5:壁に囲まれた世界
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▼ 陸上自衛隊 JGSDF
日本最大規模の組織。
全国に160箇所以上の駐屯地が点在。

日本列島を5箇所の区域で分け、それぞれ方面隊がありあらゆる事態に対応出来るようになっている。

その数は24万7154人
※防衛大、予備自衛官、即応予備自衛官を除く

マコトは自衛官の16の職業のうちにある普通科に所属。
地上戦の骨幹部隊として機動力、火力、接近戦闘能力を持ち重要な役割を果たす部隊。




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ーあれから1ヶ月は経過しただろうか。
ハンジを中心にマコトの会話レッスンが始まり、少しづつだがマコトも喋れるようになった。
ハンジはそれを研究しているらしくにやにやしながら成長日誌を書いている。

そして身体に変わった部分はないかとチェックが入った。これはハンジが担当して、下着だけになったマコトは身長と体重、血液などを検査された。

背中を向けたマコトにハンジはん?と首を傾げると

「ねえマコト・・・これは怪我?」
「ん?」

マコトの白いうなじに火傷のような跡があった。
三重の円に装飾が入ってるのだが火傷にしては綺麗すぎる。

鏡越しで見せると、マコトは初めて見るような反応だった。

「エルヴィン達にも、みせていい?」
「うん・・・」


服を着せて急遽エルヴィンとリヴァイを呼び、マコトは2人にうなじを見せた。丁度髪の毛で隠れていたので下ろしてしまえば見えない範囲だ。

「火傷にしては綺麗すぎるし、刺青でもなさそうだな」
「エルヴィンも分かんないか・・・」
「・・・痛くないのか?」

リヴァイがそう聞くと、マコトは大丈夫。とうなずいたが何かを思い出した。

「ここくる前、かみなり、当たった」
「は?」
「雷?」

こくん、とマコトは頷く。
それにしてもこんな火傷をするだろうか・・・ひとまずはこの火傷の件は保留となった。




相変わらず部屋からは出られず食事もハンジが受け取るので中の様子は分からないようになっている。
ただひとつ分かるのは、毎日部屋が暗いというくらいだ。ランプひとつだけ灯された部屋は一瞬では中が分からないようになっている。

日替わりで様子を見に行くという事になっているのでリヴァイは執務中だったが、万年筆を置きカップに淹れられた紅茶を一気飲みすると立ち上がった。

リヴァイは廊下を歩いてマコトのいる執務室へと足を運ぶとグンタとオルオが当番だったらしく軽く挨拶をすると部屋に入った。


昼間でも相変わらず薄暗い部屋にマコトは居た。
服装は相変わらず迷彩の制服で、執務室のテーブルで勉強しているのか黒い髪を耳に掛けながらのその顔は真剣だった。


その光景にリヴァイは以前居た“彼女”と重なってしまい眉を寄せる。

《まだ仕事してんのか》
《リヴァイこそ、こんな時間まで?》
《ハッ、お互い様だな》

そう言うと、彼女はふふっと笑う。



「・・・りばいさん?」

意識を戻すと、マコトが大丈夫か?と立ち上がるとソファに座らせた。


「ああ、悪い。ぼーっとしてた」
「つかれた?」
「・・・かもな、大丈夫だ」

マコトの年齢はいい歳なのに、どうも子供に喋りかけるような言葉になってしまう。

「勉強は順調か?」
「はい。文字は、段々よめる、なってきた」
「頑張ったな」

そう言うと、マコトは照れくさそうに勉強した紙を口元で隠して笑う。ここ最近、警戒が取れてきたマコトは少しずつ笑うようになってきた。

言葉が分かり段々と段々と気持ちを表現できるようになってきたマコトの成長をリヴァイは顔や態度には出さなかったが純粋に喜んでいた。

すると、今度はノック音と共にマコトが返事をするとエルヴィンが入ってきた。

「リヴァイの当番だったか」
「ああ。何かあったか?」
「マコトをそろそろ外から出そうと思ってね」
「・・・だがエルヴィン、こいつの服装はだいぶ目立つぞ」

今の格好は自衛官の制服のままで、上着だけ脱いでいる状態だ。

そう言うとエルヴィンは確かに・・・と顎に手を置くと仕方ないとリヴァイは立ち上がった。

「エルヴィン、そろそろ俺の部下にも説明していいか?」
「何故だ?」
「この少人数じゃマコトの身の回りの世話は出来んだろ。うちにはペトラっていうマコトと歳も近そうな兵士もいる」
「・・・仕方ない。まあ遅かれ早かれ全員には見られる訳だしな」

