91:青の信煙弾

時は、数時間前に遡る。

作戦開始前──

『マコト』
『はい』

アルミンが作戦を伝えにハンジの元へ行きついて行こうとすると、エルヴィンがマコトを引き止めて耳元で囁いた。

『君に頼みがある。これは、君が仮に生きていたら≠フ話になってしまうが・・・私は君に合図をする。 マコト、好きな色は?』
『え・・・青です』
『分かった。じゃあ、青色の信煙弾が見えたら・・・見えたらでいい。壁の上に来なさい・・・君のタイミングでいい。頃合いを見て─』



獣の巨人を倒す、リヴァイの援護をしてくれないか?



マコトは飛びながら、ガスのボンベを叩いた。ガスはまだある。

「間に合って・・・!」

崩れる家屋を掻い潜りながら壁へと向かった。




区外にて──

エルヴィンはこれからの作戦をリヴァイに指示すると突然、青色の信煙弾を撃ち上げた。

そんなエルヴィンを見て、リヴァイは眉をしかめた。

「・・・おいエルヴィン、いきなりそんなもん撃ち上げてどうした。その色は作戦にない色だ。頭でもおかしくなったか?」
「いいや・・・正常だよ。リヴァイ、刃とガスの補給をしろ。」
「・・・ああ」

エルヴィンは微笑むと、木箱から立ち上がり崩れ落ちている新兵達を見渡すと

「これより、最終作戦を告げる。総員、整列!!」

そう叫ぶと新兵達は整列を始めた。

エルヴィンは全員を見渡すと

「総員による騎馬突撃を、目標・・・獣の巨人に仕掛ける。当然、目標にとって格好の的だ。我々は目標の投石のタイミングを見て一斉に信煙弾を放ち、投石の命中率を少しでも下げる。我々が囮になる間に、リヴァイ兵士長が獣の巨人を討ち取る。・・・以上が作戦だ」

そう言い切ると、1人の女性兵が崩れ落ちて嘔吐し始めた。

騎馬突撃・・・死にに行くようなものだ。
さすがのフレンも顔面蒼白になってエルヴィンを見つめている。


「ここで突っ立っていても、時期に飛んでくる岩を浴びるだけだ。すぐさま準備に取り掛かれ。」

そう言い放つと、フロックが涙を貯めながらエルヴィンを見つめた。

「俺たちは・・・今から、死ぬんですか?」
「そうだ」
「どうせ死ぬなら、最後に戦って・・・死ねということですか?」
「そうだ」
「いや、どうせ死ぬなら・・・どうやって死のうと、命令に背いて死のうと、意味なんか、無いですよね?」
「全くその通りだ」

その言葉にフロックは息を詰まらせると

「全くもって無意味だ。どんなに夢や希望を持っていても、幸福な人生を送ることが出来たとしても、岩で身体を砕かれても同じだ。・・・人はいずれ死ぬ。 ならば、人生には意味が無いのか?そもそも、生まれてきた事に意味は無かったのか?・・・死んだ仲間もそうなのか?あの兵士たちも、無意味だったのか?」

エルヴィンは全員を睨みつけて息を大きく吸うと

「いや違う!あの兵士たちに意味を与えるのは我々だ!!あの勇敢な死者を、哀れな死者を想うことが出来るのは、生者である我々だ!!我々はここで死に、次の生者に意味を託す!!それこそ唯一、この残酷な世界に抗う術なのだ!!」

そう言い切ると、フレンはエルヴィンの前に立つ。
その顔は顔面蒼白で、ガチガチと歯がぶつかる音、唇も震えている。

「フレン・・・」
「エルヴィン団長、2年前の事・・・覚えていらっしゃいますか」
「ああ。覚えているよ。ここまでよく、私についてきてくれた。ありがとう。」

エルヴィンはそう言うと、フレンは頬に涙が伝い足を揃えると胸にドンッと拳をぶつけた。

「あの時の、マコト教官に言われたこと・・・今ここで宣言します。フレン・ラドクリフ!この最終作戦に、心臓を捧げます!!」

そう真っ直ぐ見つめるとエルヴィンは肩に手を置いて

「・・・ありがとう、フレン。」

そう言うと、フレンはリヴァイの所へ来て肩を掴んだ。その手は震えてグッとリヴァイの肩を痛いほど掴んだがリヴァイはフレンを見つめる。

「リヴァイ兵長・・・!俺の意思は、貴方に全て託します・・・こんな、責任押し付けちゃってすみません。でも、どうか・・・よろしくお願いします・・・!」
「あぁ・・・お前の意思は十分に受け取った。ありがとうな」

