ベルトルトは樽から飛び出すと立体機動装置を使って項垂れているライナーの背中へ着地した。
てっきり上空で巨人化するのかと思いきや、拍子抜けしてしまい全員が立ち止まりかけたがマコトはジャンたちを見ると
「油断はするな!距離をおけ!」
「は、はい!」
100m以上の距離を開き、全員は様子を伺う。
どうやら、ベルトルトはライナーの様子に気づき攻撃を中断したらしい。
ふぅ・・・とマコトの隣で安堵の息を漏らすハンジ、そしてマコトは周囲を見渡すとふとアルミンが目に入った。
アルミンはずっと、ベルトルトを見つめている。
ストヘス区のアニ捕獲の時、アルミンは一度交渉しようとした。そして今回ライナーの時は交渉しようにも、その余地がなかった。
そして今ベルトルトの時も・・・やはり一度話し合おうとしているのだろうか。
「何にせよ、我々の作戦目標が目の前に飛び込んできたんだ。好都合だと言っていいだろう。」
ハンジはベルトルトと交戦するつもりだ。
時間はあと1分ほどしかない・・・交渉させるか、させないか・・・マコトはどちらかを選択するか悩んだが・・・
「アルミン」
「っ、はい!」
突然声を掛けられたアルミンはパッとマコトを振り向いた。
ここの指揮権は主にハンジだが、マコトやアルミンにもその指揮権が委ねられている。
誰かお願いだ。誰か僕らを、見つけてくれ・・・!
エレンとマコトを誘拐した、壁外で見せたベルトルトの涙。温厚なベルトルトなら、アルミンの話を聞いてくれるかもしれない・・・
マコトは屋根から滑らないようにアルミンに近づき肩がぶつかる距離までたどり着くと
「・・・交渉、する?」
そのマコトの言葉にアルミンは驚く。
「時間はないよ、ハンジさんが合図を出したら機会がなくなる。ほら、選んで」
「僕は・・・」
「目標、前方より接近!ベルトルトです!」
モブリットの声がして、ハンジが柄を握り直すと
「作戦は以下の通り、リヴァイ班はマコトとアルミンの指揮の下エレンを守れ!その他の者は、全員で目標2体を仕留める!巨人にトドメを刺せ!超大型巨人は作戦通り!!力を使って消耗させろ!!」
屋根を蹴って、ハンジ達がベルトルトとライナーの所へ向かった。
「待ってください!」
マコトの隣にいたアルミンが動き出した。
「アルミン、何を?!」
「これが最後の・・・交渉のチャンスなんです!!」
は?とハンジは首を傾げるとマコトが隣にやってきた。
「すみませんハンジさん。今はアルミンに預けて貰えませんか?」
「・・・分かった。」
「状況によっては、私が中止させます」
そう言うと、マコトはアルミンを守れるようになるべく近くで待機することにした。
「ベルトルト!!話をしようっ!!」
アルミンが大きな声でそう叫ぶと
「話をしたら!!全員死んでくれるか!?」
そんな残酷な返答に、アルミンやマコト他の104期も固まった。
ベルトルトは無口でいつも全員の一歩後ろを下がっているような立場だった。
この間のように、アルミンは精神戦へ持ち込むのだろうか・・・マコトは何も語らずアルミンを見守った。
「僕達の要求はわずか2つ!エレンの引渡しと、壁中人類の死滅!!これが嘘偽りのない現実だアルミン!もう全ては決まった事だ!!」
「だ、誰が・・・誰がそんなことを決めた!?」
「・・・だ」
「何だって!?」
少し気弱になったベルトルトの隙を見てアルミンが追い打ちをかけるように怒鳴ったがベルトルトせそれを振り切ると
「僕が決めた!!君たちの人生はここで終わりだ!!」
「それは残念だよ!僕はもう!!アニの悲鳴は聞きたくなかったっていうのに!アニを残虐非道な憲兵から解放させてあげれるのは、もう君しかいなかったんだよ!?このままじゃ、アニは家畜のエサに──」
「すればいい!」
そう言うと、ベルトルトはアルミンと距離を詰めたのですぐさまマコトが前に出る。
「ベルトルト、うちの部下に・・・近づかないで」
そっちがその気なら、こちらももう容赦はしない。
「もう、あなたは・・・私が知ってるベルトルトじゃないんだね」
「教官も・・・あの時、大人しくしておけばこうやって死なずに済んだのに・・・残念です」
「私も、あなた達と戦うことになって・・・心底残念だ」
教官!今日は晴れですよ!