リヴァイは頷くと外にいたグンタに「全員集めろ」と指示をした。


執務室の前に集められたリヴァイ班は敬礼をすると

「今から部屋の中の奴を紹介する。・・・びびってションベンちびらすなよ」

ションベンをちびらすほどの人物、それを聞いリヴァイ班の面々は生唾を飲み込むと「はっ!!」と敬礼をした。

リヴァイはドアを開けて4人を部屋に招き入れた。
相変わらず薄暗い部屋を見渡すと、エルヴィンが立っていたので慌てて敬礼をする。

そしてソファに座った女性を見て4人は絶句した

「えっ?!」
「この人、どこかで・・・」
「へ、兵長・・・」
「生きてたんですか?!」
「残念ながら全くの別人だ」

マコトの経緯を説明すると4人は信じられないという顔をしたが、持ち物を見て少しづつ納得した。

「つまり・・・俺達もマコトさんを護衛すると・・・?」
「そうなる。このまま公に出すなら少しでも味方が多い方が助かる。だがマコトの経緯は誰にも漏らすな。」

いいな?と鋭い目付きで言われると4人は怯えたように返事をした。

断片的に言葉を理解したマコトは眉をひそめながらあの・・・と手を上げる。


「みんな、私の事、前から知ってる?」

その質問に全員が黙るとエルヴィンが実は・・・と口を開く。

「2年前に殉職した兵士と君が、少し似ているんだよ」
「じゅんしょく・・・?」
「すまない、あまり気にしないでくれ」

ぽん、と肩に手を置くとマコトはぎこちなく頷いた。

殉職するほどこの世界は戦争をしているのだろうか?マコトはもうひとつ質問、と手を上げると

「殉職って、この国戦争、しているの?」
「戦争といえば戦争かもな」

リヴァイがそう言うと、ハンジはジャケットのポケットから紙を広げると地図を出した。

その地図は円が3重になっており、突起した部分がいくつかある。

「これが私たちが住んでる世界。身を守るために100年前に壁を3重に築いてからは我々調査兵団以外は外に出たことがない。外の人類は食べ尽くされたと言われているからね」
「外の世界を調査するのが、我々の仕事だ」

ゆっくりと話すハンジとエルヴィンの説明を、マコトは一語一句逃さず真剣に聞く。

「食べ尽くす、身を守るって・・・壁の外、何、あるの?」
「巨人だ」
「きょじん? きょじんって、あの大きな?」
「君の世界にはいるのかい?」
「巨人、いないよ。背の高い人ならいるけど、えるびんさんくらい・・・」

巨人のいない世界、そんな世界があるのか。
全員が驚いている中、ハンジはメガネのブリッジを上げると

「・・・エルヴィン、マコトに見せよう。この世界で生きるなら知ってもらわなくちゃいけない必須事項だ。ずっと鳥籠の中に入れておく訳にはいかないでしょ?」
「ああ、そうだな」
「その前にその格好だ。・・・ペトラ」
「は、はい!」

