99:続く攻防戦


「マコト、おはよう。」
「お、おはようございます・・・」

次の日の訓練開始前、マコトは突然リヴァイに下の名前で呼ばれ、驚いて顔を上げた。

マコトの周りに居た隊員も「・・・は?」と言う顔でリヴァイを見上げる。

リヴァイ・アッカーマンから宣戦布告され、冗談だろうと思っていたがリヴァイはとても行動的だった。

あまりにグイグイ来るためマコトも戸惑いリヴァイを見る度に脚を止めて他の隊員の背中に隠れる。


マコトの部隊である隊長の北山はマコトを見ると

「マコト、お前アッカーマン少佐にアタックされまくってるな」
「へ・・・」

他の男への虫除けかのように、リヴァイは合間を縫ってはマコトにアタックしてくるのだ。


「マコト、怪我はないか?」

「マコト、その擦り傷はどうした?」

「はっ、怒った顔もクソ可愛いな」


リヴァイ班の部下やパラディ軍も、うちの少佐は一体どうしてしまったんだと口が閉じれない状態である。

もちろんそれはマコトの方である自衛隊もそうで「マカべがリヴァイ・アッカーマンに口説かれまくってる」とホテルに戻ってからはどういう事だと根掘り葉掘り聞かれる。

「・・・まあ、いい事じゃないか。ちゃんと訓練してんなら、俺はなんも言わねぇ」
「し、しかしプライベートと訓練を混ぜてしまっては・・・」

そう言うと北山はハァ・・・とため息をつくと

「アッカーマン少佐も、マコトの手が空いてる休憩の隙に声を掛けてくるんだ。何も問題ないだろ?」
「で、でも他の人の視線が・・・」

そう言ってマコトは顔を赤くする。
そんな顔をするマコトを見て北山は驚いた。色恋沙汰の話が入隊後一度も上がってこなかったマコト。

・・・そんなマコトが一人の男に振り回されて困っている。



「お前はアッカーマン少佐のことどう思ってんだ」
「ど、どうってまだ会ったばかりの男性です。・・・分かりません」

そう言い切ると北山はふむ、とやや伸びてきている無精髭をジョリ・・・と触ると

「好かれるっのは悪くないもんだ。お前もそろそろ腹括ったらどうだ?」
「はぁ・・・」
「まあお前が本気で嫌がってんなら俺がスミス大佐に声掛けるが・・・嫌か?」

マコトは俯く。
質問を変えようか・・・と北山は腕を組むと

「んー・・・アッカーマン少佐が近づいきて不快感は?」
「無いです・・・ただ、緊張してしまって、どうしたらいいのか。」

うう・・・とマコトは熱くなる頬を抑えると北山は爆笑した。

「お前のそんな困った顔は新人教育以外で見た事ないな! ・・・まあ、もうちっと様子見てみろ。」
「了解です・・・」


マコトは敬礼をするとその場を後にした。











訓練開始から1週間経った交流会・・・という名の飲み会。

大規模な宴会になっており丸々一軒のお店を貸切にしたらしい。この店はかつてウォール・マリア奪還時に調査兵団が前祝いで使ったと言われる老舗のレストランらしい。


1週間ずっと一緒に居れば仲が良くなるのもので、パラディ軍や自衛隊全員各々混ざった席に着いて飲みかわしている。

仕事の話をする者も居れば趣味の話・・・マコトは数少ない女性グループのテーブルに混じり飲んでいた。


「えーっ!マコトさん彼氏いないの?!」
「う、うん・・・出来たことない・・・」


えぇー!と驚きの声が上がり、他の部隊に所属しているマコトの同僚である遠山は

「この子、休の日はだいたいトレーニングだから。化粧もしないし」
「化粧はしてますよ!ほら!」
「あ、ほんとだ」

すると席にナナバがやって来てペトラの隣に座ると

「マコト、あなた可愛いんだから勿体ないよ」
「そう言うナナバさんもペトラさんも綺麗で可愛いし・・・お2人は恋人は?」
「私? そこのミケ」
「私はオルオです」

そして遠山を見ると

「私は日本に置いてきてる。ほら、機甲の所に只野っているでしょ?」
「えっ、只野さん!?マジか・・・」

頭を抱えた。
そしてふとリヴァイを思い出す。



それにしても彼は何処だろう、と見渡すと幹部勢の所でマコトの隊長である北山とエルヴィン達と話していた

・・・するとリヴァイがこちらをチラッと見たのでマコトは慌てて目を逸らしてお酒をグイッと飲むと

「あ、あの・・・つかぬ事をお聞きするんですが」
「うん、何?」
「あのリヴァイ・アッカーマンって人は・・・女たらしですか?」

ナナバとペトラが顔を見合わせると

「いや・・・アレの色恋沙汰は聞いたことないな・・・」
「取り合いでキャットファイトがあったそうですがリヴァイ少佐は俺には関係ない≠ニ」
「まあリヴァイ少佐はいい所の家系だからな・・・相手はそれなりの人じゃなきゃ・・・」
「家系?」


