98:宣戦布告


おい、蛇女。何めそめそしてんだ


お前の帰る場所が俺じゃ嫌か?


お前が好きだ。



「う・・・」


パラディ島へ入国して、ホテルで休んだ次の日・・・


ホテルではラッパは鳴らないのでアラームを掛けて起きた。

無意識に出ていた涙に疑問を思いながら拭って、マコトはベッドからゆっくりと降りた。

「(また変な夢見始めたな・・・)」

今度は、一人の男性がマコトに対して告白してきた。



お前が好きだ



その言葉を思い出すだけで心臓が大きく跳ねて、涙が出そうになる。

そんな事言われた覚えもないのに、何故か懐かしく感じる。ふと占い師が話してくれた前世の話を思い出した。

もしかしたら前世の自分の記憶かもしれない。
マコトは振り払うようにシャワーを浴びて歯を磨くと急いで準備に取り掛かった。


部屋を出ると全員ほぼ同時にでてきたので、そのまま挨拶をして朝食を食べる。

どうやら輸送部隊が迎えに来てくれるらしく、オリーブドラブ色の車がホテルにずらりと並ぶ様は異様だ。

整列して各自車に乗せられるがパラディ軍とは相乗りらしく挨拶をしながら乗っていく。


「俺たちの班はこっちです!」


同じ班の松山が指差す高機動車に近づき帽子を取って挨拶をするとスッと手を出された。


顔を上げると、あの時駐屯地へ見学に来ていたリヴァイが手を差し出していた。

その顔は無表情だがマコトを見つめると

「・・・手」
「あ、ありがとうございます」

マコトはお礼を言って紳士だな、と感動しながらその手を取る。

小柄だが、骨ばった大きな手・・・少しマコトは意識してしまい顔が熱くなるが頭を下げて座った。




移動する最中自己紹介が始まった。
相乗りしていたのはエレン、ジャン、ミカサ、ペトラという男女。そしてリヴァイだ。
他の班員は別の車に居るらしくまた後で紹介するそうだ。


車で揺られながら他の班員と談笑しているとふと視線が気になって前を向くと向かいに座っていたリヴァイが腕を組んでこちらを見ていた。

鋭い目だ。何かしただろうかと・・・マコトは首を傾げるがリヴァイはそのまま目線を逸らして目を閉じてしまった。

・・・あまり人と関わらない人なのだろうか?
よく見るとエルディアの班員はリヴァイと居ることで緊張気味なのかずっと喋らず、顔が強ばっている。

緊張は程よくあればいいがガス抜きをしてやらなければ、とマコトは鞄からゴソゴソと何かを取り出すと

「はい!どうぞ」
「・・・は?」

リヴァイの目の前に突き出したのは、飴の袋だ。
エルディアの隊員は驚いた顔で小声で

「リヴァイ少佐に飴だぞ・・・」
「あの姉ちゃんすげぇな」

そう呟いているがマコトには聞こえず、どうぞ!というマコトの圧力に負けてリヴァイは袋を受け取ると

「・・・頂こう。お前らも」

そうつぶやくとマコトは隣にいたリヴァイの部下達にも差し出した。
上司が貰えば、部下も気にせずに食べれるだろう・・・マコトの班員たちもそれをきっかけに身を乗り出すと飴の味を説明したりして交流を深めている。

少し明るくなった空気にマコトは安堵の息を漏らし、その光景を微笑ましく見守っていた。







訓練場に到着してマコトは降りようとするとまたリヴァイが待っていてくれた。
先程のように手を差し出すが、マコトは一瞬何かがフラッシュバックでチラついた。

前も誰かが、手を出して降ろしてくれたような・・・

「(馬車・・・? いや、馬車とか乗ったことないし)」

そんな事を考えながらお礼を言い手をとると車から降りた。









「あの、マコトさん」

ん?と振り向くと先程相乗りしていたペトラが微笑んで立っていた。 本当に軍人だうか?と思うほどの可愛らしさでマコトは見惚れていると

「さっきはありがとう。」
「え?」
「ふふ、リヴァイ少佐って口数少ないし、開いたと思えば口悪いし。でも部下思いの所はあるんです。まだあの子たち新人だから緊張しちゃってて・・・だからあの空気を変えてくれて助かった」