へ?何で?
今日のベルトルトの寝相、窓から体半分が出てたんで!今日は晴れです!
ちょ、コニー!恥ずかしいよ!
あっははは!ベルトルト、窓から落ちないでよ?
訓練時代、ベルトルトの寝相で天気を占いそれをいつもみんなでいじっていた。
「・・・もう、あの日は戻りません」
自分には意思がない、そう言っていたベルトルトの目には強い意志が感じられた。
「アルミン・・・アニの話を出せば、また僕が取り乱すと思ったか?大人しくて気の弱いベルトルトなら、言いくるめて隙を作れると思ったのか? 僕の周りを兵士で囲い、別の兵士にライナーを殺しに行くための無駄話。 ・・・僕には分かる。そうやって震えているうちは、何も出来やしないって」
図星を突いていた。
ベルトルトはまたアルミン達の前に出て、あの日のように泣き言を繰り返し、許しを請うのではないのかと確認をしたかったのだ。
「・・・でも、もう大丈夫みたいだ。うん。君たちは大切な仲間だし、ちゃんと殺そうと思ってる。」
「それは、僕達が悪魔の末裔≠セから?」
「いいや、君たちは誰も悪くない。悪魔なんかじゃないよ。でも、全員死ななきゃいけない。もう、ダメなんだ」
その瞬間、マコトはブレードを抜くと
「アルミン、交渉は中止だよ!」
その瞬間ミカサが後ろからベルトルトに襲いかかりブレードを凪いだ。そのブレードはベルトルトの耳を切り落とし地面に落ちていく。
しかしベルトルトは長身を生かした蹴りでミカサを蹴り飛ばしミカサは吹き飛ばされた。
「ミカサ!くそっ」
マコトは目を閉じて意識を集中させると、ミカサに続いてベルトルトに斬り掛かる。
フェンシングのような目にも止まらぬ斬撃でベルトルトは防御するしかなく、マコトは怯んだ隙に腹に1発、蹴りを入れると飛ばされるベルトルト。
屋根から落ちかけたミカサが今度はブレードの刃を投げてベルトルトを狙ったが避けられた。
ミカサはとっさにアルミンを連れて逃げたのを確認すると、マコトはガクンと膝の力が抜けた。
エヴァンスの能力は消耗が激しくマコトはくそっ、と言いながら一瞬めまいがした。
あれだけ訓練してもこの消耗じゃ持ちそうにもない。リヴァイの言った通り、使い所選ばないとこちらが危険だ。
「マコトさん!?」
「大丈夫!」
遠くを見ると、ベルトルトははるか向こうにいる。が、高度を高くして行くのが霞んだ視界に見えると急いでミカサ達に向かって手を伸ばすと背中を押した。
「みんな!早く逃げろ!エレンを連れて、物陰に伏せて!」
「え・・・」
ミカサやアルミンが振り向き上を見て目を見開く。
マコトは急いでハンジとモブリットを探すとライナーの所へ向かっていた。
「(まずい、ハンジさん達を失ったら・・・戦力が一気に落ちる)」
マコトは頭を振るとブレードを杖にして立ち上がり、屋根を蹴った。
「マコトさん!?」
「後で追いつく!先に逃げなさい! ハンジさん!モブリットさんっ・・・逃げて!!!!」
声がひっくり返り、喉が痛くなるほど叫びながらハンジの元へ向かう。
そこからマコトはがむしゃらになった。
マコトが追いつき、ハンジとモブリットのフードを掴むとアンカーを逆方向、最長30mを一気に射出させると、一気に巻きとった。
驚いた2人、ハンジはマコトを見つめ・・・モブリットはベルトルトの行動に気づいた瞬間
「マコト、ハンジさん!逃──」
最後のモブリットの声が途切れ他と同時にマコトの視界にはいっぱいの光。
マコトはそれを見ると
ああ、これはまずい・・・
衝撃と同時にハンジとモブリットから身体が離れてしまい、爆発に備えようとマコトは反射的に親指を耳に突っ込み、残った手で目元を覆うと身体を小さくさせた。
昔、曽祖父が行った戦争で爆発の時はこうしないと目玉が飛び出すんだよ・・・と耳と目を塞いで実演してくれたのを思い出した。
果たして、効果はあるか分からないが訓練でも似たような事をした。
しかし、その閉じた視界でも光が漏れてやがて意識が飛んだ。
*
大きな爆発と共に起きたキノコ雲。
