100:マジックアワー


合同訓練開始2週間目・・・


島の事を知ってもらおうとマコト達はエルヴィンの案内でパラディ島の資料館を訪れていた。

リヴァイは同行しなかったらしく、マコトはほっとしたが同時に少し寂しさがあった。

「(何で寂しいとか思ってんだ、私・・・!)」

頭の中からリヴァイを消すように自分の両頬をぱしん!と叩くと資料館の中へと入った。


あまりこういう所に来れない隊員も興味深そうに見ており、マコトも資料の展示物をを見つめていた。

当時使われていた立体機動装置という機械があったらしいのだがそれはもうさ錆び付いており、その隣に現存している設計図を元に制作された復刻版の立体機動装置が置かれている。

絵が描かれておりワイヤーを出す事によって巨人と同じく高さまで上がり倒していたそうだ。

どんな仕組みなのか・・・マコトはそれを食い入るように見つめていると、


「・・・良かったら、説明しようか?」

顔を上げると、そこには眼鏡をかけた女性がキラキラした目で立っていた。確かハンジ・ゾエ・・・テレビで見た顔だな、と頷くと嬉しそうに笑い展示された資料を指をさしながら身振り手振りで説明してくれた。




当時、壁の外に出て調査をしていた調査兵団・・・壁内で1番危険な仕事ナンバー1に輝いているほどだったそうで、壁外調査に出ては兵士が巨人に食われ、死者が絶えなかったそうだ。

「当時、トロスト区っていう街の壁までもが破壊されてしまってね・・・巨人と戦闘し慣れた調査兵団は壁外調査に出ていて不在だったんだ」
「えっ・・・じゃあ、どうなったんですか?」

ハンジはマコトを見て笑うと

「・・・1人の勇気ある女性が、馬で巨人から逃げながら調査兵団に応援を呼びに行ったそうだよ」
「それは・・・凄い無謀な事をしましたね」
「ふふっそうだね。でも彼女のおかげでもっと大きな被害は防げた。・・・ねえ、君ならこの状況だったらどうする?」

そう聞かれてマコトはそうですね・・・と真剣に悩むと

「怖いけど、私も外に出て調査兵団を呼びに行くと思います」

その答えにハンジは微笑むと

「・・・君は変わらないね」
「えっ?」
「ううん、何でも!ほら次はこっち!」

そう言ってハンジはマコトの手を取った。




***






「あちゃー・・・悪いことしたなぁ」
「ハンジさん、熱くなりすぎです!」

ハンジの部下であるモブリットと呼ばれた男性が呆れたようにハンジを窘めた。

あれから、ハンジと資料館を片っ端から回っていたらマコトの部隊はホテルに戻ってしまったようだ。
スマホの通知をみると通話履歴やらLINEが来ておりマコトも苦笑いすると「自力で帰るから大丈夫!」と返事をしておいた。

「でも、すごく楽しかったです。壁の話とか特に」
「ほんと?!」
「ハンジさん!マコトさん帰れなくなりますから!」

そう言うと、ハンジはごめんごめんとスマホを取り出すと

「軍関係で知り合いが居るから、迎え来させるよ」
「い、いえ!お気遣いなく!ホテルの名前も知ってるので、タクシーで帰りますよ」





「・・・その軍関係の知り合いってのは俺の事じゃねぇだろうな、クソメガネ」

そう言って振り向くと、エントランスにはリヴァイが立っていた。












「・・・悪かったな。あいつ、あの話になると止まんなくなるんだ」

リヴァイの運転する黒塗りの2シートタイプの某外車スポーツカーが道路を走る。2人乗りでコンパクトのため空間が狭く、少しマコトは緊張したが資料館の事を思い出して笑うと

