さて君の海は思ったより深い

私にこの曲を教えてくれたのは水谷くんだった。

「これ聞いてみて。俺ら結構趣味似てるからさ、たぶん好きだと思うんだ」

俺は4曲目が好きだな、なんてにこにこしながら、買ったばかりだというそのアルバムを私に貸してくれたのだ。

家に帰ってさっそく聞いた。私は英語があまり得意ではないけれど、歌声が胸に深く響いて、なんとなく少し切なくなる歌だった。水谷くんその曲を好きだといっていた理由が分かった気がする。

水谷くんがわざわざ私にCDを貸してくれたことが、二人の秘密みたいで嬉しかった。今ごろ水谷くんもこの曲を聞いているのかな。なんて思うとそれだけで少し、顔がにやけた。

あの時の私は自分が一番水谷くんと親しくて、一番彼に近い女の子だと思っていた。

だけど、それはあくまで女友達としての話であって。私がほんとうに望んでいたのは手をつないで隣を歩けるような、そんな関係だったのに。

「俺さ、しのーかが好きなんだよね」

放課後、私の向かいの席に座った水谷くんは、窓から遠くのグラウンドの方を眺めて言った。教室には彼と私の二人だけしかいない。

「そう、なんだ」

震える声でそう口にするのがやっとだった。上手く笑えているだろうか。今のわたしはどんな顔してるんだろう。知られるのが、気づかれるのが怖くて俯いたまま、顔を上げられない。

「でもね、しのーかは多分、阿部のことが好きだと思うんだ。」

告白する間もなく失恋だよ、と言って水谷くんは窓に視線をむけたまま、へらりと笑う。
その笑顔が痛々しくて、胸のあたりが苦しい。きっと私と水谷くん、おんなじ気持ちを抱えている。
その心がつぶされそうな気持ちとか、きっと誰よりわかるよ。でも本当に分かってほしいのはたぶん私じゃなくて

「どうしてそっちが泣くんだよ」

と言われてやっと、自分が泣いていることに気がついた。
恋愛ってどうしてこううまくいかないのかなあ。水谷くんも私も叶わない、報われない想いを抱えて生きていて。
その重みが苦しくて逃げだしたくなるけど、それでも好きで。あきらめられないから、また苦しくて。ねぇ、どうしてどんなに想ったって振り向いてくれないんだろうね、あの子もあなたも。

そっちが泣くから俺まで泣けてきちゃったじゃん。なんて言いながら水谷くんがほろほろと泣き出すものだから、涙が止まらなくなってしまって二人でこっそり泣いた。

いつか彼の流した涙が、めぐりめぐってあの子の胸まで届きますように。
私の流した涙の本当の意味は誰も知らないまま、海の底に沈めばいい。優しい彼には決して届かぬように。


♪ Nobody Knows / P!NK

企画「santamonica」様に提出させていただきました。
素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました!

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