何とかエレンに捕まって爆風を凌ぐことが出来たジャン、コニー、サシャ。
「っゲホッ!お前ら!生きてるか!!?」
「分かんねえよ!!お前は!?」
「な、何とか!ゴホッ!」
すると、ミカサとアルミンもマコトの言われた通り距離を置いて物陰に伏せていた事で巻き込まれずに済んだ。
「無事かお前ら!?」
「大丈夫」
「ハンジ班は!? マコトさんは・・・どこだよ!?」
「私達の背中を押してハンジさんとモブリットさんの所へ・・・」
「うそ、だろ・・・おい、マジかよ・・・」
「マコトさんまで・・・?」
「まさか、生き残ったのは・・・俺たちだけか?」
目の前には超大型巨人が起き上がってシガンシナ区を見下ろしていた。
***
区外──
音がなくても分かった、背後から光った強い光に思わずリヴァイも全員も振り向くと壁の上からキノコ雲の頭が見えた。
同時に襲われる轟音と地響きに、足元の屋根も大きく揺れ倒れないように膝に力を入れた。
「くそっ、次はなんだよ・・・アイツらはどうなった?」
それでも真っ先に浮かぶのはマコトの顔。
別れ際に後ほど、と笑いかけた笑顔が脳裏をちらつく。
相変わらず、獣の巨人は動かないままあの位置で鎮座している。
「奴らはあそこに鎮座したまま、動きそうにないぞ」
「あぁ・・・どうにも臆病なんだろうな。そもそもタマが付いてねぇって話だ」
「とりあえず、小せぇのを全部片付ける!フレンも刃を交換したらすぐに来い!」
「了解!」
ディルクは他の部下を従えて残りの小型の巨人へ向かった。フレンもリヴァイを見ると
「リヴァイ兵長は休んでてください」
「・・・ああ」
フレンはそう言ってブレードを交換し始める。
そしてもう一度、マコト達のいる壁を見た瞬間だ。
目の前に小さな石が浮いている。
一瞬、何だ?と思ったリヴァイは前を見た。
「フレン!」
「っ、リヴァイ兵長!危ない!」
するとフレンは長身を生かしてリヴァイを守るように壁になった。
フレンの隙間から家屋が吹き飛ばされ仲間の兵士がバラバラに砕かれ、血飛沫で住宅街が赤く染った。
その光景にリヴァイは目を見開いた。
しばらくして収まると、ぽたぽたと血が流れ落ちてきて恐る恐るリヴァイは見上げた。
「フレン、お前・・・」
「うっ、はは、俺は・・・平気です!」
幸いこちらには小さな破片しか飛んでこなかったがフレンは頬や頭部を切ったらしく血を流している。
すると上からエルヴィンの声が聞こえた。
「前方より砲撃!!総員、物陰に伏せろォ!」
「クソッ・・・お前らァ!」
リヴァイは地獄絵図のような状況で仲間の安否を確かめに行こうとするが、獣の巨人のモーションを見た瞬間フレンを引っ張り建物の隙間へと引っ込んだ。
引っ込んだ瞬間、ドドドド!と石が砲撃のような轟音を立てて建物を壊していく。
・・・このままでは、全ての家屋が壊され更地にされてしまう。そうなれば、馬諸共全滅だ。
とにかく、とリヴァイは立ち上がると
「フレン立てるか、一旦退く!馬を後退させるぞ!」
「は、はい!」
マントで血を拭いながらフレンはリヴァイの後を追いかけた。
案の定新兵は先程の砲撃音に驚いて腰を抜かしたいた。
リヴァイはマルロの前で着地すると、
「巨人からの投石だ!全員馬を連れて壁側に後退しろ!」
するとすぐさま岩が降ってきてリヴァイは舌打ちをすると
「急げ!射線の死角を移動しろ!!フレン、誘導しろ!」
「はい! こっちだ!」
震える足で新兵たちはフレンに続き壁側へと逃げるが、フロックが叫びながらしゃがみこんでしまった。
誘導していたリヴァイがフロックのマントを掴むと
「おい!立て!!死にてえか!!」
フロックを引きずりながら壁側へ後退すると、エルヴィンが壁上から降りてきた。
リヴァイはエルヴィンを見るとすぐに駆け寄り
「状況は?」
「最悪だ」
「ヤツの投石で、前方の家はあらかた消し飛んだ。あの投石が続けば、ここもすぐ更地になり・・・我々が身を隠す場所はなくなる。」
「・・・壁の向こう側には逃げられそうにないのか?」
