ウォール・マリア奪還から1ヶ月後の出来事。
12月25日・・・リヴァイの32歳の誕生日を迎える日だ。
毎年祝ってくれたマコトは隣には居らず・・・せっかくだから休みなよ、と新団長であるハンジに言われ、渋々部屋でぼーっとしていた。
趣味の掃除もやる気がなく、紅茶を飲んでも味気がしない。マコトロスだろうか・・・
こんなので、この先死ぬまで持つだろうかと失笑しているとノックが聞こえた。
「誰だ?」
「アルミン・アルレルトです」
「アルミンか、入れ」
「失礼します!・・・すみません、お休みの日に」
アルミンは敬礼をすると、手に持っているものは紺色の封筒だった。
「どうした」
「リヴァイ兵長宛に、お手紙なんですけど・・・すみません、差出人が無くてお渡しするのを悩んだのですが。字に見覚えがあって・・・」
「?・・・見せてみろ」
両手で差し出すアルミンから封筒を受け取る。
宛名には「リヴァイ・アッカーマン様へ」と書いてあり、紺色の封筒に合うように金色の蝋封がされている。
その字はリヴァイにも見覚えがあった。
「・・・まさか」
「はい・・・それ、マコトさんからの手紙なんじゃ・・・?」
「オイオイ、なんでマコトから?あいつは・・・」
「恐らく、日付指定郵便で出したのでは無いのでしょうか? 今日は、リヴァイ兵長のお誕生日ですよね?」
「そういう事か・・・ハッ、またドッキリを仕掛けられたな」
リヴァイはそう笑いながらも、その手は震えながらも丁寧にその蝋封を開こうとする。
2人の邪魔はしてはいけないな、とアルミンは微笑むと失礼いたします!と敬礼をして部屋を静かに去った。
封筒の中には2枚手紙が入っており、リヴァイは深呼吸をすると折りたたまれた手紙を開いた。
−−−−−−−−−−
リヴァイさんへ
マコトです。お元気ですか?ていうか、ちゃんと25日に届いたかな?それが心配。
これを読んだって事は、多分私は帰れたか、ウォール・マリア奪還で戦死したのだと思います。
リヴァイさん、お誕生日おめでとうございます。
今年は一緒に祝えなくて悔しかったので手紙を書かせて頂きました。 その代わり、また会えたら盛大に祝うので楽しみにしててくださいね!
私は、今まで恋愛になんて興味がなくって仕事や格闘技が恋人だと思っていました。
でも、リヴァイさんと出会って色んな物を見せてもらいました。あなたの隣に居れた私は幸せ者です。
いっぱいいっぱい愛してくれてありがとう。
私は、リヴァイさんのことすっごくすっごく大好きで、すっごくすっごく死ぬほど愛してます。
辛い事も沢山あって、残酷な世界だったけど、私はあなたが生きてるこの世界が大好きです。
生まれてきてくれてありがとう。
あなたに出逢えてよかった。
それでは、また会える日を心から楽しみにしています。
マコト・アッカーマンより
追伸:私の執務室の、一番下の引き出しを見てください。
−−−−−−−−−−
「・・・あ?引き出し?」
封筒を触ると硬い感触。同封されていた小さな鍵。それはリヴァイの机にもある引き出しの鍵だった。
気づけばリヴァイは涙が出ていたがそれをグイッと拭うと立ち上がり部屋を出ると、隣のマコトの部屋を開けた。
あれから1ヶ月ぶりに入ったマコトの部屋は懐かしいグリーンティーの香りがしたが香りは薄くなっていた。
スン、とリヴァイは香りを嗅いで部屋に踏み入れると執務机の、一番下にある大きな引き出しに鍵を差し込みひねるとカチャンとロックが外れる音がした。
木の擦れる音を立てながら引き出しを開けると、そこにはぽつん、と深緑のラッピングされた箱が置かれていた。
「ん・・・?」
プレゼントを持ち、マコトの座っていた執務椅子に腰をかけると箱を開いた。
その中には、ガンメタリックの懐中時計が入っていた。
こう言ったものは装飾があるのだが、あまり派手なものは好まないリヴァイの事を考えたのかとてもシンプルな彫刻がされたデザインで手に馴染んだ。
ボタンを押せば蓋が開き、カチカチと秒針が回っている。
同封されていたメッセージカードを開くと、マコトの調査兵団証明証が同封されていた。その手帳には、マコトの肖像画が付いている。
−−−−−−−−−
リヴァイさんへ
ちょっとしたサプライズプレゼントです。
リヴァイさんに似合いそうな色を選んでみました。
同じ時を過ごせない代わりに、この時計を贈らせていただきます。これなら、ずっとリヴァイさんと一緒に居られるよね。
あ、私の肖像画入れてもいいですよ?なんちゃって。
マコトより
−−−−−−−−−−
「っ・・・はっ・・・悪く、ねぇな」
今度こそ我慢出来なかったリヴァイは、懐中時計に唇を押し付けた後机に突っ伏し、涙を流した。
............
