94:ゆびきり

「ええっと・・・まず・・・調査兵団は・・・ここに居る10人で全員、って事ですか?」

意識が戻ったアルミンがそう呟いた。




意識が戻ったアルミンをエレンが抱きしめ、リヴァイは信煙弾を撃ち上げる。その横にはマコトが居たが、何故か腕を掴まれている状態だった。

どうしてこうなったか分からないアルミンにエレンは説明する。

「シガンシナ区の壁の封鎖に成功。ライナーと獣ともう一人の敵は・・・逃亡したと思われる。・・・超大型巨人は捕らえることに成功。そして・・・瀕死の僕とエルヴィン団長、どちらに注射を向かうか・・・揉めた後、僕が・・・巨人になってベルトルトを、食った・・・」

そう言い切るとアルミンは嘔吐感に襲われ水を飲む。

「どうして、僕なんですか?誰だどう考えたって、エルヴィン団長を生き返らせるべきじゃないですか!?兵長!どうして僕に打ったんですか!?」
「チッ・・・ありのままに話と言っただろうが」

そう言うと座っていたエレンの腰をゴッと蹴り飛ばした。

「少なくとも・・・お前の仲良し二人はそう思わなかったようだぞ?俺とマコトに抵抗し、刃傷沙汰に及ぶとはな。」
「えっ・・・」
「俺たちは、どんな罰でも受けます。」
「当然、兵規違反の罰は受けてもらうが・・・罰さえ受ければ何してもいいのかい?」
「・・・いいえ」
「だがな・・・最終的に俺を選んだのはお前だ。いや・・・俺の私情で、エルヴィンの死に場所をここに決めちまったんだ。」


アルミンはまだ納得いかないようだ。
団長が居ないこの先、どうしたらいいのか・・・アルミンは俯いた。



「私も、エルヴィンに打つべきだと思ったよ。しかし、エルヴィンが注射を託したのはリヴァイであり、そのリヴァイは君を選んだ。 それならもう、何も言うまい。 隠して君には、エルヴィンの命と巨人の力が託された。 誰になんと言われようと、君はもうそういう存在だ。・・・より一層の人類への貢献に期待するよ。アルミン」

エルヴィン団長の代わり・・・その重さにアルミンの顔色はより一層悪くなった。

必死にアルミンに注射を打たせて蘇らせて欲しいとあれだけマコトとリヴァイに抵抗した。
しかしその結果、アルミンにそのようなプレッシャーを与えてしまったエレンとミカサはやはり、アルミンはあのままの方が良かったのではと俯いた瞬間

「勘違いするな。お前にエルヴィンの代わりにはなれねぇ。だが・・・お前はお前で人にない力を持っている事も確かだ。・・・・・・いいか?誰も、後悔させるな。俺も、こいつらも。誰も──」

リヴァイはエレンとミカサの頭をガシッと掴むとアルミンを見つめて

「そして、お前自身も、後悔させるな。それが、お前の使命だ。」

「うぅ・・・うるさい・・・」

アルミンの隣で寝ていたサシャがそう呻いた。
全員呆気に取られてサシャを見つめると、最初に吹き出したのはハンジだった。

「ハハハ、サシャには敵わないな。・・・まあ、私もエルヴィンの後任の調査兵団団長になった。君と似たような立場だ・・・こうなればお互い、腹を括るしかない。」

そう言うとはアルミンは返事をして俯いた。
かれこれトータルで4時間は経ってるが生存者は見つからない状態。


「あとは、マコトだね・・・」

リヴァイは先程からエレンとミカサの頭を掴んだ以外は、マコトの手を掴んだままなのだ。

どうかしたのだろうか?と104期の調査兵はマコトを見つめると

「マコトが、もう・・・そろそろなんだ」

そう言うと全員は驚いてマコトを見つめて、リヴァイもマコトの手をぐっと握る。

「そろそろ、着替えた方が良さそうだね。」

マコトはそう言うと背嚢から迷彩の制服と半長靴を取り出した。久しぶりに触ったその制服をグッと握ると立ち上がりリヴァイとハンジを見ると

「エルヴィン団長に・・・ご挨拶してもいいですか?」

そう言うと2人は頷いてマコトは微笑むとエルヴィンが寝かせられている家屋へと向かった。



ギギ・・・と軋むドアを開けると、ベッドで仰向けになりマントで顔を隠されたエルヴィンの姿。

マコトはブーツを鳴らしながらその傍らに立つと、そっとマントを外した。


青白くなった血色のないエルヴィンの姿は、別人のようだ。それをマコトは見下ろすと一歩下がり胸に手を置き敬礼をした。

「・・・エルヴィン団長、いえ。エルヴィンさん。 3年と少しの間お世話になりました。 あの時皆に見つけられてなかったら・・・正直どうなっていたか分からないです。 私に居場所を与えてくれてありがとうございます。私の特技を最大限に引き出してくれるエルヴィンさんみたいな上司は・・・もうこの先現れないかもしれません。 本当にありがとうございます。・・・今は、ゆっくり休んでください。またいつか、会いましょう」