「ああ。超大型巨人がこちらに迫ってきている。炎をそこら中に撒き散らしながらな。仮に兵士が壁を越えて投石を逃れても、馬は置いていくしかない。」
ここを退いても、勝利はない。
「ハンジやマコト達はどうなってる?エレンは無事か?」
「・・・分からない。だが、大半はあの爆風に巻き込まれたようだ。我々は、甚大な被害を受けている。」
おそらく獣の巨人は、兵士を前方の1箇所に集まるように小型の巨人を操作していた。
小型の巨人を相手にしていたディルク、マレーネ、クラース班は先程の投石でフレンを残して全滅した。
「・・・つまり、今の残存兵力は今泣きべそかいてる新米調査兵士のコイツらと・・・俺と、フレンと、お前だけって事か」
「・・・ああ」
次々と来る投石に新米の調査兵はもうダメだ!と頭を抱えて座り込む。
そんな光景を見てリヴァイはエルヴィンを見上げると
「エルヴィン、何か策はあるか?」
すると、壁上に突然ドォン!という音が聞こえリヴァイとエルヴィンは見上げるとひっくり返ったエレンが居た。
「・・・おい、あれはエレンか?壁の上まで吹っ飛ばされたってわけか。ヤツに」
しかし、エレンはそのままピクリとも動かない。
そして壁内からは雷槍の爆発音まで聞こえる。
「・・・一応、生存者はいるようだ。誰だか知らねぇが」
リヴァイはそれがマコトであってくれと密かに左の拳を握った。
「エルヴィン、反撃の手数が何も残されてねぇって言うんなら・・・敗走の準備をするぞ。あそこで伸びてるエレンを起こしてこい。そのエレンに、お前と何人かを乗せて逃げろ。少しでも生存者を残す。」
そのリヴァイの提案にエルヴィンは頷きもせず反応もしなかった。
「おい!馬が逃げたぞ!お前らの担当だろ!」
マルロがフロックの腕を掴んで怒っていた。
「うるせぇ!もう意味ねぇだろ!」
「何だと!?」
「あんなに強かった調査兵団が、みんな・・・一瞬で死んだんだぞ!つうか、お前も分かってんだろ!いくら、馬を守ったってなぁ・・・それに乗って帰るヤツは誰もいねぇって!!」
フロックは地面に座り込み、頭を抱える。
「理屈じゃ分かってたさ・・・人類がただ壁の中にいるだけじゃ、いつか突然やってくる巨人に食い滅ぼされる。誰かが危険を冒してでも行動しなきゃいけない。誰かを犠牲にさせないために、自分を犠牲にできるヤツが必要なんだってな・・・そん勇敢な兵士は誰だ?そう聞かれた時それは俺だ≠チて、思っちまったんだ・・・!」
そのフロックの言葉に新兵たちは俯き、マルロも固まったままだ。
「でも、まさか・・・そうやって死んでいくことがこんなに、なんの意味もないことだなんて、思いもしなかったんだ!考えて見りゃ、そういう人たちの方が圧倒的に多いはずなのに、なんで自分だけは違うって思っちまったんだろう」
今の士気は、最悪だ・・・
フロックの悲痛な叫びに全員は黙り込み、リヴァイとエルヴィンも黙って聞いている。
今は、そんな泣き言をまともに聴き入る時間はない・・・リヴァイは頭を動かすとエルヴィンをまた見上げる。
「新兵とハンジ達の生き残りが馬で一斉に散らばり・・・帰路を目指すのはどうだ?それを囮にして、お前らを乗せたエレンが駆け抜ける。」
「リヴァイ・・・お前はどうするつもりだ?」
「俺は獣の相手だ。奴を引き付けて─」
「無理だ。近づくことすらできない」
「だろうな。だが・・・お前とエレンが生きて帰れば、まだ望みはある。既に状況はそういう段階にあると思わないか?大敗北だ。 正直言って・・・俺はもう誰も生きて帰れないとする思っている・・・」
このまま、マコトを帰してやれないのが悔やまれるが・・・これ以上居てもエルヴィンやエレンを失う可能性もある。
それにマコトも、あの爆発で生きているのかすら今では分からない。左手の指輪が反射するのを見てリヴァイは目を細める。
自分が死んでも、体勢を立て直せればまたここに戻ってこられるはずだ。
エルヴィンが口を開いた。
「反撃の手立てが、何も無ければな・・・」
・・・は?
