リヴァイはトリガーをホルスターに仕舞いながらマコトに近づくと

「よお、散歩にしては随分と遠まで来たな」
「・・・リヴァイさんは?」
「俺も散歩だ」

そう言って近づいてくるとマコトの前でしゃがみ

「・・・ほら、帰るぞ」

そう言われ、マコトは顔を上げると

「私、元の場所に帰れないみたい。帰る場所、無くなっちゃった」
「ああ、聞いた」
「私と同じ状況の人に会ったの。その人ったら20年も、帰れて、ないって・・・」

震える声で言い切るとリヴァイは何も言わず、見つめているだけだったが羽織っている上着を脱ぐとばさっとマコトの肩に掛けた。

「冷えてきた。風邪ひく前にとっとと帰るぞ。」
「はい・・・」

差し出された手を握ればリヴァイの手は思ったより大きく、脚に力を入れて立ち上がった瞬間そのまま引き寄せられ気づけばリヴァイの腕の中にいた。

「リヴァイさっ・・・」
「帰るぞ」
「ねえ、さっきから帰るぞしか言ってない」
「あそこがお前の家だからな。」


ぎゅ、と抱きしめる腕に力が入る。
マコトはリヴァイのシャツを握ると小さく頷いた。



しばらくして身体を離したが、恥ずかしさのあまり目を合わせられない。
心臓がドキドキしてしまいリヴァイが掛けてくれた上着をキュッと握ると突然マコトの膝に腕を通し、横抱きにされた。

「うわあぁ!」
「捕まってろ」
「え?」
「森の外までは立体機動で帰る。喋るとオルオみたいに舌噛むぞ」
「は、はい・・・ひああっ!」

アンカーを出した瞬間リヴァイは地面を蹴る。
ふわっとした浮遊感にマコトは目を閉じ、リヴァイの首に腕を回していたが怖くなってしまい思いっきり力を入れてしまった。


「ぐっ・・・お前!俺を絞め殺す気か!」
「だ、だって怖い!」
「50mの壁の上でも平気だっただろーが!」

ほんの数分で地面に着地すると、森の入口に馬が用意されていた。黒い毛並みの綺麗な馬でリヴァイを見るとおかえりと言うように足踏みをして喜んだ。





走らせず、ゆっくりとした歩調で馬を歩かせながら兵舎へと向かう。

リヴァイの前でに座ったマコトは馬の鬣を優しく撫でながら

「私の世界だと、馬なんて滅多に乗れないよ。」
「お前の世界はどうやって移動するんだ」
「車って言って、んー・・・金属の塊っていうのかな・・・特殊な油を使って動くの。もちろん馬も居るよ?でもお金がかかるから、一般市民は手が出せない」
「想像がつかねぇな」
「あ、ちょうど車の写真があった」

スマホを取り出してフォルダから写真を見せる。
画面を見せようと身体を動かすと自然とリヴァイにもたれかかってしまい、リヴァイも画面を見ようとして前かがみになるので身体が密着してしまう。

「(ち、近い・・・)」

心臓がうるさくなるマコトとは裏腹に、リヴァイはLEDライトに慣れないのか、眩しそうに目を細めて

「そんな装置も、お前の時代では当たり前なのか?」
「うん。必須だね。これで遠くの人とも連絡がとりあえるの」
「それがあれば、長距離索敵陣が捗るんだがな」
「ちょう・・・?何それ?」
「壁外調査で使う陣形だ。煙弾を使って巨人の位置を知らせて、エルヴィンが進路方向を変える。それで巨人の遭遇率を減らす・・・エルヴィン考案だ」
「へぇ・・・エルヴィンさん、凄いね」

エルヴィンを褒めるマコトにすこしモヤっとしたリヴァイはそう言えば、と話題を変えた。

「エルヴィンとのデートはどうだった?」
「デート? 違うよ、ただ飲みに行こうって」

・・・それがデートではないのか?思わずリヴァイは首をかしげる。

「アンナさんと、エルヴィンさんは恋人同士でしょ?」
「・・・初耳だな」
「えっあれ?違うのかな・・・あの空気はどう見ても」

恋人同士だったろう、とマコトはぶつぶつと呟くとリヴァイは頭をポンポンと撫でる。

「・・・で、なんでアンナがお前と同じ世界の人間って分かったんだ?」
「リヴァイさんも、アンナさん知ってるの?」
「ああ。あそこはエルヴィン御用達だからな。俺も連れられて何度か会ったことはある」

なるほど、とマコトは頷くと

「・・・歌がね、私の世界でも使ってる言葉だったの」
「そういう事か 」

マコトはスマホを操作してプレイヤーを開くとFly Me To The Moonを流す。
アンナとは違うトーンの歌声だがリヴァイも聞いたことがあった。

「・・・この歌か」
「うん。古い曲なんだけど有名な曲でね・・・私の時代から引くと60年以上前の曲。私がお父さんに、この歌が好きって言ったらお父さんはよく流してくれるようになった」
「俺もこの歌は好きだ。歌の意味は分からんがな」

そう言うと、マコトはパッと顔を明るくすると

「じゃあ流したままにしよ」
「ちなみに何て曲名だ?」
「Fly Me To The Moonって言うの。 私を月に連れて行って≠チて意味。」
「はっ、ぶっ飛んだ意味だな」

リヴァイとマコトは曲を聴きながら、夜空に浮かんでいる満月を見上げた。


***


ゆっくりと馬を歩かせていると、ふとマコトの身体がこちらに倒れてきて右側に傾いたので顔を覗き込んだ。

丁度いい揺れだったのだろう、眠ってしまったらしい。

「性格悪ぃな、俺は・・・」

エルヴィンとマコトが2人で肩を並べて歩く姿を見て、胸がもやもやとした。
帰ってきた後、マコトが帰れる方法が無いと聞いた瞬間は申し訳ないが・・・嬉しいと思ってしまった。

寄りかかってくる重さ、ほのかに香る甘い匂いも心地よく、リヴァイはマコトの肩に掛けてやったズレ落ちた上着を直す振りをしてマコトを抱き締めたのだった。

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