97:来日
マコトが占い師に占ってもらい3週間後ー


「ようこそ、遠くまでよくいらしてくれました! 私、和田匡(たくみ)一等陸尉です!久しぶり、リヴァイ!」
「ああ、久しぶりだな」

エルヴィンとリヴァイは軍の正装をしてマコトの居る駐屯地へとやって来ていた。

普通に入隊すると曹クラスでだいたい定年するのだが、彼の場合は工科高校卒、防衛大卒・・・要するに、リヴァイの同期だ。

片っ端の同期からマコトの情報を調べた所、和田の駐屯地にマコトが居ることが特定された。



会うのは卒業ぶりだが正装された制服には徽章が何個も付けられておりストイックな人間なのは昔から変わらないようだ。

和田1尉に案内されながらリヴァイは駐屯地の施設を眺める。 最初に広報誌を配られると、そこにもマコトが表紙におり中にもインタビューが書かれている。ご丁寧に海外版だ。

「和田・・・すまんがもう5部程貰えないか?」
「へ?おお、もちろん!」
「すまない。 部下にも見せたいんでな」

馬鹿め。部下に見せるわけが無い。
この広報誌はリヴァイの保存用、観賞用、予備として永久保存されるものだ。

そうとは知らず和田はにこにこと封筒に入れる風景をエルヴィンは苦笑して眺めていた。




大規模な駐屯地でスポーツジムやコンビニ、居酒屋、病院まで併設されている。

古い建物なりにも綺麗に手入れがされており、廊下にも窓にもゴミやチリひとつない。窓も曇りなく磨きあげられており徹底されている。

リヴァイは窓枠に指を這わせると、

「綺麗だな」

そう言うと和田はニコッと笑い

「だろ?!」
「素晴らしいな」

エルヴィンが感心する中、リヴァイは外で走っている部隊を眺める。

ここがマコトの言っていた駐屯地。
そしてマコトがここに居る・・・そう思うだけで案内なんてそっちのけで、リヴァイは走り回って探したいほどだった。





「よし次!」

射撃訓練・・・射撃場にマコトは居た。

「弾込めよし、構え!・・・撃て!」

掛け声と同時に引き金を引くと、隣のモニターを見る。弾は的の真ん中にあたりマコトは心の中でガッツポーズをする。


「こちらは射撃場になってます」


マコト普段通り小銃をまた構えると横に人の気配を感じたのでうつ伏せていた顔を上げて驚いた。

「(パラディ軍?)」

ネットの記事で見たイケメンすぎる軍人の2人が駐屯地に来ていた。見学はよくある光景だが、確か団体しか見学は受け付けてないはずだ・・・

「(まあ、この2人ならVIP待遇だよなぁ)」

金髪の男性はマコトを見て驚いたがニコッと笑うと

「こんにちは」

カタコトの日本語で言われ、マコトも一旦やめて起き上がる。そしてよそ行きの笑顔を作ると「こんにちは」と挨拶をした。

通訳の人が隣におり、何か質問があればと金髪の男性と黒髪の小柄な男性に話している。

すると金髪の男性はマコトを見ると

「私は、エルヴィン・スミスです。初めまして」
「・・・リヴァイ・アッカーマンだ」

そう言ってエルヴィンと握手をし、リヴァイと握手をした瞬間何か違和感があった。

「(・・・ん?)」

マコトはずっと手を握っていたので謝ると慌てて背筋を伸ばして脚を60度の角度に直し素早く敬礼をした。



「(海外は名前が先か) マコト・マカべ2等陸曹です。・・・初めまして」

そう言うと、なぜだかエルヴィンは眉を下げて笑いリヴァイは頷くだけだった。

「ああ、マカべー!ちょうどいい所に居た!」
「和田一尉」

和田はマコトのレンジャーの教官でもあった。慌てて敬礼をすると和田も敬礼しエルヴィンとリヴァイを見ると

「いきなりだが、海外演習に行くことになってな。パラディ島のエルヴィン大佐とリヴァイ少佐が挨拶に来てくれたんだ」
「はぁ…」
「二人は日本に留学経験もあってね、防衛大学校出身なんだよ。リヴァイは俺の同期!」
「防衛大ですか。凄いですね・・・え?海外演習?」
「そう。1ヶ月間、みっちりな。夏の総火演を見て、お互い島国同士だから刺激になれば、と声がかかったんだ。」


