「っ!」
マコトは意識が戻った。
ここは、シガンシナ区に来る途中で見た場所と同じ川・・・
全部灰色で出来た不気味な場所だ。
相変わらず、ペトラ達は1人分のスペースを空けてこちらを見つめていた。
「私・・・死んだ?」
今いるメンバーは、もう既に亡くなった兵士たち。
まさか、とマコトは首を振るが意識が無くなる前の記憶を思い出すと確かにあれで生き残れたとは思えない。
ここは、三途の川か。
察したマコトははは、と笑うと俯く。
「そっか・・・リヴァイさん、ごめんなさい」
後ほどなんて言っておいて、もう二度と会えないではないか。ここに来た頃、死んだら元の世界に戻れるかもしれないなんて考えていたが・・・ここは普通に死後の世界ではないか。
この間のような駐屯地の夢ではない。
マコトは悟って、足を踏み入れると突然押し寄せるように沢山の兵士がやってきた。
満員電車のように沢山の人間が身体を当てながら川へと向かうと同時に沢山の無人の船がこちらにやって来て兵士を乗せて川の向こうへと渡っていく。
「ディルクさん、マレーネさんクラースさん達まで・・・班のみんなも・・・」
先程自分たちが戦っていた区内側の兵士も混ざっている。
マコトはその人混みの中で、必死にリヴァイを探した。もしかしたら彼も・・・
「リヴァイさん、あなただけは・・・」
全員が乗り切った頃リヴァイは見つからなかったため、マコトは安心した。
「良かった、リヴァイさんは生きてる・・・」
それだけ確認出来たのなら・・・とマコトはペトラ達の所へ向かった。
相変わらず真顔で不気味だが、ペトラやナナバの所へ向かうと
後ろから、肩を掴まれた。
振り向くと、そこにはモブリットが立っていた。
「モブリットさん・・・?」
「マコト」
モブリットが、口を開いた。
「この船は、君が乗る船じゃない」
そう言うとモブリットは揺れる船に足を踏み入れるが、マコトがその腕を掴んだ。
「モブリットさんまで・・・駄目だよ!モブリットさん、あなたっ・・・ウォール・マリアを奪還したら、ハンジさんに・・・伝える事があるんでしょ!?」
涙が流れた。
こんな別れは、ハンジとモブリットのこんな別れは嫌だ。
必死に、グイグイとモブリットの兵団ジャケットを引っ張るがモブリットはびくともしない。
「いや、最後にハンジさんを守れてよかった・・・それに、君はここにいるべきじゃない。」
「マコト」
顔を上げると、ペトラがこちらを見ていた。
先程の真顔ではなくあの時見た穏やかな顔だ。
「約束、破ってごめんね。買い物行こうって」
「ペトラ・・・っほんとだよ、何であの時、みんなっ私とリヴァイさん置いて・・・でも、リヴァイさん皆の事良くやったって、エレンを守ってくれてありがとうって・・・感謝してた」
そう言うと、ペトラ、オルオ、グンタ、エルドは嬉しそうに笑った。
「その言葉を聞けただけで、俺たちは嬉しい。心臓を捧げた甲斐があったよ。」
「はっ、マコトよ・・・ひでぇ泣き面だなガッ」
船が揺れた拍子にリヴァイをリスペクトしていたオルオが舌を噛む。相変わらずなリヴァイ班にマコトは笑った。
ナナバとミケはマコトを見上げると
「マコト、諦めるな!」
「勝機は必ずある・・・もう時間が無い。マコト・・・元気でな」
「ナナバさん、ミケさんっ・・・」
大人気なく、ボロボロと鼻水を流しながらマコトはジャケットの袖でで拭いながら泣きじゃくる。
すると
「教官〜!マコト教官〜!!」
声が聞こえて川の向こうを見た。
川の向こう側には、トロスト区で散った訓練兵たち。
トーマス、ミリウス、ナック、ミーナ、フランツ、ハンナ、マルコ・・・
「みんな・・・」
「マコト教官!お世話になりました!」
「マコト教官!ありがとー!」
「俺たち、ずーーーっと、皆のこと見守ってるから!こっち@ちゃだめですよ!!絶対ですよ!!」
フランツとハンナは相変わらず寄り添いながらイチャイチャして、みんな相変わらず、ワイワイしているそうだ。
それを見て安心したマコトは涙を拭うと、全員に胸を当てて敬礼をした。
「私、戻ります!」
そう言うと全員は頷きマコトは船に手をかけて押すと桟橋を駆け抜け、手を離した。
船はどんどん、向こう側の川岸へ行く。
「さようなら」
ペトラ達は微笑みながらマコトを見つめ、マコトも笑い返すと背中を向け走り出した。
***
「っ!」
マコトは起き上がると同時に身体中激痛に襲われた。
「っ
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っててて!!」
情けない声を出しながらマコトが起きたのは、ベッドの上だ。
ここは住民の家の寝室らしく、屋根はえぐれており部屋は荒れ果てマコトは幸いにも吹き飛ばされた後この家主のベッドに叩きつけられたらしい。