涙に負けては喋れなくなる・・・マコトは思いの淵を一気に出す。


その声掛けにエルヴィンはもちろん答えないが、マコトは頭を下げて腰を下ろすとそっとマントを被せ直す。

よし、とマコトは立ち上がると別室で制服に着替えようとドアを閉めて制服に手を掛けた。

久しぶりに袖を通す制服とズボン。どうやら体型は変わっていなかったらしくマコトはほっと息を吐く。


半長靴の靴紐を結び、家屋を出るとリヴァイが壁に凭れて待っていた。

「リヴァイさん・・・」
「お前が立体機動外すと思ってな。・・・どうやって上がるんだよ」
「あ・・・忘れてた」

リヴァイはフッと笑うとマコトの腰に腕を回してアンカーを伸ばすと地面を蹴った。
家出をした時、リヴァイが迎えに来てこうして抱えて飛んでくれたのを思い出すとマコトはリヴァイにしがみつく。

リヴァイは一旦壁にぶら下がるとマコトを見下ろして、

「・・・おいマコト。また俺の首を絞める気か?」
「ふふ、あの時を思い出しちゃってつい」

リヴァイも覚えていたのだろう。特に怒ることは無くむしろ抱き寄せるとそのまま上へと上がって行った。

制服を荷台の箱の中にしまい込んでいると、複数の足音が聞こえ振り向くと、


「マコトさん・・・」


振り向くと、そこにはエレン、ミカサ、アルミン、ジャン、コニー、ハンジが立っていた。

エレンは涙を溜めると

「本当に、お別れなんですか?」
「・・・うん。みんな、ありがとう。」
「俺達こそっ・・・本当に、ありがとうございます!」

涙を流しながら全員が頭を下げて、負傷したサシャは寝ながら何かを呻いている。


マコトは全員と抱き合いながら、ひとりずつに挨拶をする。

「エレン、泣き虫はそろそろ卒業しなね」
「うう・・・はいっ・・・」
「ミカサ、エレンをよろしくね」
「はい、もちろんです・・・」
「アルミン、貴方の頭脳がこれから必要だから。モブリットさんの代わりにハンジさんを頼むよ。」
「はは、僕で大丈夫ですかね・・・」
「ジャン、お母さん大事にしなよ?」
「は、はい!」
「コニー、貴方のお馬鹿さで何度も助けられたよ。」
「ははっ!マコトさんとは馬鹿なことやって、楽しかったです!」


マコトはハンジを見上げると思いっきり抱きついて、ハンジもギュッと抱きしめ返した。

「ハンジさん。いっぱいいっぱい。色んなことを教えてくれてありがとう。 助けてくれてありがとう。・・・大好き」
「私もだよマコト。こちらこそありがとう。君が居ない明日なんて考えられないけど・・・君の事、ずっと忘れない。大好きだよ」

ハンジは前のようにマコトの頬にキスをするとマコトもハンジの頬にキスをする。

「目、お大事にしてください」
「はは!両目でマコトの事を見たかったよ・・・」

ハンジは悲しそうに微笑んだ。

マコトは寝ているサシャの傍に座り頭を撫でるとサシャはマコトの手をこれでもかとギリギリ力を込めて掴むと

「うう・・・マコトさん・・・行っちゃダメですぅ・・・!」
「ごめんよサシャ・・・ありがとう。食べすぎでお腹壊さないようにね。サシャ、手が砕けちゃう」
「はいぃ・・・!ううぅ・・・!」

マコトは背嚢から自衛官の頃残していた肉の缶詰を、サシャの組まれた手の中に持たせた。

・・・そしてマコトは立ち上がると、最後にリヴァイの所へ向かった。


マコトはリヴァイに胸を当てて敬礼をする。

「リヴァイ兵長、私はここまでみたいです。今まで、お世話になりました。」
「・・・ああ。お前は、今まで・・・よくやってきた。おかげで、壁も・・・塞がって・・・」

そう言い切る前にリヴァイは俯き、ツカツカとこちらに向かって歩いてくるとマコトを強く抱きしめた。

息が出来ないほどの抱擁にマコトは涙が零れる。

「・・・マコト」
「リヴァイさん・・・少し、歩こう?」

マコトは涙を流しながらリヴァイの手を取った。









「いやぁ・・・綺麗ですねぇ・・・」
「なんで敬語だよ」

マコトは壁の縁に座り、脚をぶらぶらさせながらウォール・マリア壁上から見る夕焼けをリヴァイと眺めていた。

するとふわふわとしたものがマコトの目の前を横切ると「あっ」とマコトは呟く。

「・・・雪だ」
「今年は早めに冷えるみたいだからな」
「リヴァイさん、風邪ひかないようにね」
「はっ、お前もな」

ふわふわと舞い上がる雪に手を伸ばしながらマコトは笑う。




もうすぐ日が沈み、夜になる。

「リヴァイさん、夕日が落ちる前の30分間をマジックアワーっていって、めちゃくちゃ綺麗なんだよ!」

風になびく髪をマコトは抑えながらリヴァイにそう言った。そんなマコトを焼き付けたいとリヴァイも目を離さずに頷く。



ブラブラさせている脚は僅かだが透け始めているがマコトもリヴァイも見ないようにした。



「また、一緒に見れたらいいね」
「そうだな」
「あー・・・私も海、見たかったなぁ」
「お前の所はいくらでも見れるだろ?」
「そうだけど、私は皆が初めて海を見た時の反応が見たかった!」
「そんなの、また会ったら教えてやるよ」