夏の8月に行われる富士 総合 火力演習。通称総火演。陸海空全ての部隊が出動し戦車も実弾で撃ち込まれるため、とても倍率の高い人気イベントだ。

それをたまたま来賓でエルヴィンとリヴァイが観に来ていたらしく、ぜひ一緒に訓練したいとオファーをしてきたのだ。

「へぇ・・・」
「もちろんマカべも来るんだぞ」
「えぇ?! 自分もですか?」
「ああ。マカべの所は優秀だしお前は狙撃も格闘技も成績がいい。 彼らの指名だよ。」

和田はマコトの肩を抱き寄せてやったな!と喜んでいるがその光景を見てリヴァイは一瞬眉を寄せた。

「(・・・コイツ、馴れ馴れしくマコトに触りやがって・・・)」

そんな不機嫌なリヴァイには気づかずマコトは彼ら・・・とエルヴィンとリヴァイをチラッとみる。

「分かりました。またお会い出来るのを楽しみにしています」

そうマコトは笑顔で言うとエルヴィンが頷き、挨拶なのか軽くハグをしてきた。
今度はリヴァイの番になり、エルヴィンの時と違い少し強めの長いハグだった。



「(あれ、なんだ・・・?)」



また違和感。


マコトは何故かふわふわした気持ちでリヴァイから離れると2人は訓練所を出ていった。



「収穫ありだな」

エルヴィンは予約したホテルで夜景を眺めているとリヴァイは不服そうにネクタイを緩めるとベッドでボフン!と仰向けになる。


「チッ・・・あの馬鹿、俺の事覚えてないのか?」
「事故で飛ばされたと言っていたからな、もしかしたら夢だったのかもしれないと・・・我々の事を忘れてしまったのかもしれない。」
「約束通り見つけ出したってのに・・・」

リヴァイは腕で目を覆うとエルヴィンは

「そう急ぐな、リヴァイ。パラディ島に来るんだからその時は攻めろ。」
「・・・ああ、意地でも思い出させてやる」
「仮に忘れていたとしても、惚れ直させればいい」


エルヴィンはそう呟きリヴァイは首だけを起こしてエルヴィンを見つめハッと笑うと


「・・・違いねぇ。 こっちの時代でも惚れさせてやる」


リヴァイは起き上がると風呂でも入るか、とジャケットを脱いだのだった。









ー 急遽決まったパラディ島への合同演習。
同室の後輩達には羨ましがられ、お土産リストを押し付けられたりガイドブックを押し付けられた。

飛行機に乗り約10時間・・・シーナ国際空港に到着すると軍服を着たパラディ軍の関係者が待っていた。

上官が握手をし、マコト達は頭を下げる。

そこにはエルヴィンもおり微笑むと

「長旅でお疲れでしょう、すぐにホテルに案内しますね」

そう言って用意されたバスに座ると、エルヴィンが隣よろしいです?と声を掛けてきた。

「パラディ島は初めてですか?」
「はい。初めてです。そもそも海外旅行が滅多にないですので・・・演習なのは分かってるんですけど少しわくわくしてます。ちょうどテレビでもやっていたので」
「テレビで?」
「はい。巨人の話を」

そう言うとエルヴィンはああ、と頷き

「昔ここは三重の壁で巨人から身を守っていましてね・・・その壁の高さは50mはあったんです」
「50も?!昔の技術でどうやって作ったんですか?」

テレビは着いていたもののあまり興味はなく半長靴の手入れに集中してたので内容はうろ覚えだ。

50mの壁・・・純粋にマコトは驚いてエルヴィンを見つめると

「ふふ、それは秘密です。答えは巨人に詳しい知り合いが資料館に居ますのでまた案内しますよ。研究員をしています。」
「ありがとうございます。楽しみです」

エルヴィンは本題に入った。


「・・・ところでマコトさんは、この仕事長いんですか?」
「はい。高校を出てすぐですので・・・もう10年は」
「ベテランですね。・・・ マコトさんの中で1番の事故とかありましたか?」

マコトが事故にあったのは知っていた。その時の事を知りたくてエルヴィンは探りを入れてみた。


もちろんそんな事に気づかないマコトは苦笑いしながら


「実は3年前、行軍訓練で山道を転がり落ちて・・・起きたら脚、腕、肋骨やら色々折っててしんどい思いをしました」
「それは大怪我ですね・・・うちの部下も同じような事がありましたがしばらく目が覚めませんでしたよ」
「そうなんです!私も、なんだろう・・・凄い長い夢を見ていたような。 寝すぎて久しぶりに日本語聞いたな、って思ったんです。」