突然話を振られたペトラは肩を揺らすと

「余った適当な服は無いか? マコトに貸してやってくれ」
「わ、分かりました!直ちに!」

そう言うとペトラは敬礼をして慌てながら部屋を出ていった。

ハンジはマコトを見つめると

「マコト、今から君に巨人を見せるよ」
「・・・はい」

このメンツの様子では巨人はとても恐ろしい敵なのだろう。マコトは背中に汗が流れるのを感じながら頷いた。




***




「す、すみません!こんなものしか・・・」
「いや、いい。悪かったな」

ペトラは畳まれた服をマコトに手渡すと、ペトラを見つめる。

「良かったらそれ、そのままマコトさんに差し上げます」
「えっ!いいの・・・?」
「はい。無いと何かと不便ですし・・・ね?」

可愛らしくペトラはにっこりと笑うと、マコトは頷いて

「ありがとう。えっと・・・なまえ・・・」
「私はペトラと言います」
「ぺとら? ペトラ・・・」
「そうですそうです。」
「ありがとう、ペトラさん」

そう笑いかけるとペトラどういたしまして!と微笑み返した。



ペトラから受け取ったグレーのパーカーと黒のパンツ、半長靴を身につけてマコトは約1ヶ月半ぶりの外に出た。

外は夕方に差し掛かりそうで、空は橙色と青色のグラデーションになっている。
道行く兵士が皆歩く一行を見ると敬礼したり、談笑を止めて慌てて敬礼をする。

もしかしなくても、この3人はとても地位が上なのでは・・・?とマコトはハンジを見上げると


「3人とも、偉い人?」
「ん? ははっ、そうなるかな。エルヴィンは団長、リヴァイは兵士長、私は分隊長をしているよ」

団長、兵士長、分隊長

自衛官には無い階級だが、3人とも上の階級のためマコトは口をあんぐりと開けた。

「私、敬語使ってない・・・」
「マコトは兵団組織の人間じゃないから気にしなくていいよ。友達感覚で! ね、2人とも」
「私は構わないよ」
「好きにしろ」

そんな話をしながら外に出ると、マコトは「ふぁ・・・」と変な声が出てしまった。
物凄く高い壁が、果てしなく続いている。地図では分かっていたが実物を見るととてつもない迫力を感じた。

例えるならダムを見上げているような、そんな圧迫感でマコトは上を見上げながら

「すごい・・・高さ、どのくらいある?」
「50mだよ」
「ごじゅう?! す、すごい・・・」

リフトに乗り込むとそのままゆっくりと上昇して行く。風が強いせいか、リフトが揺れてハンジに捕まっていたが一面に広がる街の景色を見て呆気にとられた。


リフトから降りるとレールが続いており、何門もの固定砲が設置されている。レールに足を取られないように歩いていると固定砲の清掃をしていた兵士が敬礼をした。

「あの下に巨人がいるんだよ」

落ちないように、とエルヴィンに手を添えられながらマコトはゆっくりと覗き込むと50メートル下にわらわらと肌色の、全裸の巨人が居た。

「はい、これ」

ハンジから望遠鏡を借り、もっと近くで見ることが出来た。顔の作りは人間のようで真顔の人間も居れば笑顔の人間も居る。

マコトは思わず望遠鏡から目を逸らすと

「・・・ヒッ!あれが、巨人なの?」
「そう。 あれが巨人で、我々人類の敵だよ」

ドン!という大砲の音を見ると、巨人に直撃して倒れていく。 壮絶な光景にマコトは絶句しているとエルヴィンは

「2年前、超大型巨人が現れて壁を破壊され、ウォール・マリアはそれをきっかけに放棄され全員がこちらのウォール・ローゼへ避難した」
「100年間、壁は壊されなかったんだけどね・・・」
「巨人は、人を襲う?」
「ああ。俺たちが無防備で外に出た日にゃアイツらの胃袋の中だ」
「巨人は、人・・・食べるの?食い尽くすってそういう事?」

そう聞くと3人は無言で頷く。
マコトはじっと巨人を見つめた。
こんな世界は映画の中の世界だと思っていた。夢だ、夢なら今すぐ覚めて欲しい・・・

すると突然、脳に電流が走った感覚がして思わず呻いてしまった。


ー赤い髪の女性がフラッシュバックで写り、こちらを振り向くが顔が分からない。
女性は空を飛んで、巨人を倒している。

目眩がして頭がぐるぐると回る感覚がしてよろけると、肩を掴まれて倒れるのを免れた。
目をうっすらと開けると、リヴァイが眉間に皺を寄せながら

「おい大丈夫か。お前、高い所苦手なのか?」
「高い所平気。なんか、巨人、見たら・・・いつも見る夢が出てきた」
「夢?」

ハンジが興味深そうに聞くとマコトは口を開いた。

ここの世界に来る前も、夢の中で女の人が巨人と戦う夢を見ていたが起きた後すぐに忘れてしまう。そしてまた実物の巨人を見たらまたその映像がフラッシュバックしてきたのだ。

「私・・・ここに来た事ある?」

ぽつりと呟くとリヴァイ達が硬直してるのでマコトは慌てて

「そんなわけない、ね」
「マコト・・・その女ってのはどういう特徴だ?」
「え?髪、赤い人・・・。凄く強いの」

リヴァイはそれを聞いて目を見開くが、目を閉じると大きく深呼吸する。

「りばいさん、知ってる?」
「そいつは・・・」




「ここに居たか、エルヴィン団長」

振り向くとそこには、憲兵団師団長のナイル・ドークが立っていた。


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