96:ソウルメイト
マコトが行軍訓練の事故から復帰してから3年の月日が経ちー

マコトは今年で28歳になった。


AM 6:00
普段通り駐屯地にはラッパの音が鳴り響き、マコトは起き上がると着替えて廊下で点呼、朝食、朝礼からの各班の訓練・・・いつもの日常だ。




その日の夜・・・3人部屋のマコトは世界遺産大好きオタクの後輩が見ていた「世界摩訶不思議」というテレビ番組を見ていた。

マコトはそれを横目に半長靴の手入れを始めようとベッドの下からゴソゴソと道具を取り出す。

『今日ご紹介するのは、パラディ島!日本のように海に囲まれた島国は現在、リゾート地になっており観光客で賑わっております。今年の新婚旅行で行きたい国ランキング1位!
・・・この島は昔、人を食べる巨人が生息しており、巨人から逃れるために三重の壁を築いて人々は暮らしていたそうです。 』

パラディ島・・・マコトも名前は聞いたことがある。

旅行情報誌などにもハネムーンやらこのような巨人伝説の遺跡ツアーなどなど・・・いま人気の島だ。


「ここ、この間友達がハネムーンで行ったみたいなんですけどめちゃくちゃ綺麗なんですって!」
「ハネムーンねぇ」
「マコトさんって、彼氏居ないんですか?」

後輩がそんな事を聞いてくるのでマコトはベッドに胡座をかいて座り、半長靴のホコリを落としながら

「彼氏いたら土日も筋トレしてないよ・・・」

自衛官は土日休み場合によって訓練があれば土曜日も仕事だが代休で平日休みなどを貰え、ある意味ホワイトだ。交代制だがちゃんと年末休みやお盆もある。

そして駐屯地によってはスポーツジムやプールもあるので無料で身体を動かし放題。マコトにとっては楽園のような場所だ。


マコトを探そうとすれば高確率でトレーニング室に居る。

「あはは、ですよね。」
「でもマコトさん美人なのに勿体ないー!今年も広報誌の表紙やら自衛官 宣伝CMにも出てたじゃないですか。あとミリタリー雑誌!」
「CMはあれだよ・・・採用の受け入れ年齢が引き上がったせいだよ。ちょうどいい年齢でしょ?私」

人材確保のため、自衛官の年齢は18歳から26歳までの制限だったのを6歳引きあげの32歳が制限になった。
ミリタリー雑誌は数ヶ月前に撮って、空挺団の資格取得で女性初だったのが珍しいため表紙にさせて欲しいというオファーだった。