そう言いながらマコトはパラディ島の街並みを眺める。エルヴィンはマコトの話を聞いてなるほど・・・と頭の中で整理すると

「どんな夢か気になりませんか?」
「え?うーん・・・そうですね・・・起きたら泣いてたから、悲しい夢だったのかもしれませんよ?」

マコトはエルヴィンを見るとまた苦笑いをした。









「・・・臆病だな、俺は」

紅茶を飲みながらぼそりと呟くと、書類を取りに来たアルミンがえ?と首を傾げた。

「・・・マコトさんの事で?」
「ああ、俺の事忘れてるみたいだしな。 ・・・正直顔を合わせるのが怖い」



怖い



リヴァイの口からそんな言葉が出るなんて・・・驚いたが、アルミンは笑うと

「確かに、怖いですよね。僕もエレンやミカサとずっと居ますが、2人は何事もなく今の時代を生きてます。 匂わせても全然記憶にないみたいで、変な風に見られるのが怖くてそれ以降は話題に出すのはやめておいたんです。」
「あの人騒がせなクソガキが何事もなく過ごしてるなんてな。会った時は殴りたくなったぜ」


壁の外に出てからの出来事を思い出してアルミンも笑うとスマホからエルヴィンからの通知が来た。

「あ、マコトさん達入国審査終わったみたいですよ。」
「そうか・・・」


リヴァイは目を閉じるだけだった。










マコトがパラディ島に来た日の夜 ──


「弱虫、チキン、チビ」
「うるせぇ」
「ハンジ、もっと言ってやれ」

マコトがこのパラディ島に居る・・・

出迎えに来ないか?とエルヴィンは誘ったがリヴァイは俺はいいと断ってしまった。


現在はハンジ、ミケ、モブリット、リヴァイで飲み会をしている最中だ。ミケもパラディ軍の軍人で、リヴァイのひとつ下の大尉という階級だ。

「せっかくマコトに会えたのに勿体ない!」
「別に合同訓練があるからいいだろ」

そう言ってリヴァイはグラスを口に運ぶ。
相変わらず独特な持ち方をするなとハンジは苦笑いすると顔を上げておーい!と手振った。

手を振った先はエルヴィンとアルミン。
2人は席に座るとふぅ、と息を着いて店員に酒を頼んだ。


「で、マコトは?」
「ああ。今はホテルに居るよ。・・・それでは」


エルヴィンは目つきを変えると全員は背筋を伸ばす。


「作戦会議をする」


そう言うと全員は真剣な顔つきになり前のめりになった。

まずは、マコトの現状。
移動のバスで探りを入れてきたエルヴィンの情報を元にマコトの記憶を思い出させる作戦を練ることにしたのだ。

「マコトは、事故にあったのは本当らしい。起きたら病院だったそうだ。 私たちとの出来事はどうやら夢だと思っているらしく・・・とても長い夢を見ていた気がすると言っていた。マコトが私たちのいた時代から帰ってきて3年は経過している」
「夢だと思われてるんですね・・・」
「俺と握手したとき、俺の顔を見てあほ面してやがったが・・・荒療治すれば思い出すかもな」
「こらこらリヴァイ。乱暴は駄目だよ。昔みたいにブレードとナイフで殺りあったら警察来ちゃうって」



アルミンは顎に手を当てて何かを考えると

「リヴァイ少佐、2人での思い出とかは覚えてるんですか?」
「ん?・・・ああ、初めて会った日やら、告白した日、手料理を作ってくれた日、プロポーズした日、アイツが帰った日・・・誕生日プレゼントを貰った記憶はあるな」
「思い入れの強い記憶だけが残っているという事は、マコトさんにとってもそれは思い入れの強い記憶だと思います。 ・・・それを再現すればいいのでは?」
「いきなり告白するのか?」

それはさすがに変人だろう・・・とリヴァイ眉を寄せる。

「他になにか無いのか?」

ミケがリヴァイを見つめ、リヴァイは腕を組むと

「・・・歌か」
「歌?」
「ああ、俺もアイツも・・・好きだった歌があった。だがそれが思い出せん。エルヴィン、お前が通いつめてたバーの歌手が歌ってた歌だ。」
「アンナか。」

アンナ・・・マコトと同じように飛ばされた人間で、マコトの世界では肉体が亡くなってるため帰らなかったと聞いた。


そんな彼女ともあのマリア奪還戦から今の時代まで再会は出来ていない。

「・・・その歌さえ分かれば」
「メンタル・タイムトラベルっていう論文をよんだことがあります」
「それって・・・脳に刺激を与えて記憶を思い出すってアレ?」
「はい。」


思い出のある事をさせて脳を刺激するとドーパミンが活性化するらしい。

昔聴いていた音楽を聴いて思い出が浮かび上がってくるのもその一種だそうだ。


「マコトはあの時古い曲だと言っていたが・・・」
「って事は現代にはあるって事か」
「リヴァイ、全力で思い出すんだ!!」
「その音楽意外でも、何かしらの事はしてみよう。リヴァイ」
「リヴァイ少佐!作戦を練り、焦らず行きましょう!」


全員からの励ましに、リヴァイは頷いた。

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