何も無ければ?
リヴァイはその言葉を頭の中でリピートさせるとゆっくりとエルヴィンを見上げる。
「・・・・・・あるのか?」
「・・・ああ」
「・・・なぜ、それをすぐに言わない?・・・なぜクソみてぇな面して黙っている?」
「この作戦が上手く行けば・・・お前は獣を仕留めることが出来るかもしれない。ここにいる新兵と、私の命を捧げればな」
リヴァイの言った通り、このままでは殆ど死ぬ・・・むしろ全滅の可能性が高い。
それなら玉砕覚悟で勝機に懸ける戦法もやむを得ない。
「あの若者達に死んでくれと・・・一流の詐欺師のように体のいい方便を並べなくてはならない。私が先頭を走らなければ続く者はいないだろう。そして、私は真っ先に死ぬ・・・地下室に何があるのか、知ることも無くな。」
「・・・は?」
壁の中にいる人類は王によって記憶を改ざんされたため、外の世界の情報が全く伝わっていないのではないか
全ては、いつか来るであろう父の仮説のため答え合わせをするために部下を鼓舞し、犠牲にして生き延びてきた。
地下室はもう目と鼻の先。壁の向こう側にあるのだ。
ハァ・・・そう言いながらエルヴィンは木箱に座った。
「俺は・・・このまま、地下室に行きたい。」
ぽつりと、リヴァイに向かってそう呟いた。
「俺が今までやって来れたのも、いつか、こんな日が来ると思ってたから・・・いつか・・・答え合わせが出来るはずだと・・・何度も、死んだ方が楽だ思った。 それでも、父との夢が頭にチラつくんだ。そして今、手を伸ばせば届く所に答えがある。・・・すぐそこに、あるんだ」
エルヴィンは左の手を震わせながら開いた。
「だが、リヴァイ・・・見えるか?俺たちの仲間が・・・仲間たちは俺らを見ている。捧げた心臓がどうなったか知りたいんだ。まだ、戦いは終わっていないからな。全ては、俺の頭の中の・・・子供じみた妄想に過ぎない・・・のか?」
リヴァイは、頭の中で考えていた。
このままエルヴィンの考えているであろう作戦を中止させ、敗走の準備を進めさせるか。
そうすれば、あの鼻水を垂らし泣きべそをかいている新兵達はなんとか生き残れるかもしれない。
今から信煙弾を打ち上げて向こう側に撤退の狼煙をあげエレンを叩き起こしエルヴィンを乗せて逃げる。
このまま・・・エルヴィンの作戦を続行したら?
エルヴィンは死に、新兵も死ぬ。
リヴァイは胸に手を当てた。そこにあるのは、巨人化の薬。
あの獣の巨人を仕留めて、誰か生き残りが居れば注射を投与し獣を食わせれれば・・・逆転できる。
何度も、死んだ方が楽だ思った。
俺は地下室へ行きたい
仲間たちは俺らを見ている。捧げた心臓がどうなったか知りたいんだ。
エルヴィンの夢を取るか、調査兵団団長として最期を全うさせるか・・・
先程のエルヴィンの言葉にリヴァイはまた眉を寄せる。
覚悟を決めエルヴィンの前に膝を折って座り込んだ。
「お前は、よく戦った。おかげで、俺達はここまで辿り着くことが出来た・・・俺は、選ぶぞ。」
リヴァイはエルヴィンを見つめると
「夢を諦めて死んでくれ。新兵達を地獄に導け。 獣の巨人は・・・俺が仕留める。」
その言葉に、エルヴィンは眉を下げて微笑んだ。
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