「いえ、とても楽しかったです。滅多に来れる場所じゃないので。・・・むしろ、アッカーマン少佐に送っていただいてしまって申し訳ないです」

アッカーマン少佐・・・相変わらず苗字で呼ばれ、リヴァイは少し眉をピクリと寄せたがすぐに直すと

「・・・少し、寄り道しないか?」
「? はい。大丈夫ですよ」


そう言うとリヴァイは頷いてハンドルを回した。













「わあ、綺麗・・・」

パラディ島の透き通る青い海が太陽に反射してキラキラ輝いている。

夏は過ぎ、季節は秋なのでそこまでは暑くなく心地よい風が吹いている。堤防では、老人が釣り糸を垂らしておりラジオの喋る声が海辺に響く。


風に揺れる髪を耳に掛けながらマコトはスマホで写真を撮るとリヴァイを見て

「素敵な場所ですね、ありがとうございます」

そう言って微笑むと、リヴァイはじっとマコトを見つめる。

そして沈む夕日を見て目を細めると

「・・・夕日が落ちる30分前の事を、マジックアワーと言ってめちゃくちゃ綺麗らしいんだ。・・・時々、時間が出来た時はここへ見に来る。 」

そう言うと、マコトは驚いた顔をする。

「アッカーマン少佐って、写真が趣味です?」
「は?何でだ」
「マジックアワーって、撮影用語ですからマニアックだなぁって」

そう控えめにマコトは笑うとリヴァイは内心お前が言ったんだろうがと悪態をつくが

「私もですね、昔誰かと一緒にマジックアワーを見たんです。・・・誰だったんだろう」

夕日を眺めるマコトの横顔・・・あの別れ際の日を思い出す。

「俺もだ。昔・・・誰かさんと一緒に見たんだ。その時にまた一緒に見ようって約束したんだけどな」
「お互い思い出がありますねぇ・・・」

夕日が落ちる寸前になると、辺り一面が淡くなりオレンジと黄色が混ざり金色になる。



すると、堤防で釣りをしている老人が流してるラジオから聞き慣れた曲が聞こえてきた。


「この曲・・・」


父がよく流していた聞き慣れた曲、Fly me to the Moon。とても古いジャズミュージックだ。

リヴァイもその歌声を聴いた瞬間ハッと顔を上げた。

先日の作戦会議でハンジ達に話した「曲」はまさにこれだ。あの時代、リヴァイとマコトはこの曲だ好きだった。

「・・・お前も、知ってるのか」
「はい。父がよく聴いていたので覚えてます。 あと・・・あれ?」

誰かとも、一緒に聴いたはずだ。


艷のある声が海の波の音とマジックアワー合わさって、マコトは思い出そうと夕日を眺めると突然頭が痛くなり目を閉じた。





・・・マコト、残りのお前の時間。全部、俺にくれないか? 俺と、結婚して欲しい



その瞬間、逆再生のように沢山の映像が流れこんでくる。

3年前のあの日、事故に逢い1000年以上前に飛ばされた事。



俺は誓うぞ。何が何でも、俺はお前を追いかけて迎えに行く。だからお前も、待っててくれないか?



そこで保護してくれた調査兵団。
巨人によって食い殺されていく仲間たち。

そんな中いつも、マコトの事を見ていてくれて、助けてくれた小柄で潔癖症・・・口は悪いが全力で、最後まで自分を愛してくれた人。



何度でも言う・・・愛してる、ずっと、この先も



── そして、最後に2人で見たマジックアワー。


また、一緒に見れたらいいね
そうだな


指切り。 約束するときにやるの。



「あれ・・・?」

突然マコトの目から大粒の涙が流れ、リヴァイは驚いて駆け寄る。


これは、前世の記憶じゃない。
自分の記憶だ。

なぜ今まで記憶がなかったのだろう。

マコトがずっと待っていた相手は、今目の前にいる──





リヴァイはポケットからハンカチを取り出すと

「おい、砂でも入ったのか?」
「ごめんなさいっ・・・私、大事な事、忘れてたっ・・・」
「は?」

心配そうに手を伸ばしたリヴァイの手をとりギュッと握りしめると、マコトは泣きながら



「リヴァイさんっ・・・!」
「っ・・・マコト」



全て思い出した。
あれは、夢じゃなかった。

マコトはボロボロと泣きながらリヴァイを見上げるとそっとリヴァイの頬や鼻、眉毛、相変わらず少し浮き上がっている隈・・・唇に手を触れる。




それはあの夜の情事の時、触覚でも忘れないようにと触れたように・・・マコトは確かめながら触れてくる。


「本物なの? ・・・リヴァイさんなの?」
「・・・ああ、俺だ。マコト、迎えに来た。」


そう言うと、リヴァイはマコトの手を取り引き寄せると強く抱き締めた。


懐かしい抱き心地、懐かしい匂い。リヴァイも涙が出そうになり鼻の奥がツンと痛くなったがマコトの肩に顔を埋めると

「・・・お前の事、凄い探した」
「ありがとう。・・・約束、守ってくれて」
「ハッ、針千本は飲みたくなかったからな。その癖にお前・・・俺の事忘れやがって」
「ごめんなさい。ごめんなさいっ・・・」

身体を離してリヴァイはマコトの髪を耳にかける。当時、マコトによくしていた自分の癖だ。

「マコト・・・改めて言う。 お前が好きだ。」
「私も、リヴァイさんが好きです」

お互い額をぶつけ合うと笑い合い、リヴァイはそのまま頬を両手で包み込み顔を近づけるとゆっくりとお互いの唇が重なる。






気づけば、太陽は沈んで辺りは真っ暗になっていた。












「・・・ほら、もう冷えるから車入れ」

そう言ってリヴァイはマコトをエスコートしてドアを開いた。

突然緊張したマコトは顔を赤くしてお邪魔します・・・と車に乗り込むとリヴァイはドアを閉めた。

「(現代版のリヴァイさん、相変わらずかっこいい・・・)」

あのリヴァイが車を運転している・・・すごく不思議な気分だ。

熱くなる頬をを手で冷やしているとシートベルトを締めたリヴァイがマコトを見つめると

「・・・ホテル、帰るか?」

時刻は18時過ぎ。特に門限は無いので今は自由時間だ。

マコトはどうしようか悩んでいるとリヴァイはマコトの手を握り


「・・・俺は、もう少しお前と居たい」
「うん。私も、リヴァイさんと居たい」


手を握り返すと、リヴァイは僅かに微笑んでエンジンを掛けた。


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