リヴァイは項垂れるフレンの頭をクシャリと撫でた。







「兵士よ怒れ!兵士よ叫べ!!兵士よ戦え!!!」

作戦開始になり、エルヴィン達は叫びながら3組に別れ突撃した。

リヴァイは立体機動でそれを見つめ、歯を食いしばる。若き兵士たちは、泣き叫びながらエルヴィンの後に続き、もうひとつの部隊でもフレンが新兵達を叫びながら率いている。

「・・・お前ら、すまない」

リヴァイは前を睨みつけると直立不動の巨人に向けてアンカーを刺すとブレードで切りつけた。





一方、マコトは壁にたどり着きアンカーを刺して壁上に辿り着いた。

「はぁ、はぁっ・・・」

全速で駆け抜けたので白かったズボンは傷口により赤く染まり、腕も激痛が走り、手足が震えてきた。

遠くにはエレンがぐったりしており、マコトは力を入れて壁によじ登り立ち上がると驚いて途中で動きが止まった。

獣の巨人に向かって3つの部隊が叫びながら信煙弾を前方に撃って視界を撹乱している。

「あんな事したら、死にに行ってるようなものじゃん・・・!」

エルヴィンはなんという作戦をしているんだ。

マコトは急いで立ち上がると壁上に置かれた・・・エルヴィンがマコトのために置いていった小銃入った長細い革のトランクケースを開け、急いで脚を立てながら、エルヴィンの会話を思い出していた。



−−−−

『リヴァイ兵長の援護・・・ですか?』
『ああ。タイミングを見て我々はリヴァイを獣の巨人の所まで行かせ、討ち取らせる。タイミングは君の判断に任せる。女型の巨人同様、少しの間でいい。視界を塞いでほしい。』

−−−



その時間は、持って1分ほど・・・マコトは「ア タ レ」と書かれたセレクターを「タ」の単発モードに切り替える。

ふぅ、と息を吐いてマコトはうつ伏せになりスコープを覗き込むが、しかし・・・


「み・・・・・・見えん」

信煙弾の煙で、標的となる獣の巨人が見えないのだ。

どうする・・・マコトは1度起き上がり中腰の姿勢でどのような状況になっても対応できるように切り替えた。

スコープで左側を見ると、リヴァイが巨人を利用しながら獣の巨人に近づいている。

リヴァイが生きていた。それだけでマコトは涙が出るほど嬉しかったが今は喜んでいる場合ではなく、リヴァイの補助をしなければならない。


リヴァイが近づくまでに、獣の巨人の視界を奪わなければエルヴィン達が捨て身になった意味が無くなる。

もう少しだけ近づけれれば・・・この距離でスコープでもかなり限界がある。
しかしスコープを覗いた状態で下に降りてしまうと視界が塞がり飛んでくる岩をもろに食らってしまう・・・それではエルヴィンが自分を呼んだ意味が無くなる。

マコトは倍率を限界まで引き上げるともう、あとは自分の技術だけすると思ったが泣き叫びながら獣の巨人に突進していく新兵たちを見て

「いや、なに安牌なこと言ってんだ」

立ち上がるとマコトはアンカーを使って壁から降りると、残った家屋のギリギリまで近づいた。

団長や新兵たちが捨て身で突進し、リヴァイも単身で命を懸けている。ここで怖気づいてどうする。

マコトは小銃を構えると、左の視界ではリヴァイがもう半分近くまで近づいている。

スコープを覗くと、相変わらず緑の煙で見えない視界・・・いつか、どこかのタイミングで捉えられるはずだ。せめて片目だけでも・・・マコト煙の中に見える影にひたすら照準を合わせていると、獣の巨人はアンダースローの投球フォームで石の破片を投げた。

煙を掻き分けて飛んでくる石とともに叫び声が聞こえマコトは眉を寄せる。

早く、早く

マコトの頬に汗か、血か・・・分からないものが伝っていく。



そしてついにその隙が現れた。

煙が収まった頃、僅かだが獣の巨人の赤く光る目が見えた。


そこに照準を合わせると、マコトは迷わず引き金を引いた。


リヴァイは巨人を伝いながら獣の巨人に近づいていた。あと2体・・・その瞬間、聞き覚えのある銃声とともに獣の巨人が仰け反った。

「ガアアアッ!」

片目から出血、リヴァイは遠くを見るが一瞬では確認できなかった・・・しかしこの攻撃をする人間は1人しかない。

マコトは生きている。

「(マコト、よくやった)」

エルヴィンが上げた信煙弾の相手はマコトだった。
獣の巨人が気づいた頃には既に遅くそのままリヴァイはアンカーを出すと煙を薙ぎ払って獣の巨人に斬りかかった。

片目で距離感を掴めない獣の巨人はリヴァイに手を伸ばすがリヴァイはアンカーを抜くと避けそのまま回転しながら腕を斬りつけ残った片目を、リヴァイがすれ違い様に切り裂く。

「グアアアッ!」

リヴァイとすれ違った獣の巨人、そのままうなじにアンカーを刺すと、獣の巨人はとっさにうなじを守る。が、

タンッ タンッ タンッ タンッ!