美人すぎる自衛官と言われるが自衛官の中での話で一般から見れば自分はいい歳こいてただの化粧っ気のない芋臭い女だろう・・・とマコトは思っている。

そう言って誤魔化しているとCMが明けて番組の続きが流れた。

『本日はこの博物館の研究員、ハンジ・ゾエさんと巨人について色々聞いてみたいと思います!初めまして

テレビに写ったのは中性的な眼鏡を掛けた女性で、興奮しながら巨人について語っているのが流れるがふと、字幕を読んで「あれ?」と首を傾げると

「ねぇ、これ翻訳間違ってる」
「えっ!マコトさん、分かるの?!」
「・・・ん?いや、なんとなく?」
「あははっなんですかそれ!」

キャッキャ笑う後輩達。なんで間違ってると思ったのだろう、マコトは眉を寄せて首を傾げた。

するともう1人の後輩がそういえば、とスマホをいじると


「パラディ島といえばさ!あの軍人さん!」
「ああー!なんだっけ、イケメン!」

なんの事だ?とマコトは2人を見るとスマホの画面を見せられた。

「この間総火演で来日したヒストリア女王と一緒に来てた軍人2人です!めっちゃカッコイイって話題なんですよ!」
「ヒストリア女王も可愛いよね〜!」

それは記事になっており、マコトはスマホを受け取って写真を見る。

アジア人っぽい鋭い目の男性と背の高い金髪の男性。名前はリヴァイ・アッカーマンとエルヴィン・スミスという名前らしい。

ネットではイケメンすぎる軍人として記事まで取り上げられているそうだ。


リヴァイ・アッカーマン…そう言えば米軍とパラディ軍との合同演習の資料映像を動画サイトで見た時にインタビューされていたのを思い出した。


しかもその動画だけ、やたら再生数が多い・・・そういう事だったのか。


あまりイケメンという類には興味がなかったのだが何故かリヴァイを見た時に反射的に

「へー・・・かっこいい人だね」
「えっ!マコトさんの口から人間に対するかっこいいワードなんて珍しいですね!私もリヴァイさん推しです!」

パラディ軍は、日本のように現在は防衛に専念している。日本ほど規模は大きくは無いのだが、米軍とも合同演習をしたら日本に匹敵する能力を持っており驚かれたらしい。


特にこのリヴァイ・アッカーマンは小柄ながら1人で1部隊を全滅に追い込むほどの実力だそうだ。

どんな戦い方をするのか・・・マコトは逆にそっちの方で興味がわいた。

「・・・あ、そうだ!今度の土曜日また占い師さんの所行きません?」
「ええ?私はいいよ」
「駄目ですよ!3年前の事故だって当ててたじゃないですか!」

確かに・・・占い師に3ヶ月後気をつけろと言われた結果の行軍訓練中に山からゴロゴロ落ちたのだ。

「・・・分かったよ、行こうか」
「やった!」
「せっかくだからマコトさんの恋愛とかも見てもらいましょうね!」

あまり恋愛は興味なかったが可愛い後輩のためだ、とマコトは笑った。






土曜日、占い師にまた手相やらタロットなどで見てもらうと

「んーそうですね。仕事は問題なさそうですが、葛藤する時があるようです・・・」
「はぁ・・・」

今の仕事に満足しているのだが・・・そんな日が来るのだろうか。マコトは思い当たる節を探すが、パッと出てこなかった。

「恋愛ですが、あなたの運命の人は前世と関わりのある方と近いうちに出会うかもしれないですよ。」
「前世・・・?」
「スピリチュアル的に言うと、ソウルメイトと言います。」
「そうるめいと・・・はぁ」

聞き慣れない言葉に首を傾げると占い師はまあ聞き慣れませんよねぇと笑い、簡単に説明してくれた。

ソウルメイトとは、繰り返される転生のなかで、お互いの学びのために出会いや別れを繰り返しては影響を与え合っている存在・・・らしく、それは数多く存在して親子、兄弟、親友、ライバル、敵など様々な形で巡り会っているという。

「その場合、出会った瞬間に懐かしさとか愛おしさとか特別な感覚があるかもしれません。最近はそんな感じの方がいらっしゃったりは?」

マコトはうーんと首を傾げるが・・・特に思い当たる人物は出てこなかった。強いて言うならばあのリヴァイという人物だが海外の人間かつただ強いと聞いたので気になっただけだ。

「居ないですね・・・」
「じゃあ・・・もう少し詳しく見てみます?」
「あ、お願いします」

占い師はまた別のカード、ルノルマンカードというものでシャッフルすると飛び出したカードが出た。

「ジャンプカードと言って、カードが強く訴えてくるとこのように出るんですよ」

そう言ってカードをめくると、船の絵が描かれておりまあ・・・と占い師はマコトを見ると

「船のカードを恋愛で見ると、海外の方とか旅行先で出会うという暗示です。 数字だと3なので3の付く日でしょうか。3日後、3ヶ月後、3年後など」
「へぇ・・・でも海外旅行は行かないなぁ」
「日本にいる外国人ってこともあるかもしれませんよ」
「あぁ・・・外国人かぁ」
「私の占い、結構当たるって評判なので楽しみにしててくださいね」

そう言うと占い師はニッコリと笑った。






***






小さい子供は、前世の夢をよく見るという。


突然子供が「○○で僕死んじゃったんだ」など「兵隊さんがわたしを連れていった」など突然口走ったりなどをするそうだ。

前世の思い入れが強いほど、突然その夢を見たり・・・大人より子供の方がそれは頻繁らしい。

リヴァイは幼少期から夢の中で1人の女の人がずっと現れていた。
最初は変な格好だとは思ったが歳を重ねるにつれ、それは軍人だったということが分かった。

記憶が戻った瞬間は、スクール時代に歴史の授業で博物館へ見学に行った時・・・調査兵団の私物の展示で見かけた懐中時計。

その懐中時計には、裏蓋の部分に掠れてしまっているが女性の肖像画が貼られている。

それを見た瞬間、「これは俺のものだ」と思わず涙が零れて先生に心配されたほどだ。


自分はこの夢の中に出る彼女と恋仲で・・・別れ際に「迎えに行く」と伝え彼女も「待っている」と言い姿を消した。そして小指を絡ませると歌い始めておまじないのようなものをする。