そのベッドもマコトの衝撃で半分に割れてしまいベッドでは無くなってしまっている・・・
「ぐっ・・・」
自分の身体を見ると、両太腿、両腕の裂傷・・・それに先程から頭に流れる暖かいもの・・・触ると血だった。
痛む身体に鞭を打って立ち上がると、どうやら立体機動は無事らしくガスを吹かせるとシューッと吹き出しガス漏れも無かった。
雷槍は両方装備したはずだが爆撃で駄目になった。手を離しておいたお陰か・・・持っていたら両手が吹き飛んでいたかもしれない。運良く上手くトリガーから外れてたらしく柄も壊れていない。
立体機動の最終チェックした後、マコトはえぐれた家から様子を見た。
超大型巨人が、街を燃やしに掛かっている。
そしてエレンは壁の上に飛ばされひっくり返っている。
「一体何がどうなって・・・ハンジさん、モブ・・・」
そうだ、モブリットはもう居ないのだ。
マコトは再び泣きそうになったがシーツを掴んでビリッと破ると鏡を見て自分の頭に布を巻き付け圧迫させた。
じわりとシーツに血が拡がるが、そのうち止まるだろう。
アンカーを使って家から飛び降りるとまずは生存者を探した。
「誰か!誰か生きてるか!返事をして!」
声をはりあげ炎の中街を歩くと
「マコト・・・マコト!」
通り過ぎた井戸から、聞き覚えのある声が聞こえた。
マコトは駆け寄って覗き込むと、そこには
「ハンジさんっ・・・!!」
ハンジはアンカーを使って井戸から出てきた。
「はぁ、はぁ・・・危なかった・・・」
それと同時に、地面にぽたぽたと血が落ちる。
マコトは慌てて四つん這いになってるハンジを起こすと
「ハンジさん!目・・・」
ゴーグルの破片が目に入ったのだろう。ハンジの目は潰れてしまい血が流れていた。
マコトは震える手でハンジのゴーグルを外す。
「マコトこそ、怪我してんじゃん・・・。モブリットが・・・私とマコトを最後に押したんだ。」
「モブリットさん・・・」
「・・・マコト、感傷に浸ってる場合じゃない。いってて・・・」
「待っててください!」
マコトはまた家に戻りシーツごと持ってくるとビリッとブレードで切り、ハンジの目から頭部にグルグルと巻き付けた。
「ご、ごめんなさ、ハンジさ・・・私・・・」
「マコト、落ち着くんだ」
そう言うとハンジはマコトを抱きしめた。
「無事でよかった」
「ハンジさんもっ・・・無事で・・・ふぇ・・・」
「泣くな泣くな!ほらほら!急ぐぞ!」
泣きながら手を引くハンジだったが、立ち止まった。
マコトは何だ?と見るとそこには・・・
「モブリット・・・」
そこには、爆発で損傷してしまった変わり果てたモブリットの姿。
開いた目には光がなくどこを見ているか分からない。
「モブリット、ウォール・マリアを奪還したら・・・言いたかったことって、なんだよ・・・」
ハンジは、モブリットの傷だらけの頬を撫でる。
初めて、モブリットの頬に触れたハンジ・・・その温かさはもう無い。
ハンジは愛おしそうにそれを撫でると
「死んだ後って、まだ意識があるんだろ? モブリット、期待してて良かったのか?私は・・・私は、モブリット、君の事が大好きだ。君は、どうなんだ?」
ハンジの告白に、モブリットは返事をしない。
片目から零れる涙をハンジは拭うとモブリットを仰向けにさせてやった。
開いていた目をそっと閉じてやると穏やかな寝顔にも見える。
「モブリット、ありがとう。お前が助けてくれたこの命・・・お前の分まで、私は精一杯生きるよ。見てて。」
そういうと、ハンジはそっとモブリットの頭を撫でた。
超大型巨人はとめどなくこのシガンシナ区を破壊し続けている。
すると、区外から1つの信煙弾が打ち上がった。
その色は青・・・
作戦開始前、エルヴィンに耳打ちされた作戦を思い出す。
マコト、好きな色は?
え・・・青です
分かった。じゃあ、青色の信煙弾が見えたら・・・見えたらでいい。壁の上に来なさい。そこに・・・
「ハンジさん、あれ・・・」
ハンジは安全な家屋にモブリットを避難させていると顔を上げた。
作戦の事は、ハンジには伝えてある。
ハンジはそれを見ると。
「マコト、すぐに行くんだ。私はアルミン達と合流する。終わったら、すぐに戻ってきなさい!」
「了解です!」
ハンジとマコトは立ち上がり立体機動で移動する。
お互いの分岐点にやってきた。
「マコト、反撃開始だ!」
「はい!やってやりましょう!」
そう言うと、ハンジとマコトは手をパンッ!とハイタッチするとハンジはアルミンの所へ、マコトは壁の上を目指した。
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