リヴァイの前向きな言葉にマコトは笑う。

「そうだね。ね、リヴァイさん」

夕焼けから目を離してマコトを見ると、何故か小指を出してきた。

リヴァイは首を傾げてマコトを見ると

「指切り。 約束するときにやるの。」
「ほう」
「嘘ついたら針千本飲ますって歌もあるんだけど」
「拷問じゃねぇか」

思わずそう突っ込むとマコトは「ほんとそれ」と呟きながら笑う。

「指切りは、吉原の遊女・・・あ、ここで言う娼館みたいな場所ね。客への変わらぬ愛を証明するために小指を切り落としでそれを贈ったんだって」
「・・・お前の国は物騒だな。小指送り付けるのか」
「いえ、模造品だったり死体の小指を贈ったりしたみたい」
「それでも怖ぇぞ」
「まあ、確かに」

こんな状況なのに、いつものような他愛のない会話。リヴァイは目を細め僅かに微笑むと小指を出してマコトと同じように絡ませた。


小指から伝わる体温に、マコトは嬉しそうに指を上下に振ると

「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます!指切った!」

そう歌いきるとマコトはリヴァイを見て泣きながら笑った。そんな顔をされてしまえば、こちらも・・・ツンと鼻が痛くなった。

「・・・待ってるよ」
「ああ、待ってろ。迎えに行く」

小指は絡ませたまま、頬に手を添えて引き寄せるとお互いの唇の形や温度を忘れないように、最後の口付けを交わす。

唇を離すと、マコトはにっこり笑い目を閉じる。

・・・マジックアワーが終わり、太陽が沈みきり暗くなったと同時にマコトの身体はフェードアウトするかのようにマコトは姿を消した。


それを遠くから見ていたハンジ達も、本当に帰ってしまった・・・と唇を噛んで下を俯く。


「っ、マコト・・・」


リヴァイは先程まであった温もりを噛み締めるように拳を握り下を向くと、鼻筋を通り涙が落ちる。

その涙は50m下の地面へと向かってキラキラと落ちて雪とともに風に乗る。




「・・・またな」




リヴァイは上を見上げると、いつしか2人で見た・・・満月ではなかったが、繊月が顔を出していた。




850年
調査兵団は100名のうち、マコトを含めた10名が無事に生き残りウォール・マリアを奪還できた。














ピッ

ピッ

ピッ




「・・・ん」


規則的になる電子音。


マコトは目が覚めると、そこは病室だった。
口には呼吸器が付けられており、身体中に激痛が走り思わず呻いてしまった。

すると、覗き込むように現れたのは同じ部隊の仲間でマコトを見ると泣きそうな顔で

「マコトさん!起きました?!分かります?!」
「おい松山うるさい!病院だぞ!」
「マカべ3曹、分かるか。」

マカべ3曹・・・久しぶりに聞いた気がする。

「はい・・・分かりますが・・・全身がめちゃくちゃ痛いです」
「覚えてないのか?あの時雷が目の前で落ちて、山道から転がり落ちて死んだと思ったらギリギリ生きてたんだ。とっさに首を守ってたらしくてな、脚の骨折やら肋骨の骨折やら。・・・まあ、首の骨が折れなくてよかった」

隊長の言葉にマコトは納得すると、思わず涙が出た。

隊員がそれを見ると全員慌て始め

「そ、そんな痛い?!」
「そりゃそうでしょ骨折れまくってんですから!ねぇマコトさん!」
「いや・・・なんか、凄い長い夢を見たって言うか・・・久しぶりに日本語聞いたわ・・・」

そう言うと隊長は

「脳のMRI撮ってもらうか・・・?」

と真剣に聞いてきた。





数日後、呼吸器も外れマコトは身体中を固定されての暇な生活だった。

医者がもう移動させても大丈夫でしょう・・・と許可が降りると運ばれてきた病院から、駐屯地内の病院へと移されたマコト。

その間、長い間見ていた夢は何だったのだろうと記憶を遡ってみた。


誰か大切な人が居たような・・・その顔と声をを思い出そうにも、もやが掛かってしまい思い出すのは困難だ。

とても長い時間どこかに居た、それは楽しくも悲しくも残酷だったのは覚えているのに思い出すほど頭痛がする。


ふと、左手の薬指が気になってみつめたが特に変化はなく普通の指だ。

マコトはまた、目を閉じて眠りにつく事にした。


「(そう言えば、あの女の人の夢・・・見なくなったな)」


そんな事を考えながら。




壁の世界編 END

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