102:辞令と一世一代
エルヴィンはマコトの隊長である北山と静かなバーで飲み交わしていた。

いまは世間話をするのではなく、ビジネスの話しだ。


「派遣?」
「ええ。 出来ればそちらのマカべさんを是非パラディ軍の教育隊にお招きしたいと思いまして・・・ああ、リヴァイの事は忘れてください。これは仕事の話ですから」

マコトは壁の中の世界に居た頃訓練兵団の教官を勤めていた。途中でリヴァイの副官にはなったがその年の兵士は生存率が高かった記憶がある。

個々の技術もあるが、マコトは立体機動に必要であろう体幹を鍛えさせるなど対人格闘技以外にも尽力してくれた。


そして現代においてもそれは変わらず、様々な徽章を獲得しレンジャー資格も持つ。
戦争が起きない時代にはなったが、パラディ島も常に
有事のことを考えねばならない。


「すぐにご返答を頂かなくても大丈夫です」
「そうですね・・・私の口からは何とも。マコトの選択になるでしょう。 後で本人にも聞いてみます」
「よろしくお願いします」


そう言ってエルヴィンとはお開きになり、北山はタクシーに乗りホテルへ戻る。

しばらくしてホテルに到着し、部屋に入る前に一服しようか・・・と外にある喫煙スペースで煙草を吸い煙を吐き出した。

マコトとは長い付き合いだ。北山の考えを瞬時に読み取り先回りして動いてくれる。部隊から抜けるのは相当な痛手だが、まだまだ伸び代があり海外での刺激を受けるのはいい事だと思う。

「娘を嫁にやる気分だな・・・」

時刻は22時を過ぎておりそろそろ寝るか、と煙草を吸いながらぼーっとしていると、1台のスポーツカーがロータリーに止まった。

そこから出てきたのはリヴァイで北山は驚く。

リヴァイはドアを閉じると助手席を開けて手を差し出しエスコートしている。

「イケメンな上、ああ言う事しちまうもんなぁ・・・」

しかしホテルに知り合いなど居たのだろうか。
すると手を差し出して出てきた人間に北山は咥えていた煙草吹き出した。

「マコト?!」

お礼を言っているマコトの髪をリヴァイは耳にかけて頬を撫でるとそのまま唇にキスをした。

マコトは顔を赤くしてリヴァイの腕をバシバシ叩くが、リヴァイは嬉しそうだ。

「は?ちょっと待て・・・展開早くないか?」

本当にリヴァイはマコトを落としたのか。

マコトはあのイケメンに屈したのか。


リヴァイは手を上げてマコトと別れるとアクセルを踏んでロータリーを出る。しかもその姿をマコトは見えなくなるまで見送っているではないか。

北山はこの1本で終えようとしていたが落ち着け・・・とベンチに座り直し煙草をもう1本取り出すと火をつける。まるで自分の娘が彼氏と一緒にいる瞬間を目撃してしまった気持ちだ。

あの話、マコトにとっては有難い誘いかもしれない・・・

「・・・はあ、マジで娘を嫁にやる気分だな」

北山はそう言うと思いっきりつくため息とともに煙草の煙を吐き出したのだった。





コンコン



ドアのノックが聞こえてマコトはドアを開けると北山が立っていた。

「マコトてめぇ・・・」
「な、何かしましたか・・・!?」

ドスの効いた声を出す北山は大概怒っている。

「お前!」
「はい!」
「リヴァイに屈したのか!!」

もはや呼び捨てである。




マコトはなんの事だと首を傾げていると

「ロータリーでイチャコラしてただろうが!」
「・・・ああっ!」

喫煙スペースがあったのを思い出してマコトは顔を真っ青にさせた。
北山は本気で怒ってるわけではなく腕を組むと

「・・・ま、お前にも春が来たって事だな」
「は、はい・・・あの隊長、これには理由があって」
「理由?」
「長くなるんで、どうぞ」


そう部屋に招き入れて椅子に座らせてマコトも座ると

「3年前の事故、覚えてますか?」
「ああ。お前が行軍中に山道をゴロゴロ落ちたやつだろ?」
「あの意識がない中・・・うーん、なんて言えばいいんだろう。夢だけど夢じゃなかったみたいな・・・」
「なんだそれ、ト〇ロか」
「それは違います」
「はぁ?マ〇メロの曲か。娘が観てたぞ」
「いつの時代ですか」

マコトは経緯を北山に話す。
自分が見ていた夢のような場所でリヴァイ達と既に出会っていた事。

リヴァイとは当時でも恋仲で夫婦でもあり、別れ間際に探し出して迎えに行くと約束した事。

やっと見つけたと思ったらマコトは覚えておらずリヴァイが奮闘した話などを全て北山に話すと

「はぁ・・・まあお前が夢の中にいた巨人やらの世界観は全然理解できなかったが、まあなんだ・・・こう言うのは運命なんじゃないか?」
「運命ですか・・・」
「人には縁ってのがあるからな。どこで繋がってるか分からねぇもんだ。 リヴァイ少佐も、相当な執念でお前の時代に追いついたんだろうな。あの人ならやりかねん」