マコトは首を傾げると

「アッカーマン家は王家に仕える武家の家系だ。 ・・・あそこにいるミカサは分家。エレンがここに入るって言って親の反対押し切ってパラディ軍に入ったんだ。」
「アッカーマン家・・・」
「リヴァイ少佐、あまり語りませんからね・・・プライベートはだいたい掃除してます。綺麗好きですから」
「あれで?」

しまった、とマコトは口を抑えるとナナバは吹き出してペトラも肩を震わせた。

「・・・そう言えばマコト、リヴァイ少佐からアタックされまくってるな。どうなんだ?」
「それ!私も気になってました!」
「やっぱそっちでも噂になってんですね!マコト、どうなの!?」

ナナバ、ペトラ、遠山に詰め寄られてマコトはグラスに口をつけながら

「わ、わかんないですよ・・・なんかいきなり・・・」
「いきなり?」
「お・・・俺は、お前に惚れてるって・・・1ヶ月で惚れさせるって・・・」

酒が回ったのと恥ずかしさで顔が真っ赤になりフェードアウトしながらそう言うと、3人は顔を見合わせると


「「「・・・ガチじゃん」」」


声を揃えてそう答えた。




一方幹部勢は


「え!エルヴィン大佐もリヴァイ少佐も独身なんです!?」

マコトの部隊の隊長である北山が驚いた。
すっかり意気投合した3人、北山はもう既に2人を下の名前で呼んでいた。

「お二人共男前なのに・・・」
「はは。仕事ばかりでなかなか身を固める事が出来ずに・・・ズルズルとこの歳です」
「まあ仕事も大事ですもんね・・・。うちの部下もまだ独身ばっかりで、マコトに関してはトレーニングマシンと結婚するんじゃないかとヒヤヒヤですよ」

マコト・・・エルヴィンはチラリとリヴァイを見ると特に反応せずにお酒を飲んでいる。

「彼女はとても優秀ですね。 狙撃のコツや格闘技指導・・・とても勉強になります」
「そうでしょう! 自慢の部下です。・・・それ故にあんな感じなんですが」
「あんな感じとは?」
「アイツ、仕事人間なんですよ。 階級を上げさせたいですが、上げさせるほどもっと仕事にのめり込んで婚期が遠のくと思ってましてね・・・3年前大怪我して動けない間がありまして。あれから埋め合わせるようにトレーニング室に引きこもっちゃって」

北山は苦笑いすると

「あとは、ご両親ですかね」
「ご両親・・・?」
「アイツの親も自衛官でしてね。・・・母親は2尉、父親は陸将です」
「・・・は?」

2尉といえば幹部クラスで、陸将と言えば上から2番目の階級・・・エルヴィンとリヴァイは首をあんぐり開けた。


「それに、父親は時期陸上の幕僚長候補。マコトはモテますが、両親にビビってみんな遠慮してしまってます。」
「それはそれは・・・」
「サラブレッドだな」
「そう言うお前もだろう、リヴァイ」

北山はリヴァイを見ると

「確かアッカーマン家の方でしたね。ははは!少佐、うちのマコトによく話しかけてますが・・・どう?」
「ああ。 俺はあいつに一目惚れした。だから何としても1ヶ月で落とす。それは本人にも宣言した」

さらっとそう言うと北山とエルヴィンは「そこまで言ったのか」と驚く。


「ま、マジですか・・・!少佐、援護射撃ならしますが」
「そうか・・・なら、マコトの情報をもっと教えてもらおう」

そう言うと北山とリヴァイはニヤリと笑いマコトの事を洗いざらい吐き出した。






***






「ふぅ・・・」

尋問が続いたマコトは逃げるように夜風に当たってくると言い逃げてきた。





店の入口付近の片隅に座り込むと、マコトはまたひとつため息をつく。


・・・何故あのリヴァイとかいう男はここまで自分に執着するのだろう。自分は前世であの男になにかしたのだろうか?