小刻み遠くから聞こえる銃声は、的確に獣の巨人の指を狙い、撃ち落としていく。

『(何ださっきからこの銃声は!一体どこから・・・!?)』

獣の巨人・・・ジークは見えない敵と突然現れた、ライナー達が警戒していたリヴァイ兵長に困惑していた。

「さっきは随分と楽しそうだったなァ!もっと楽しんでくれよ!」

リヴァイは地面に叩きつけられた獣の巨人はのうなじに向かって、硬質化されるまえに高く上がると全体重と渾身の力で左右のブレードを叩きつけると目にも止まらぬ速さで切りつけ、本体であるジークを引きずり出すことが出来た。


叫びながら出てきたジークの口にブレードを突っ込むと

「巨人化直後、身体を激しく損傷し─回復に手一杯なうちは巨人化出来ない─・・・そうだったよな?」

ジークはリヴァイを見あげなが震えているがグッと力を加えるとブレードはそのままジークの口の中を貫通した。

「・・・おい、返事しろよ。失礼な奴だな。」

まだ、この獣の巨人は殺せない。
誰かあの中で生存者がいればその兵士に注射を打たせすぐに獣の巨人を食らわせれば・・・この力を奪うことが出来る。

「(誰か、生きてるやつは居ねぇのか?瀕死でもいい・・・)」

タァン!

マコトの撃つ銃声にリヴァイはハッと顔を上げた瞬間、すぐ目の前に大きく口を開いた四足歩行の巨人がリヴァイに襲いかかろうとしていた。

直ぐにリヴァイは避けるが四足歩行の巨人はジークを咥えると撤退をし始めた。

それを追いかけるように、マコトは銃を撃っているがそれを掻い潜りながら壁の方へ向かっている。

「おい、どこに行く、止まれ・・・」

リヴァイは立ち上がると怒りに手が震え、刃こぼれしたブレードの刃をカランッと落とした。



「待てよ、俺は、アイツに誓ったんだ・・・必ず、お前を殺すと・・・誓った!」

リヴァイは怒りに叫ぶと後ろから襲いかかる巨人にアンカーを刺して切り裂いた。






「っくそ!!!!」

マコトは屋根に拳を叩きつけた。
手が折れるのではないかというくらいの激痛と血が流れる。

涙が零れた。

エルヴィンを失い、全員を犠牲にした。
間に合わなかった不甲斐なさと獣の巨人をとり逃した悔しさで涙が溢れる。

片目、手を的確に狙えた、リヴァイと獣の巨人を追い詰めれたはずなのに。

四足歩行の巨人は走りながら壁へと向かっていく。一方でリヴァイは、残り襲いかかってきている巨人を倒している最中・・・

ブルルルッ

ふと後ろを見ると、二頭の馬がいた。
マコトは小銃を身体に掛けると屋根から駆け下りて馬を落ち着かせると馬に乗り一頭は手綱を持つとリヴァイの所へ近づく。

「リヴァイさんっ!!」

喉が痛くなるくらい叫ぶとマコトは馬を放った。
それに気づいたリヴァイは走って馬に近づくのを確認すると、マコトは方向転換して壁へと向かった。


刺し違えてでもあの獣の巨人を倒す。

馬の腹を蹴るとマコトは最大までのスピードを出して壁に近づく。

きっとこれが、最後の力だろう。マコトは目を閉じた。

「(ノアさん、お願い・・・!)」

頭痛と共にマコトはアンカーを出すと一気に壁をかけ登る。視界に映るのは戦闘不能になった超大型巨人、そしてベルトルトを人質にしたエレンと話すジークの姿。

マコトは目眩がする中、建物にアンカーを打ち込むとブレードを抜いて四足歩行の巨人を狙った。

あいつさえ仕留めれれば・・・暫くはここから逃げれないはず。


マコトはブレードを振り下ろしロックを外すとブーメランのように刃を投げた。

ブレードは四足歩行の巨人に刺さり

「ギャアアァ!」
「っピーク!・・・その銃、撃ってたのはこの女!?」

獣の巨人である男、ジークはそう叫ぶ。
四足歩行の巨人の、つんざくような悲鳴が響き渡りマコトは壁にアンカーを刺したままジーク達を睨みつけると

「ちょっと待ちなさいよ、あんた達・・・せっかく来たお客様だ。 美味しい紅茶用意するから、もうちょっとゆっくりして行きなさいよ」
「さっきのリヴァイといいこの女といい・・・化け物か?!」

すると今度は上からリヴァイが追いついた。2人が揃ってしまい、ジークはぞっとする。

「オイ!嘘だろ・・・!ここまで追って来やがった!」

リヴァイは返り血を蒸発させながら壁を滑るように落ちていくと、ジークは歯を食いしばる。

「・・・分かったよリヴァイ、痛み分けで手を打とう。 ・・・ベルトルト、悪いがお前は、ここまでらしい。 エレン、いつかお前を救い出してやるからな!」

そう言うとジークは負傷したピークと共に逃げていく。

「待てよ、あんたら・・・」

指の力が抜けてアンカーが抜け落ちる。
そのままだと、数十メートル先の地面に叩きつけられてしまう・・・

頭がガンガンして、吐きそうだ。おまけに力が入らない。


マコトは瞼が重くなり、そのまま目を閉じると地面へ向かって落下していった。


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