リヴァイさん、リヴァイさん
こんな所で寝てたら風邪引いちゃう。
そろそろ起きて。
.............
そんな声がした気がして、リヴァイは目を開いた。
「ん・・・マコト?」
どれくらい時間が経っただろうか。
気づいたら寝てしまっていて、リヴァイは気のせいか・・・と失笑すると呻きながら伸びをした。
変な体勢で寝てしまったせいか腕が痺れる。その手にはマコトから贈られた懐中時計がありそれを握るとチェーンを引っ掛けてジャケットの内ポケットに忍ばせてぽん、と撫でた。
「・・・待ってろよ」
そう言うとリヴァイは椅子を元に戻しマコトの部屋を見渡すと、静かに扉を閉めたのだった。
*
超大型巨人により壁が破られ6年が経った。
そして、マリア奪還から1年が経とうとしている。
雪が溶けた頃、壁外調査は開始され、残された調査兵団で海を目指した。
巨人はあらかた討伐しきり、途中で地面を這った不完全な巨人とすれ違ったが害はないとエレンは言うとそのまま無視して先へと進んだ。
堤防が見え、その先にあったものは青く透き通る海。それを見たリヴァイ達はあまりの広さに空いた口が塞がらない。
サシャ、コニー、ジャンは海に入って遊んだり、アルミンは貝殻を拾い上げてミカサと観察している。
ハンジはナマコを両手で掴んで大喜びする中、エレンはどこか遠くを見つめている。
リヴァイは・・・というと荷物の中から透き通ったガラスのボトルを取り出した。
その中には手紙が入っておりマコトが好きだった芍薬のドライフラワーの花びらが入っている。
それを見たハンジは首を傾げると
「リヴァイ、それ何?」
「これか?マコトから貰った手紙の返事だ」
そう言うとハンジは驚いたが、目を細めて笑うと
「えぇーそれ先に言ってよ!私だって書きたかったのに!」
「うるせぇ、また今度にしろ」
そう言うと、リヴァイは思い切ってそのボトルの口を掴むと海に向かって投げた。
そのボトルはクルクルと回転しながら、海へボトンッと落ちる。
いつかこの手紙が、マコトに届きますように。
左手の指輪が太陽に反射し、眩しさに目を細め顔を上げた。
−−−−−−−−−−
マコトへ
元気か?人に手紙を書くなんて初めてだ。調査報告書ならクソほど得意だが、何を書いていいのか正直戸惑っている。
お前は冬が苦手だが、風邪引いてないか?しばらくは看病してやれないからくれぐれも身体は冷やすなよ。あと、変な男には気をつけろ。
それと誕生日の贈り物、ありがとな。悪くなかった。大事に使わせてもらう
肖像画だが・・・お前がくれた肖像画を試しにはめ込んでみたらハンジにからかわれた。が、いつもお前の顔が見れるから俺としては満足だ。
こちらこそ、どんな時も俺の隣にいてくれてありがとう。
こんな俺を受け入れて、愛してくれてありがとう。
あの時、残りの時間を俺に全部くれて感謝している。ありがとうを幾つ並べても足りやしねぇな。
手紙で書いててクソ恥ずかしいが、俺もお前の事を愛してる。それは、これからも変わらない。
次会ったら、速攻で結婚式挙げるから楽しみにしてろ。お前のウエディングドレス姿、俺も見たい。
じゃあ、またな。
リヴァイ・アッカーマンより
−−−−−−−−−−
満足そうな本当に珍しく口元に笑みを浮かべているリヴァイの顔をハンジは眺めると、
「ねぇ・・・リヴァイって、マコトのどこに惚れたの?」
突然の質問に、リヴァイはハンジを見る。
マコトに惚れた瞬間・・・
初めて会った、刃を交わしたあの夜の森の中。
あの目。
・・・あの時からリヴァイはもう惹かれていたのかもしれない。照れくさくなり、リヴァイは海に視線を戻すと
「・・・俺は、強い女が好みだからな」
「ぶはっ!お互い似たもん同士だね」
マコトも自分より強い男が好みだと言っていた。
ハンジはそれを聞いて満足したのか「よし!」と腰に手を当てたあと海の周りにあるものを拾い始めた。
「・・・おいハンジ、何してんだ」
「何って、壁外調査報告としてこのサラサラした砂とかこの変な白いヤツとか色々持ち帰るんだよ!あー早く分析したい!ねぇ、もう帰ろ〜
じゃあリヴァイも手伝って!と言うと、仕方ない・・・とため息をつくと砂に手を突っ込んだ。
[ 98/106 ]