夢じゃないから泣いたんだよ

「私ちいさい頃ね、ケーキ屋さんか、可愛いお嫁さんになりたかったんだよ」

夕飯の後元希くんが買ってきてくれたケーキの箱を開けながら、なんとなく幼稚園時代の憧れを口にしたら「ケーキ屋とかお前らし」と笑われてしまった。だってあの頃はまだ子供だったから、ケーキ屋さんになったら毎日美味しいケーキをお腹いっぱい食べられるんだと思ってたんだもん。

元希くんは子供の頃からずっと、プロ野球選手を夢見ていたらしい。憧れる人は多いだろうけど、それを本当に叶えてプロの世界で活躍してしまうんだから元希くんはすごい。今も努力を怠らない姿は尊敬するし、かっこいい。恥ずかしくなってしまうからあんまり面と向かって言えないけれど。

白くて小さい箱を開けるとなかにはケーキがふたつ。それをひとつずつお皿に乗せる。私はイチゴタルト。元希くんはチーズケーキ。前に近くにオープンしたケーキ屋さんのタルトが美味しいんだって。という話をしたら、覚えててくれたみたいで練習帰りに買ってきてくれた。

ぶっきらぼうで口下手なところもあるけど元希くんは優しい。ケーキひとつにしてみたって、元希くん体調管理もあるしあんまり甘いものも好きじゃないのに。ありがとう。

「お前ほんと甘いもん好きな」
「うん」

美味しそうなタルトを目の前にして思わず即答してしまったあと、なんだか恥ずかしくなって目を逸らすと元希くんは「子供みてぇ」なんて言いながら私の髪を撫でる。同い年なのになぁとは思うけど、元希くんに撫でてもらうのは好きだから嬉しくて思わず目を細める。

「なあ、さっきの話さ」
「うん」
「ケーキ屋は無理だけど、可愛いお嫁さんの方なら叶えてやれるけど?」

びっくりして思わずお皿から視線を上げると、元希くんのまっすぐな眼差しに捕まる。みたことないくらい真剣な表情の元希くん。髪を撫でていた大きな手はいつのまにか私の手を握っている。

「俺の人生をかけて幸せにする。絶対後悔させないから、結婚してくれ」

力強い元希くんの言葉に、胸の奥から熱いものがこみあげてきて頬を伝うのが分かった。何も言葉に出来ずに黙って何度も頷くばかりの私を元希くんは「おい、なんで泣くんだよ」なんて言って抱きしめる。

元希くんの言葉が、気持ちが、本当に嬉しかった。もちろん元希くんの気持ちを疑っていたわけじゃないし、いつもこんなこと考えてるわけじゃないけど。それでも元希くんは素敵な人だから、いつかもっといい人を見つけたら私の隣からいなくなっちゃうんじゃないかって思う時もあったから。だから、本当に嬉しかったんだ。

やっとのことで口にした「よろしくね」の言葉を聞いた元希くんは満足そうに笑って私にキスをする。それが嬉しくてなんだかまた泣きそうになったから、元希くんの肩に顔をうずめるように抱きついた。


0411「スタージュエリーに墜落」さまへ
幼稚園の頃はお店屋さんになったら、そのお店の商品全部が自分のものになると思ってました。参加させていただき、ありがとうございました

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