少しずつ取り戻していく記憶に戸惑いながら、自分はこの女性を探さなければならないと決心した。



アッカーマン家は昔から王家を守る武家の一族だった。途中迫害を受けたが、先祖が和解してくれたおかげで迫害は終わった。 ・・・そのリヴァイも本家側の人間で、小さな頃から叔父のケニーから戦闘訓練を受けた。


将来の進路をどうするか決めた時、そのまま王家の護衛に仕えると思いきや軍人になると口走った時はケニーや母のクシェルは驚いたが社会経験にいいだろうと快く送り出してくれた。



入隊後、何年か先に入った先輩兵士・・・かつての調査兵団団長であるエルヴィンとも演習時に再会しお互い驚いた。

「あの子の事を覚えているのか?」
「・・・ああ、ガキの頃からな。」
「そうか・・・リヴァイ、今の時代は昔と違って最先端の技術もある。それを駆使し利用するためには、やはり階級が必要だ。」
「…どうすりゃいい?俺は高卒だ」
「米国のように専門機関があればいいが…孤島のパラディ島にはそんなものはない。うちの幹部連中は全員留学帰りの者だらけだ」
「…俺に留学しろと?」


その言葉にエルヴィンはこくりと頷く。


「日本にある防衛大学校、日本一忙しい大学で日本のリーダー…幹部自衛官を育成している機関だ。そこを卒業してしまえば幹部コースだ」
「…日本か」
「やるか?俺は昔行ったが、正直めちゃくちゃキツい。特に掃除」

掃除、そのワードに反応したリヴァイはハッと笑うと

「掃除だと?俺の得意分野だ」
「やるんだな?」
「ああ。這い上がってやる。」


エルヴィンの推薦により日本の防衛大学校に入校が決まったリヴァイ。その前にお互い覚えている記憶を話し合おう・・・と調査兵団関連の、スクール時代ぶりに足を運んだ博物館にも驚くべき人物がいた。

リヴァイは展示された、昔自分が愛用していた懐中時計を眺めていると


バァン!


と、何かが落ちる音が聞こえた。

エルヴィンとその方向を見ると資料やら本を思いっきり落とした眼鏡の女性が1人立っていた。


「う、嘘でしょ・・・あんた達・・・」
「お前・・・ハンジか?!」
「う、う・・・うおおおぉ!うそぉ!?会えたあああああ!」


ハンジは大興奮するとエルヴィンとリヴァイに飛びつき、騒ぎを聞き付けた男性がこちらにやって来て顔面蒼白になると

「は、ハンジさん!なにお客さんに抱きついてうそおおおおお??!」
「モブリット!エルヴィンとリヴァイだ!!」

モブリットもまた、記憶があり・・・というか博物館勤務になってハンジと接触したら記憶が戻ったのだ。

「リヴァイ、あの子探すんでしょ!」
「ああ」

名前を思い出せないあの子=B
自分のあれは夢ではなかったのだ。これだけタイミングが重なり彼女の証人が居れば、必ず見つけられるはず。

リヴァイは改めて記憶の中で笑っている彼女に向かって

「(待ってろよ)」

そう心の中で呟いた。





日本に渡り4年間の厳しい防大生活が終わった。
それから、9年の月日が経っている。
リヴァイは歳を重ね、31歳になった年に事態は動き出した。




パラディ島。

パラディ軍 基地
軍の制服には翼のエンブレムが施されており、陸軍のマークとなっている。

はるか昔この島にあった壁の、壁外調査をしていた兵団をモチーフとされている。


リヴァイは執務室のパソコンでメールを送信し、書類をサインしたりなど上層部の人間になってからデスクワークが多くなった。

そんな忙しい中でもリヴァイはあの女性を片時も忘れず合間を縫っては情報収集をした。


しかし名前も不明、苗字も思い出せない。


彼女を探すために幹部にまでのし上がり数年・・・なんの手がかりも見つからない。

1000年以上前の記憶で、どこかの国の軍人の格好をしていた黒髪の、格闘技がやたら強い女という記憶と・・・意地でも迎えに行くという前世の夢を見てからパズルがはまるように色々と思い出した。