なるほど、とマコトは頷くと

「緊張もいいですが、ガス抜きは必要ですからね。 私も迷ったんですけど、せっかくの国際交流ですので」
「ですね。 ありがとうございます。 あ、私はペトラ・ラル上等兵です!」

そう言って敬礼すると、マコトも敬礼を返した。


「そういえば、ここの人達って変わった敬礼しますよね」
「ああ・・・心臓を捧げるという意味があります。」

そう言うとペトラは胸にトンと拳を置いた。
人の心臓の大きさは様々だがだいたい握りこぶしほどの大きさだと言う。

それを模しているのだろうか・・・とマコトはへぇ・・・と呟くと

「なんか、かっこいい」
「ふふ。昔はこれが主だったのですが外交を始めてからは手での敬礼に切り替わり、心臓の敬礼はパラディ島の行事のみや軍の内部のみに利用されます」
「へぇ・・・えっと、こうかな?」

マコトは試しにやってみるとふと何か頭の中に飛び込んできた。



──、どうやら私はここまでみたいです。今まで、お世話になりました。



マコトは固まると、ペトラは心配そうに顔を覗き込む。

「・・・マコトさん?」
「ああ、いや!ごめんなさい!ぼーっとしてた!」



マコトは何でもないよ、と慌てて手を振ると

「ペトラ!」

ペトラの同僚の声が聞こえると、ペトラは「ヤバッ」と慌てて敬礼をする。

「ごめんなさいマコトさん! 訓練、よろしくお願いします!」
「はい!後ほど!」


そう言うとペトラは部隊へ戻って行った。
それを見送っていると


「マカべ2曹」
「はいっ!」


振り向くとそこにはリヴァイが立っておりこちらを見ている。 鋭い目付き・・・確かにこれは、若い子はビビるに決まっている。とマコトは見つめ返すと飴の袋を差し出してきた。

「・・・さっきは、ご馳走になったな」
「いえ。こちらこそ勝手な行動をしてしまいすみませんでした」
「いや。構わない。 お前らしい」
「へ?」

マコトは首を傾げるとリヴァイは首を振って

「すまん、言い間違えた。・・・お前はちゃんと周りが見える、気の利いた奴だ。」
「は、はあ・・・」

褒めらた・・・?とマコトは呆気に取られる。


リヴァイは内心、ハンジやエルヴィン、アルミンのようにじわじわと作戦を練って攻めるのに我慢がならなくなっていた。

今こうして目の前に居るマコト。
以前エルヴィンが言った「忘れているなら、惚れ直させればいい」という発言。

マコトは自分のことを覚えていないという現実に、一時怖くなったがもう逃げない。

リヴァイはそう決めてマコトの腕を引き寄せると耳元で




「・・・合同訓練終了まで1ヶ月ある」
「ひ、は、はい・・・」



低い声が耳元で響きマコトは肩をビクッと上げる。



「マコト。俺はお前に惚れている。」

ほれてる

掘れてる

惚れてる

「・・・はっ!?」

マコトは段々顔が熱くなるのを感じで口をパクパクさせていると

「お前をこの1ヶ月で落としてみせる。・・・覚悟しとけよ。」
「は、え・・・はい・・・?」

そう言うとリヴァイは身体を離し、腕を解くと真っ赤になったマコトの頬を手でキュッと挟むと

「その抜けた顔、早く治せよ。他の男に見せんじゃねぇ」

フッ、と笑うとリヴァイは背中を向けて部下のいる部隊へと向かった。

「な、何なんだ・・・」

取り残されたマコトは頬に手を当ててふらふらとしながら自分も部隊の所へ向かった。



パラディ軍が所持する大規模演習場。
建物を模した訓練施設や、機甲部隊の弾を放つ程ができるほどの広大な土地だ。



マコトの部隊とリヴァイの率いる部隊との模擬演習が始まった。

全員の頭部や脚、腕、心臓にはセンサーがつけられたおり訓練用の弾の出ない小銃で撃つとセンサーが鳴るという仕組みだ。

脚に当たれば「重症」頭や心臓に当たれば「死亡」というのが上官が居る本部まで届き無線で伝えられる。

建物の内部やその人数に応じた作戦をその場で考えなければならないのだが・・・


«増山 重症»