ははは、と笑う北山は「んじゃあ・・・」とテーブルに肘を置いて身を乗り出すと

「俺からもひとつ話したい事がある。これはお前が選べ」
「はぁ・・・」
「まあ一言で言えば、辞令だ」
「えっ、隊長が?」
「違う。 お前だ」


内容を聞いて、マコトは目を見開いた。








合同訓練が最終日に近づいた頃、リヴァイとマコトはまたあの時の海へ来ていた。


「この海も見納めだねぇ・・・」
「俺に会いに来るだろうが」


これからは遠距離恋愛にはなってしまう。
自衛官にももちろん連休があるが24時間365日動いており休暇も交代制だ。

それを利用して会いに行けばいいしリヴァイも日本に来てくれると言った。




「マコト・・・話がある」
「ん?」


海を背にリヴァイはマコトを見つめる。
その顔は真剣でマコトは思わず背筋を伸ばすと、リヴァイはポケットから何かを取りだす。

「あの時はお前の残りの時間を俺にくれと言ったが・・・今度は、俺の人生をお前に捧げたいと思っている。」

そう言うと、あの時のように膝を着くと手に持って開いた箱を開く。


そこにはダイヤの指輪があり夕日に反射してキラキラと輝く。マコトは驚くと指輪とリヴァイを交互に見つめる。

「・・・俺と、また結婚してくれ」

あの日のようにマコトは目から涙を零すと嗚咽で声を引き攣らせながら

「・・・わっ・・・私で、よければ・・・・・・はいっ・・・」

それを聞くとリヴァイはほっとして泣いているマコトの左手をとるとゆっくりと指輪を通す。

サイズはピッタリで、マコトは左手をあげて角度を変えると眩しさに目を細めた。

「綺麗・・・」
「似合ってる」
「あの時の指輪とネックレス、消えちゃったみたいで・・・思い出した時残念だなって思ってたの」


あのネックレスはリヴァイの上官であるノアが祝いの品で送ったものだ。


申し訳なさそうにしょんぼりするマコトの頭を撫でると


「気にするな・・・アイツだって怒ってねぇよ。それにどの道、俺も指輪はとうの昔に置いてきた。ネックレスならいくらでも買ってやる」
「い、1個でいいよ!」
「そうか、なら今から買いに行くか?」
「リヴァイさん実は行動派だよね・・・大丈夫だよ。だって、素敵な指輪貰っちゃったし」

嬉しそうに眺めるマコトにリヴァイも目を細めると

「仕事・・・お前、好きだけどいいのか?」

リヴァイは心配そうにマコトを見つめると、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。

「・・・実はですねリヴァイさん。私、パラディ軍との国際交流を兼ねてそちらの教育隊で教官を任せられました」
「・・・・・・・・・は?」

聞いてないぞ、とリヴァイは眉を寄せると

「これはエルヴィン団ちょ・・・じゃない、エルヴィン大佐の提案らしくまだ自衛隊の方に申請は出てないけど許可が下りれば・・・って、隊長がそう聞いてね。私の判断に任せると言ったみたいなの」
「じゃあそっちの本部から許可が降りれば・・・」
「うん。こっちで住めるよ」

思わずリヴァイはマコトを抱きしめ、マコトもリヴァイの背中に腕を回す。

「まあ・・・ダメでも自衛官やめてリヴァイさんの所行くつもりだから。安心して。」

キャリアを投げ捨ても、一緒に居たい。

それに履歴書には書けだろうからパラディ島にある格闘技の道場で働き口があるかもしれないとマコトは考えていた。

「・・・マコト、ありがとう」
「うん・・・」
「これからも宜しくな」
「はい。これからもよろしくお願いします。」


お互い笑い合うとリヴァイはマコトの手を取り車へ向かった。


「遠距離の国際結婚は大変だぞ。一緒にいるうちに用意できるものは用意する。」
「了解です」
「まずは結婚指輪からだ」

そう言って車のドアを開いてマコトを乗せ、自分も運転席へ乗りこむと「あ」と何かを思い出したかのように顔を上げる。


「・・・ああ、あとは」
「うん?」
「家族が増えるなら・・・この車も、4人乗りにしねぇとな」


そう言うと、エンジンのスイッチを入れた。









突然の結婚報告を受けたエルヴィンと、一緒に打ち合わせをしていたマコトの隊長でもある北山。

エルヴィンは素直に驚くと

「リヴァイ、いきなりだな・・・」
「何言ってんだ。俺とマコトは交際1000年以上だぞ」
「いやぁ・・・最近は0日婚する夫婦も居るからなぁ・・・」

交際1000年オーバーと聞いたエルヴィンはははは!と大きく笑うと確かに・・・と頷く。

「躾には痛み・・・という持論があったがもうひとつ増えた」
「何だ?」
「気合いさえあれば、願いは叶う。だな」



そう言うと、エルヴィンは目を細めて微笑んだ。

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