「俺の好みの顔だったんだがな・・・」


上の立場の人間になれば階級を利用して捜索は楽になるだろうと思ったが逆にデスクワークが多く帰れるのは深夜。リヴァイは舌打ちをして、一旦作業をやめて椅子にもたれた。

ここ最近画面ばかりみていて目が疲れる・・・引き出しに入れてある目薬をさして目を閉じていると、傍らに置いておいたタブレットの通知が鳴ったので手に取った。

軍関係の人間だった記憶はあったのだが、何処の国かまでは記憶も無く片っ端から各国の軍隊がやっている公式の動画チャンネルを登録したので、その通知だろう。

通知の相手は日本の自衛隊 公式の動画チャンネルで、勧誘CMの動画だった。

確か、年齢が引き上げになったとニュースで見かけたので休憩がてら見てみよう、と再生ボタンを押して出てきた人物にリヴァイは息が止まりそうだった。

その瞬間「マコト」という名前が頭の中にでてきた。


「マコト・・・?」


あの時と変わらない黒の艶やかな長い髪は短くなっており前下がりのボブヘアー。リヴァイは画面越しに、こちらに向かって敬礼をしているマコトの頬を撫でると


やっと見つけた。


気づけばリヴァイの目からは目薬ではなく、無意識に涙が流れていた。

そのままリヴァイは急いで立ち上がると、とある人物の執務室へ向かった。



「エルヴィン!」



バン!とタブレットを持ったままドアを開けると、そこにはエルヴィンと部下のアルミンが驚いてこちらを見た。

「リヴァイ、ノックをしないか」
「それどころじゃねぇ、これを・・・」

そう言って一時停止されたタブレットを見るとエルヴィンとアルミンが目を見開いた。
アルミンも過去の記憶を持っておりなんの偶然かアルミンもパラディ軍に入った1人だ。今ではエルヴィンの部隊に配属されている。

「リヴァイ少佐、この人・・・!」
「ああ。エルヴィン、名前はマコト・マカべ!・・・こいつが居るのは、日本だ。」

パズルのピースがまた合った。

珍しく興奮しているリヴァイに、エルヴィンは目を細めると「で?」と椅子に腰深く掛け腕を組むと

「日本に飛ぶか?」
「・・・いやエルヴィン、日本はうちとちがって160以上の駐屯地があるんだぞ?日本横断ツアーでもすんのか?」
「ははは!リヴァイ、お前は何のために日本に行ってたんだ」

エルヴィンは微笑むとスマホを取り出し


「かつての同期に連絡すればいい。俺も協力しよう。」




それからリヴァイはマコトのことに関して仕事そっちのけで片っ端から調べあげた。


マコト・マカべ
陸上自衛隊の普通科所属。階級は2曹。

エルヴィンが教えてくれた駐屯地を調べあげると、部隊の写真が出てきた。紅一点で笑顔で映るマコトを見てリヴァイは懐かしさに目を細める。

豪州で行われた狙撃大会でも優秀な成績を収めており大柄な男性達に囲まれてマコトが笑っている写真、合同訓練はで外国人相手に格闘技の指導も手伝っているそうだ。

そして最新のニュースでは、彼女が女性初の空挺 レンジャー試験に合格したとの記事もあった。

しかも彼女は既にレンジャーの資格も持っており、自衛官の中でもほんのひと握りしかなれないレンジャーに加え空挺 レンジャー・・・これを2つ持っていると周りから「化け物」と呼ばれるそうだ。


話題になったおかげか雑誌の表紙を飾ったらしく、リヴァイは迷わず5冊ほど日本から輸入した。

保管用、観賞用、予備、未開封などなどそれを見たハンジはマコトヲタ・・・と呟いたが無視だ。



マコトに早く会いたい、迎えに来たと伝えたい。

リヴァイは強く拳を握った。


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