«荻野 死亡»

«比嘉 死亡»


そんな無線が送られてきた。
立て続けに3人やられてしまいマコトと他の隊員は顔を見合せた。

「おい・・・あのアッカーマン少佐の仕業か?」
「噂通りだな・・・米軍もこれで部隊全滅だったって・・・」

焦る隊員達。
マコトは隊長である北山を見上げると

「まずはあの、アッカーマン少佐をなんとかしないと・・・」

マコトはそう呟き、北山も頷くと

「マコト、お前はあのアッカーマンを殺れ」
「えっ」
「訓練は本番のように、本番は訓練のように・・・今は本番だと思え。お前は銃の技術もあるが、特に格闘技では右に出るやつはいない。俺はそう思っている。」

北山がそう言うとマコトは頷いた。

「他のは俺らが何とかする。・・・松山、お前はマコトの背中を守れ」
「はい!」

北山は全員を見ると

「反撃するぞ」

そう言うと全員拳を出してコツンと突き出した。








リヴァイが指揮をしてなんとか3人は倒せた。

精鋭を揃えたリヴァイ指名のエルド、グンタ、オルオ、ペトラ、エレン、ミカサ、ジャンが壁に背中を密着させて待機する。

「・・・俺はお前らの技術を信頼してる。だが、あのマカべって奴はおれに仕留めさせろ」

突然の発言に全員は驚く。

「まあ、訓練だからな・・・そんなこと出来るわけは無いと思うが見かけたら俺に教えろ。あいつは手強い」
「はい!」

全員は頷くとリヴァイが指で秒読みを開始する。


0になり、拳を握って振り下ろすと静かに


「行け」



そう言うと全員は二手に分かれ残りの隊員を倒しに行った。







«リヴァイ少佐、奥の部屋に目標のマカべともう1人の隊員を確認»



しばらくすると、エレンから無線が聞こえてきた。
リヴァイはインカムのスイッチを入れると

「・・・了解だ」

そう呟くと立ち上がり音を立てずに近づいた。








耳を澄ませながらマコトは松山とお互いの背中を庇い合いながら周囲を確認する。

「・・・静かですね」
「うん。隊長達なら大丈夫だと思うけど・・・」



ドンドンドンドンドン!



突然大きな音が聞こえてきてマコトと松山は警戒する。

「こ、この音何です?」
「・・・上?」
「ええぇ!そんなのアリかよ!」

この建物はブロック塀で作られた模擬訓練施設で天井は無い。だがしかし、天井を伝って来るとは思いもしなかった。

マコトは上へと視線を向けたその時


バン!


目の前のドアが開かれて現れたのはジャン。
驚いたがマコトは体勢を直して小銃を構えるとジャンの狙いは松山に定められており、接近戦へと持ち込まれた。

松山の身長は170cmほどで、ジャンの身長は185cmを超えた大柄な人間。リーチのある対人攻撃に松山は避けるのに精一杯だ。

マコトも攻撃を仕掛けるがジャンはそれにも対応してしまいマコトの攻撃が避けられてしまう。

「松山!一旦部屋から出ろ!」
「はい!」

松山はジャンの蹴りをしゃがんでかわすと、ドアへ向かった。

マコトはジャンを狙おうと小銃を構えたが

「よそ見してていいのか?」
「っ!」

振り向くと天井を伝ってリヴァイが降りてきた。




「ジャン、あのガキを仕留めろ!」
「了解!」

ジャンはそう言うと松山を追いかけた。



狭い部屋で2人きりになってしまい、マコトは先程のリヴァイからの1ヶ月で惚れされるという宣戦布告を思い出す。

「そんな警戒するなよ。 ・・・意識してんのか?」
「い、今は訓練中です!」

頬が熱くなるのを感じるとリヴァイは目を細めて

「悪くない反応だ。」

一気に間合いを詰めるとリヴァイはマコトの持っていた小銃の腕を力いっぱい手刀した。

「いっ・・・!くっそ!」

負けるか、とマコトは小銃を離さずにグッと両手で持ち上げるとリヴァイの顔目掛けて銃床で殴りかかるがリヴァイはそれを首だけ動かして避け、小銃を掴むとそのままマコトに押し付けた。