今の服装は一応仕事の集まりなので会食用のワンピースを着ている。化粧もするが社会人として最低限のメイクのみで手の込んだ事はしない・・・むしろ出来ない。

それ以外はTシャツスニーカーで、惚れさせてしまう要素など無いはずだ。

リヴァイに関してはとてもオシャレだ。
今日の服装はVネックのカットソーにジャケット、アンクル丈のパンツというセットアップの装いで小柄なのにスタイルもよく十分に着こなせている。

何より、目つきは悪いが顔立ちは綺麗だ・・・あれはどう見てもモテる。

「・・・何故私なんだ」

抱えた膝に額を乗せて、ふと首を左に回すと








リヴァイがヤンキー座りをしてこちらを見ていた。








「ギャッッ!」
「・・・人の顔見てそりゃねぇだろうがよ」

今まさに考えていた相手が目の前にいてマコトは思わず横に倒れる所をリヴァイが腕を掴んで転倒を阻止した。

「あ、ありがとうございます」
「・・・酔ったのか?具合が悪いか?」

落ち着いた声色でマコトに問いかけると、マコトは目を逸らして首を振る。

「酔いましたけど、気分は大丈夫です」
「そうか。ならいい。 ・・・お前、酒弱いだろ」
「人並みには飲めます!」

ムッとしたマコトは睨みつけると、リヴァイはフッと笑った。

「(お前が昔酔っ払ってえらい目に遭ったんだがな・・・)」
「アッカーマン少佐は、どうしてここに?」
「あ?お前が消えたから探しに来たんだ」

ストレートにそう言われマコトは照れ隠しをするように顔を背けると

「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
「何だ」
「・・・なんで私なんですか? アッカーマン少佐みたいな方ならもっと、素敵な女性が寄ってきたり選びたい放題なはずです。それに比べ、私なんてただの格闘好きの戦闘狂女です」
「はっ! 戦闘狂女か、悪くねぇ」

リヴァイはマコトの隣に座り胡座をかくと、持っていたジョッキをグイッと飲みながら




「・・・一目惚れって言ったら、笑うか?」
「え・・・」

自分を見つめてくるリヴァイの目は真剣だ。

「言っておくが俺は中途半端な事はしないタイプだ。 お前に関しても、俺は本気で考えている。」
「そ、そうですか・・・」

遊びではない・・・それを聞いただけでマコトはなぜか嬉しくなり胸がぽかぽかしてきた。
無意識なのか少し口元を緩ませているマコトを見てリヴァイは胡座をかいた膝に肘をかけて頬杖をつき、口角を僅かに上げると

「・・・で、俺に惚れたか?」
「・・・・・・随分と自信家ですね」

詰め寄ってくるリヴァイにマコトは身体を傾けるとどんどんリヴァイはこちらに詰め寄ってくる。
壁の隅に追いやられ、そのままリヴァイはジョッキを床に置くとマコトを壁と自分で閉じ込めた。

「俺は欲しいと思ったら意地でも手に入れる。・・・お前をずっと探してたんだ」
「は?」

ずっと探していたとは?
これも口説き文句だろうかと眉を寄せるとリヴァイの顔が段々と近づいてきたのでマコトはあの日の訓練を思い出してしまい身体を強ばらせる。

「怯えんなよ」
「だ、だって」
「キスしたことねぇのか?」
「当たり前です!」

マコトはリヴァイを見ずに、目をギュッと閉じたまま叫ぶように言うと前髪に触れられる。

「ああ、知ってる」
「なんっ・・・」

なんで知ってるんだと言いかけた瞬間、額に柔らかいものが押し当てられた。

目を開くとリヴァイの喉仏と鎖骨がドアップで飛び込んできたので何事だとマコトは固まる。


マコトの額にキスをしたリヴァイはそのままリップ音を立てながら唇を離しニヤッと笑うと

「・・・今日はデコで勘弁してやる。次はここを狙うからな」

ここ、とリヴァイはマコトの唇を親指で撫でると立ち上がりその場を後にしようとするがクルッと首だけこちらを見ると

「お前は十分魅力的だ。自信を持て。」

そう言って前を向くとじゃあな、と手を上げて戻っていってしまった。

「あの男、やっぱ危険すぎる・・・!」

壁に座り込んだままのマコトは真っ赤になりながら額を抑えるとまた膝に顔面を叩きつけた。
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