身動きが取れなくなり、マコトは不味い・・・と逃げ道を探す。

だれかこの部屋に来てくれれば・・・

「ま、松山っ・・・」

«松山 死亡»
«ジャン 死亡»

松山もやられてしまったらしい。
リヴァイも同じチャンネルで無線が繋がってるので鼻で笑うと

「どうやらお前の所と相打ちだったみたいだな。あのガキ・・・やるな」
「っうちの、若手ですから」

押し返そうにもビクともしない。
涼しい顔してどんな力だ・・・とマコトはリヴァイを睨みつけ膝蹴りをしようと脚を動かすと

「おっと」

マコトの間にリヴァイの脚がこじ開けるように入ってきた。


マコトは驚き見上げると眉を寄せる。

リヴァイはそのまま顔を近づけると、自分のインカムの電源とマコトの電源を落とした。

「言っただろう。1ヶ月で俺はお前を落とすと」
「それは聞きました・・・しかし訓練とプライベートをご一緒するのは、いかがなものかと」
「俺は手段を選ばん」
「・・・あなた、モテませんね」

マコトはそう呟くとリヴァイはハッと笑い

「女には困らんが、俺はアンタにさえモテれば他はどうでもいい。・・・何もいらねぇ」


他なんて何もいらねぇ、お前だけ居てくれば・・・
私も、──さんさえ居れば何も怖くない・・・


「っ・・・」

何だこの記憶は・・・
それにこの男は何故、会ってまもない女に何て台詞を言うのだろうか。今までの女もこうやって落として来たのか?

「・・・なんで私なんです?」
「・・・俺は、強い女が好きだからな。お前はどうだ?・・・自分より強い男が好みだったりしないのか?」
「そ、それは・・・自分は恋愛はした事ないので、分かりませんが・・・確かに自分より弱い男は嫌いです」
「じゃあ、俺はどうだ?」
「なっ・・・」

そう言うとリヴァイは先程よりも顔を近づけ息がかかるほどにまでなった。

リヴァイの整った顔が近づいてきて我慢できなくなったマコトは、顔が熱くなり目を閉じる。


「マコト・・・」


リヴァイの口から漏れる、自分の名前を呼ぶ甘い声にマコトは目眩がする。


「(あれ・・・おかしい)」


唇に吐息が掛かる寸前





ビーーーーッ!





終了のブザーがなった。



«訓練終了、直ちに撤退せよ»



イヤホンから聞こえてきたエルヴィンの声に、無言でリヴァイはお互いのヘルメットをコツン、とぶつけた。


そのまま顔と身体を離し、マコトはズルズルと座り込む。


「チッ、エルヴィンのやつ・・・」


リヴァイは舌打ちをしてカメラを睨みつける。
一応カメラが映らない死角を狙ったがエルヴィンは察したのだろう。

他の人間から見ればただの小競り合いに見えるその光景。エルヴィンは分かっていたのであえてブザーを押したのだ。



演習の結果は、同点だった。




「マカべ2曹」

マコトは顔を上げると、リヴァイが手を差し出していた。
・・・また何かされるのではと小銃を抱きしめて警戒するすると

「もう何もしねぇよ」
「は、はい・・・」

そう言ってグローブ越しでも分かるリヴァイの大きな手を取るとグッと引き上げられる。

マコトは俯くとリヴァイはマコトの腕を取った。


そのまま袖をまくると、先程手刀した部分が赤くなっている。

久しぶりに触れたマコトの肌、色素の薄い真っ白な柔らかい肌。 リヴァイはそれを優しく撫でると


「悪かった。・・・痛むか?」
「いえ・・・平気です。」

先程とは打って変わったリヴァイの優しさにマコトは顔が熱くなるのを隠すように背けるが肌が白い故か首まで真っ赤になっているのはバレてしまっている。

そのままマコトの左手のグローブを取る。
あの時渡した指輪も無いようだ・・・そのままマコトの手を取り左の薬指を撫でるとグッと手を握る。

いきなりの事でマコトは不安そうにリヴァイを見上げると


「・・・ほら、撤退するぞ」


手を離し、マコトのヘルメットを軽くコン、と叩くとリヴァイは背中を向けた。



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